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19.試験日〜その2〜




 「ふ〜んふふ〜んふ〜ん♪」


 僕はジェミニレーヴェのバロンの背に跨って森の中を進む。

 いやぁ、大きい動物系の魔物ってこういうときにいいよね〜。一緒に散歩が楽しめる。ま、僕は歩いてないけど。あ、後ろでベノンさんが歩いてるから僕の代わりってことにしておこう。これで万事問題なし。



 「あ、薬草発見〜。バロン、ストップ」


 声をかけるとバロンはしゃがんでくれたので僕は降りて薬草を取る。そこそこ生えているのでこれで袋はいっぱいになるかな。

 ちなみにバロンは僕の横で伏せている状態だ。なんか忠犬感が漂ってるよ。



 「よし、じゃ、行こ〜」


 再びバロンの白い背に跨って移動を再開する。

 残るはゴブリンの集落殲滅とついでに回収する魔石の納品のみ。



 「あ〜…ふわふわだぁ」


 緊張感がない件についてはしょうがないと思ってくれるとありがたい。

 …だってバロンの背中が心地良すぎるのが悪いのだ。モコモコふわふわでいつまでも抱きしめていたくなるような心地良さなのだよ。真っ白いたてがみはサラサラだし、背中の毛はあったかくてふんわりだよ?

 逆らう方が間違いなのだ!そう、これは天命。こうなる運命だったのだ〜。

 ということでこのまま昼寝したい。僕は睡眠は取れないけど。



 「あふぅ〜…む。臭い」


 心地よいバロンの毛並みを堪能していたら鼻を刺すような異臭を感じた。

 生活感の混じる性的な臭い…言わずもゴブリンの集落が近いのだろう。報告のあった場所は近いし、この先にゴブリンの集落があると思われる。



 「バロン。目立つから帰っててね。『帰還(リターン)』」


 深い緑に包まれた森の中では真っ白いバロンは目立つだろう。

 ゴブリンに見つかって仕事が増えるのは勘弁してほしい。種族としての本能で上位種を生き延びさせようとするから、ホブとかナイトとかキングとかを逃がされると何かと面倒くさくなるのだ。

 ゴブリンというのは普通のゴブリンなら他種族を襲っても返り討ちになって死ぬだけだけど、上位種になればそれなりの強さがあるために弱い人とかをさらってものすごい勢いで繁殖していってしまう。本当に呆れて物が言えなくなるほどに繁殖する。なんで妊娠して2週間程度で生まれるのさ。しかも大人になるまでそこからまた2週間程度しかかからないし。



 「ふむ…規模はまだ小さいかな。でもナイト以上がいる可能性は大と」


 見つけた集落は小さな木製の家の建てられているもの。

 ホブには家を建てる知能なんてないのでナイト以上の上位種がいる可能性が高い。多分逃げてきたのか、進化したばっかりかだろう。まだ集落にゴブリンは2,30体程度しか見られない。

 だが…



 「このぶんだと捕まってるかなぁ…」


 まだ増殖中だろうから捕まった人がいる可能性が極めて高い。

 とりあえずさっさと殲滅しよう。まずは、周囲を包囲しようか。



 「ちょうどいいや。紙に焼き付ける魔法陣の実験でもしとこう『(コード)(アース)形状(フォーム)(ウォール)流転(シフト)円蓋(ドーム)設定(セット)』…起動(アクティブ)


 集落を中心に巨大な陣が発生し、瞬く間に集落は岩の壁に包まれた。

 上部には光を入れるための穴が空いているが、それも子供すら通れないような小さいサイズだ。



 「さて。殲滅殲滅〜」


 短剣を創り出して壁に切り込みを入れて中に入る。

 ベノンさんが入ったのを確認して入り口を再び塞ぎ、殲滅を開始した。

 


 「さぁ、どんどん死んでいこうね〜」


 首を狩る、腹を割る、心臓を捥ぐ、脳を抉る、胸を裂く、頭を砕き、体を分ける。

 次々にゴブリンは死体へと変わっていく。

 抵抗も何もない。単なる蹂躙というものだ。

 時計回りに家とゴブリンを片付け、集落が壊れていく。きっと苦労があっただろう。ここまでするのは大変だっただろう。

 …ま、知ったこっちゃない。理不尽?上等。



 「さて、ここで最後かな」


 一番綺麗な家を見る。

 今までにホブやナイトなどの上位種は見なかった。

 ここにいるのは果たして何だろうか?ナイト?キング?ロード?



 「おっじゃまっしま〜す」


 僕は扉を蹴り飛ばして中に踏み入った。

 中からは気分の悪い臭いがする。

 …ところでだけど、もし同性や異性やらのそういったものや行為などを見たらどう感じるだろうか?僕は昔から不快感しかなかった。人の体を見て綺麗だと感じることはあっても、そういう目的の絵はひどく汚く感じる。なんというか、人の綺麗じゃない部分のような気がしてならないのだ。

 今、久しぶりにそんな感覚を覚えた。



 「死んどくといいよ〜」


 血を流して倒れたゴブリンナイト。

 2m近い肉体と凶悪なまでに引き締まった筋肉を持つ化け物は何を言うでもなくなます切りにされた。胴体を真っ二つにされたゴブリンナイトは安物なベッドに崩れ落ちる。

 そして、抵抗して暴力を振るわれたのだろうか痣を作り、濁りきった目と精神の壊れかけた表情を浮かべた女性がその横にいた。

 その目元にすでに涙の跡はなく、絶望の滲んだ笑みを浮かべる。



 「こ…ろし…て?」

 「それについては了解するけど、この場はやめようか〜。こんなのと最後の場所が同じなんて…癪だろう?」

 

 僕はその女性を抱えて家を出る。

 完全に体を動かす気のない人の体は意外と重い。

 一度やってみるといいよ。大変だからさ。



 「『(コード)(ダーク)形状(フォーム)(スモッグ)流転(シフト)浄化(ウォッシュ)設定(セット)起動(アクティブ)


 少し移動した先の森に女性を横たえ、身の汚れを落とす。女性の体を藍色の霧が覆う…ついでに自分の体も。

 そして、首元へ短剣を滑らせる。



 「美しき人の子よ…どうか、そのままに」


 息絶えた女性は苦悶と憎しみと悲しみと喜びの混じった表情を浮かべていた。

 目をそっと閉じさせ、地面を掘って女性を埋める。

 地魔法で墓標のような物を建てて簡易的な墓を作った。

 ちなみにこの世界の墓標は十字架とかではなく、剣の形だ。もし地獄へ落ちても戦えるようにとかいう願いが込められているらしい。なんとも物騒なことだ。



 「さて…じゃ、魔石とかの回収して帰ろうか〜」


 墓を作ると早々に立ち上がって集落に戻る。

 ああ、別にもっと僕が早く来ていれば女性を救えたかもしれないなんて物語の主人公みたいなことは思わないよ。だって知らない人が死んでもどうとも思わないし。

 ただそういう物に嫌悪感を覚えるだけで、見たりしなければ多分放置するよ。どこで誰が誰に犯されていようが知ったことではない。無論、それが僕の知り合いでない限りは。



 「あ〜…あれの跡を片づけるとか憂鬱だよ〜…」


 ゴブリンの魔石やらを回収するのに触るのはしょうがない。 

 ただ、ということはナイトのした後の物も触れないといけないわけで…よし、影人(シャドーマン)

 感覚を切ってただ記憶だけを頼りに物を片付ける。もしかしたら女性の遺物とかがあるかも知れないからあの部屋以外に一体だけちゃんとした感覚を共有したのを送っておく。

 あ〜やだやだ。



 「1個、2個、3個、4個…」


 回収した魔石を数えていく。

 青い透明な小石の山ができた。結構綺麗。でもランクが低いのでお金にもならないし使い道もない。せいぜいランプの替え用の魔石にするくらいだろう。それでも小一時間程度保てばいい方ないけど。

 数えたゴブリンの魔石と影人(シャドーマン)の持ってきたナイトの魔石を袋に入れてポーチに入れる。



 「さて、帰りますかな〜」


 女性の遺物はギルドカードと髪飾りを見つけたのでそれも袋に入れてポーチにしまって立ち上がる。

 周囲を覆うようにできていた円蓋(ドーム)を元の形にならして、集落を住めない程度にまでぶち壊して集落を後にした。

 八つ当たりとかじゃないよ?ぶち壊したのはここに盗賊とかが住み着くかもしれないからだ。ゴブリンの集落を殲滅した後はこうやって集落を潰すことが奨励されている。別に義務じゃないけど、大半の冒険者はそうするね。だって後で自分が被害を被る可能性があるわけだし。


 森の中を来たルートとは違うルートで帰り、ついでに手頃なEランク以上の魔物を数体狩った。

 あ、今更だけどEランク以上じゃないといけない理由は内包されている魔力が低すぎて魔法を刻む前に砕け散っちゃうからだよ。

 大体内包する魔力量は魔法的に最低ランクの魔法の火を灯すだけの魔法の消費魔力をステータス上に表記される魔力値に置き換えると大体2で、それを基準にする。すると平均はFが15、Eが200、Dが400、Cが700、Bが1000、Aが2500ぐらいだ。

 あ、それとなんでこんなにEとFでの内包する魔力の量が違うのかというと、進化するたびに周囲から大量に魔力を取り込んで核を強化するためにランクが上がると一気に多くなるからだ。ついでにその魔物の魔力値はその3倍くらいと考えるのが妥当だよ。

 さて、ここで疑問が浮かぶでしょ?あれ、これなら魔法を刻めるんじゃないのかと。でも、魔法を刻むには大体その5倍よりちょっと多いぐらいの魔力を内包する必要があり、少し足りないのだ。そんなわけで闘技場や訓練所の結界に使われる魔石はAAランクの魔石とかの相当高いものだったり。ま、人が貼る結界である以上300程度の消費魔力しかないけどね。

 第一に人の保有魔力量は平均して150程度…高い人でも300を超えるくらいだ。ま、勇者や転生者はその限りじゃないけど。だから刻める魔法も当然300程度のものが限界で、そんなわけもあってあの闘技場や訓練所の結界は大体ステージの四分の一程度を覆える結界を4つ連動させてたりする。



 「これ学生証ね〜」

 「通っていいぞ」


 門番に学生証を見せて列にも並ばずに外壁を通過した。

 この都市が学園都市である以上、学生は優遇される。貴族や商人が結構な金を出してくれているために学生には色々な特権が存在しているのだ。これはその内のひとつである。

 …実は知らずに並んでいるアホな学生も多々いたりするのはちょっとした笑い話だ。

 あと、服のどこかに学生である証明となるバッジをつけていないといけないのには学生であることを簡単に確認できるという結構まともな理由があったり。

 それを利用して割引でサンドイッチを買って食べながらギルドに向かう。

 カランカラン…と鈴を鳴らして中に入った。今は12時ちょっと過ぎくらいで、外壁内での依頼を受けた生徒や手軽な仕事を済ました冒険者がたむろしている。まぁ、ギルドの2階が食堂と酒場を経営しているのも理由ではあるが。

 


 「ベノンさん。この評価っていつまで?…あ、喋っちゃいけないって言うんだったら聞かないけど」

 「問題ない。依頼を終了するまでだ」

 「ふ〜ん…じゃ、受領するまでだから依頼完了して報酬受取るまでかな」


 受付の列はそこそこあったが、冒険科の生徒には初めて冒険者になる者も多いため、要領を得ない学生が受付等に時間をかけ渋滞が起こることがある。それを防ぐために受付が数多く設置されているのですぐに番が来た。まぁ、その渋滞のせいで冒険者と揉め事を起こすのを防ぐためっていうのが一番の理由だったりするけど。



 「あ、ちょうど依頼を受注した受付嬢さんだね。依頼完了したから…ほい、完了の板と薬草と魔石とカード」

 「確認します…」


 それぞれの依頼のものをトレーに乗せて出す。

 受付嬢はばれないように巧妙に隠しながらも苦笑いを浮かべ、その全ての受領を確認した。



 「確かに。では、ゴブリンの集落について…何か(・・)はありましたでしょうか?」

 「ボスはナイトだったけど、多分逃亡か進化したてだったよ。どこか近くに失敗した依頼とかがあったんじゃない?あと、そこで女性が1人…カードこれね。あと髪飾りがあったから持ってきた。遺族とかがいたら渡してくれる」

 「…かしこまりました」


 ”何か”というのは当然被害者のことだ。

 あまり口にしていうのは憚られるため受付ではこう言われることが多い。



 「他には?」

 「あとはないかな。一応、その女性は集落からちょっと離れたところに埋めて墓を建ててきた。大体西に100mくらいのところだから」

 「わかりました…では、こちらが報酬です。詳細は…」


 報酬を確認して、皮袋に入れポーチに放り込む。

 そして、ギルドを出た。



 「さて…じゃ、ベノンさん、1日ご苦労様でした〜。おごるからどっか食べに行かない?」

 「いや、当然のことをしただけだ。労わられる故はないだろう」

 「そう?結構大変だったと思うけど?」

 「仕事である以上、それは当然と言える」

 「あら、そう…じゃ、今日はありがとう。何か聞きたいこととか、やってほしいこととかある?試験官である以上は記録を書いて提出するんでしょ?書くのに苦労すると思うからさ、僕の場合は特に」

 「大丈夫だ…細かくは書かずに魔物使いが眷属を召喚して片付けたと書くだけだからな」

 「あれ?それって僕評価されてなかったりする?」


 む?

 この場合僕が呼び出した魔物によって仕事を全て終わらせたって言うんじゃ僕が仕事したように聞こえなくない?

 評価点下がったりしないかな?



 「詳細言えんが…それはないとだけ言っておこう」

 「じゃ、いっか」


 多分、戦闘とかじゃなくて、仕事の内容とかを評価するから大丈夫ってことだと思う。

 どうしてこんなに早く終わったのかとか、そういうことを書く場合にそう書くっていうことだろう。

 いやぁ、僕は試験系統には全く触れてなかったから知らないんだよね…



 「だったら僕はもう帰っちゃってもいい?」

 「ああ……いや、これは試験とは関係のないことだが、1つだけ聞いてもいいか?」

 「ん?どうぞ?」

 「ゴブリンの集落にいた女性に向けた言葉…あれは一体どういう意味だったのだ?いや、無論言いたくないというならそれで構わない」


 …あ、あれか。

 聞かれてたんだ〜。なんか恥ずかし。



 「ん?…ああ、あれね。そのままの意味だよ」

 「そのまま…?」

 「ねぇ、例えばここに花束があったとしよう」

 「あ、ああ」

 「それはいつかは枯れてしまう。それをどう思う?」

 「儚い、だろうか?」

 「僕はね、いつまでも美しいままであってほしいと思うんだ。あれは、それと一緒。どんなに汚れても、歪んでも、壊れても…どんな形でもいい。せめて、美しいままであってほしい。そんな願いだよ」

 「…そうか。聞かせてもらい、ありがとう」

 「いいよ、別に。ただちょっと恥ずかしいけどね」


 死人に向けて言ったはなむけの言葉が聞かれてたなんて結構恥ずかしい。



 「では、これで試験は終了だ」

 「ありがとうございました〜。じゃ、また学園で会うことがあれば」

 「ああ。また」


 僕はそこでベノンさんと別れた。


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