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15.考察日




 結局、違う方向性で僕の悪名が広がった。

 言いがかりをつけていた生徒がものすごい形相で逃げていくのが見られていたらしく、とんでもなく恐ろしい奴だっていう噂が一部で立っている。

 …まぁ、事実じゃないとわかってる人が多いためあまり広まってはいないけど、たまたま通りすがった人にすっごい怯えられてちょっとショック。

 それと昨日色々と変だった小綺麗な冒険科の生徒…誰に雇われたわけでも貴族の下っ端でもなかった。どういうことだろうか?明らかに雇われたような口調だったのに誰にも雇われていないとは変な話だ。後で誰かに雇われたと言って逃げ道にしようと思っていたのだろうか?



 「…おい。寝てんのか」

 「ん?別に寝てないよ〜」

 「だったら教科書開いとけ。睨んでるぞ」

 「…ああ〜」


 ぼーっと考え事をして外を見てたせいだろうか、魔法科担当の教師が睨んでいる。

 今は魔法理論の授業。

 教師のエーネストが睨んでいる。

 怒られたりするのは面倒くさいので教科書を開く。

 とは言っても、僕が今更魔法について学ぶ必要は全くない。この世界の魔法については僕が完全に掌握してるから、書き換えて色々都合がいい形に変化し終えてる。それに加えて他の世界の魔法や魔術、法術、呪術…その他いろいろな知識を持つ僕にこれ以上何をしろというのだ。

 …まぁ、暇な時間を使って一番楽に魔法を起動できる術を探してみたりはしてるんだけどさ。多分、今のところ一番正確かつ楽に無駄なくできるのは神法を除けば無詠唱だろう。

 ただ、そこにも問題はあり、まず第一に正確なイメージが必要。これが意外と難しい。例えば、闇とはなんだ?とか、その根本からイメージしないといけないので曖昧なものを発動するにはちょっと手間がかかる。そんなことをするぐらいならあらかじめ一定の効果を設定した陣を描く方がいい。

 まぁ、地だとか水だとかはとっても楽だ。世界に存在するものだし、簡単に触れたりできるから想像するのが容易い。



 「はぁ…」


 と、まぁ思考をそらしてみたものの、やっぱり気になる。

 昨日のあれはどう見ても変だった。夜中の間を使って調べまわったけど彼らは表向き一般的な冒険科の生徒、裏向きは貴族の下っ端みたいなものじゃなく、ただの冒険科の生徒だった。だが、誰かしらからバックアップは受けてるのは確実なのにそれが誰で何者なのか全くわからなかったのだ。

 彼らは貴族と繋がりがあった様子はない。まぁ、もしかしたら闇ギルドの連中とつながっている可能性もあるかもしれない。それだったら少しめんどくさいけど放っておいても問題はないからとりあえずは放置しようと思ってる。

 …困るのはそうじゃない時。じゃあ、いったい誰がって話になる。貴族やら商人やら宗教家やらあっちこっちから恨みは大量に買ってる。だけど、そいつらが雇ったんじゃないとしたらいったいどうして僕が襲われたのか。彼らが消した宗教の信者だったとかならまだわからなくもないけど、それにしてもあんなやり方はないと思う。ああいうのは世間的に僕を悪者にしたい人が使う方法だ。腹いせに使うものからは少し離れている。



 「…エン。シエン!聞いているのか!」

 「ん?はいはい、なんでしょう?」

 「お前というやつは…ちょうどいい。属性について答えてみろ」

 「え?それはどうやって答えるやつ?属性の種類?使用用途?それとも基本的知識?」

 「知ってる範囲でいい」

 「了解〜。まず、属性と呼ばれるそれは大きく分けて基本属性、上位属性、最上位属性、特異属性に分別される。基本は火、水、地、風。上位が光、闇。最上位は時、空間。特異は治癒や木、泥、などその他のこと。これらの分別の基準はイメージのしやすさで、身近にあってイメージしやすいのが基本に、少しイメージが難しいのが上位、特にイメージしにくいのが最上位っていう分け方。特異は他の属性の一部分に限定されるものや複数の属性を同時行使する必要のあるものに対して呼ばれる…だったかな?また、本来実体を持たない火や光などは一般的に攻撃魔法として行使しても衝撃ではなくエネルギーとしての攻撃になるが、幾つかのイメージを複合して行使することにより実体を持つ攻撃へと変換することが可能…多分、出来る人はかなり少ないんじゃないかな。第一に属性とは言っても元々そんな大きなくくりは存在してないし。火魔法と呼ばれるそれは”火”ではなく”熱”という現象を操作する魔法で、水魔法は”液体”を、風魔法は”気体”を、地魔法は”個体”をそれぞれ操作するっていうもので、それのほんの一部をイメージして使ってるのが今の魔法の実体だったりする。それに人の使用できる属性というのも実は結構曖昧で、魔力が変質しやすい現象っていうのが人が使える属性。いくつかの方法によって無理やり魔力の質を変質させることで全く違う属性も使用することは不可能じゃないことが証明されている…あ〜、まだ続けた方がいい?」

 「…結構だ。むしろ喋り過ぎだ。研究中の研究者が泣くぞ」

 「あ、うん。そうね。確かに既に終わってる研究でも漏らすのは良くなかったかも」

 「はぁ…では、続けるぞ」


 呆れ返った表情でエーネストは授業を再開した。

 ちなみに初めての授業からずっとこんな感じでやり続けてたりする。別のことを考えてたり話を全く聞いてないところへ質問をし、余計なことまでしゃべり尽くす。これが僕とエーネストの授業風景だ。

 もはやエーネストも僕を教材の一部という認識に改めてるようで、随所で呼ばれる。この間も職員室に呼ばれて、お茶会という名の講義をさせられたよ。教師相手にね。

 …まぁ、おかげで僕も今の魔法の研究の進行度がわかって都合が良かったけどさ。これ以上話したらまずいなってところがわかったから、うっかりをやらかすこともないだろうし。変に魔法研究所の情報をばらまくのは研究員達に申し訳ないからね。



 「シエンのその知識は一体どっから来てんだよ…」

 「実力〜。長年の積み重ねというやつだよ」

 「…るせぇ」


 いまいち信じてない表情でディランがそう吐き捨てた。そして、前に向き直り真面目に授業を受け始める。

 ほんと外見に合わない。ディランって外見は悪ガキがいい感じに成長した感じなんだよ。小綺麗な不良みたいなさ。それが授業を真面目に受けるって…

 ま、でもこうやって一週間も一緒にいると大体の人となりがわかってくる。ディランはひたすらに強くなりたいのだ。過去に何かしらのことがあってそれがきっかけになっているのだと思う。そのために努力は惜しまないし、自分の身を削り血を滲ませるようなきつい訓練だろうとやり遂げる強い意志がある。

 ただ、人と話したりするのがあまり得意じゃない様子。悪いやつじゃないんだけど、相手とどう接していいのかがあまりわかっていない感じ。多分前に親がいないという話を聞き出せたからそれが原因じゃないかな?

 あと、割と短気。でも基準はちゃんとしてるみたいでこれだけは絶対に許せないっていうことにはめちゃくちゃ怒るけど、僕がからかったりするぐらいには軽く怒鳴る程度。多分怒鳴るのはディランなりのコミュニケーションだと思う。なにせ人に怒鳴ったりするのが癖になってるみたいだから、普通につっこむんじゃなくてそういう形になってるんじゃないかな。



 「…何見てんだ」


 …あ、そうそう。以外と恥ずかしがり屋だったりするね。

 僕がじっと見てニヤニヤしてたらそっぽを向かれてしまった。



 「なんでもないよ〜。さて…」


 授業はどうせ暇だし、僕は自分のやりたいことをやるとしよう。

 用意してきた紙を取り出す。これはどこにでもあるような普通の白紙だ。大量購入したものパート2だね。

 さらにシャープペンを取り出す。

 そして、紙へシャープペンで魔法陣を描いていく。魔法陣というのは魔力で描き、魔力を流すことで起動する。だからこれには何の意味もない…本来は。



 「ふむ…やっぱりここからどうするかだよね〜」


 垂れてくる髪をくるくるといじる。

 今僕がやってるのは紙を媒体にした使い捨ての魔法の制作だ。

 この状態で紙に魔力を流しても紙に浸透するように魔力が紙を包むだけ。かといって描いた陣を魔力でなぞるのなら結局同じことをしてるので意味がない。これは誰でも使えるようなものを作ろうというコンセプトなのだから。まぁ、誰かに使わせるわけじゃなく単なる暇潰しに思いついたから始めただけなんだけど、これが以外と難しかった。

 いっそ付与魔法にして紙に付与することも考えたんだけど、付与魔法にはその付与する対象に効果を及ぼすものはあってもその対象から魔法を発生させるようなものはない。第一それは魔道具の領分だ。

 …なんか今までちゃんと分けてこなかったと思うけど、付与魔法と魔道具は全くの別物なのだ。付与魔法っていうのはその対象自体に影響をあたえるもので、例えば”硬化”や”自己修復”なんかがこれにあたる。で、魔道具っていうのは魔法を魔力を持つ物体に刻みつけたもの。確かに僕は修復機能をつけたりはしてるけど、それは付与魔法をかけてるだけで魔道具の本来の機能じゃない。魔道具本来の機能はいちいち魔法を自分で使わなくても魔力を流すだけで使うことができるというものだ。

 まぁ、僕が魔道具を作るときはどっちも使ってて分かりづらいと思うんだけどさ。



 「かといって魔道具にするのもね〜…」


 魔道具にするには刻むものが魔力を持ってる必要がある。

 魔力を持つのは生きてるものと魔石、それ以外には特殊なものしかない。魔物の吐き出す糸や粘液なんかは含んでたりするけどそれも時間が経つと消えてしまう。ある一定以上の量があるか、常に生み出しつづけてないと魔力を持つことはない。

 要するに紙に魔力を持たせようとするなら魔石を砕いてそれを混ぜて1から紙を作るか、生きた紙を探すか、魔力を持つ紙を探すしかない。

 …ああ、一応描く方を砕いた魔石を使った絵の具とかにすればできるだろうけど、それだと強い魔法ができないから却下なのだ。

 これは魔法の使用魔力の問題で、魔石には一回の魔法を行使する最低限度の魔力がないと刻んでも起動できない。刻むことはできるだろうけど相当ランクの高い高密度な魔石でもない限り火をつける程度が限界だろう。魔石というのは電源のようなもの。乾電池で電気自動車が動かせないのと一緒だ。

 


 「やっぱり新しい方法を確立するかなぁ…」


 今までの僕らの中にそういう風に魔法を使う人はいたけど、それは魔石をはめ込んだ魔道書に魔石を砕いた絵の具で描いた陣が大量に保存してあるっていう感じだった。

 僕はもっと手軽にしたいのだ。それこそカードゲームのカードぐらいにさ。

 


 「問題は山積みかな」


 まず、魔力のないものに書き込む方法を見つけるか、書き込んだ後に消えない方法を見つけるか、はたまた書き込んだ状態を維持する方法を見つけるか…なんにせよ、まず書き込む方法について見つけないといけない。でもこれさえクリアすればこっちのものだ。

 書き込む魔法の方は簡単だ。そもそも魔法を起動するには魔力とイメージ、もしくは命令式が必要である。イメージを書き込むとかわけがわからないので当然命令式を書き込むわけだが、これは普段使っているものに近いものを使えばいいので問題ない。

 ということでやはり書き込む方法が一番の問題だ。そこを解決しないことにはどうしても次に行けない。

 


 「…あ。そういえば」


 ふとルディと旅をしていた時のことを思い出した。

 港町で魔族が魔物を呼び出すために陣を書いていたことがあったはずだ。確か盗賊を脅して…あれってどうやってたんだっけ?

 ええと…あ、あれだ。陣自体を地面に彫り込んで、そこに血を流して起動するものだった。あれは血に魔力が含まれてるから地面に彫った溝に流れ込んで発動するものだったはず。呼び出すために契約者の血を使ったのは契約者の魔力で呼ばないといけないからだったかな。まぁ、確かにあれは本人以外でも使える。血と陣の溝さえあればいいからね。

 あれは地面に彫った溝に流して使ってたから意味があったけど、今回の僕の作りたいものには当てはまらないか。



 「でも血っていうのは悪くないかもしれないな〜」


 僕もたまに血を使ったりしてるし。

 例えば眷属を契約する時とか。眷属契約っていうのは他の魂に自分の印つけておくもの。弱いものだったら魔力でも出来るけど、強い魂には魔力だけだとはじかれてしまうものがある。だから定着させるために血で印をつけて、時間をかけて契約するのだ。こうすれば血が流れるまでは印が残るし、一度定着さえすれば魂が自動で書き直してくれるからね。



 「ちょっとその方面から考えてみようかな…」


 僕は紙に考えをまとめて書き込んでいく。

 さっきからブツブツ言ってるせいでディランがこっちを気にしてるけど放置。


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