14.岐路の日
休みが明けて1日目2日目は貴族にあっちこっちで呼ばれた。
で、3日目になるとさすがに貴族達も僕がなびかないし、王からの勅命があるという理由で今は無理だという結論に至り、今は放っておいてくれるようになった。
その次、4日目はこれを機にとばかりに冒険科と魔法科の生徒が群がってくるようになった。
「ディラン〜。ヘ〜ルプ」
「知るか」
現在放課後。訓練所にて。
ディランが素振りしてる中、僕はいろんな人に囲まれてる。
パーティに勧誘してくる冒険科の生徒、弟子にしてくれと頼みに来る生徒、籠絡しようと色仕掛けに走るアホや金にものをいわせて従えようとするゴミ。
何よりめんどくさいのは勝手に嫉妬して喧嘩を売ってくるやつだ。
「いや、確かに王女と知り合いで剣聖の弟でいろんな貴族から声をかけられてるっていうから嫉妬するのはまだわかるよ。でもそれに文句言ってくるのはわけわかんないと思わない?」
「オレに聞くな。そいつに聞きゃあいいだろ」
「だってなに言ってるかわかんないし?」
ディランが素振りしていて、僕がそれを見ていて、その後ろや周囲に人がいて、僕の横で怒鳴るバカがいる。
言っておくけど今回ばかりは完全に言いがかりだからね?別に僕が何かしたわけ…ではあるけど、悪いことじゃないし。普通に戦って勝っただけだから。なのにお前みたいなヒョロヒョロしたやつが勝てるわけがないだとか、賄賂でも使ったんだろうとか、脅しでもしたんだろとか…とかとか。喧嘩売ってるのかね?
「知るかっつんだよ!」
「ええ〜…というかさ、僕は言いたいのはまだあるんだよ」
「知らねぇよ…もう一人でやってろ」
「色仕掛けってなに?」
「よかったじゃねえかよ…ったく」
「ああ、うれしいとかじゃ全くないから。むしろうざったい。なにを思い上がってるのかね?僕のそばにいる人考えてごらんよ。可愛い可愛いうちのマリーと可愛らしいクロリスとその他もろもろだよ?」
「るせぇシスコン」
「シスコンでなにが悪い。でも事実だと思わない?外見で勝てもしないのにどうして色仕掛けなんてするのかね?中身で勝負?色仕掛けに走った時点で負けじゃん。ねぇ、どうしてかな?」
「…ふぅ。終わったぞ」
「あ、お疲れ。じゃ、今日もやろうか…今日はなにがいい?斧?槍?槌?」
「任せる」
後ろでああだこうだ言い続けてるのを放置して僕は立ち上がる。
椅子を消し、素振りを終えたディランにタオルを投げつけ、集ってるギャラリーを遠ざけて、ディランの準備を待つ。
「…いいぞ」
「よ〜し。じゃ、今日は…メイスにでもしようか。やったことなかった気がするし」
「そうかよ」
「【武器創造】…よし。じゃ、始めよう」
飾り気のないメイスを作り出す。
ただし先端の大きさが頭4つ分ぐらい、持ち手は金属でできている。軽く片手で持ってるけど、実際はかなり重い。
メイスを軽く構え、ディランを見る。
「いくぞっ…」
相変わらず馬鹿正直に突っ込んでくるディラン。
でもその目線は前とは違う。力任せではなく、ちゃんとした技術を持って振り下ろされる剣。躱した先へと横に薙ぎ、弾かれてもなお攻め続ける。
ディランにはちゃんと剣の振り方を教えた。前までだったら一撃目を外したら隙だらけだったのに、今ではその隙を見せるどころかあえて隙を見せて攻撃を誘ったりと器用なものだ。正直なところディランはとっても才能があると言える。
天才は一を教えて十を理解するとかいうけど、ディランは一を教えると十を知りたがるような努力家なのだ。そこへ種族的な知覚能力の高さもあいまって、ディランはすごい勢いで成長している。多分、今までちゃんと教えられる人がいなかったのが悪かったんだろう。荒削りだった技術が精錬されてくのを日に日に感じられるのだ。
…ま、剣だけだけど。そこへ他のものを混ぜるとまだダメダメ。剣のみに集中しているのなら結構いい線いってると思う。これから体術と身のこなしやらを教え込む必要がありそうかな。まだ剣以外の動きに無駄が多い。
「よし、ここまで〜」
「あぁ?ま、まだそんなに経ってねぇだろ」
「いや、もう対人戦についてはいいよ。だってこうやって僕が相手するのは剣を使った実際の動きに慣れてもらうためだし」
「……何が言いてぇんだよ」
「剣の振り方とかを前と変えました。いきなり戦おうとします。さて、どうなるでしょう?…答えは簡単。前との差に感覚がついていかなくてひっどいことになる。だから今まで素振り後に僕と戦ってたわけ。もう剣の振り方については練習あるのみだからね。一応振り方の矯正は終了」
「そうかよ。で、次はどうするってんだ」
「せっかちだね〜。ま、次は…どっちがいい?魔法を組み合わせて手数を増やすのと体術とかを覚えて動きをもっとよくしていくの」
「任せる」
「じゃ、体術ね。ちなみになんで体術かっていうと、ディランは多分気づいてないと思うけど剣を振る動きはいいんだけど次の動きに入るときに無駄が多いんだよ。そこを潰すのが目標ね」
メイスを消し、もう一枚タオルをディランに投げつける。
僕は汗かかないからね。そういう機能はついてないんだよこの身体。
「あ…そうそう、ディラン」
「あぁ?」
「確か邪眼種ってさ、そこの模様…そ。それなんだけど」
「これがどうしたってんだ」
「実は種族スキルにある【邪眼】のキーになってるって知ってる?」
「常識だろぉが」
「あ、そうなんだ。じゃあ。【邪眼】の使い方については?」
「知るわけねぇだろ。オレに親はいね…」
疲れてたからなのか、ぽろっと親がいないことを言ってくれた。
言い切る前に気がついてやめたけど、それじゃあ丸わかりなんだけど…
「へぇ〜…孤児?」
「シエンに話す筋合いはねぇ」
「あそ。まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど、使い方について知る気はある?…まぁあることは知ってるんだけどさ。机の上に色々起きっぱなしのまま寝るんだもん」
「…チッ。人のもんを勝手に触ってんじゃねぇ」
「寝落ちしちゃったディランに毛布かけてあげてるのは誰だと思ってるのさ」
「るせぇ。んなこと誰も頼んでねぇよ」
「そんなこと言っちゃって〜。そういうのはちゃんとこっちを見て言いましょう」
目をそらして負け惜しみを言うように言われてもね?
「あぁぁあ!そんなこたぁどうでもいいんだよ!早く続きを話せ!」
「あらら、照れちゃって〜。ま、しょうがないから話を続けてあげよう。図書館にある本って他者からの観点で書かれてる奴が多くてわかりづらかったでしょ?というか邪眼種は絶対数が少なく閉鎖的な種族だから絶対にわからなかったと思うんだよ」
「あ゛ぁ?どういうことだ」
「多分、二度目以降の使い方が書かれてたと思うんだ。実は、一度目は他の人に起動してもらわないと使えないなんてなんとも不便だよね〜」
【邪眼】というのは言うなれば覚醒だ。
額にある目のような模様に力を込めて発動する。発動すれば鬼人種の【鬼化】や獣人種の【獣化】のように種としての力を強める効果を持つ。
多分書籍として記されてるのはこの程度だろう。邪眼種は結構数が少ないから珍しい種族だし、閉鎖的だから情報もそんなに広まってないと思う。
「…本当に知ってるみてぇだな。なんでんなこと知ってんだよ」
「前に知り合いに聞いたことがあってね〜。冒険者をやってるといろんな人と知り合うからさ」
「そうかよ。で、何すんだ」
「多分、今までは力を込めるだとか魔力を流すだとかそういうことをしてきたでしょ?あれ、一度使った後だったらできるんだけど、最初は無理なんだよ。最初は開眼すらしてないからまずは誰かが目を起こしてあげないといけないのさ」
今、突然人に翼が生えたとしていきなり飛べるだろうか?
よくそういうことを例えに使うが、まさにその通りなのだ。使ったことのないものをいきなり使えと言われてもできない。だから、他の人が使い方を教える必要がある。
「…シエンはできるのか」
「お?意外と信用が高い?」
「るせぇ。できんのかできねぇのか」
「当然できるよ。というかすごく簡単だよ。ただその模様に魔力を流すだけだから」
「んなことぐらい自分でも…」
「できないんだよ、これ。いうなら一種の封印みたいなものなんだ。外側からは破れるけど内側からは破れない。そんな感じにさ」
「…んだったらシエンがやってくれ」
ん?思いのほか信用されてたりするのかな?
一応他人に触られるわけだし、警戒するもんじゃない?この世界では。
…僕の考えがちょっと女の子っぽいだけ?最近マリーのことばっかり考えてたからかな?
「あれ?僕でいいの?」
「何か問題でもあんのか」
「いや、ないけどさ…あ、あった」
「んだよ」
非常に重要な問題があった。
やることはただ魔力を流すだけだけど、それをやる上でとっても重要な問題が。
「汗臭い。ディラン!お風呂へゴー!」
「ふざけてんのか⁉︎あ゛ぁ゛⁉︎」
今は訓練後だった。ディランは汗をかいている。タオルで拭いたとはいえど、髪はまだ汗で濡れてるし、普通に汗でぴたぴたしそう…
「重要でしょ〜。だって魔力を流すってことは額に触るわけじゃん?僕は汗でベタベタなディランの額を触りたくないし?ということで、夕食後ね」
「はぁ…わかった。やるっつんならそれでいい」
「あ、そう?じゃ、お疲れさん。今日はここまで〜」
僕はディランを置き去りにして寮に向かう。
喋ってる間にさっきまで怒鳴ってたのがいなくなったと思ったら、徒党を連れて帰ってきてた。多分、これ嫌がらせだ。
僕にケンカを売るっていうのが目的じゃなくて、ケンカを売られてたっていう事実が目的。僕に公の場で誹謗中傷して評判を落としてやろうっていう魂胆かな。多分相手は貴族で、僕のことが気に入らない冒険科の生徒を集めてきたんだと思う。
夕方になり辺りはすでに薄暗い…人気のない場所に誘い込んで皆殺しにしてやろうか?
「いや、さすがにまずいかな?」
誰もいない広場を通過しようとした時、そいつらは僕に突っかかってきた。
「おい!シエンとか言ったな!俺をいい加減無視しやがって!」
「なにさ、しつこいね。僕に何か用?」
「何か用じゃねぇんだよ!大会で優勝したからって調子に乗りやがって!」
「別に調子にのる理由なんてないじゃん。むしろ後悔してるよ」
「その態度を調子に乗ってるって言ってんだよ!どうせ大会も不正でもしたんだろ?そうじゃなきゃグランさんが負けるわけがねぇ!」
「ああ…そういう口ね。のせられちゃったと」
どうやら頭の緩い連中のようだ。
多分雇われたんじゃなくって入れ知恵されたんだろう。あいつは不正をして勝ったって。
「編入だってそうだろ!どうせ落ちたから賄賂でも送って入学したに決まってる」
「普通に入ったよ」
「クロリス王女殿下にだって剣聖の弟っていう身分を使って近づいたんだろ!」
「むしろ近づいてきたのは向こう」
怪訝な表情へ変わっていく。
実は自分が騙されてるんじゃないかって。
後ろのやつに話しかけてるのが聞こえた。後ろにいるやつは冒険科にしてはえらく小綺麗な格好をしている。
「…おい、話が違うじゃねぇかよ」
「嘘を付いてるに決まってるじゃないですか。認めるわけにはいかないのですよ」
「そ、それもそうか」
「ええ。そうでなければあんなことができるわけがありません」
「そうだよな…ああ、そうだ」
ほんとにアホだということがよくわかった…のではなく、軽い思考誘導されてるのがわかった。
闇魔法で思考能力を下げられている。その上で信じ込ませようとされていれば当然こんなアホにもなるよ。
「聞け!明日お前を学園長に訴えに行ってやる!そうすりゃぎゃっ…⁉︎」
僕の方へ指をさしてそう言い放っている最中、僕の方からダークボールが飛んで行った。
もちろん僕じゃない。だが、外から見れば僕が打ったように見えるような位置だ。
「おい、こいついきなり魔法を撃ってきたぞ!」
冒険科の生徒の後ろにいたさっきのやつが大声を出した。
それに影響されたように仲間が騒ぎ出す。
皆ニヤニヤときもちわるい笑みを浮かべて。
「…なるほど。こういう魂胆ね」
まぁ、簡単なことだ。
僕がやったように見せかけて攻撃をする。僕が悪者になる。周りが敵になる。僕が居づらくなる。
…まぁ、させないけど。
アホが怒鳴り始めた時すでにこの周囲には防音・幻影の結界を張り巡らせている。外からはただ言いがかりをつけられている僕の様子が見られるだろう。
一通り騒いだ彼らはおかしいことに気がつく。何故誰も自分たちのことを気にかけようとしない?大声を出しているのに誰かが近づこうとする様子はない。むしろ離れて行っている。
「な、何をした…?」
「ん〜。別に?何もしてないよ」
「う、嘘をつくな!何もしなければ私たちに誰も…ご、ご主人様が私たちの邪魔を⁉︎な、何がお気に召さなかったのですか!…ま、まさか、私たちをお捨てになられたのですか!どうか!どうかお答えを!ご主人様!」
「多分捨ててはいないと思うよ…今は」
僕がやったことなんだし、そのご主人様の意思じゃないんだろうからね。
ま、このせいで捨てられる可能性はなくもないだろうけど。
「今は…だと?お、おい!何を知っている!貴様は、どこまで知っている!」
「別に何も知らないよ」
「あぁ、ご主人様は私たちの失敗をお許しにはなられなかったのですか!」
何かがおかしい。
普通、貴族がこんな命令をすることはあっても、こんな方法を使って捨てるだなんて手の込んだ上に無駄なことはしないだろう。それに捨てるんだったらもっと綺麗に消すだろう。森の中で殺すとかさ。
何故こんなに過剰な反応をする?
まるで怯えるように。
「くそ、くそっ!い、一旦退却だ!」
焦ったような彼らはいそいそと退却して行った。
アホは放置されたまま。
かわいそうなので怪我だけは治癒してその場に放置する。
よくわからない連中だ。
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