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13.黒い日




 ある意味で嫌な予感は当たったらしい。



 「聞いているのかい?私の下につかないかと言っているんだ」


 さて、こんなところで少し考えていただきたい。

 学園とはどういった場であるのか?

 一つ。多くの種族や国のものがいる。

 一つ。その身分は多種多様で一定以上の学力や経済力さえあれば入ることができる。

 一つ。将来に向けて多くのこと(・・・・・)を学ぶ場である。


 要するに使えるつながりを将来に向けて築く場でもあるということ。

 では、ここでここまでの僕の行動をおさらいしてみよう。学内大会で対戦者をことごとくおもちゃにしている。今まで学園最強と言われていたハイド君を片手間に弄んで倒した。知っている者もいるかもしれないが学園長に呼ばれて1日学園長室から出てきていない。


 これはもう…ねぇ?



 「私は侯爵家の次男だ。冒険者が一生かかってでも是非つながりを得たいと思う者だろう?」

 「え〜っと。誰だったっけ?エンフォリオ家?わるいね、今日こういうやりとりをするのはもう3回目なんだよ。エンフォリオ家であってた?」

 「貴様、少しばかり頭が高いのではないか?」

 「いい。私が頼む立場だ。何より彼は冒険者だろう?」

 「出過ぎた真似を…失礼しました」

 「気にするな…では、もう一度名乗ろう。私はコールマン・エンフォリオ。王国エンフォリオ侯爵家次男にあたる」


 僕の前に座る金髪の青年が名乗る。

 貴族にしては外面がちゃんとしている分ましな方だ。偉そうに振る舞うこともなく、家臣の無礼もしっかりと詫びる。

 きちんとしてるし、多少は礼儀を払ってあげよう。



 「きちんとされるのなら僕もそうするべきかな。改めて…お初にお目にかかります。私の名はシエン・クラウディア。かの剣聖、ハイガミ・クラウディアの弟にあたります」

 「剣っ⁉︎…い、いや、なるほど。その強さの所以はそなたの兄であったか。これで納得がゆく。では、私の申し出は?」

 「この度の申し出、誠に有難いものではありますが、私にはなすべき命がありますゆえ、お断りさせていただきます」

 「…そうか。して、その命とは?」

 「国王陛下より直々に受けたものでありますゆえ、口外はできかねます」

 「…なるほど。では、今回は引かせていただこう。また縁のあることを願うよ」


 コールマンくんが席を立った。

 その表情はあまりよろしくないので今後何か僕にちょっかいをかけてくるかもしれない。

 まぁ、一応脅しも入れてるから表立ったようなことはできないだろうけど。



 「あ〜…めんどくさ。やっぱり赤色くんと水色くんはしっかり説教だね。これからは自分の起こした行動によって起きる結果というものにもしっかりと考えていただこう。その上で今回の件はしっかりと後悔して僕に念入りに謝罪させよう」


 脅されたことはどうでもいいと言ったな。あれは嘘だっ。


 …まぁそんなしょうもないことを言ってる余裕はあんまりないんだけどさ。

 今回の件で僕は一躍有名人だ。今日もすでに数人の貴族から将来自分の元で働かないかと言われているし、冒険者からは羨望の目線を、魔法科は決勝戦で何をしたのかということについて興味津々。もう、しょうがないので身分偽装に使わせてもらってる。

 面倒くさいったらありゃしないんだけど、こうやっておけばこれから水色くんとかに色々と言われることがなくなるし、何よりマリーに堂々と会いに行けるからね。剣聖は実は三人兄弟でしたってね。



 「疲れた…精神的に疲れた〜。貴族なんて面倒なものには関わりたくないんだよ僕は。誰が好き好んであんなドロドロしたものの中に入っていこうとしなきゃいけないのさ」


 今まであまりマリーに見せないために近寄ってはこなかったけど、実際のところ僕は貴族との関わりが相当深い。なにせ王国の国王と同等レベルの権力者だからね。

 宰相とかフレルドたちはいいんだよ。問題はその下。基本的に貴族っていうのは自分の利益と見栄と誇りのために生きている。だから常に周りの者を引きずり落として自分が上に行こうとしてるわけ。

 で、普段から腹の探り合いなんかして常に相手の弱みを探すような生活を普段からしてる。

 あ〜、なんと面倒くさいことでしょう。昔一度だけやってたけど、あれはダメだ。常に闇魔法起動しっぱなしで生活してたけど、中身の汚いの汚いの。きっと中の人がいるんだろうね。外見は偽物だよ。

 まぁ、国のため領民のために生きてるいい人もいないわけじゃないけどさ。


 「シン…いえ、シエン様」

 「ん?ああ、クロリスか〜」


 食堂の僕の座る席の目の前にクロリスが座る。

 ああ〜。周りからの目線が痛い痛い。なんで今日はこんなにも面倒ごとがやってくるのさ…



 「大変みたいですね?」

 「本当だよ〜。あ、そういえばマリーとは会えた?」

 「はい。ありがとうございます。シエン様がきちんと話してくれたのですよね?」

 「まぁ、その件についてはフレルドも心配してたしさ〜」


 これからクロリスはどんどんその汚い貴族の欲望にさらされることになる。

 なにせ王女だからね。息子でも嫁がせれば逆玉の輿だよ。

 父親が心配するのも無理はない。



 「そうでしたか…お父様の心配性には困ったものです」

 「そうだね〜。あの心配性は昔っからだからさ、一種の美点だと思ってあげて。お母さんと結婚するときも大変だったんだから」

 「そうなのですか?是非そのお話聞きたいです」

 「ん〜…秘密かな。フレルドにはお願いだから話さないでって言われてるし」


 ほんとにあの頃のフレルドは情けなかったな〜。

 今でこそ王国一の強者とか言われてるけどそれってもともと僕が弱虫を治すために鍛えてたんだし、結局治ってないし。

 結婚式のときは大変だったよ。本当に結婚してやってけるのかとか、これから王としてやっていけるのかとか、いろんな不安とプレッシャーがあったのはわかる。だけど直前で逃げようとするとは僕も思わなかった。逃げようとするのを捕まえて、ああだこうだ小一時間慰めて、やっと落ち着いたところで結婚式だったんだから。

 マリーナさんには本当に感謝だね。ああ、女王様ね。フレルドの妻。

 あんな弱虫をしっかり支えてくれてさ〜。



 「シエン様?」

 「ん?ああ、色々あったな〜って思って」

 「そうですか…いつか話してくださいよ?」

 「いやぁ、フレルドに直接聞きなよ。言ったらしばらくフレルドが話してくれなさそうだから」

 「そんなにですか…ん?そういえば今日は手袋をしていますね。怪我でも…いえ、それはないですよね」

 

 クロリスが僕の手にはめている白い手袋に目をやった。

 僕はいつもは手袋なんかしないんだけど、今日は貴族がするような真っ白い手袋をしている。



 「ああ、これね。諸事情だよ〜」

 「諸事情ですか…?」

 「なにさ、その呆れ顔は?」

 「いえ、きっとまたどうしようもないことだろうと思ったので」

 「ははは〜…酷くない?あんまり否定しないけど」

 「否定しないんじゃないですか」

 「まぁ、確かにどうしようもないと言われると否定できないし?」


 まぁちゃんと意味はあるけど、割とどうしようもない理由だからね。



 「それで一体どんな事情なのですか?」

 「決闘用だよ〜」

 「決闘…ああ、相手に投げるための手袋ですか。シエン様も決闘などするんですね」

 「いや、しないよ?これは脅し用だから」

 「え?でも決闘用って…」

 「これは相手に当てないように全力で投げて周囲を破壊し力をの差を思い知らせて戦いを回避するための手袋だよ」

 「はぁ…」


 今の僕が頑張って投げるのだ。

 壁の一つや二つは消し飛ぶ。さぁ、これで誰が決闘に勝てるんだろうね?その上で勝負を仕掛けてきたら喜んで受けてあげるよ。



 「ま、残念ながら今のところ誰もそういったことにはなってないよ。声をかけてくる貴族にアホがいなかったおかげでね」

 「そうでしたか。それは良かったです」

 「それって僕が良かったんじゃなくて学園がとか相手がだよね?」

 「当然です」

 「いや、胸を張って言われるとしょげるよ僕も」


 それとそろそろいなくなった方がいいかな?周りからの視線が辛くなってきた。

 ただでさえ貴族との会話で周囲からの視線を集めてるのに、王女と話してたなんて日にはもう色んな所からありとあらゆる感情のこもった視線が飛んでくる。

 それは当然ながら負の感情が多い。このままやってるととばっちりを喰らいそうなので逃げよう。



 「さて。じゃあ、僕は食べ終わったしもう帰るね〜」

 「そうですか…では、また」

 「うん。またね」


 食器を持って返却口へ。

 王女の視界に入る場所では誰も仕掛けてこないだろう。

 食堂を出て、寮に向かう。

 後ろから尾けて来る者は2人。多分、弱みを探して嫌がらせでもするつもりか、仲間を呼んでリンチ?もしくは人目のつかない所で事件を起こすとか。

 まぁ、碌でもないことに違いはない。なにせここは将来有望で邪魔な者を引きずり落とす場でもあるのだから。



 「増えたね…」


 広場を曲がって寮の方へ。

 尾けてきているのは15人に増えた。周囲には人があまりいない。まぁ、昼休みだしみんな教室か訓練所か食堂かその辺にいるんだろう。一応教室からは見えるからもうしばらくは安全…いや、このまま寮に入ろうとすると入り口の方へ曲がった所が教室からも死角になる。

 そこで何かする気かな?



 「…させると思ったら大間違いなんだけどさ」


 寮の方へとは曲がらず、そのまま空中へ踏み出す。

 あらかじめ中で待機させておいた影人(シャドーマン)で窓の鍵を開けて中に入る。

 後ろから舌打ちの音が聞こえた。窓から覗くと数名の貴族の下っ端らが窓の方を見ているのが見える。みたところ今日話した貴族とは別の貴族のところの二組と冒険科の生徒数名。

 多分貴族は他に取られるぐらいならって感じだろう。冒険科の方は雇われかな?



 「これで言いがかりでもつけられたら面倒だし、アリバイでも作ろうかな?」


 これで僕に攻撃するんじゃなくて罪を着せようとしてたんだったら、どこかにいたアリバイがあった方がいい。少なくとも今日は。

 僕は服を着替えて一階へ降りて寮の食堂に入る。

 中には多くの生徒がおり、今の僕はとても目立つ。なにせ赤いジャケットを着ているからね。



 「何か頼んでおこうかな?…いや、普通に世間話でもしよう。その方がわかりやすい」


 僕は周りを見渡し、知り合いを見つけてそこへ行く。

 椅子を引いて座る。



 「どうも先輩」

 「む、シエンだな」

 「お久しぶり」

 「ふむ…大会以来か。あの戦いはすばらしかったぞ。だが、戦いたかったのは俺なのだがな!今からでもやらんか?」

 「ははは〜。まぁ、そのうち機会があればってことで」


 目の前に座り大盛りの野菜炒めと特大サイズのステーキの載った皿を構えパンを齧るのはゼノグラフ先輩。

 3位と優勝者の話す姿は周囲の視線を集める。



 「そうか。実に残念だ」

 「ご勘弁を〜。しばらくはゆっくりしたいんだからさ」

 「ゆっくりか?…いかんぞ?そんなでは肉体が鈍ってしまう」

 「別に大丈夫だよ〜。ある程度の基準はあるから」

 「そうだったか。いらぬ心配だったようだ」


 ナイフが置いてあるのにフォークで刺したステーキを丸かじり。

 パンを口に放り込む。



 「そういえば聞いておきたかったんだけど、ディランはどうだった?」

 「ディラン?…ああ、俺と戦ったあの邪眼種の」

 「あらら…なんか印象が薄そうだね」

 「いや、強かった…あの者は良かったぞ!他の者にはない強き闘志があった」

 「…精神論者だったね、先輩は。でも大切だとも思うかな。そうじゃなくって技術とかさ」

 「技術…生憎だが俺にはわからんな。俺は本能の赴くままに戦う。俺にあるのはこの強靭な足と腕のみ」

 「まぁ、【獣化】も使われてなかったし、これからに期待って感じだったってことかな」

 「うむ。あの者は強くなるだろうな」

 「まぁ僕の弟子みたいな者だしね」

 「そうか!シエンの弟子か…期待が高まるな」

 「ん?別に弟子ではないよ。ディランは教えてるだけで…どっちかというなら友人だよ」

 「ほう。共に高め合う仲か」

 「それ友人じゃなくてライバルでしょ…」


 あれか。友と書いてライバルと読むとかいうやつか。

 まぁ、先輩はそういうタイプだもんね。熱血で暑苦しいいい人。仲のいい人じゃないと爽やかな対応なのに、なんでこうも暑苦しい人になってしまったのやら。

 …あ、ただ単に対応が冷たいだけか。



 「それにしてもさ、先輩の筋肉すっごいよね〜。パンを食べてるだけなのに腕の筋肉の主張が…」

 「鍛えているからな」


 パンを口に放り込むだけでも上腕二頭筋がムキムキ。

 僕は細マッチョだからどんな感じなのかちょっと気になる。


 

 「それでもやっぱりすごいよ〜。僕なんかこんな程度だからね。ほっそいでしょ?」

 「だがシエンには剣術があるではないか。俺にはとうてい真似できん」

 「まぁ、本職は剣士じゃないけどね〜」

 「む?そうだったのか?」

 「僕は魔物使いだよ。どっちかっていうと魔法使い寄り」

 「それでいてあの剣の腕前とな…」


 野菜炒めを掻き込む。

 …早いよ。なんでもう食べ終わってるのさ?このままだと昼休みを潰しきれないじゃん。

 今日だけはアリバイがあったほうがいいのに。多分明日になれば僕は王から勅命を受けてるって貴族内に知れ渡って変なちょっかいがなくなるはずだけど、今日はまだ貴族内に伝わりきってないからね。国王に恩を売りたいのに勅命を受けた人に手を出したとなれば間違いなく嫌われるでしょ?だから明日にでもなれば貴族からはマシになるはず。

 


 「…ふむ。では食後の運動に付き合ってはくれんか?なに、少し手合わせをするだけだ」

 「食後の運動って…もう10分もないよ?それは今度にしておしゃべりでもしようよ。会話からでもわかることだってあるでしょ?」

 「ふむ。では、しばし後輩との会話を楽しむとしようか。その剣術については気になる」


 それからしばらく先輩と武術について話し合った。


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