11.決勝の日
お昼を挟んで準決勝が行われた。
結果?僕はディランと遊んで、ハイド君は見事ゼノグラフに勝利したよ。当然の結果。
その後ディランを連れて夕飯を食べに行ったよ。
で、現在は3位決定戦が行われてる。
ディランが押されてる感じかな?すごく劣勢。剣は片方飛ばされて、もう片方も攻撃を防ぐので精一杯。
あ、そうそう。先輩の武器は斧だよ。鉄塊のような馬鹿でかい大斧。その一撃は受けても死、止めようとしても死、かするだけでも致命傷。
ディランが避けた時地面が抉れたから多分尋常じゃない重さなんだと思う。それを普通の剣と同じようにブンブン振り回すっていったいどんな筋力してるんだろうね?僕もできるけど、あれ相当力がないとできないんだけど…
「あ、消えた」
ついに捌ききれなくなったディランが真っ二つにされて消えた。
まぁ、そういう相手と戦う練習はしてこなかったのに結構粘ったから悪くない結果じゃないかな。
先輩が一礼して訓練所から出てきた。その後魔法科の地魔法使いが出てきて地面を直していく。
「お疲れ〜ディラン。意外といいところまで行ったんじゃない?」
「るせぇ。負けてんだから意味ねぇよ」
「ははは〜。じゃあもっと頑張らないと。全陸大会は優勝できるようにね」
「…わかった」
「さて、じゃあ僕は次だから。ディランは観戦でもしてくれば?最後だけはちょっと真面目にやるつもりだし…ってああ、最後まで聞いてよ〜」
僕が話し終わる前にディランは行ってしまった。
「はぁ…結局決勝だよ。こんなことしたら目立っちゃうじゃん。これで決闘とか申し込まれたら赤色君と水色君をいびってやる」
ため息をつく。
『ついに決勝戦です…4年シエン対3年ハイドの試合を開始します!』
放送の人の声が聞こえた。
どうやら訓練所の修復が終了した様子。
入場口で控えていた大会の運営をやってる生徒に言われて僕は入場する。
『まず入場するのは冒険科4年シエン。初戦から続く極悪非道なその振る舞いは敵意を持つ者にのみ向けられるそう。ふざけているとしか思えない今までの戦闘。最後の最後ぐらい、彼のやる気は見られるのでしょうか?』
うわぁ…なにそのひっどい扱い。
いや、確かに真面目にやってなかったしふざけてたけどさ。なんかもうちょっとマシな言い方はないの?
『続いて入場するのは我が学園の覇者、冒険科3年ハイド。今年も絶対的強さを見せつけ決勝戦へ。ですが噂ではシエンに成す術もなくやられていまったとか?果たしてその真相は?』
向こう側からハイド君が入場してきた。観客に笑顔を見せている。
中央まで歩くと僕の方を向いた…苦笑いを浮かべながら。
「シエン先輩…今度こそ勝ちますからね」
「ま、頑張って〜」
ハイド君はニッと笑って剣を構えた。
前とは違い、長剣と短剣を初めから出している。
僕は無手のまま。
『では、両者準備はいいでしょうか?…決勝戦、開始ッ!』
コールがかかる。
訓練所の影が伸びていく。
「シエン先輩、剣はいいんですか?構えなくても」
「大丈夫。今にわかるよ」
「そうですか…行きますっ!」
ハイド君が剣を振り下ろした。
その剣によって僕が真っ二つに切り裂かれて消える…ように見えただろう。
ハイド君が驚いた表情を見せる。
『ほら、こっちだよ』
「え…?なんで…」
僕はハイド君の後ろにいる。
今ハイド君が切ったのは幻影だ。僕は開始と同時に魔法を起動してハイド君の後ろに歩いて移動していた。
「来ないの?」
「くっ…はぁっ!」
歩いて移動する。
大体、僕の動きが10秒ほど遅れて見えているはずだ。
ハイド君がどこにいる僕を切ってもそれは僕が10秒前に通り過ぎた映像の残りカス。永遠に僕にたどり着くことはない。
要するに最後の最後までやる気がないってことだよ。
『えー…あらかじめ言っておきますが訓練所の故障ではございません』
放送の人が観客に向けて説明した。
多分後でインチキだとか言われないようにするためだろうね〜。
「…お?もう諦めた?」
「できれば奥の手はいっぱい隠しておきたかったんですけど、この際しょうがないです」
ハイド君がそこにはすでにいない僕に言った。
「『魔法阻害』!」
僕の幻影が消え去った。
魔法が消された様子。周囲の魔力が乱れているからそれが原因だろう。
世界の魔力がハイド君の魔力でちゃんと魔法が使いにくいようにされている…というか周囲の魔力がハイド君の魔力に塗りつぶされている。どんだけ魔力多いのさ。
「ただ魔力を大量に放出するって、それ魔法じゃなくない?」
「バレますか…でも、これで先輩の魔法はもう使えないでしょ?」
「いや、使えるけど?『炎』」
まぁ、世界の魔力が魔法を使う補助をしなくなっただけなので、全部自分で魔法を組めば使えるんだよね。
僕の指先で炎がゆらゆらと揺れる。
「…え?」
「まぁ、奥の手を披露してくれたんだから、それに免じて魔法を使うのはやめてあげるよ」
「あ、はぁ…くそっ。じゃあ」
突然目の前に爆発が起きたので後ろに飛ぶ。
…なるほど。
「これも避けちゃいますか…でも、これで俺が有利ですね」
「ははは〜。これは予想外。こんなことに気がつくのは魔力が多い人ぐらいだからね…」
便利な魔法にも実は欠点が存在する。
それは、魔法が発動する場所だ。僕は論外として、普通の魔法使いは自分から2,3m程度の範囲からしか魔法を起動できない。それは魔力が分解されて世界に吸収されるからだ。
魔力だけの状態で空中に維持することは難しい。そのため起動できるのは自分の魔力が維持したまま世界に干渉できる距離なのだ。その距離が一般的に2,3m程度。
だけど、こうやって周囲を魔力で覆い尽くすとどこからでも魔法が打てる。魔力がバカみたいにないと気がつかないだろうね。
「じゃあ、行きます…!」
真後ろで爆発が起きる。前に避けたところへ剣が来た。
横へ避けようと思ったら爆発。そのまま空中へジャンプする。追ってくる爆発を空中で避けていく。
…爆炎で服がボロになるんだけど。
「これでも避けますかっ…!」
地面に着地と同時に短剣が首元を狙う。
手首を叩いて回避、蹴りを入れて牽制する。
ハイド君が後ろへ下がると同時に爆発が起き、それを避けたところへハイド君が剣を薙いだ。
剣を除ける前に地面が盛り上がったので、ハイド君の剣の腹に触れて前に行く。そのまま接近し、ハイド君の肩を掴んでハイド君の後ろに飛ぶ。
「まだまだ、余裕そう…ですねっ!」
剣が叩きつけられる。
退いて、さらに爆発をしゃがんで回避した。
…さっきから爆発しかしてないし、連続してこない様子から、こうやって魔法を使うのには慣れていないようだ。前戦ったときよりも剣に意識がいっていない。
「ねぇ、こうやって魔法使うのやめたら〜?」
「何を…言ってるんですかっ!」
「いやね、前のときより剣にキレがないし、まだそんなに慣れてないんじゃない?むしろ前よりも弱い気がするんだよね」
「くっ…そ、それは…いえ、そうですね。そうします」
周囲にあった魔力がハイド君に戻っていく。
これで僕も魔法が使えるわけなんだけど、さっき使わないって言っちゃったし使わないでおいてあげよう。
「じゃあ、行きます…!」
ハイド君の周囲から火の玉が発射される。今度のは前とは違って、小さいのが大量にだ。
これは避けづらい。しかも剣を持ってないから切ることもできない。
…ま、手ではたきおとすけど。
「剣なくてもできるんですか…」
「むしろ剣がない方が楽かな〜。っと。でも、素手でやるとちょっと手が焦げるじゃん?」
飛び回る火の玉と、その間を縫って切りかかってくるハイド君をかわし続ける。
地面が魔法の影響でゆがんで走りづらくなってきた。
定期的に地魔法や風魔法が混じる。
ただ、どれも僕にはギリギリで当たらず決定打どころか攻撃にもならない。
少しして攻撃が一度止んだ。
「やっぱり無理か…『媚びろ、鬼姫』」
「お、リトルオーガ」
「リト、ルオーガって、なんですか…」
「小さな大鬼。ほら、向こうの世界で小さな巨人とか言うじゃん?君は鬼人種だから」
「なるほど。行きます…!」
パッと視界から消えて僕の後ろへ、剣を薙ぐのと同時に前から火の玉。
しゃがんで足を払う。
避けられたのでちょっと距離を取る。
移動してる最中にも右側へ。振り下ろされる剣を半身をそらして躱す。かわした瞬間に地面から岩が飛んできたのではたきおとした。
「やっぱり足りないんですよね…『蝕め、鬼姫』!」
「お…?」
「ぐ…い、行くぞ…!」
肌色をしていた角が褐色に染まり、黒かった瞳は赤く染まる。
前よりも鬼に近づいた?
パッと目の前から消えたハイド君は次の瞬間には目の前で剣を振りかぶっていた。
いや、見えてはいたんだけど前よりも速さが段違いなんだよ。一般道を走る車と高速道路を走る車ぐらいにさ。
一歩横に避けて、剣を振るうと同時に出された短剣の攻撃をさらに一歩退いてかわす。
追い討ちをかけるように来た炎の龍と岩の弾丸をはたき落とし、後ろから来たハイト君の足払いをジャンプして回避。
着地するよりも早く剣が迫る。
「はぁ…【武器想像】」
さすがに手じゃ避けられない。胴体をよじらせても間に合わない距離だったのでナイフを作り出す。
剣を弾いた瞬間とほぼ同時に短剣が迫りナイフを弾き飛ばそうとしてきたので、差し出して後ろへ飛ぶ。
おかしいな?ハイド君こんなに強かったっけ?
短剣だけ動きが違う。どう考えても見えてない位置なのに短剣が不意をつくように迫ってくる。
だって考えてみもみなよ。渾身の力で振るわれる剣に意識が行ってるはずなのに、振り終わった瞬間ハイド君の視界から外れるように避けた僕に短剣が迫ってくるんだよ。
変な話だけどまるで短剣を持つ腕だけが別の意識を持ってるようなんだよね。あれかな?左手に見えた女の子の幽霊でも宿ってるのかな?
「まだ、だ。まだ、足りてない゛…『侵蝕しろ、鬼姫』!」
「う〜ん…なんか危険?」
「ざぁ…ぐ…ぞ」
ハイド君が牙をむき出しにして笑う。
よくよく見ると肌の色が少し褐色に近づき、左手の前腕のあたりまで禍々しい模様が浮かび上がっている。本当に侵蝕しているみたいだ。
そんなことを思っているとハイド君の蹴りが後ろから来た。
あれかな?第三形態なのかな?動きが精錬され、スピードも力も落ちていない。
受け止めてから一歩退く。追いかけるように風の刃が飛んできて、それを躱すと後ろからハイド君の斬撃、さらに短剣が首元を狙う。
とりあえず全てはたき落として、バックステップ。地面から飛んできた地の弾丸を踏み潰して、横から来たハイド君の二段切りを背中をそらして躱す。
躱したところに戻ってきた短剣の攻撃を手首を掴んで…
「ほう?」
掴んだ瞬間、脳内へ殺せという少女の言葉が響いた。
これ、ある種の呪剣だね。死んだ人が武器に宿って使用者の精神を蝕むタイプ。
ハイド君は上手く使ってるみたいだから放置するけど、危なくなったら壊そうかな。
「ぐ…くそ。な…で…S以…ば強ざに…騙……な、鬼姫!」
ハイド君が僕から離れて一旦攻撃の手を止めた。
何かを話している。短剣の中の人は意外と無事なのかな?なんか話が通じてるみたいだしさ。
「ま、だ…」
剣をこちらに向ける。
一気に炎の球や風の刃、地の弾丸や炎の龍がこちらへ飛んできた。
…もはや壁だ。攻撃でできた壁。隙間なく詰まった攻撃が迫ってきている。
「まったく。諦めが悪いなぁ〜。起きて息吹、仕事だよ」
胸元から鎖に絡まった剣のネックレスを取り出す。
ああ、この剣を使っても僕が剣聖だとはバレないよ。剣聖としてやってるときは別のもっと煌びやか豪華な装飾のされた聖剣みたいなのを使ってるから。
それは一瞬で普通の剣のサイズにまで戻り、僕の手に収まる。
剣からめんどくさいという意が伝わってきた。
「いいじゃないのさ。たまにしかやらないんだから」
銀色のクレイモア。剣の腹には模様が刻まれ、鍔には灰色の輝くを放つ結晶。
僕はそれをただ横に振る。
「がっ…ぁ…⁉︎」
次の瞬間に見れるのは一瞬で消えた魔法と臍あたりで分断されたハイド君。
そして消え去った。
「お疲れ」
再びネックレスに戻った息吹を首にかけ直す。
『しょ、勝者は4年シエンです…!』
僕のときなのに、珍しく歓声が上がった。
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