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9.対話の日



 大会2日目、今はお昼過ぎ。



 『Bグループ第4回戦第1試合…4年シエン対魔法科5年アネットの試合を開始します!』


 ん?3回戦?相手が逃げ出したってさ。



 『えー…両選手入場』


 かわいそうになってきた放送の人のアナウンスで入場する。

 今回の相手にはすごく見覚えがある…というか付き纏われてる。そうです。件の魔法オタクの5年生。



 『言わずもがな、鬼畜外道のシエン。これ以上は私は言いません。続いては魔法科の花、魔法オタクじゃなかったらと残念な美人、魔法科5年アネット。実は隠れたファンがいるとかいないとか?』


 へぇ〜…やっぱり残念な人だと。

 それと僕の説明もうちょっと頑張ってよ。



 「やっぱりあの魔法をもう1回見せてくれませんか!もう1回でいいんです!だから!」


 まぁじゃなかったら目の前で色々言ってるのは無視しないけどさ。

 確かに残念美人だよ。

 ゆったりとしたお嬢様のような風格、ゆるふわな紫色の髪、胸もあって顔もいい。守ってあげたくなるようなそんな女の子。

 …魔法オタクじゃなければみんなに大人気だろう。



 『では、両者準備はいいでしょうか!…試合、開始ッ!』


 こっちをじっと見ながら杖を構えた魔法オタク。

 詠唱を…始めないで杖の先から出る魔力が陣を描き始める。



 「ほう?陣魔法か〜」

 「え?知ってるんですか!」

 

 陣が消滅。

 僕に詰め寄る。近い近いって。


 せっかくだから魔法で勝負と思って持ってきていた杖でトンと地面を突く。

 いつもディランの訓練を見守ってる時の椅子が2つ出来上がった。



 「知ってるもなにも僕が使うのも基本はそれだからね〜。ま、座りなよ」

 「ありがとうございます。これ地魔法ですよね!今何を元にしたものなんですか?」


 これはこれで大会をけなせそうだ。しばらく話し込んでおこう。



 「元々はゴーレムを作る系統の魔法だよ。そこに方向性を持たせて形をいじってる。多分簡単にできると思うよ…形だけだったら。装飾とかのためだけに無駄なのがいっぱい入ってるだけの魔法だし」

 「なるほど…そういう使い方は思いつきませんでした」

 「だろうね〜。一般的な生活でこんな椅子を作ろうと思う機会はないと思うよ」

 「確かにそうですね。でも、どうして…ええと、あなたはこうやって椅子を作るためにこんな魔法を作ったんですか?」

 「ああ、僕はシエンだよ。どうしてって言われてもできそうだったからっていうのと便利だからだね。ほら、地魔法って変形させる類の魔法が多いじゃん?なんか色々作れそうだと思わない?」

 「ええ!今までそういった面で見たことがなかったのでその考え方はとても面白いです」 

 「ははは〜。じゃあ今までどんな風な考え方でやってきたの?」

 「芸術性です。魔法とは本来人の手にしえないものを想像することのできる術。そこに美しさを求めて何が悪いと言うのでしょう!」

 「うん。いいと思うよ〜。確かに美しさとかは大切だよね。イメージと強さは多いに関係するんだからそういった考え方って意外に必要不可欠なものだと僕も思うよ」

 「わぁ〜。本当ですか!私、今まで同じように考えてくれる人が少なくって、こうやって話せる人ができて嬉しいです」


 僕もこうやってちゃんと説明についてこられそうな人が久しぶりだよ。

 もうびっくり。

 ついでに言うと観客と放送の人もびっくり。なんで戦闘が始まらないのかあたふたしてる。



 「ところでアネット先輩は何の属性持ちですか?僕は闇と風と地なんですけど」

 「私は光と雷です。あ、でも雷は風に含んだほうがいいですか?私ほとんど風魔法は使えないのですが」

 「いいんじゃないかな?でも同じ属性を持ってるとなると同じ話題があって楽しいね。風魔法について何か研究ってした?」

 「雷の魔法を幾つかです。例えば…今は天災のように大規模を殲滅する魔法なんてものとか。まるで神の裁きのように雷を落とすのが目標です」

 「ほぉ〜。それは面白いね。でも、雷か〜。僕は風ばっかりだからなぁ」

 「闇ではなくですか?」

 「ん?ああ、闇魔法っていうのはすごく使い勝手がいい属性なんだよね。バリエーション豊かで」


 

 そういえば闇魔法と地魔法しか使ったの見せてないし、闇魔法の方が使用頻度は多いように感じただろうしね。


 「バリーエションですか?」

 「そ。例えば、火って言われて何をイメージする?」

 「そうですね…燃えている炎や暑さ、火傷でしょうか?」

 「そ。じゃあ闇は?」

 「うーん…影や暗闇、悪、痛み、侵食、負のイメージが多く…あ、なるほど」

 「そういうこと。闇はいろんなイメージができるゆえに魔法もいろんなものが作れるんだよ。この間のシャドウマンモドキあったでしょ。あれは影というものが世界に影響をもたらすっていう考えから産まれててね、人が動くと影が動くでしょ?じゃあ影が動いたら?」

 「それは人が動いているということですか?」

 「そ。じゃあ、その影が別のものの影を動かしたらどうなると思う?」

 「あ、別のものも動くということ!」

 「そう。そういうイメージから生み出されてるんだよ。本来のシャドウマンはもっと別の魔法でしょ?」

 「ええ。自我を持って敵を攻撃する魔物というイメージからできる魔法ですからね!」


 魔法とはイメージなのだ。

 同じ魔法でも使用者のイメージが違えば効果も異なる。

 光に癒しのイメージを込めて撃つライトボールと裁きのイメージを込めて撃つライトボールでは、前者がヒールのような効果、後者が聖者の攻撃のような効果をもたらす。



 「まぁ、思った通りに動かすには色々と大変だけどね」

 「そうですよね。じゃあどうやって…これ以上はいけませんね。何か他にもありますか!」

 「そうだな〜…あ、光属性って言ったよね?」

 「え、はい。でも持っていないんじゃ?」

 「ああ、僕じゃなくって友人。作った魔法を撃たせてね」

 「なるほど…それは一体どのような?」

 「まず聞くけど光属性にはどんなイメージがある?」

 「ええと、癒し、浄化、高貴なイメージでしょうか?」

 「僕の知り合いは絶対的な攻撃力をイメージしてたんだよ。光=勇者ていうイメージを持ってたからさ」

 「なるほど。確かに過去の文献によると勇者は光属性を持っている人が多いですね」

 「話が変わるんだけど魔法剣て知ってる?」

 「ええ。かつての魔王を討伐、数年前の戦争でも活躍された勇者タクミ様が使っていたというスキルですよね?」


 うわぁ、拓巳が有名人だ…

 よし、いい機会だから僕への興味をずらしておこう。



 「あ、知ってるんだったらいいや。僕の友人っていうのがそいつなんだけど」

 「そうなんで…え?ご友人なんですか?」

 「うん。で、話を戻すよ?」

 「あ、はい」


 …何事もなかったかのように聞き流したよ。

 さすがは魔法オタク。



 「魔法剣っていうのはその名の通り魔法を使う剣なんだよ。魔法を剣に宿らせて使う。そういうスキルなわけ」

 「なるほど…ではその魔法剣でシエン君の魔法を使ったというわけですか?」

 「そ。本人は戦闘中にそんなことまでやれるかわからないから多分使えないって言われちゃったけど」

 「それは残念ですね…で、どういった魔法ですか?」

 「言葉通りに聖剣だよ。聖なる剣って書いて聖剣」

 「聖剣ですか?」

 「そ。勇者の持つ剣ってどんなのだと思う?」

 「そうですね…神様から賜われた魔を滅する剣でしょうか?」

 「お〜。ちょうど僕と同じこと考えてた。僕はね、それなんだから肉体を自然に治癒したり、魔法を補助したり、身体能力を強化したり、敵への攻撃力を上げたりするようなものだと思うんだよ」


 物語りに出てくるような勇者の剣ってさ、自我があったり、主人公と一緒に成長したり、色々効果あるじゃん?

 でも拓巳の剣ってただ折れず、壊れず、古くならないっていうだけの保護されるだけの剣なんだよ。何かが足りないと思って作ったわけよ。

 …まぁ、結局今回の戦争で聖剣呼び出すスキルを獲得してくれてたけどさ。



 「…そ、それじゃあまさか」

 「そう。それを一度の魔法で全部やろうと思ったんだよ。さすがに大量の陣が必要になるから本人には練習だけで断られたわけなんだけどさ」

 「それは確かにそうですね。私だって簡単な陣でも数秒は描くのにかかりますから」

 「…ん?ちょっと待って」

 「はい?」

 「今僕と戦うときにそんな隙を見せようとしてたわけ?」

 「確かにそうとも言えてしまいますね…私は本来後衛ですから普段いきなり敵を目の前にすることはないですから」

 「あ〜。じゃあ、簡単な武術とかも身につけてないの?」

 「一応躱すために身の動かし方だけは」

 「なるほどね〜…じゃあさ、その魔法を準備する間に別の魔法を撃てば?牽制にできれば魔法撃つ時間が稼げるし」

 「別の魔法ですか?」

 「そ。無詠唱ってわかるでしょ?あれで初めに光魔法とかで目くらましをして、その間に距離をとって魔法を撃つ準備をするとかさ」

 「な、なるほど。そういった方法がありましたか」

 「気がついてなかったのね…」


 なんかこの子が天然な魔法オタクなのがよくわかるよ。

 もう救いようがない感が半端ない。きっとそのうち宮廷魔道師にでもなるんだろうね。研究職でもあそこには優秀だったら入れるし。



 「あ、そう言われてみるとシエン君もいきなり魔法を使っていましたね。1回戦目に」

 「ああ〜。あれは陣魔法だよ」

 「え?」

 「詠唱で上位程度にランク付けされる魔法ぐらいは一瞬で描けるし、それ以上だって1,2秒あれば簡単に」

 「す、すごいです!私もまだまだ修行が足りません!」


 パパッと目の前で銅像を作ったら感激された。

 ちなみになんの銅像かというとアネットのものだ。今までの話のついでに構成して今実験的に使ってみた。

 サイズは1/2程度のもので、内部は空洞なので結構軽め。



 『…あのー、そろそろ戦闘を』


 すっかり忘れ去られていた放送の人がそろそろかわいそうになってきた。



 「こう言ってるけどどうする?」

 「ええと…では、私の魔法の腕を見てくれませんか!それと師匠って呼んでいいですか!」

 「見るのはいいけど師匠はダメ。じゃ、なんんでもいいから撃ってみなよ」

 「はい!…あ、この銅像持って帰っても?」

 「いいから」


 アネットは銅像をズリズリと引っ張ってステージの端に避けた。



 「じゃあいきます!」


 杖を前に出し、陣を描く。

 描かれた陣から雷が飛び出し、会場中を舞った。



 「おお〜。綺麗だね」

 「ありがとうございます!でも、まだ規模はこの程度が限界で」

 「なるほど…ちょっと待ってて…多分このままの規模だから…威力を調節して…雷の方向を指定して…いや、どうせだったらもっと造形を…こっちに魔力量を…」

 「シ、シエン君…?」

 「よし。じゃあ見せてあげよう」


 目の前にささっと陣を描き上げる。

 そして、完成した陣へ魔力を流し起動。



 「そうだね…名称は『雷の妖精剣舞ライジング・ソードダンサー』でどうかな?」


 陣から手のひらサイズの剣を持った精霊の形の雷が飛び出した。

 あっちこっちで剣を振り回し、雷を放ちながら地面をえぐって踊る。会場の半分程度を抉りきるとキラキラと光を放ちながら消滅した。


 アネットに腕をガシッと掴まれた。



 「す、すごい…すごいです!これを今の短時間で作ったのですか!嘘みたいです!形を作って動かすなんて今の私には到底無理なのに…!」

 「わ、わかったから、腕を振り回さないでよ〜」


 ブンブン腕を上下に振り回す。

 感動が伝わっては来るんだけど、腕が辛い…

 


 「あ、そうでした。私は降参します」

 

 ひとしきり腕を振り回した後、アネットは降参を申し出た。

 


 『えー…色々と予想外な結果ですが、4年シエンの勝利です』


 苦笑いというより、判断に困る様子の放送の人がそう告げた。 

 僕は作った椅子を消して地面をならし、それから退場する。


 歓声に近い何かが聞こえたのでこれはこれで面白かったのではと思う。さ、次は誰だろう?


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