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7.悩む日




 「ほら、ディラン。行くよ〜」

 「るせぇ。先に行きゃいいだろぉが」


 僕は制服に着替えてるディランを急かす。

 と言ってもまだ時間に余裕はあるので急かす意味は全くない。単なる嫌がらせだ。

 ああ、あとディランが昨日寝坊してた理由がよくわかったよ。こいつ、夜遅くまで勉強してるの。ほんと実は真面目な優等生で吹き出しちゃったよ。おかげで文句言われたけど。照れ隠しにしか聞こえなくてなおのこと笑った。



 「いやぁ、僕迷子になるかもよ?2日目だし」 

 「…チッ。おとなしく待ってろ」

 「ははは〜」


 ちゃんと連れて行ってくれると言うあたりやっぱりいいやつ。

 まだ会って2日目だけど結構気に入ったよ。ま、人を見る目はこれでも結構ちゃんとしてる方なんだけどね。何せ数百年人を眺めて生きてきたから。


 制服に着替え終わったディランを引き連れ部屋を出る。

 階段を降り寮から出て学園の敷地内を歩く。

 


 「ねぇ、そういえばさディラン結局ハイド君に何したの?」

 「…気にすんじゃねぇよ」

 「いや、教えてくれないんだったらハイド君たちに聞くだけなんだけど」

 「…チッ。去年に強いやつがいるから喧嘩売っただけだ」

 「なるほど。若気の至りだったと?」

 「るせぇよ」


 要するに強くなりたくて強い人に片っ端から喧嘩売ってたってことであってるかな?さすがにディランのことだから慢心していろんなやつに喧嘩売るようなのじゃないだろうし。

 


 「なぁ…シエンは誰に剣を習った」

 「ん?突然だね〜。昨日ので気になった?」

 「悪いか」

 「いんや〜。別に気にするようなことじゃないし。そうだね…習ったというより元々知ってたんだ。体が覚えてる。いや、正確には魂が記憶してたんだよ」

 「わけわかんねぇよ。バカにしてんのか?」

 「いや、事実を述べてるだけ。ま、分かりやすく言うなら記憶と経験の蓄積の結果だよ。いつの間にか出来上がってたって言えばいい?」

 「要は我流だろぉが…」

 「そうとも言えるね〜。ま、一応流派がないとも言い切れないけど原型とどめてないし」


 ありとあらゆる世界の剣術がまじりあってるから。

 


 「そうか」

 「そういうディランはどうなのさ?2本ほとんど同じ剣持ってるってことは師匠?も二刀流だったの?」

 「なんでテメェに言わなきゃなんねぇんだよ」

 「僕が答えてあげたんだからその対価」

 「…チッ。ちげぇよ」

 「ふ〜ん。そか」


 ディランがそっぽを向いてしまったのでその後は何もしゃべらないで教室まで歩いた。

 教室までの間いろんなところから視線を感じたのは編入生である僕への興味か、ディランがこの時間でちゃんと登校するのが珍しかったのか、ディランが誰かと一緒にいるのが珍しかったからか…多分全部だと思うけど。


 ガラガラと扉を開けて教室に入る。

 ざわざわしてたのが一瞬静かになり、それから僕に人が大量に寄ってきた。

 え?何?僕何かした?

 再び僕は取り囲まれてしまった。昨日の今日で学習したのかみんなが一度に何かを言うのではなく、昨日と同じ青い髪の男子生徒が前に出てきて僕に質問を投げかける。 



 「昨日あのハイドを倒したって本当なのか⁉︎」

 「え?ああ、ハイド君との話か〜…びっくりした。僕が何かしたのかと思ってちょっと焦ったじゃないのさ」

 「…事実だろ。あいつを訓練用の剣だけで倒した時点でやらかしてんだよ」


 

 ボソッと横でディランがつぶやいた。そしてそれが聞こえちゃったらしい。

 …しれっと話をそらすつもりだったのに。



 「訓練用の剣だけで倒した⁉︎」

 「あ〜らら。ディラン、これしばらく騒ぎになるよ?うるさいのにいいの?」

 「…チッ」


 というかハイド君を倒しただけでなんでこんなにうるさいのさ?

 実は有名人?

 …学園で有名なだけじゃわからないんだよね〜。全大陸戦闘競技大会でも学園部門はあるけど、どうせつまらないからって見てなかったし、表彰式に僕は出ないし。



 「どうやって倒したんだ!俺と戦ってくれ!」

 「普通に剣で倒しただけだよ〜。それと戦わない」


 これはしばらく質疑応答をする羽目になりそうだ。

 まだ朝のH・Rが始まるには10分程度あるし。

 ディランめ。1限目は覚えておくといい。これでもかってくらい絞ってやる。


 僕が隣に座ってるディランにジト目を向けると、そっぽを向いてくれたよ。


 結局そのまましばらく質問に答える羽目になった。

 ああ、あとハイド君がどうしてそんな有名なのかって聞いたら学園内での大会での前年度、前々年度優勝者だったそうだ。1年2年連続で優勝を圧倒的強さで勝ち取ってたらしい。しかも最初の年の決勝戦は前年度の全大陸戦闘競技大会の学園部門の優勝者とだったんだと。

 …それをぽっと出の僕が圧倒しちゃったら騒ぎにもなるよね。

 で、その学園内の大会っていうのが実は来週に迫ってるらしい。今オーバがその件について話していた。


 簡単に言うと今は入学、もしくは学年が上がってひと月が経った。

 で、新入生とかはこのぐらいになると大体訓練の成果が出始めて調子に乗り出すらしい。ということで全学年の腕試しを兼ねて学園内で大会を行うんだと。 

 参加は自由でどこの科からでも出場可能。つまり教養科からだって出てもいいらしい。


 で、それを来週に開催するんだと。

 授業を潰してやるそうだから出ない人は休日になるそうだ。あと、観戦は認められてる。



 「参加する者は今週中に受付を済ましておくようにしなさい。連絡は以上です。1限目に備えるように」


 そんなうちにオーバの話が終了した。

 


 「じゃ、ディラン。優勝目指して頑張ってね」

 「…は?シエンは出ねぇつもりかよ」

 「当然じゃん。なんでそんなめんどくさいものに出ないといけないのさ」

 「あいつらがうるせぇぞ」

 「…なるほど」


 ハイド君はともかく、取り巻き2人が逃げるのかとか言い出しそうだね…ハイド君のリベンジマッチのために。しかもこの取り巻きたち悪気があってやってるわけじゃないみたいだからなおのことたちが悪い。ハイド君もちょっと扱いに困ってるぽかったし。

 まぁ、実際逃げてもいいんだけど、そのあとしばらくうるさそうだしな〜…

 どうしようか?



 「でもここで勝ったって何にもなんないじゃん?」

 「…賞金は出るな」

 「別にいらないしな〜…だってせいぜい出たところで金貨程度でしょ?」

 「シエン、金貨程度ったぁなめてんだな」

 「何?全財産聞きたかった?」

 「誰が聞くか」


 いくらだったかな〜?

 まず、戦争の冒険者としての報酬でしょ。次に、その戦後処理の仕事としての給料でしょ。さらに、法衣貴族として出されてるお金でしょ。あと、いつくかの魔道具とかの特許の分のお金でしょ。で、大会とかにいつくか出た分の賞金でしょ。最後に冒険者として働いた分のお金で…



 「白金貨が八千と…」

 「だから聞かねぇっつってんだろぉが!つうか恐ろしい数が聞こえたぞ…」

 「うん。まぁそういうことで金貨程度じゃ嬉しくないわけなんだよ」

 「…だろうな」


 今更なんだよね。

 というより本当にどうしたものだろうか?このままいくと出ない方がこれからもずっと絡まれ続けることになりそうだけど、出たは出たで名が売れてめんどくさい。堂々とマリーに会いに行けないじゃないのさ。

 …あ〜あ。妹じゃなくて娘とか言えばよかったな〜。そうすれば兄って言っても剣聖の息子って騒がれるだけで済んだし。まったくさ、せっかく貴族の位を受けずに名誉騎士の位で一応貴族みたいな身分に抑えたのに、これじゃ意味がないよ。

 第一なんであそこまで過剰な騒がれ方するようになったのかな?確かにこの世界だと騎士だとか高ランクの冒険者だとか、偉業を成し遂げたような人が騒がれるのはわかってたよ?…あ、そっか。それを全部やったら騒がれるか。



 「ということでなんかいい感じの取り巻き(赤)と水色君を退ける言い訳ないかな?」

 「取り巻き(赤)…?ああ、エルドレットか。言いづれぇな」

 「あ〜…確かに。じゃあなんて呼ぼうか?なんかいい感じに貶せるあだ名ない?」

 「知るか」

 「う〜む…まぁ、無難に赤色君と呼んであげよう。これでお揃い」

 「んなことしてるから、あいつらが突っかかんだろぉが…」

 「ははは〜。まぁ、楽しければそれでいいじゃん?」

 「愉快犯が…」


 あら?ディランが呆れ返った顔してる。

 別にいいと思うんだよ僕はさ。何事もない平和な学園生活も悪くないと思うけど、適度な刺激は欲しいじゃん?流石にバレると面倒だから、日頃のちょっとしたやりとり程度でいいんだよ。まぁすでにちょっとしたから離れてる気もしなくもないけどさ。

 


 「ところでディラン。1限目は移動しなくていいの?服とか武器とか」

 「今日は持ってきてんだよ」

 「ああ〜。朝来るとき肩に掛けてたのは剣とかだったわけね〜」


 どうやら準備してきていた様子。

 朝から何か持ってると思ったらそれだったのか。



 「じゃあ、ディランは服はいつもそれなの?冒険者のときとか」

 「何か悪いか」


 なるほどディランは普段の冒険者をやるときも制服な訳か。このあいだの訓練のときも制服の上に鎧つけてたし。

 ああ、一応言っておくけどこの学園の制服は結構丈夫だ。どのくらいかといえばEランクの間はそのままでも全く問題ないくらい。要するにその辺の服よりも全然丈夫ってこと。だから初心者の頃は問題ないんだけど…



 「悪い。ディランはもうCランクでしょ〜?Cになったら依頼だってそこそこの強さの魔物も出るようになるし、鎧だけで防いでるのは急所とかだけだったじゃん。一言で言うと死ぬよ?もし普通に制服のところをザックリ切られたらどうするのさ。血が足りなくて意識が朦朧としながら戦う?」


 服は意外と大事なのだ。

 多少丈夫なだけでも致命傷を防ぐ可能性が増えるし、ちょっと厚い皮のベストとかを着るだけでも胴体の防御は増す。相手が人だったら上手くいけば切り傷を負わないで済むことだってあるくらいだ。

 …ま、普通のズボンとシャツとカーディガンの僕に言われても信憑性はゼロだろうけどね。いや、さすがに外に出るときとかまともな戦闘をする可能性のあるときは変えるよ。昨日はレザージャケットだったし。



 「…チッ。るせぇんだよ」

 「あ、もしかしてディランお金ない?」

 「…チッ」

 「なるほど。お金がないから戦闘用の服がないと」

 「これでいいだろぉが。問題はねぇ」

 「あるよ〜。伸縮性も高いしある程度は丈夫だけど、あくまでもそれは冒険科が最初から渡してる、いわば初期装備なんだよ?」

 「んだよ初期装備って」

 「あ〜、ゲームがないと通じないのか〜…じゃああれだ。兵士の訓練で初めに渡される安物の剣と一緒なんだよ。要するにある程度強くなったら自分で新しいものに変えることを念頭において作られてるの」

 「ああ…そういうことか」


 どうやらやっと納得してくれたよう。

 ディランはちょっとうつむいて考え始めた。



 「ということでさ、制服を訓練で使うのはいいけど冒険者やるときまで使うのはやめようか?せめてレザージャケットでもローブでもマントでも、とにかくなんでもいいからちょっとした防御に使えそうなものをさ」

 「…わかったよ。賈えばいいんだろ、買えば」

 「いや?買わなくってもいいよ?」

 「…は?」

 「素材があれば僕が作ってあげるよ。初日に言ったでしょ?服は自作だって」


 どうせ夜中じゅう暇してるからその間にでも作るからさ。

 というか夜中にやることをくれた方が嬉しい。それにディランのだったらやる気が出る。ディランって、ちゃんとした冒険者や強い服を着せたらいい感じに見えると思うんだよ僕は。馬子にも衣装っていうわけじゃないけどさ。

 ディランって筋肉あるし、風格?みたいなのがちゃんと備わってるような感じがするからきちんとした服を着ればいっぱしの冒険者に見えると思うんだよ。



 「…わかった」

 「よし。じゃあ、とりあえず皮一つの大きさはどんなに小さくても背中半分くらいは欲しいかな。それが4枚ぐらいあればベストぐらいは作れるから」

 「何の皮がいいんだ」

 「ん〜…実際のところ何でもいいんだよね。まぁ、ランクが高い方がいい物になるのはほぼ当然だけど」

 「そうか」

 「じゃ、そろそろいこっか〜」


 僕は悩み始めたディランを連れて歩き出す。

 さ、一時間目はディランをしっかり絞ってやらなくては。


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