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6.戦う日




 「やっほ〜、ハイド君。何がどうなってこうなったのさ?」

 「…あ、シエン先輩」


 声をかけられて初めて気がついた様子のハイド君。

 ディランと取り巻き(赤)はにらみ当て怒鳴りあってるので放置しよう。



 「それがですね……」


 ハイド君はことの顛末を話し始めた。

 きっかけは数分前に遡る。

 ディランが武器とかを準備して戻ってきた時、ちょうど取り巻き2人が負けたことその他の反省をしてたらしい。ハイド君が別にふざけてただけで普通に会話を楽しんでただけだったと説明し、ディランを嫌ってることで必要以上に警戒して悪いところばっかりが目に入ってこうなったと本人たちも反省したそうな。


 その辺は本人たちにも悪気があったわけじゃないんだとハイド君が僕に言い、水色君はとりあえず謝ってくれたので良しとする。


 で、その頃ディランは僕がこないから素振りを開始してた。それがちょうど取り巻きたちの目に入ったらしく、僕に謝りたいからどこにいるか聞こうとしたんだと。それで睨み合いながらディランから僕がもうすぐここに来るということを聞き、じゃあ待ってようというということになった。

 それでちょっとした会話で僕がまるで化け物みたいだななんて取り巻き(赤)が言って、それにディランが反論。しばらく言い合って、いつの間にか怒鳴りあいになったそうだ。


 …ディラン。やっぱり君はいい人だね。



 「ということで、すみません。今回は完全にこっちが悪いですし」

 「いいよ別に。化け物なんて言われ慣れてるよ。ディラン〜!」

 「あぁ゛?…シエンか」

 「僕のために怒ってくれたんだって〜?ありがとうね」

 「…チッ。んなんじゃねぇよ」

 「ははは〜。さ、言い合いはその辺にして訓練を始めるよ〜」

 「わかった…」


 意外とすんなり引いた。 

 いつもだったらもっと続いてるのだろうか?野次馬が「え?」みたいな顔してた。

 ディランが引いたところで取り巻き(赤)も水色君に説教されて止められる。それからこっちに来た。



 「先輩。すいませんした」

 「ん。別にいいよ。そんなに気にしてないから」

 「あざす」


 にっこり微笑んでやるとうつむいちゃった。なんか今更申し訳なってきた感じだね。



 「さ、ディラン。訓練再開するよ〜。さ、野次馬は散った散った〜」


 野次馬どもは不完全燃焼で帰っていく。

 「なんだよ、やらないのかー」と煽ってた連中も残念そうに帰っていった。

 …それでも帰らない魔法オタクはどうしたらいいかな?訓練所の入り口からチラチラ見てるんだけどさ。バレバレだよ、まったく。


 僕はディランに素振りを再開させ、地面に触れて地魔法で椅子を作り出して横に座る。

 そしてダンボールの中から教科書と思われる物を出す。 

 


 「意外と厚いのかな?」

 「シエン先輩はやらないんですか?」

 「僕はいいんだよ。監督だからね」


 ピラピラピラピラ〜っと本を一気にめくる。

 落丁を確認するだけだから問題ない。それにその気になれば読めるし、その気にならなくても落丁を確認するついでに視界に入るから軽くは全部読めちゃうし。でも最近ちょっと目が悪くなったかな。

 4冊の本をとりあえず全部確認した。礼儀基本、魔法理論、魔法薬学基礎、魔物生体学の4冊。

 …ちなみに礼儀の授業はない。一応これぐらいは知っておけっていうだけのもの。いざという時に役には立つだろうから冒険科でも読まされるんだろうね。



 「で、次は…バッジかな。あと制服は…着ないからいっか。とりあえずこれはクローゼットに入れとけばいいし。あ、でも1回は着ないとサイズが違ったら困るな。帰ったら着てみよう。あとは〜」

 「シエン先輩って結構自由人ですよね…」

 「ん?あれ?まだいたの?」

 「いや、俺たちも一応訓練してるので」


 そう言われ、ディランじゃない方に目をやると槍を振ってる取り巻き(赤)と魔法の詠唱してる水色君。

 でもハイド君はやらないようだ。



 「ハイド君はいいの?」

 「えっと、ちょっと解析中です」

 「解析?何を?」

 「その椅子を。魔法ですよね?魔力が動いていましたし」

 「そうだね〜。まぁ、君には無理だろうからやめときな。簡単なのだったらできるかもしれないけど、ちょっと細かいことしようとしただけでも数百の演算処理を自力でしないといけないから。あ、やりたい?」

 「…やめておきます」

 「ははは〜。あ、ディラン。それ終わったら左もね〜」

 「るせぇ。わかってる」


 剣を振りながらこっちを見てるディランにそう言っておく。



 「で、諦めたんだったら自己練しなくていいの?」

 「いや、しますけど………そうだ、アドバイスくれませんか?俺、最近行き詰まってるんです」


 ふと今思いついたようにハイド君が言った。

 まぁ、表情からして行き詰まってるのは本当みたいだけど。



 「ほぉ〜。何を?武術?魔法?人間関係?」

 「武術、魔法共にです」

 「ま、それだったらよくあることじゃん。みんな一度は経験するものだよ」

 「そうなんですけど…もっと俺は強くならないといけないんです」

 「なんで?いいじゃん。今ハイド君ランクは?」

 「Bですけど…」

 「十分でしょ。その歳でそれだったらさ〜」

 「ダメなんです…!」


 顔を背けられた。

 何か言えない事情がありそう。

 それにしてもなんか見覚えのある顔の面影があるんだけどなぁ…誰だろ?



 「じゃ、1回見てあげる。武器は?」

 「直剣です」

 「じゃあちょうどいい。僕のメインもそれだから」


 ハイド君が自分の腰に下げた剣を指差した。


 とりあえず見終わったダンボールの中身をしまい、椅子から立ち上がって椅子の上に置く。とりあえずこれで余波とかは受けないだろう。

 訓練所の端にある準備室に1本剣を取りに行く。



 「ディラン。ちょっとハイド君と模擬戦するから、観戦してな〜」

 「ったく、次から次に命令しやがって」

 「ははは〜。ごめんごめん。でも、いろんな人の剣を見るのはいいことだよ。いざという時に役に立つときだってあるんだから。ほら、椅子貸してあげるからさ。ついでに荷物もお願いするけど」

 「結局使えねぇじゃねぇか」  


 僕は適当な剣を選び、椅子から15mくらい離れたところまで移動する。

 ハイド君もそれについてきた。さらに、取り巻き2人も観戦しようとディランから少し離れたところにいる。



 「じゃ、始めようか。ルールは特になし。スキルだろうが魔法だろうがなんでも使っていいよ〜」

 「…わかりました」

 「さ、いつでもおいで。軽く揉んであげる」


 僕は直剣を構える。1限目で誰かが使ってた訓練所貸し出しの直剣のと同じ作りのようだ。



 「スゥ…行きます…っ!」


 まずは様子見だろうか。剣を構えたハイド君は開始早々火の玉を放つ…見たところ詠唱してないし、ファイヤボールとは一味違うっぽい青い炎だ。

 僕に向かって飛んでくるそれは途中で分裂して4つの玉が僕に向かって螺旋を描いて飛んできた。



 「よっ、ほっ、とうっ、やぁっ」


 軽く剣を魔力で覆い、その場からも動かず火の玉を切る…まぁ実際は剣先で魔法に感傷して掻き消してるんだけど。

 驚いた表情のハイド君。けど僕からは攻めるつもりがないので、くるのを待つ。



 「魔法をただの剣で切るって…ありえないでしょ」

 「大丈夫。うちの友人ははたきおとすからさ。槍で」


 これは石井のこと。前に拓巳とそんなことをやってるのを見た。



 「ならっ…!」


 剣で攻めてくる。

 それと同時に周囲からさっきのような火の玉が飛ぶ。

 剣は片っ端から弾き、炎は当たらなそうなのは避けて当たりそうなのはさっきの要領で切る。

 振り下ろし、切り上げ、なぎ払って僕の後ろに回りこむ。さらに振りおろし、一歩退いて刺突。

 弾かれたところで魔法が飛び、切りはらってるところへ反対から薙ぎ払い。


 打ち合う…というか一方的に攻撃を受け続けてあげてるうちに少しずつ剣戟が早く、魔法が密になっていく。 

 ハイド君はスロースターターなのかな?



 「ほら、もっと早く、もっと強く、もっと多く…足りないよ?」

 「くっそ…!」


 剣が振り下ろされ、炎が飛び、火花が散り、砂埃が舞う。

 今のところはダメージなし。というか、まだまだ遊んでられる。人を止めてるんじゃなければおふざけだけでも余裕で勝てるんだからしょうがない。普通に剣術だけで勝てる程度。


 ハイド君が一度後ろへ飛び退き、懐から短剣を取り出し逆手で構えて突っ込んできた。

 2本あれば一度に対処しきれないとでも思ったんだろうね。

 …まぁ残念。一方を少し早く弾き、もう片方も到達する前に叩く。目がよくないと何が起きたか見えないかもしれない。

 剣が1本増えて捌くのがちょっと大変になりながらも戦闘は続く。

 いつの間にか周りに観客ができていた。僕が最初の地点からほぼ動かないでやってるからそこそこの距離で観戦してる人が多々。



 「いいんじゃないの?このぐらい強ければさ〜。多分すでにBBの上位ぐらいあるじゃん」

 「だよ…」

 「ん?」

 「強くなきゃいけないんだよ!俺は!」

 「お。なんかやる気になった」


 炎だけじゃなく、岩が飛び交い始める。

 どうやら2属性持ちだったらしい。

 というか今何がハイド君のスイッチ入れちゃったの?まだ強くないって言いたいわけ?

 

 

 「おっ、危ない。風?」


 透明で見えなかったけど、風の刃が飛んできてた。

 魔力が見えるから普通に切り払ったけど。

 ということは3属性持ちかな?もしかしたら隠してるだけでもっとあるかもしれない。というかそんなことより一度にそんな大量に魔法使って大丈夫なのかな?多分さっきから4つぐらいの魔法が一度に飛んでるような気がするんだけど。


 そんなことを思ってたら今度は火の玉だけじゃなく、火の龍とかも混ざり始めた。まぁでも高々ちょっと威力が高くなって大きくなった魔法だし問題ないけど。



 「『媚びろ鬼姫』!」


 ハイド君がそう唱えると一瞬ハイド君の左手付近から女の子の幽霊のようなものが浮かんだ後、それがハイド君に吸い込まれ、ハイド君の額の2本のツノがグググっと伸びた。眼孔が見開かれ、牙が少し伸び、まさに鬼って感じになる。

 これからはリトルオーガと呼んであげようか?



 「行くぞ…っ!」


 パッと視界から消えて、後ろに来た。

 振り下ろされる剣をちょっと横にずれて避ける。

 また消えて横に。僕は振り下ろされる前に剣を弾く。前よりちょっと強くなったかな?

 さらに消えて前に。剣じゃなくて拳が来たので蹴り飛ばす。片足になったところを狙って飛んできた魔法はジャンプして避ける。

 空中だから身動きが取れないと思われたんだろうけど、振り下ろされた剣は軽く手を添えてそらす。

 悪くない動きだね。

 

 …あと、見覚えがある理由はわかったよ。ハイド君、多分ガリュさんの子孫じゃないかな?自分で作った外見だったから見覚えがあったんだと思う。こうやって見ると確かに似てるんだよ。目と顔の骨格が。あとで聞いてみよう。違ってたら笑うけど。

 


 「飽きた。終了〜」


 後ろに出てきたハイド君を3回ほど切ってバラバラ屍体にする。

 …まぁならずに外に放り出されるだけだけどさ。


 ハイド君が消えた瞬間歓声が上がった。

 取り巻き2人がハイド君の本気を剣一本で倒すなんてありえないなどと言ってる。

 僕は使った剣に触れて傷を確認し、ディランのとこに向かう。



 「そういえばさ、すごくどうでもいいんだけど鬼と剣士ってどうみても僕の方が正義の味方っぽく見えない?」

 「マジでどうでもいいな…つうか本当になにもんだ」

 「秘密〜。ま、いつかはバレると思うけど」


 そんなことを言ってるとトボトボとハイド君が復活して戻ってきた。

 取り巻き2人が慰めに走って行く。

 ハイド君はそれを軽く流し、僕の方へまっすぐ歩いてくる。



 「強いですね、シエン先輩は…」

 「まぁ、ね。ところでさ、ハイド君」

 「はい…?」

 「君の先祖にさ、ガリュっていう人いない?赤髪の鬼人種のさ」

 「えっと、多分俺の祖父だと…」

 「おお〜やっぱり。なんか似てると思ったんだよね〜」


 どうやら正解だった様子。

 どういうことなのかわからないらしくハイド君は疑問符を浮かべている。



 「どうして知ってるんですか?」

 「昔会ったことがあってね。そっか〜。いつの間に子供ができてたんだね〜」


 昔あったときは独り身だったのになぁ。懐かし。一体何年前だろ?300くらいかな?



 「へぇ…え?子供?」

 「ああ、子供じゃなくて孫ね」


 危ない。うっかり年齢が…

 


 「そ、そうですよね」

 「うん。最近いろんな人と会ってて言葉が頭の中でごっちゃになってるよ。ははは〜」

 「はは…ところで俺、どうでしたか?」

 「ん?ああ、そうだったねアドバイス。まず、強くなりすぎっていうのかな?」

 「え?」

 「ステータスの上昇に技術…主に防御関係が追いついてない。多分力で押しきれちゃうからかな〜?まだまだ動きに直せるところが多い。ま、絶対的な力があるんだったら技術なんて捨ておけばいいんだけどさ」


 これ、勇者にありがちなことだったんだけど、力技で勝てちゃうから技術が上がらない。

 だから力で勝てない相手と当たると全く歯が立たないんだよね。拓巳たち最初の召喚組は最初から格上の相手と戦ってたから強い相手との戦いには慣れてるんだけど、後で召喚された組はレベルを上げて物理で殴るを実践しちゃうような連中だったからさ。

 まぁ、圧倒的な力があれば気にすることはない。だってどんなに技術がなくても人が対処できない速度で剣が振れれば技術なんていらないでしょ?



 「はぁ…たとえばどんなところですか?」

 「ハイド君、君力とかスペックで負けたことあんまりないでしょ?だからだと思うんだけど、ハイド君は攻める戦いをする。確かに攻め続けられるうちはいいよ。でも、僕みたいなのと当たったとき攻めきれなかったらどうしてた?」

 「どうしてたって…言われても」

 「そう。経験ないでしょ?君の強みは常に攻め続けられるところ。でも、それは格上とだと一気に弱みになる。だってカウンター打ち放題だったもん。ということで、避けるとか受けるとか防御の練習とかするといんじゃないかな?レベル上げは一旦終了。自分より強い相手との戦い方を学びましょう」

 「はい…えっと、じゃあこれからも訓練に付き合ってくれませんか?」

 「あ、そっか…それはめんどくさいな。じゃあ、ちょっと待って………よし。これをあげる。本来奴隷の調教とかに使われるんだけど、能力抑制リング。つけると出せる力とかが弱くなる…ま、筋力と魔力だけだけど」


 20cmくらいの鎖の付いた指輪をハイド君にあげる。

 これ、能力高い上にうるさい奴隷を調教するために使われるものなんだけど、一応訓練にも使えるんだよね。



 「じゃ、頑張って〜」

 「は、はい…!」


 ハイド君は強くなる方法を見つけたからかちょっと嬉しそう。

 取り巻き2人がまだ強くなるのかと呆れ顔をしてる。


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