5.出会う日
さて……どうしてこうなった?
「謝るなら今のうちだぜ先輩」
「僕だって先輩を痛めつけたいってわけじゃないんです」
放課後、訓練所の1つで僕は2人の相手を前に対峙していた。
その相手というのは取り巻き(赤)と水色君。どっちも自分が強いって過信してるタイプ。まぁ、3年でパーティランクBは褒めてあげるよ。16歳がそういうお年頃だっていうのもわかるしさ。
まぁとりあえず死ぬほどどうでもいい。
…あと、ちなみに午後の授業は薬草とか魔物の基礎知識。眠りそうになってる人が教師に蹴っ飛ばされてくのが見ものだった。
『あーあー。テステス…さぁ、本日の決闘は4年シエン対3年エルドレット・サーファイスのペア!決闘の名目は…なになに?”ハイドさんをけなしたことに対する謝罪”?ですって。今日はあのハイドさんが対象ですが…まぁいつものことですね!では始めましょう。両者構えー…開始ッ!』
「お兄様がんばってー!」
よし、やる気が出てきた。
とりあえず、訓練所のステージサイズのハンマーを創って2人を消し飛ばす。場外ホームラン。
ほい終了。
『え…えぇー…4年シエンの勝利、です』
本当になんでこうなったんだろうね?
見てよほら、ディランが苦笑いしてるじゃないのさ。
「さ、帰ろっか…」
多分、こうなったのはハイド君を弱い弱いっていじったせいだと思うんだけど。なんかからかいまくってたらやっぱりディランの仲間だろって言われて、否定しなかったらいつの間にかこうなってた。
あと一つ言わせてもらいたいんだけど、単独でのBBからするとパーティランクBって相当弱く見えるわけ。だってランク付けの基準からするとパーティランクBっていうのは単体だと大体Cランク程度とすると、その辺にいるおっさんと訓練された兵士が戦うような感じだよ?
…普通に考えてねぇ?
ああ、これ何が基準かっていうと、これ。冒険者になるときには大抵説明される。
パーティランクはパーティメンバーそれぞれの平均で、固定のパーティだと結局一つ下ぐらいが単体での目安。
F・・・登録したての新人。町の手伝いなどをする
E・・・討伐依頼が受けられる。Fランクの魔物をパーティで倒せる程度の実力。
D・・・護衛依頼が受けられる。Fランクの魔物を一人で倒せる程度の実力。
C・・・試験がある。Eランクの魔物をパーティで倒せる程度の実力。
B・・・Eランクの魔物を単体で、又はDランクの魔物をパーティで倒せる程度の実力。
BB・・・Cランクの魔物をパーティで倒せる程度の実力。
A・・・Bランクの魔物をパーティで倒せる程度の実力。この辺りから一級と言われる。
AA・・・Bランクに単体で立ち向かえる程度の実力。(ただし足止め程度)
AAA・・・Bランクの魔物を単体で倒せる。又は、Aランクの魔物にパーティで立ち向かえる程度の実力。
S・・・Aランクの魔物をパーティで倒せる程度の実力。
SS・・・Aランクの魔物を単体で倒せる程度の実力。
SSS・・・AAランク以上の魔物の攻撃に耐えることのできる実力を持つパーティ以上。
…まぁ、一概にこれが全てってわけじゃないけどさ。ランクが低くても強い人は強いし。
で、その魔物のランク付けの基準がこっち。
G・・・子供でも倒せる
F・・・子供複数人、又は大人一人くらい
E・・・大人数人
D・・・訓練した大人複数人
C・・・パーティ一つ
B・・・パーティ複数
A・・・熟練のパーティ一つ
AA・・・熟練のパーティ二つ
AAA・・・軍隊一つ、又は熟練のパーティ複数
S・・・勇者一人、又は国一つ
SS・・・勇者のパーティ、又は国複数
SSS・・・勝てない
S以上の魔物はもう人である以上は勝てないってことね。それほどに勇者のスペックはおかしいということだよ。その気になれば国と1人で対峙できるスペックまでたどり着ける。
実際のところ、拓巳だって戦闘技能だけでも一撃で町一個潰せたからね。
「というかハイド君、言いがかりとかつけなくっていいの?あんなの卑怯だーとか不意打ちなんてずるいぞーとかさ〜」
僕は目の前までてくてく歩いて行き、訓練場をぐるりと囲むように設置された観覧席で観戦してるハイド君に声をかける。
「そんなことは言いませんよ。言われてたことも事実でしたし、ちょっとしたおふざけだと思ってますから」
やれやれみたいな表情をしてるから、どうせ勝てないだろうってわかってたんだろうね。まぁ、ハンマー出した瞬間顔が引きつってたから予想外ではあったみたいだけど。
…まぁ、いい訓練にでもなればいいと思ってたのかね?それとも慢心してる2人にいい薬だと思ってたとか?
「食えないねぇ〜。ま、嫌いじゃないよ。ところでハイド君はやらなくっていいの?」
「え?俺ですか?…いや、勘弁してくださいよ。手加減できませんから」
「おや?勝てるつもり?」
「それは無理です。やるんだったら胸を借りるつもりで本気でやりますから」
「ははは〜。ま、暇だったらいつでも付き合ってあげるよ。ディラン〜、帰ろ〜」
僕は訓練所の入り口に座ってるディランに声をかける。
ディランは結局僕のことを待っててくれた。昼休みに廊下に放置したときも待っててくれたし、ディランはやっぱりいいやつ。本当何したのかね?何があったらこうも嫌われるのさ。
ひらひらと手を振って訓練所をあとにする。
ああ、マリーはエルシーと一緒に女子寮に帰ったよ。
「…で、シエン。あれはなんだ」
「お。初めて名前で呼んでくれた〜。やったね」
「るせぇ。なんだよあれは」
「ああ、普通にスキルだよ。1限目に槍をいっぱい出したでしょ。あれと同じスキル」
「は?」
「【武器創造】っていうスキルでね、創造した武器を具現化するスキル。ただし、ちゃんとイメージして作らないとなまくらができる。作れる量と質は熟練度依存だよ」
「…いったいなにもんだよ、テメェは」
「しがないディランの友人ってことで許して?」
「…ああぁぁ!わけわかんねぇ!ったく」
ディランは大声を出したあとそっぽを向いてしまった。
照れてるの?ねぇ照れてるの?男のツンデレとか誰得とか思ってたけど以外と面白い…
「さて、まだ4時過ぎたばっかりだけどどうしようか?いつも普通の生徒ってこの時間なにしてるの?」
「あ?この時間だったら訓練でも街に出るでもしてんだろ」
確かにこの時間じゃまだ2時間ちょっとは明るいし外に遊びに行ったりする人もいるのか。
武器を買うとか、服を買うとか、食材を買うとか、友好を深めるでもなんでもあるもんね〜。この年頃だし?
「なるほど。ディランは?」
「訓練だ。何か悪いか」
「いやぁ〜、別に?」
「んでニヤニヤしてやがる…」
「してないよ〜。さ、じゃあ訓練に行こう!コテンパンにしてあげる」
「は?なんでテメェとなんざやんねぇといけねぇんだよ」
「あれ?1限目に僕の言うこと聞いてたからてっきり教わる気になったのかと思ってたんだけど、違う?」
「…チッ」
1日見ててわかったんだけど、ディランの舌打ちって肯定の意なんだよね。
否定したいけど否定できないときにするっぽい。なんとも天邪鬼。
「じゃ、剣持って準備しておいで。僕は購買に行ってくるから、訓練所で待ってて〜」
「わかった…」
ちょっと小走りでディランが寮に走って行った。
ああ、今更なんだけど武器と装備は訓練所で貸し出してる。1限で使ってた鎧とかは全部貸し出されたものだよ。ただ、剣とかは変わったものを使ってる人もいるから使いたい人は個人で自室で管理ってことになってる。基本は訓練所で借りるけどディランみたいなのは自分で管理してるわけ。1限が始まる前に寮まで走ってるのはちょっと面白かったのは僕だけの秘密ということで。
「さて、購買に行こう…あ〜、マリーに聞いとけばよかったな〜。なんか宿題があるからって急いでたから邪魔するのはなんだと思ったけど、そのぐらいは聞いとくべきだったよ」
後悔先に立たず。
とりあえず、校内案内の地図を見た記憶を頼りに購買に向かう。大体の位置はわかってるから、多分ちゃんとたどり着けるはず。
「えっと…ここを右かな?」
校舎の角を曲がった瞬間、人が目の前にいてぶつかりそう…にはならない。僕はちゃんと気がついて避けるからね。ただ、相手がびっくりして転びそうにはなるけど。
落としそうになった本とかを落ちる前に”影人”で回収。
今の時代属性での差別はないから気軽に使える。
「大丈夫〜?」
「…えっ?い、今のどうやってやったんですか⁉︎」
「え?何が?」
こういうとき、小説とかだったら初日に僕を案内してくれた人とばったり再会するんだろうけど、そんなことはなく全く見知らぬ人だった。
格好からしてローブを着てるから魔法科の方の人かな。ローブについていたバッジが鳥だったから5年の人のようだ。
拾ったものを返す。そしてどうやったって何を?拾ったこと?
「今の闇属性自立型攻撃魔法”シャドウマン”ですよね⁉︎どうやってあんな精密な動きをさせてるんですか?」
「あ〜…なるほど。めんどくさいタイプなのね。先に言っておくけど、あれは”シャドウマン”じゃないから。自作だよ」
「じ、自作っ⁉︎」
「細かいことは企業秘密ってことで。じゃ、周りには気をつけるんだよ〜」
「あっ、ちょっと」
この手のはめんどくさいから放置。魔法オタクなんて構ってたら日がくれちゃう。
とりあえず、その先を…尾けてきてるなぁ。まぁ被害がないうちはいっか。
目の前にある扉から校舎に入って、学食の方へ向かう。で、途中にあるコンビニみたいなところが購買。
「すみませ〜ん」
「はいはい。ちょっとまってくださいっす」
ダンボールの積まれた奥の方からエプロンをつけた男子生徒…?バイトとかがあるのかな?
その男子生徒はカウンターまでダンボールを避けながら出てきた。
「いらっしゃいっす。何をお求めっすか?」
「学生〜?」
「あ、はいっす」
「ふ〜ん。まぁいいや。僕は編入生なんだけど、教科書とかってもう届いた?」
「あ〜、あんたが件の編入生っすね。届いてるっすよ」
「…件っていうのが気になるけどいいや。もらえる?」
「了解っす〜。今持ってくるのでここで待っててくださいっす」
そう言ってダンボールの中に消えた。
件ってなんだろうね?今日僕がやったことといえば、1限でディランを躾け…もとい、訓練したのと、2,3限で教師と楽しく談話したのと、昼休みにマリーの教室で脅は…お願いしたのと、放課後に決闘したぐらいだよ?
…思いの外色々やってた。
そんなとこと考えてる間にダンボールを1箱持って男子生徒が帰ってきた。
「ここに全部入ってるっす。一応受け取りのサインをお願いするっす」
「はいよ〜」
癖で別の名前を書きかけてシエンと書き直す。
最近書類にサインすることが多すぎて”シン”って書くことばっかりだったから…
「ありがとうっす。他に何かいるものはあるっすか?」
「ないよ〜。ありがとうね」
「またのお越しをっす」
僕はカウンターに乗せられたダンボールを持ち、購買を後にする。
もうディランは戻ってきたかな?なんだかんだ乗り気っぽかったからもう着いて待ってるかも。
僕はちょっと小走りに訓練所に戻る。
後ろから付いてくるさっきの魔法オタクは放置。
左に曲がり、広場を曲がって訓練所に…なんか騒がしいね。今度は誰の決闘?
訓練所の近くで怒鳴り声が聞こえた。それと「いいぞやれー」みたいな声。
…なんか聞き覚えあるなぁ〜。
「んだとテメェ!」
「やるか?先輩」
…よし、ディランだ。
何があったのかな〜?ディランは沸点低いからなぁ。
訓練所の真ん中で怒鳴りあってるディランと…後はさっきの取り巻き(赤)かな?それを野次馬が囲んでる。
「ちょっと通してね〜」
人を掻き分けて進む。
真ん中にいたのはやっぱりディランとハイド君と取り巻き(赤)と(水色)。マリーたちはいなかった。
ディランは剣を持って睨んでるし、取り巻き(赤)も槍を構えて睨んでるし、水色は赤の味方だけど今回は関与しないのか肩をすくめて呆れている。
ハイド君もまたかみたいな表情。
しょうがないのでハイド君に話を聞くとしよう。
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