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3.初授業日



 「やっぱりこのままでいいや」

 「ケッ…」

 「というかさ、一限目から武術って辛くないの?このあと二限分もあるのに」


 僕は一限目から移動だと聞かされ、質問攻めから解放されてみんなが移動し始めたのについて行く。

 訓練所に行くのかと思えば一度違う場所に行き、男女に分かれたのでみんなが準備を始めたということに気がついてディランに僕はどうするべきか聞いたのがさっき。

 とりあえず教官に聞いて着替えるなりなんなりすればいいんじゃないだろうかというのを遠回しに言われ、訓練室にいる教官に聞いて結局そのまま訓練室に残りディランに「ケッ」って言われたのが今。



 「おい、お前ら黙れー。今日の授業を始めるぞ」


 鎧を着るなり、剣を持つなり、着替えてくるなりした生徒が教官の前に並ぶ。



 「いつも通り…っと思ったが、今日は編入生がいるんだったな。じゃあ改めて軽い説明をする。2人1組になって打ち合いだ。お前らは知ってるだろうがここには一定以上のダメージを受けると外に出される結界が貼られている。安心してやるがいい。この授業では武器による攻撃のみで、魔法を交えた攻撃は禁止とする。では、2人組を作って開始しろ。ちゃんと周囲との距離を見て気をつけるように」


 そんな訓練でいいのだろうか?

 …まぁ、今までの3年間で基礎はやり終えてるのだろう。今はとにかく経験を積むのが大切ってところかな。

 

 そんなことを思っているうちに生徒たちがどんどんペアを作っていく。

 多分僕がさっき服が変わってないことから今日はやらないと思ってのことだろう。

 結局ディランが一人残った。



 「よし…おい、ワーガイド教官!オレの相手を」

 「何を言ってる、ディラン。お前の相手は横にいるだろ」

 「……横ってこいつしかいねぇじゃねぇか?」


 ディランが左右を見て、僕を見てそういった。



 「だからそいつだよ」

 「…は?」

 「さ、やろうか〜」


 僕が立ち上がり、跳躍を始めたところでディランが僕を指差し再び怒鳴った。

 周囲の視線が再び僕に集中。



 「ふざけてんじゃねぇよ!こいつはどう見たって武器も持ってねぇじゃねぇか!なんでオレが」

 「ああ、大丈夫大丈夫。武器なら…よっと、いくらでも出せるから」


 僕は左右に槍を10本ずつ出して地面に突き刺す。

 周りが騒ぎ出した。

 ディランが呆然としている。


 

 「こういうことだ。そいつは普通に戦えるから今日のお前の相手はそいつだ」

 「教官!俺、編入生の実力が見たいので少しの間見学してもいいですか?」

 「…よし、なら今日は編入生とディランの模擬戦の観戦をしてから授業を始めることとする。お前ら、少し周りに避けろ。巻き添いを喰らうからな」

 「あ〜らら…」 


 そんなことを言ってるうちに教官含め、生徒が僕らから10mほど離れた。

 めんどくさいことになったな〜なんて思っていると、ディランがわなわなと燃えてるのが視界に入る。



 「上等だ…!テメェなんざさっさと倒してオレはワーガイド教官とやる。テメェが練習相手にもなんねぇことを見せつけてやるよ…」

 「さ、かかっておいで」

 「ふざけやがって…」


 ディランの格好は軽装で、当たると致命傷になる部分にだけ皮の鎧をつけている。

 武器は2本の曲刀。サーベルを分厚くしたような青龍刀のような感じのもの。ああ、要するにこの世界に中国はないので青龍刀っぽいものってことね。



 「いくぞっ…!」


 ディランはそれだけ言うと、僕に向かって走り出し、手前にある槍を片方で凪いでから僕へ剣を叩き付けるかのように振るおうとした。



 「…なぁ〜んちゃって」


 僕は周囲に出した槍を全て消し、手元に出したナイフで空振りあっけにとられたディランの首元をグサリ。

 ディランは僕の前から消えた。



 「さ。終わったから、再開していいよ〜」

 「…お前なぁ」


 教官が呆れ顔。

 生徒はあっけにとられた顔をしている。



 「テェメェェェエエエ!ふざけやがってぇ!なんのつもりだ!」


 復活したらしいディランが両手に武器を構えたまま怒鳴りながら走ってきた。

 僕に向かって斬りつけようとしているのがわかったので、来た瞬間ひょいと避けて足をかける。転んだディランの首に再びナイフをグサリ。

 教官は相変わらず呆れ顔。

 生徒はどうしていいのかわからない顔をしている。



 「ということで再開していいよ〜教官」

 「やれやれ…では、お前らはいつものように訓練を始めろ」


 威勢なく返事をする生徒達をよそに、再びディランが帰ってきた。

 今度は怒鳴りながら走ってはこないようだ。



 「もういいの?」

 「…なにがだ」

 「卑怯だなんだって言わなくて」

 「…チッ。るせぇ」

 「まぁなんだ。力技だけじゃ勝てないっていうのを自覚したんだろう。シエン、こいつの訓練に付き合ってやってくれ」

 「了解〜」


 僕にそれだけ言って教官は他の生徒達の様子を見に行った。

 ところどころで教官が悪いところの指摘とかをしているようだ。



 「テメェなにもんだよ…」

 「ん?僕はシエンだよ」


 僕がよそ見をしているとディランが話しかけてきた。

 さっきまで深呼吸をして息を整えていたので待っていたのだが、準備が整ったようだ。



 「そうじゃねぇ…オレは一応このクラス唯一の単独でのCランクだ。それを片手間にのしやがって…一体なにもんだって聞いてんだよ」

 「へぇ、これでCか〜…まぁこのぐらいかな?あ、Cランクになりたて?それなら納得するんだけど」

 「それがどうしたってんだ?」

 「ディラン、素直すぎ。わっかりやすいんだもん、攻撃が。どう見たって斬りつけますよって言いながら切り掛かってるじゃん。確かに魔物相手にだったらCに行けるだろうけどさ、この先盗賊とかにあったら死ぬよ?力と振り下ろしたいところに剣を叩きつける程度の技能はあるのはわかったけど、そのまま振り降ろすだけじゃ人には通用しないかな。多分同世代だったら力で押し切れただろうけど、教官とかとやってて普通に弄ばれてたでしょ?」

 「……は?」

 「要するに、アホ丸出し」

 「はぁぁあ⁉︎おとなしく聞いてりゃテメェ…」

 「だってその通りでしょ〜。あぁぁあぁぁ〜ゆぅすらないでぇ〜」


 襟首を掴まれて前後前後。

 視界がグラグラ。

 …僕が人だったら酔ってるよ。


 そんなことをしてるから再び生徒の視線が集まる。

 今回は教官が集中しろって生徒達に言ったためにすぐに戻ったけど。



 「…チッ。確かにその通りだよ!」

 「でしょ?ということで…さ、やろうか」

 「…は?」

 「え?今授業でしょ?訓練しないと。ほら、付き合ってあげるって言ってるんだからおとなしく感謝しときなよ」

 「あぁぁあ…!ちっくしょ。わかった」

 「よろしい。と、その前にちょっとその剣貸して」


 僕はディランの持ってる剣をちょっと拝借した。

 あっという顔をし、その次の瞬間にはめちゃくちゃ怒った表情をしたが、すでに剣は僕の手の中に奪い去られている。



 「こんな…感じかな?よし。じゃあやろうか」


 ディランに剣を返し、自分も同じ剣を手元に生み出して構えた。

 ただし僕は一振りだけ。二刀流ってできないことはないんだけど、実質無駄になっちゃうんだよね。僕は一本あれば事足りちゃうから。



 「オレの剣に…触るな!」

 「お、やる気いっぱい」


 振り下ろされた剣を剣先で弾く。もう一発来るのを横にステップでかわす。

 次に来た蹴りは同じように蹴りで相殺。一歩バックステップ。飛び込んできたディラン。

 再び単調に振り下ろされた剣をいなして、もう片方の剣を蹴っ飛ばす。


 「あ…っ!」


 蹴り飛ばされて飛んだ剣に一瞬気が行ったディランに蹴りを見舞い、もう片方も飛ばす。

 その後ディランに足をかけて転ばし、腹ばいにして関節を決める。これでもう動けまい。

 さ、お説教とこれからの訓練の方針を発表してやろうか。



 「はい残念〜。というかさ、ディラン。その剣大切なものだったんでしょ?多分親か師匠かそういった類の形見ってところ?率直に言うけど、今の君とやってるとその剣折れそうで怖いんだけど。曲刀ってどちらかというと叩きつけるものじゃなくって斬りつけるものだって知ってるよね?…あ、いや知らないって言うんだったらそれはそれでいいんだけど」

 「…んなことぐらい知ってるっつんだよ」

 「じゃあよかった。とりあえず落ち着いたみたいだから離してあげよう。剣、持っておいで」

 「チッ…」


 ディランは言われた通りに剣を拾いに行った。

 どうしても敵わないことがわかったのかおとなしく僕の話を聞くようになったのだろうか。

 …まぁ、拾いに行った先で他の生徒にガンつけてるのは見なかったことにするけど。


 そうして2本の剣を持って戻ってきた。



 「おかえり〜」

 「…ふんっ!」

 「どうせ敵わないんだから話し聞こうよ〜」

 「テメェのその態度が気にいらねぇんだよ!ひょうひょうとしやがって」

 「あ〜、うん。それはしょうがない。じゃ、そんなどうでもいいことは置いておいて、話を続けようか」

 「どうでもっ…!」


 また僕に斬りかかろうとしているのを我慢して自分で抑えてる。

 …ちょっとからかったら我慢できなくなるだろうな。基本的に沸点が低いみたいだね。悪い人じゃないんだけど。



 「で、斬りつけるっていうのが正しいところ、ディランは叩きつけてるわけ。師匠か誰かにそういうのは習わなかったの?」

 「…習った」

 「ああ、そう。じゃあ、なんでやらないの?」

 「…やり方は習ってねぇ」

 「ふ〜ん。教わる前に亡くなったとか?…まぁ今はどうでもいいか。ディランが教えてもいいと思ったら話してね」

 「誰が言うか…!」


 この分では話してくれるのは相当未来になりそうだ。



 「あ、そ。じゃ、とりあえず、基本から教えてあげるよ。曲刀なんて使ってる人あんまりいないから誰かに教わるのもできないでしょ」

 「…できるのか?テメェの武器はそれじゃねぇんだよな?」

 「まぁそうね。でも一通り武器全般は扱えるよ。弓と銃は除くけど」

 「…わけわかんねぇよ」

 「まぁそんなのはどうだっていいんだよ。で、ディラン。まず軽く振り下ろして見てくれる」

 「ふんっ…!」

 

 青龍刀は日本刀と同じぐらいの厚さ、それでいて日本刀よりよ幅の広い重たい曲刀。

 それゆえに軽く振り降ろすだけでも十分な力が発揮され、人ぐらいだったら軽く首が飛ぶ。それほどの切れ味を備えた殺傷能力の高い武器だ。

 で、だから魔物相手には向いてるんだけど、人相手だとちょっと重たいから小回りがきかない分少し考えて振らないといけない。



 「で、ディランはそれをハンマーと同じ要領で振るってるんだよ。もしかして鍛冶とかしたことない?昔見たドワーフの鍛治師と同じような感じに見える。戦闘する上で使いやすいように自分で調整してるのか、幾分かはマシだけど」

 「…どうすりゃいいんだよ」

 「ディランは片手持ちだよね。だったら…こう」


 軽く持った剣をディランの前で振るう。

 刃先がすぅっと綺麗に曲線を描く。



 「どう?わかった?」

 「…こうか?」

 「おお、さすがはクラストップ。飲み込みが早いね〜」

 「テメェが言うと嫌味にしか聞こえねぇよ…」


 でも心なしか嬉しそうに見えるんだけどな〜。

 …言ったらまた話が進まなくなるから言わないけどさ。



 「まぁわからなかったら分からないで一から教えるつもりだったから手間がはぶけてよかったよ。さ、じゃあ次に行こうか。それと同じ要領で左右前後いろんな方向に振るってみよう。とりあえずは手頃な型を見せるからそれに沿ってね」

 「…わかった」

 「なんかえらく素直になったね〜。久しぶりに弟子ができたみたいだよ」


 随分と聞き分けがよくなったね。

 いや、年齢的には弟分って感じかな?こんなの僕がまだ人だった頃以来のことで懐かしい感じかする。


 僕はとりあえず唐竹、横薙ぎ、切り下げ、切り上げ、刺突を見せる。

 うんうんと頷きながら見ていたので一回見せれば問題ないだろう。



 「とりあえずこれだけをやってみて。もちろんディランは二刀流なんだから両手でバラバラにできるぐらいになるまでしっかりね。そこまでできたら組み合わせて軽い実践。慣れてきたら魔物とか盗賊とか適当な敵とやればいいから」

 「なんでテメェに指図されなきゃなんねぇんだよ」

 「ん?僕がディランを気に入ったからだけど?ほら、手塩をかけて君を僕を除いた世界最強の剣士にしてあげる。約束しよう」

 「テメェなんぞに…」

 「生憎できるんだな〜これが」


 無論、僕だからっていうのもあるけど、名前的にもこの世界だったら可能だ。

 僕はこの世界で”剣聖”っていう称号を持ってる。ああ、人が勝手に作ったものでステータスにおける称号じゃない。大会で優勝してもらえるものだよ。向こうの世界の大会とかの優勝者とかって言われるのに近いかな。

 …ま、この話はまた別の時に。



 「さ、素振り素振り。とりあえずはちゃんと振れるようにならないと剣がかわいそうだよ。せっかく良い剣使ってて手入れもきちんとしてるんだから」

 「なっ…!」

 「ほら。始めて〜」

 

 ムッとした顔をしながらディランは素振りを始めた。

 周りからの視線がなんとも言えないものだったのは言うまでもない。


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