2.編入した日
で、編入した。
ん?試験?原案作ったのって僕だよ?落ちるわけないじゃん。
筆記満点、魔法測定不能、武術満点。ほい、合格。
「今日から寮生活〜。初めてだな〜。確か二人部屋でしょ?どんな人が一緒だろうね〜?」
寮は二人一部屋で、僕は二つある男子寮のうちの新しい方に入るらしい。
階は3階、一番端の部屋だそう。
僕は寮に入った。入り口にはもう朝のH・Rの始まる手前の時間なだけあって誰もいない。ああ、僕はH・Rの時間中に紹介されるらしいから荷物だけ置いて職員室に来るように言われてる。
「ほほう…」
寮は外見は煉瓦造りだったけど、内部はタイルの敷き詰められた綺麗な造り。貴族が金を出すだけあっていい感じに豪華。
もはや向こうの世界のホテルと同じようなものだ。
僕は1階にある食堂にちらっと目をやってから入ってすぐの階段を上る。
子供でも登りやすい幅に作られた階段を登り、そのまま右に曲がって部屋の前に立つ。
ズボンのポケットから鍵を取り出し、鍵穴にさしこ…あれ?空いてるね。
「…ま、いっか。同室の人がズボラなのかな?」
そのまま部屋の扉を開けた。
中には寝癖のついた赤い髪を掻きながら歯を磨いている人…額に瞳のような模様があるから邪眼種かな?
「あ゛ぁん?」
「やっほ〜」
「……誰だテメェ?」
「今日から同室。どうぞよろしくね〜」
「…ぁあ。そういや言ってたなぁ、今日だったか?」
ガシガシと頭を掻いてる彼をそのままに僕は部屋に入る。
口調は汚いけど部屋は綺麗に片付いていた。そこそこのホテルの一室みたいな感じ。半分に分けられていて二人分のスペースがある。主な家具はベッドとクローゼットと机と椅子。他のものは自分で用意しろっていう感じかな?
あとは共有で水道とトイレと簡易的なキッチン。パッと見てみたけど結構綺麗だね。
「ところで時間はいいの?君遅刻じゃないの?」
「…はっ!ヤベェ」
「あ、うん。そのぶんだと普通に寝坊したみたいだね〜…」
「るっせぇんだよ!んなんだったら、テメェも遅刻だろぉが!」
「ん?ああ、僕はこれから行けばいいから遅刻じゃないよ〜。残念でした」
「あ゛ぁ〜!くそぉ!」
「ははは〜…で、僕はどっちの使えばいいの?こっちであってる?」
「合ってるわ!」
「はいよ〜」
僕は言われた通りに空いているベットの上に背負っているリュックを下ろす。
まぁ中に入ってるのは投擲用ナイフ数本と時計、筆記用具と洋服とか一般的なものばっかりだから特に問題はない。適当にベッドの上に出してクローゼットや机やらに収納していく。
そんなことをしているうちに彼が歯を磨き終え、制服に着替えている。チラッと見えた体が結構鍛えられてて逞しかった。どうやら武闘派のようだ。
「ねぇ、君は何年のどこのクラス?」
「あ⁉︎今忙しんだよ、後にしろ!」
「いや、一緒だったら面白いなぁ〜ってね。僕は4年の冒険科のBなんだけど」
「…同じだ」
「おお〜。じゃあまた後でね。僕はもう行くから。きちんと間に合うよう急ぐんだよ〜…あ、もう無理か」
「なんで今日初めて会ったテメェなんぞに言われなきゃなんえぇんだよっ!」
僕はベッドに最近作ったフォレストボアのぬいぐるみをちょこんと設置し、部屋をぐるりと見回していい感じだったので部屋を出た。
今日は何も荷物はいらないって言われてたから本当にそのままで来ているけど大丈夫かな?服装は最近よく着てるもの…これは制服の採寸が昨日やったばっかでできてないからなんだけど、あと教材とかは午後取りに行くように言われてるからないのはいいとして、それ以外に武器とかノートとか筆記用具とかさ。何かいらないのかな?一応ポケットから大抵のものは取り出せるけど。
それともこれもある種の試験とか?冒険者たるもの常に準備を欠かさぬべし、みたいな感じで。
「…ないかな。まぁ、とりあえずは職員室に行こう。えっと、今いる場所からだから、とりあえず門まで行こう。それから…」
寮から門まで歩く。
距離はそれほどではないので門まではすぐに着いた。そこから真っ直ぐ大きな道を歩いて、学園の中心の噴水のある広場を右に曲がり、向かって左側が冒険科の棟。
この棟は5階建て、クラスはこの棟は高学部だけで5学年、それぞれ1クラス60人程度がA〜Dまでの4クラス。会は学年ごとで、1階に職員室がある。
…何でこんなことを知っているかというと、昨日この学校の説明みたいなものを担当者から聞かされたからだ。冒険科の棟はここだけで、ほかは魔法科と教養科。冒険科が小さいのはもともと魔法教育学園だから。冒険科はここ300年ほどで新しく…あんまり新しくないけど新しくできた科で、高学部にしかないため。ほかの学科は初学部、高学部共にあって、魔法科に至っては修学部があるためもっと広い。
ちなみにいうと、マリーは冒険科、クロリスは教養科にいる。マリーも最初は教養科にいたんだけど、高学部にはいるときに移ったらしい。まぁ、よくあることだから気にしていない。
「さてと…あんまり緊張はしないけど、なんか昔から職員室って苦手なんだよね」
学校のシステム自体僕が向こうの世界をもとにルーに作らせたので向こうとほぼ変わらない。というか、むしろ歴史はこっちの方がすでに長いから精錬されてると言っても過言じゃないかもしれない。
ということで向こうとほぼ変わらないシステムなわけで、中学高校ともに職員室では怒られるときの記憶ばっかりなので…
僕は扉をノックする。
スライド扉を開け、中に一歩。
「失礼しま〜す。今日編入する、”シエン”ですが」
ちなみに、この名前は何てことなく”新一郎”を”シン”って名乗ってたのをさらに発音をよくしたみたいにしたもの。
「ああ、君が…初めまして。私は君のクラスを担当する、オーバです」
「初めまして。僕はシエンです。どうぞよろしく〜」
「さ、ではクラスに行こう。もう皆も来ている頃だろうからね」
優しげな雰囲気。
ちょっと癖っ毛気味な若緑色の髪の毛と丸メガネをした若い男の教師。
歩き始めたオーバについて行く。理系の教師っぽいスーツの上に着た白衣が目の前でゆらゆら揺れながらと階段を上がる。
「あ〜、一人は遅刻してるかもだけど…」
「…?どういうことだい?」
「いや、僕の同室の邪眼種かな?の赤髪の彼。寝坊してたから」
「ああ…またディラン君か」
「常連なんだ…」
「彼、能力は高いのだけどなにぶん態度がね…クラスでは武術トップなのだよ、彼。まぁ、口は良くないけどいい子だから邪険にしないであげてくれるとありがたい」
「ふ〜ん」
確かに僕の質問にはなんだかんだ答えてたから悪い人じゃなさそうだとは思ったけどね。
階段を3階ほど登ったところで曲がり、オーバが一つの教室の前で止まった。
クラスを示すプレートには大きく"B"と書かれている。
どうやら着いたようだ。
「じゃあ、僕が呼んだら入ってきてくれ」
「ほ〜い」
オーバはガラガラ…と扉を開けてクラスに入っていった。
今は8時50分過ぎ。だいたい向こうの世界と学校のスケジュールは同じだ。
朝、この時間に朝のH・Rがあり、13時過ぎくらいまで授業、昼食を挟んで午後1時くらいから授業が始まり、3時過ぎぐらいまで授業があって放課後。一応部活なんてものもあるが、ほとんど研究会というに等しい。ああ、武術とか魔法とかのね。
「じゃあ、入って来てくれ」
どうやら呼ばれたようなので僕は扉を開け中に入る。
ガヤガヤと騒いでいる生徒が視界いっぱいに。まぁ、編入生なんてこんなもんだろう。
それに60人もクラスにいれば当然騒がしくなるよね。
クラスの半分くらいが制服、残りが私服のようだ。多分、半分は冒険者としてすでに働いている人か貴族の三男だとか四男だとかだろう。
オーバが教卓に手を置き、静かにするよう生徒たちに告げる。
「え〜、彼が今日からこのクラスに編入するシエン君だ。シエン君、自己紹介をお願いできるかな?」
「はいはい。え〜っと…初めまして。シエンです。自己紹介だから…ああ、好きなものは甘いもの。趣味は読書。あと一年下の学年に妹がいるね。約1年間どうぞよろしく〜」
…なんか向こうの学校の自己紹介みたいだけど、こっちだともっと戦闘技能とか魔法とかの話をしたほうがいいんだろうか?
このまま行くと相当弱そうに聞こえるね。読書家で甘いもの好き。それと下に妹がいる編入生。
「じゃあ、シエン君は…」
「寝坊しました〜」
僕の席を言う前にディランがガラガラと扉を開けて入ってきた。
「…ディラン君。もう何度目だい?そろそろ僕も怒らないといけないか?」
「すみませんした〜」
「はぁ…シエン君はディラン君の隣の席…一番後ろの窓際に」
ディランが歩いて自分の席に向かう後ろに付いて僕も自分の席に行く。
クラスに並べられた席は向こうの世界とあまり変わらない。8人の列が8つみたいな感じ。
多くの視線にさらされながら席に座る。そして周りをぐるりと見回せば多くの生徒が興味深そうに僕を見ていた。気にも留めないような人が数名いるのはさっきの自己紹介のせいかな?
僕は机に肘をつき、横を見た。
不貞腐れたような顔をした彼が前をぼーっと見ている。回りの生徒がこっちを見てディランを見て目をそらす。なんか腫れ物扱い見たいな感じ。
オーバが話を再開した。
「ダメじゃないのさ、ちゃんと遅刻しちゃダメだよって言ったのに」
「…んだよ、テメェか」
「やっほ〜。一応自己紹介しておこう。僕はシエン。よろしく〜」
「…チッ」
僕が差し出す手にちゃんと答えて握手するあたりやっぱりいい人?
なんか不良になりきれない不良みたいな感じがする。
…よし、ディランを僕のお友達第1号に決定。
そんな間にオーバの話が終わり、一限の授業前の休み時間となった。
まぁ、予想通り人が集まる。休み時間になった途端、半分ぐらいの生徒が席を立って僕のほうへ寄ってくる。
「ねぇ、どこの出身?」
「ギルドにはもう入ってるの?」
「どうしてこんな前期始まってすぐに編入したの?」
「俺と戦おうぜ!」
「妹って誰?」
「どんな本読むの?」
「ずばり恋人は!」
「魔法は何属性なんだ?」
「武器は何使う?」
なんてことない。案の定質問攻め。
普通こんなに一気に質問されたら答えられないだろって誰かが止めるべきだと思うんだけど…
「あぁー!もう、るっせぇな!オレの横でごちゃごちゃ騒ぎやがって…!」
なるほど。こういう納め方もあるか。
ディランが怒鳴ったところでみんなが静まり返った。
そしてポツリと1人がこんなに一気に聞いたら答えられないということを言い出し、結局ディランも含め僕は生徒に囲まれた。
ディランが結局うるさいのに囲まれてるのに文句を言わないところからしてやっぱり僕のことを思ってだったのかな?
「じゃ、順番な。俺から行くぞ」
ちょうど僕の前にいる青い髪の男子生徒が言った。
「俺と戦ってくれ!」
「ああ、さっきの君ね…嫌だよめんどくさい」
「うっ…」
「はい次〜」
「どこの出身なの?」
「一応王都かな〜。はい次〜」
「その髪ってどうやって結うのですか?」
「ん?ちょちょいっと。やり方が知りたかったら暇なときに教えるよ〜。他にも色々できるし」
ちなみに、端的に言うとちょっと華やかなポニーテール。
そんなことを言うと女子がキャーキャー言い始めた。
…ふむ。確かにこういうのを広めてる勇者は過去にいないし、冒険者とかには余裕ないから基本こういうことをする人もいないし、やってるのは貴族ぐらいだけどそれもメイドにしてもらってるからできる人って以外と少ないのか。
「はい、じゃあ次〜」
「こんな時期に編入した理由は?」
「普通に一般入学の時期に仕事で間に合わなかったから。ほんとひどいよね〜。もう数週間早かったら普通に入れたのにさ〜」
「ははは…」
「はい次〜」
「甘いものって何が好き?」
「色々〜。結構いろんなとこに行ってるからいろんなもの食べてるよ。聞きたければ教えるよ」
ちょっと再び女子がガヤガヤ。
女の子が甘いものが好きなのはどこの世界も共通なのだろうか?
「はい次」
「その格好って冒険者としての格好?」
「ん?いやそうでもないかな。単なる私服」
今度は普通にガヤガヤ。
多分金持ちなのかって思われたのかな?
「じゃ、じゃあ冒険者として結構高ランクなのか?」
「そこそこかな。それと金持ちじゃなくて服は自分で作ってるよ」
それはそれでガヤガヤ。
…ま、いっか。
ちなみに、僕の冒険者カードは2つ持っている。昔と同じだ。ちょっと面倒だったから作った。
「彼女とかいんのか?」
「いや、いないよ〜」
まぁ、いたって普通に僕の学園生活が開始された。
…というか早く質問攻めから抜け出してマリーに会いに行きたいんだけど。
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