表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
272/361

1.晴れた日

今日から再開です




 「ふむ…そういえばここに来るのって何年ぶりだろ?ルーが出て行ってから来てないから…200くらい?」


 僕は目の前に立つ巨大な街…学園都市”ルーナイズ”と呼ばれる街の外壁の上で呟いた。

 この街は、僕がルーの手伝いで作った学園を元に作り上げられて行った街だ。もともとは小規模だったんだけど、学園を建てる時に食事とかが必要で料理店が出来始め、生活するのに必要で雑貨店や古着屋が立ち始め…というのを繰り返して行って出来上がった街。

 それが生徒が増えてだんだんと大規模になって、それに合わせて学園を拡張したりを繰り返して今の形、今の大きさに落ち着いたという。他にも学園はいくつかあるけどここは圧倒的に大きい。

 規模でいうなら小さい市程度。この世界の基準がテーマパークぐらいと考えるとこれは破格の大きさと言える。

 


 「…ま、さすがにそれなりには治安もいいみたいだし、マリーもちゃんと学園楽しめてるみたいだし」


 学園…平民から貴族まで通う場所なだけあり街の治安はいい。薄暗い裏通りやらスラム街や暗黒街にでも入って行かない限りは危険な目に合わずに安心して生活ができる。

 …何せあっちこっちの貴族がここぞとばかりに金をつぎ込んでるからね。

 おかげでかなり華やかな街だ。

 それに最近ちょっとした迷宮ができたから冒険者もいるし。色々と学ぶに困らない街としてある。



 「とりあえず…入ろっか」


 僕は頭の上に乗ったキラキラ光るガラス玉のようなスライム…テラをポケットに移動させて、外壁から飛び降りる。

 雑木林に突っ込んだせいで体についた木の葉を払って森から街道に出た。そのまま少し歩いて外壁の出入り口に向かう。すでに日が昇りきっているために並ぶ人はそれなりの様子。

 この分なら割とすぐに入れるだろう。



 「そういえば…ああ、あったあった。全く、もうちょっと早く終わればちゃんと入学できたのになぁ」


 僕は頭に浮かんだ気弱で武術に長けた王を今度会ったら蹴り飛ばそうと誓う。結局色々押し付けられたせいで遅くなったのだ。文句を言ってもいいだろう。ついでとばかりに仕事まで押し付けてさ。

 結局、戦後処理を含めて5年半の月日が経っていた。

 …まぁ、それでも完全に戦争のわだかまりが消えたわけじゃないんだけど。

 おかげでマリーはすでに高学部。僕はその一つ上の学年に入る。

 一応、この体は17歳だからね…永遠の17歳で何が悪い。いったい何が悪いんじゃあ〜。



 「次の者」

 「あ、はいは〜い」


 僕は門番をする兵士にギルドカードを見せ、謝罪され、何事もなかったかのように街に入った。

 綺麗に石畳の敷き詰められた道、煉瓦や木や石やらいろいろな物で建てられた家々、所々に下がる看板、街行く様々な服装の人々、道に露店を広げる商人、呼び込みをする看板娘…懐かしいね。

 ここのところずっと城とか会議室とかを行ったり来たりしかしてなかったせいでこういった庶民的な光景が久しく感じる。

 …というか感覚が麻痺してるよね。金銭感覚や力、ありとあらゆる物が最近トップな物ばかりが近くにいたからどの程度が普通なのかはっきりしない。

 近いうちに認識を…



 「おい、にいちゃん邪魔だ!」

 「ん?ああ、ごめんよ〜」


 後ろから来た馬車の御者に文句を言われた。僕はひょいと横に避ける。

 …こういうのも久しぶりだ。最近僕が近くにいると萎縮する人ばっかりだったから。

 権力とか位とかめんどくさいものばっかり。

 ギルドランク?爵位?…正直いらないんだよね〜。顔バレはしてないから名前と格好さえどうにかしてれば問題ないってのがせめての救い。

 やっぱり特徴的な格好とかは必要だった。最初に気がついた僕は天才。



 「…さ、こんなところでぼんやり懐かしさに浸ってないで行くとしますかな〜」


 僕は肩にかけたリュックの肩紐を持ち直し、通りを歩き始めた。

 多くの声が聞こえる。

 武器はいらないか?食材はいらないか?お土産にどうだ?薬はいらないか?

 街の構造上、いろいろな店がごっちゃに建てられていて見ていて楽しい。

 

 学園への道のりに並ぶ店や露店を眺める。

 お菓子店に行列ができている。

 料理屋に冒険者がたむろしているのが見える。

 広場に手をつないだ若者がいる。

 叱られている少年店員がいる。

 太った商人が手を擦りながら客をニヤニヤと見ている。

 道を子供達が通り過ぎた。

 …こうやってみると豊かな街だ。



 「でも…道もごっちゃっていうのはどうにもね〜」


 次々無計画に拡張されて行った街。だから通りも変な敷かれ方をしてるし、道もごちゃごちゃ。

 慣れてる人はいいだろうけど、僕みたいな久しぶりな人とかはもう迷子になること必須。

 誰だよこんな適当に道を敷かせたのはさ。僕らがやってた時はまだマシだったよ。確かに適当にやってた感はあったけど、さすがに迷子になるような作りになってはいなかったよ。それに看板とかも用意してわかりにくい道とかも対処はしてたし。

 というかさ、一応目的地である学園を目指して歩いてるんだけど、道がUターンってどうよ?

 突き当たったりだったらまだしも、Uターンって…



 「…適当に人を捕まえて聞こう。今の格好だったら知り合いじゃないならばれないし」


 髪の毛を指でくるくるいじりながら歩く。

 いやね、最終手段は屋根の上を走るだけど、そんなことしたら初日から目立つことになる。

 それは勘弁願いたい。せっかく格好を変えて普通に過ごそうとしているのにさ。

 普段の冒険者をやってた時の服、貴族とかに近いことやってた時の服、どちらも白いローブを着ていたけど、今はその着慣れたローブを着ていない。ま、おかげで少し落ち着かないんだけどね。

 やっぱり仕方がないので近くにいる人を…おっと。



 「いつの間にか逸れちゃってたのかな?」


 ぼーっと考えながら道なりに歩き続けていたら人通りがほとんどない通りにいた。

 何だろう。こういう時テンプレなら美少女が怪しい人に襲われそうになってて主人公が救うだったっけ?タクミが勧めてたラノベにそんな始まり方があったはず。

 …ま、完全に人通りはないし、普通に戻るとするだけだけどさ。



 「さて、誰に聞こう?」


 とりあえず戻った道で再び悩む。

 ほんの数分歩いただけで人通りが多くなったってことは今の道がダメだったのだろう。この道には入っちゃいけないって常識でもあるのかな?何かそういうわかりやすいものがあればいいんだけど。看板とか作りなよ。僕らの時はあったよ?僕が意匠を凝らして作ったやつ。 

 …っと、そうじゃなくて。

 


 「とりあえず店とかの人に聞いてもなぁ〜…」


 店を見ると、時間帯が時間帯なだけあって人の対処に追われている店がほとんど。

 追われてない店だってそれなりに忙しそうだし、何より学園までつきあってくれなさそう。適当にあっちって言われるだけな未来がありありと想像できる。だって大抵そういう店の店員ってけだるそうにしてるんだもん。だから客がいないんだよ、まったく。

 となれば優しそうなおばぁちゃんがやってる店とかだったら地図くらいは書いてくれるかもしれない。

 …だめだ。この世界じゃ人間以外の種族の年齢が見た目でわからなすぎる。何よりぼけてたらどうしようもないし。

 やっぱり、適当に親切そうな人を見つけて…いないなぁ。冒険者と街の人ばっか。露店の人は忙しそうだし、冒険者はこれから外に行く日とか帰ってきた人だから構ってくれなさそうだし、街の人はこれから家事に追われるような主婦とか仕事に勤しむ男とか。

 


 「さて、ギルドに…ダメだった。ギルドって学園のすぐそばじゃん。どうせたどり着けないじゃん。あぁ〜……どうしよう?もう本当に屋根走ろうか?いっそその方がすっきりするし。もう今更だよね、うん。どうせ僕に安寧なんて訪れないんだよ〜。こんなことなら100年ぐらい眠りにつこうか?そうすれば大抵の人に忘れ去られて…」


 僕がふざけたことをつぶやきだしたところで後ろから声がかかった。



 「ねぇあなた。どうかしましたか?」

 「ん?ああ、学生か〜…あ、学生!学生はっけ〜ん!」


 赤いリボンを結んだ制服の少女がいた。

 グットタイミング。

 これで僕は学園に行ける。

 …僕の反応に少女がちょっと引いたのはご愛嬌。



 「え?なに…?」

 「あ、ごめんごめん。これから学園に編入試験受けに行くんだけど、迷子になっててさ〜」

 「へぇ、編入試験をね…時間は大丈夫ですか?」

 「一応結構早めに出たんだけど、迷子になったからそろそろ遅刻しそう…でもないかな?」

 「でもないのね…まぁ、私もこれから帰るところですし、案内してあげましょう」

 「おお〜、ありがたい。じゃあおねがい」

 「付いて来てください」

 

 僕は歩き出した少女について歩き出す。今まで通った道とは違う道を通るのでやっぱり道が違っていたようだ。

 ついでに歩きながら少女を観察する。

 靴は学園の制服…一応正装として扱われているもののではなく、移動するのに長けた普通の靴。

 靴下は制服の黒いハイソックス。

 膝下あたりまでの黒に赤いチェックのスカート。これも制服。

 上はワイシャツのようなものにカーディガン、その上にブレザー。これまた制服。

 チラッと見えたが、胸のあたりに木の枝を加えた鳥のバッジをつけていた。これが学年をあわらすもの。

 ちなみに制服は学園で指定されているわけではなく、着たい人は着てればいいよみたいな感じだ。まぁそれなりに丈夫だし学園で格安で修復してくれるけど。 


 このところから見るに、まず彼女は赤いリボンから学園の高等部、さらにバッジから5学年であることがわかる。

 さらに制服を着ているということから貴族ではない。もっといえばそこまで貧困でもない商人かそのあたりの家の出。これは服装からわかる。制服を着るのは一般的に庶民だ。貴族は衣服を自慢げに見せに来てるからね。ついでに服装が結構綺麗な状態だから、商人かそのあたりに見た目の重要さを教えられているのだろう。

 で、多分靴が学校のものじゃないってことは買い物か何かで出てきてたのかな?

 


 「…お、着いた。いやぁ〜、よかった。ありがとうね」

 「いいえ。大したことじゃないから気にしなくていいです。試験、受かるといいですね」

 「まぁそれは簡単だからいいよ。じゃね〜」


 僕は学園の門を微妙な表情で入っていった少女を見送る。



 「あ。名前聞いてない…今度会った時に聞こう。お礼はしっかりするべきだし。というか入ったら先輩だ。敬語使わなくってよかったのかな?」


 ああだこうだ言いながら僕は外壁をくぐる前に確認した封筒を取り出す。

 そして、学園の門番所に向かって歩き出した。

 学園の門はちょっといいところの大学の門みたいな感じで、入り口にある門番所に門番がいるということを除けば入ろうと思えばいくらでも入れる作りだ。まぁ、門番が元冒険者の二つ名持ちの中でも有名どころな時点で大抵の人は強行突破しようなんて思わないわけだが。

 僕は門番に声をかける。



 「編入試験を受けに来たんだけど〜」

 「んぁ?ああ、編入な編入。書類は?」

 「これ」

 「…入っていいぞ。これを首から下げろ」

 「ほ〜い」


 僕はタグを受け取り首に下げる。タグには”試験者”と書かれていた。

 …安直だね。

 で、まぁ有名どころなわけだが、こういう風にめんどくさがりが配属されることが多い。

 なぜかというとやる気のある人は面倒だから。入る時にいちいち全員が確認されてちゃ時間の無駄。適当に適度な門番であればいいのだ。

 まぁ、必要な時に動けるっていうのは重要だけどね。


 

 「…あ。どこに行けばいいの?」

 「簡易地図があんだろ?そこのとおり」

 「あ、うん。了解〜」


 門番は門番所の中から指を出して入ってすぐの場所にある学園内全域の案内図を指す。

 その案内図には寮の場所、訓練所、教室、研究棟、事務室、購買、それから現在地のみが書かれている。それも形と場所のみ。まぁ当然だ。もしここが襲われでもしたら犯人に余計な情報を与えまくっちゃうわけだからね。

 …とは言っても闇ギルドとかにはほとんど知れ渡ってる。それでも事件がめったに起こらないのは警備のしっかりしている証拠だろう。

 


 「事務所に行けばいいんだから…こっちかな」


 僕は案内図を確認し、目的地に向けて歩き出す。

 学園内は大体広い大学と同じ…むしろそれ以上の広さだ。かなり広い訓練所が3つ、大量の生徒が住める寮が男女ともに2棟ずつ、研究棟はちょっとした団地みたいなのが6棟、教室は中学校が4,5つくらいあるような感じ…まぁ、危険さとか色々考えてこの大きさだ。元々は中学校1個分の大きさだったのにいつの間にかこうなってた。僕はその辺には関与してないから知ったこっちゃない。

 …制服が向こうの世界っぽいのは僕のせいだけどさ。

 

 そういえば今はあまり人がいない。さっき数人すれ違ったくらいで、他には会っていないから外に出ていないのか授業中か。

 …まぁ授業中だろうね。だって、教室から視線を感じるもん。

 多分、授業中じゃなかったらもうちょっと…どころじゃなくうるさいはず。さっきから訓練所でうるさい声は聞こえるけど。

 すれ違った人は今日授業がないのか、もしくは課外授業みたいなのがあるのか…まぁきっとそんな感じだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ