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閑話:これまでとこれからと〜その1〜



 気がつくと見たことのない場所にいた。



 「と、いうことでようこそ。僕の部屋へ」

 「…へ?…ぇ⁉︎…え⁉︎私の…体…?」


 タクミから料理を教わり、初めて自らで作り上げた料理を食べ、タクミと話をし、明日は何をしようか?と、この後はどこに行こうか?と…それからタクミが眠りにつき、その後私は…?

 ここは女神の部屋?私は…床に座っている。服は…なんだ?見たことのないものだ。



 「うん。強制的に呼び出しただけだから安心して〜。拓巳は何の被害もないし、朝になる前には返してあげるから。まぁ、その体はここ限定の作り物だけど」

 「そうか。わか…るわけがないだろう。納得できるか!一体どういうつもりだ女神!」

 「ん?普通にちょっと話がしたかっただけだよ。結局君とはそんなに話せなかったからね〜。多分話したのって最初の時と拓巳と僕がおしゃべりしてた時ぐらいかな?」 

 「…そうだったか?」

 「ははは〜。ずいぶん不敬だね。一応僕は神様のはずなんだけどな〜」

 「…威厳も何も感じないが?」

 「まぁ確かにこの部屋じゃ無理かもね」


 淡い空色の壁、薄い黄色の照明、白いベッド、青い絨毯、それから黄色い本棚とクローゼット、紫色の花の飾られた花瓶、それに加えて様々な人形。

 女神はベッドに腰掛け、足を揺らしている。 

 …改めて見るとまるで作られたかのように完璧な姿だ。美しい…その言葉だけでは言い表せないほどに。



 「………」

 「まぁいいよ。別に威厳なんていらないし、僕はみんなと仲良く楽しくやっていきたいからね」

 「…そうか」

 「ということでお風呂に行こう」

 「ならば……へ?」


 ふ、風呂だと?

 私と?

 なぜだ?



 「ん?だからお風呂に行こうよ。ほら、腹を割って話そうよってことでさ」

 「な、なぜ風呂に?」

 「なるほど。そっちの時代、世界にはそういう習慣はないのか〜。いやね、僕らの世界には裸の付き合いなんて言って武器も何も持たずありのままの姿でっていう感じでそういう考え方があるんだよ」

 「そ、そうか」

 「ということでお風呂に行こう」


 そういうことなら…いや、待て。

 女神はタクミと会う時男ではなかったか?そもそもの性別はどちらなのだ?

 


 「…貴方は男ではなかったのか?」

 「ん〜…微妙かな?」

 「微妙…とは?」

 「僕が男として生きた時間は17年。それに対してこっちは1600年。もはや感覚がこっち寄りなんだよね」

 「…そういうものなのか?」

 「そういうものだよ〜。さ、行こう」


 女神は立ち上がり、私の手を引いて私を立ち上がらせようとする。

 外見通りなのか、それとも抑えているのか、引く力はとても弱い…まるで幼い少女…姫様…



 「ん?どうかした?」

 「…いや、なんでもない。なんでもないんだ」

 「ふぅ〜ん。ま、そういう仕事は僕じゃなくて拓巳の仕事だからね。ほら、行くよ」


 少しぐらい付き合ってやっても良い…そう感じた。

 私は自分よりもかなり背の低い少女に手を引かれながら歩く。私が少し腰を曲げてちょうどいいくらいだ。



 「そういえば君の時代はお風呂はあったっけ?」

 「存在はした…湯浴みをするという習慣は高貴な身分の者の特権ではあったがな」

 「へぇ、そうなんだ。じゃあ初めて?」

 「…いや」


 私もなんども使ったことがある。

 仕えていた姫様にせがまれ、無理やりに。



 「さて、到着〜。服はそこにある籠に放り込んでおけばいいよ。どうせ適当に創ったものだし」

 「わかった」


 脱衣所か。

 このような広い脱衣所は必要なのだろうか?いや、多くの籠があるのだ。今は多くの者が一度に利用する可能性もあるだろう。

 …少し、気になる。朝には返すと言っていた。タクミに聞いてみるとしよう。



 「…傷ひとつないね?」

 「呪いだ。私の体は一撃で死に至りさえしなければ全て治癒した」


 女神が服を脱いだ私を見てそう言った。

 確かに私の体には傷跡ひとつない。だが、そんなもの呪いでしかなかった。



 「へぇ…そういうのは聞いたことないな。多分本来は加護だったのかな?どこかで無理やり捻じ曲げた?いや、むしろ元からそういう形で作って、それから世界の方をいじっては…」

 「…脱ぎ終えたぞ」

 「まぁいっか。別に僕には関係ないし、必要になったらその時考えよう」

 「か、関係な…!」


 少し頭にくるものがある。

 それを抑えつつ、女神に付いて浴場に向かう。



 「おぉ…」

 「ははは〜。そうやって見とれてもらえると創った側としては誇らしいね〜。さ、まずは体を洗おうか」

 「あ、ああ…」

 

 私の知っているものとははるかに違うものがそこにあった。

 一人程度が入る大きさでしかなかったそれは数十人が入れそうな大きなものに。それどころか中で泡が発生しているもののように見たこともないようなものもある。



 「お〜い?」

 「…!」

 

 女神に呼ばれ、我に帰る。

 中へと踏み込み女神の呼ぶ方へと向かった。



 「この辺は君の時代と同じ?」

 「…使用方法まではどうかはわからないが外見はほぼ同じだ」

 「ふ〜ん。じゃあこっちは?髪を洗うものと体を洗うもの」

 「…?これはなんだ?」

 「やっぱり違うか〜。これは髪を洗う石鹸……石鹸ってわかる?」

 「石鹸ならば分かるぞ。今日タクミに教わった」


 それは今日食べる前にこれで手を洗えと言われた時に教わった。

 確かさいきんというものを殺して浄化するものの筈だ。



 「そ。じゃあそれの髪とか体専用に作り変えられたものと思ってくれればいいよ」

 「なるほど…そのようなものもあるのだな」

 「うん。じゃ、さっさと洗って…使い方わかる?君の時代はどうやって髪とかを洗ってた?」

 「植物のすりおろしたものを使ってこするようにだな」

 「へぇ〜…じゃあだめか。おいで。僕が教えてあげるよ」

 「………へ?」

 「ほら、早く〜」

 「え?い、いや、そのくらい…か、髪など適当にやれば…」

 「だめ。君は女の子なんだよ?そんなこと言って拓巳に怒られなかった?」

 「うっ…そ、それは」


 確かに怒られた…いや、心配されたというべきか?

 


 「ほら〜」

 「…わ、わかった」

 「よろしい。じゃ、座って」


 私は女神の前にいつの間にか用意された椅子に座った。

 少し冷たい椅子の感覚が自らの体を意識させる。久しい感覚。かつてと変わることのない感覚にむしろ違和感を覚える。



 「ひゃっ…⁉︎ぁ、いや、その」

 「ふふふ〜…”ひゃっ”だって。かわいい〜」

 「かっ、かわ⁉︎」


 突然頭に触れられて、驚いただけだ。

 …それにかわいいなど。



 「う〜ん…やっぱり加護、じゃなくって呪いだったっけ?それのせいかな〜。この体は君が死んだ瞬間を元に作られてるのに肌綺麗だし、髪も痛んでないし…僕以外の女の子には嫉妬ものだね」

 「別にそんなもの戦いの役に…」

 「いいじゃん。ヒゥルは綺麗だと思うよ〜、僕は」

 「貴方に言われても嫌味にしか聞こえんな…」

 「いやいや。だって僕のこれは僕の想像とイメージの生み出した入れ物だよ?それに対して君はオリジナル。この差は大きいね〜」

 

 入れ物?

 本来の姿ではない?

 


 「貴方の体は本物ではないのか?」

 「ん?どゆこと?」

 「今、入れ物と言っただろう」

 「ああ、そういうことね。まぁどちらとも言えるかな〜。僕のオリジナルの体はこれであってこれじゃない」

 「…?」


 矛盾している。

 何が言いたい?

 その体以外にも本来の体があるのか?



 「ま、気が向いたら教えてあげるよ。ほら、目をつぶって〜」

 「…ん」


 目を瞑る。

 頭に温かい湯がかかった。



 「さて。じゃあ髪の毛を洗うよ〜。これ目に入っちゃうとちょっと痛いから気をつけてね」

 「わぷ…かった」

 「あ、ごめん。顔が濡れてると喋りづらいかな」


 そう言って女神は私にタオルを渡した。

 一体どこからだ?何かそういう能力があるのか?生み出す?呼び出す?

 …もう戦いじゃない。相手の情報を集めようとする必要はない。



 「じゃあ、おしゃべりしようか〜」

 「そうだな…いや、それ以前になぜ私が貴方と喋るのだ?」

 「それはもちろん暇だからだよ。第一に君を呼んだのだって僕が暇だからだし」


 女神は石鹸を私の頭につけて洗い始める。

 心地よい。人に頭を預けるのには少し嫌悪感があるが、女神であるということが一種の諦めを覚えさせ気にしないでいられる。



 「…へ?いや、それならばなぜ私なのだ?貴方ならば他にいくらでも呼ぶ相手はいるのだろう?」

 「いやぁ、みんな忙しいみたいだし。それに今何時だと思ってるのさ?夜中だよ夜中。みんな寝ちゃってるよ?」


 そうであった。

 今は夜中。人は皆寝ている時刻。



 「…ならば貴方も寝れば良いだろう」

 「あ〜。うん。できればいいね」


 目の前の鏡に女神のひどく寂しそうな表情が映っていた。



 「……すまない」

 「どうかした?突然あやまって」

 「貴方が…とても寂しげだったから」

 「ん?…ああ、そうね。うん。ちょっと寂しいかな…僕のこの体には睡眠が必要ないんだよ。多分頑張って寝ようとすればいつかは寝られると思うけど」

 「眠れない体なのか…いつからなのだ?」

 「ん〜…大体600年近くは寝てないかな。こんな体になったのは1672年ほど前だよ」

 「そうか…」


 女神は…彼女は、彼は、辛いのだろうか?

 きっと私より多くを知っているのだろう。

 幸福なのだろうか?



 「ま、もう今更なんだけどね〜。1人ぼっちの夜なんて毎晩だよ。そろそろやることが尽きてきたから君を呼んだんだ。ということでおしゃべりに付き合ってよ」

 「…わかった」

 「ん〜。なんでだろう?僕が慰められてるような…?僕の方が年上、っていうかおばぁちゃんなのに」

 「お、おばぁちゃん…女神が」

 「くくっ…ははは〜。それは面白いね。おばぁちゃんな女神なんてごめんだよ。おじぃさんな神様なら許せるけど、おばぁちゃんな女神は…ねぇ?」

 「ふふっ…確かにそれは愉快だな」

 「お、笑った」

 「え…?」

 「いや、ずっと神妙な顔してるから笑わないものかと思ってたよ」


 女神は嬉しそうだった。

 なぜだろうか?私は他人だ。それに加え不敬であり、好意的でもない。

 


 「なぜ嬉しそうなのだ…?」

 「ん?だって拓巳の大切にしている人が笑ったんだよ。僕も嬉しい…嬉しいんじゃないや。ちょっと違う。なんていうんだろうな〜?」

 「…拓巳が好きなのか?」

 「ん?好きだけど…多分人の思う”好き”とは違うよ。僕の”好き”は甘いものが”好き”とか綺麗なものが”好き”とかの”好き”。ものに対する感情の一つ。生憎僕にはそういった感情が欠落してるから」

 「そうか…」

 「お?安心した?」

 

 そう、安心した。



 「なぜだ…?」

 「さぁ?まぁ頑張って」

 「…?何をだ?」

 「そのうちわかるよ。はい、髪の毛洗うの終わり。次は体ね〜」

 「かっ、体⁉︎」


 思ったよりも甲高い声が出た。

 恥ずかしく感じる…



 「まぁさすがに僕はやらないよ。ああ、やってもいいって言うならやるけど、嫌でしょ?」

 「そ、それは…」

 「第一に僕も嫌だし。だからヒゥルには嫌なことは強制しないよ」

 「そうか…」

 「ま、洗い方は教えるけど。何も言わなかったら適当にゴシゴシ洗うでしょ?」

 「うっ…私は」

 「と言うことで、まずは石鹸を泡立てる。次にその泡立てた泡で優しく洗う。以上。そんな難しくないから後は自分でね」

 「わ、わかった」


 女神に適当にまくし立てられた。

 私は言われた通りに体を洗い始める。

 …なぜ私は女神に大人しく従っているのだろうか?確かに私の体のことではあるが、第一に私はすでに死んだ身だ。今更気にかけるのもおかしいだろう。



 「ふぅ…さてと。じゃあお風呂に行こうか〜…って、まだ洗ってるの?」

 「あ、ああ。すまない」

 「いいよゆっくりで」

 「いや、もう終わった」

 「そ。じゃあ早く〜」

 

 私は体についた泡を流した。


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