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87.終わりにしましょう



 それから街に帰った。

 神野…改め、というか戻って拓巳と僕以外の勇者は全て元の世界へ強制返還したあとのこと。

 街の戦闘は混乱の中、皇国軍の撤退という形でどうにか収まった。死傷者は数えるのがめんどくさいからわかんないけど多分2万人に届かないぐらい。それの大半は召喚されて僕の眷属とか勇者とか街の人に殺された皇国の兵士たち。

 で、当の僕なんだけど、今はギルドにいる。

 …あ、もちろん姿は元に戻してね。あんな格好で人前にすら出たくないんだし。拓巳はもうあれだよ…一種の諦め。目の前で姿が変わっちゃってるわけだし言い訳できなさそうだったからね。むしろそのまま説明した方が納得してくれると思ったから。

 それにしても【仮想技能】スキル持ってかれて元に戻されるとは思わなかったよ。戻ってる一瞬に下着とワンピースを作った僕ファインプレーだったと思うね。あのままだったら拓巳の前にダボダボな服で姿を晒してたし、サイズあってなくてずり落ちてラッキースケベを起こす側になりそうだったし。

 …うん。よくやったよ僕。

 まぁ、今の僕はいつも通りの白いローブと適当な服装だけど。



 「拓巳、あとは僕がやるから休んでていいよ」

 「あー…いや、一応残ってるのは俺だけなんだから戦争がしっかりとまでは言わないけどそこそこ集結するまでは付き合う。その後は…旅でもするかな」

 「一人旅?」

 「そうだな。まぁでも一応二人旅ってところか」

 「二人…?あ、さっきからその中にいる騎士のこと?」

 「騎士?…もしかして見えてんの?」

 「いや、当然でしょ〜?魂を管理する役職が見えなくってどうするのさ」

 「…ああー。なるほど、それは確かに」


 実際は管理なんてしてないけどね。

 でもさっきから見えてる騎士は気になる。水色っぽい瞳と整った顔つき、銀髪を三つ編みにして後頭部の中心にまとめている女性…いや、むしろ僕たちぐらいの年齢に見えるね。17,8歳ぐらい?そんな人が拓巳の後ろに守護霊のように佇んでいる。



 「で、誰?」

 「ヒゥルヒア・ベーデルモンド…って言ってもわからないよな」

 「……あ、もしかして”巨剣の鬼神”?確か…うん。多分そうだったかな?僕のじゃないけど記憶の破片に写ってるのを見た覚えがあるし」

 『私がわかるのか⁉︎』

 「お、聞こえた。というか拓巳、自分のスキル勝手に使われてるけどいいの?」


 【念話】が勝手に使われてるみたいなんだけど。

 というか、守護霊っぽいの死んでるよね?なんで世界に回収されてないの?普通魂だけの状態だと世界に分解されて消えるはずなんだけど?

 …ん?何かの術式かな?ちょっと魔法陣っぽいのが見える。本人知ってるかな?



 「え?ああ、いいんじゃないのか。別に俺は困んねぇし」

 「あ、そう。まぁいいや。で、知ってるかだったね。あんまりは知らないよ。せいぜい昔にいたことと死んだことぐらい。というか、なんで世界に回収されてないの?」

 『世界に回収…?どういうことだ?』

 「あ、わからないんならいいよ。一応聞いとくけど、死んでからは何してたの?」

 『いや、何もしていない。意識が途絶え、その後気がついた時には召喚されていた』

 「じゃあいいや。自分でそのうち調べるかな〜…あ、拓巳。ちょっと用事思い出したから後でね」

 「へ?あ、おう…って、置いてくつもりだろ⁉︎」

 「いやぁ、マリーのところにね」

 「ああ、なら分かった」


 妙に納得した表情を浮かべる拓巳を置いて僕は家に向かう。

 いや、ここのところ戦争がらみでしばらくゆっくり…してたんだけど。うん。戦争よりマリー優先だし?でも結局今日は一日中いなくって、なおかつ家から出ないように言ってたからちょっと心配かけたかな〜とね。戦闘が始まったのは昼前ぐらいで、終わったのが夕方の6時頃。現在が7時半だから待機してる時間とかも合わせて昨日から僕はすっと働きっぱなしだったんだよ。


 ギルドを出て道を行く。

 肩を貸してもらい歩く怪我人、運ばれてきた遺体に顔をうずめて泣く婦人、無事を喜ぶ冒険者…道を行く人たちは様々な姿を見せている。街を救い喜ぶ人も、友を失い嘆く人も、夫を失い立ち尽くす人も、親を亡くし呆然とする子供も…その顔には等しく痛みが残っていた。

 これが戦争なのだろう。

 今更ながらそれに気づく。起こした張本人が言うのもなんだけど、戦争なんて何もいいことはない。

 今回はこれが一番手っ取り早く、かつ人死にが少ないから選んだわけだが…見ていて気分がいいものではないね。僕は人が苦しむのとか見るのは嫌いじゃない…根本的なところで狂ってるからね。でも、それは絶対的に悪者と言える人が苦しむから楽しいのだ。物語として、ストーリーとしてハッピーエンドだからこそ面白い。

 


 「やっぱり単なる虐殺でもすればよかったかな〜…」


 多少の良心が痛む…なんてことはないんだけど、これから僕が出会い、仲良くなれたかもしれない可能性を持つ人をその程度の理由で殺すのはあまり面白くない。

 …ま、今となっては問題が解決したから意味はないんだけどね。



 「ただいま〜」

 「おかえりなさいませ、主」


 ロメが僕を迎える。

 その後ろからテラが飛び込んできた。それを追いかけてマリーが僕の手を引く。それを何かと葛藤しているクロリスが見ている。

 …混ざりたかったら混ざってもいいんだよ?クロリス。



 「おにぃちゃん、おかえり!」

 「お?マリー今日は元気だね〜」

 「うん!元気なの!」

 「ははは〜。で、テラ。今日はどうしてたの?引っ張っていくんだから何かしたんでしょ?」

 「秘密だよー!」


 僕は2人に両手を引かれ、客間へ連れて行かれる。最近この部屋ってマリーたちの遊び場になってるんだよね。いい機会だからって僕が作り変えたのが原因だろうけど。

 ロメが微笑ましいものを見るような目でこっちを見ているのでまぁ問題はないと思うんだけど。



 「じゃーん!」

 「見て、なの!」

 「…ん〜」


 2人が僕の前に紙を突き出す。

 うん、絵だね。クレヨンで書かれたもの。

 マリーのは真っ白なのでよくわからない。多分、マリー?と僕?とテラ?だと思う。白いのと白と黒なのと水色のがいるから。それに下の方に”かぞく”って書かれてるし。なんか嬉しい…ジーンときた。額縁に入れて何処かに飾ろう。

 で、問題はテラの方。抽象画って言うんだっけな?何を書いてるのかは全くわからないんだけど、すごく壮大な感じ。普通に売れそう。意外な才能を発見した気がする。今度そういうのを教えてみようか?テラっていろんなところに才能があるんだよね。アホの子なのに。



 「よく描けてるね〜、うん。上手上手」

 「えへへ…」

 「私もー!」

 「はいはい。わかったから」


 2人の頭を撫で回す。

 こういうので喜ぶのがなんとも子供らしい。

 …で、クロリスは?



 「あのね、クロリスちゃんとっても上手なの」

 「へぇ〜」

 「お姉ちゃんにも見せてあげようよ!」

 「…は、恥ずかしいから。私はそんなに…」

 「いいじゃん!」

 「僕も見たいかな〜」

 「わ、わかりました…」


 クロリスがそっと自分の後ろに隠していたものを出す。

 


 「ほぉ…綺麗だね」

 「ありがとうございます…」


 水彩画。

 多分ちょっとした嗜みってことで勉強させられてたのかな?それとも趣味?

 ん〜…どっちだったかな?ハルの時はいろんな勉強をさせられて大変だって話の中に入ってたんだけど、今もやってるんだっけ?

 …ま、いいや。でも上手だね。子供にしてはっていうのが前に入るとはいえど、このまま続ければ立派な絵師になれるよ。



 「ところでこんなに画材とか絵の具とかクレヨンとかどこにあったの?」

 「あっちに、あったの」

 「ん?ああ〜、前の人が残していったとか言っておいてあったやつね。物置から持ってきたんだ〜。大変だったでしょ?」

 「その、ロメさんが手伝ってくれました」

 「そっか。ま、何か欲しいものが他にもあったら言ってね。大抵のものは持ってたりするから」


 僕は適当なサイズの額縁を”アイテムルーム”の中から探す。

 …もう戦争終わったし、一回元に戻っちゃったし、そろそろ飽きてきたし、縛りプレイは終了でいいよね?というか既に肉体の構成はスキルを作り直すのがめんどくさくって普通に姿を変えるだけに止めてるしさ。だから今はすごく体の感覚が軽い。

 もう空も飛べそう(物理)。



 「さて、どこに飾っとこうか?」

 「かざる、の?」

 「そ。せっかく描いたんだからみんなに見えるところに飾ろうよ。そうだな〜…食堂にでも飾ろうか?」

 「わかったの」

 「よし。じゃ、飾りに行こうか〜」


 僕はささっと3人の描いた絵を額に入れて持ち、食堂に向かう。

 テラとマリーとクロリスが僕の後ろをカルガモの親子のようについてくる。なんか小学校とかで裏山とかを探検するみたいな感じ?お弁当持って、リュック背負って。

 …よし、今度ピクニックに行こう。テラとクロリスが来てからは行ってないからね。またどこかの花の群生地にでも行ってゆっくりしよう。あ、でもこの辺じゃ血生臭いかも。ちょっと離れてからかな?やっぱり。



 「よし。こんな感じかな」

 「主。ギルドの方がお見えです」

 「あらら…もう僕の安らぎの時間は終了か〜」


 壁に絵を飾っている間ロメが後ろで待機しているから何かと思えばもうお呼ばれのようだ。

 ギルドからってことはハルフィかな?



 「マリー、テラ、クロリス。行ってきます。ちゃんと早く寝るんだよ?」

 「行ってらっしゃい、なの…」

 「行ってらっしゃーい!」

 「お、お気をつけて」


 僕は寂しそうな表情を浮かべるマリーを抱きしめる。催促するテラを抱きしめる。恥ずかしそうにしているクロリスの頭を撫でる。

 それから食堂を出た。

 廊下を歩き、玄関で待っているハルフィを見つける。



 「ロメ、マリーたちをよろしく。今日は遅くなるかもしれないから夕食は帰ってきてからでいいよ〜」

 「承知しました。行ってらっしゃいませ」

 「うん。さ、行こうか」

 

 ニコッと笑うハルフィを抱きかかえ、屋根を走ってギルドに向かう。

 暗くなった街は夜の闇に飲まれてより一層の悲壮感を醸し出している。早く終わらせて楽しい日々を送りたい。



 「にぁ…!」

 「ん?どうかした?」

 「高…かった」

 「ははは〜。かわいい」

 「にゃぅう…!」


 どうやら一気に高いところから急降下したのに驚いたらしいハルフィが可愛らしい悲鳴を上げている。

 そのまま地面に着地し、ギルドの中へ入った。

 拓巳が何かをつぶやきながらも働いているのが見える。



 「さて、さっさと終わらせて帰ろうか〜。こんなくだらないゲームはもう終わり」

 「シンさま。こっち」

 「はいよ〜」


 ハルフィに連れられて会議室に向かう。

 ギルド内にも怪我人が目立ち、未だに治療を続けている職員や治癒師が目につく。やはり被害は相当数にのぼるようだ。

 …もうこの街だけでの防衛は厳しいかもしれない。

 早いところレイジュにでも言って王国の軍を呼び出し、帝国と共和国に協力を要請して早く終わらせるべきかな。

 


 「シンさまを連れてきたのです」

 「…お?敬語がいつの間にかまともに」

 「頑張ったのです」

 「そっか。よしよし」

 「にゅぅ…」


 僕は一通りハルフィを撫で回してから会議室に入ったのだった。


あとは後日談と閑話を入れてこの章は終了です。一週間後くらいに更新します。

そのあとはしばらくお休みいたします。

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