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84.頑張りましょう




 「まぁ、詳しいことが聞きたいなら”それ”に聞くといいよ。君をマスターとして認識してるみたいだから」

 「答えろよ…!」


 彼は困惑していた。

 けれど、復活も早かった。

 僕が攻撃を仕掛けてもしっかりと避けるし、冷静に話を聞いている様子。



 「邪魔を…するなっ!」

 「お?」


 一旦ツカサくんが後ろに飛びのいたと思ったら実験体がこちらに向かってきた。

 どうやらすぐ後ろで控えていたらしく、廃墟の瓦礫の下からもぞもぞと出てくる。さっきから僕の視界に写っていなかったのはそういうことだったようだ。

 瓦礫を退けて立ち上がったそいつらはアメコミに出てくる緑の男をまだ生ぬるいとも思わせるほどの筋力、頑丈さ、治癒力、反射神経を備えている…多分。僕が作ったやつと同じだったらその程度。まぁ、多分強化されてそれ以上になってると思うけど。

 そんな実験体たちは僕に向かって一直線に突っ込んでくる。



 「ま、邪魔だから消えて。『狂おしき聖者たち、救済を叫ぶ。伸ばしたその手は破滅を呼び込む。禁呪第163項、天喰らう扉(イーター・ゲート)』」


 僕の前には天使や神聖な草木、光などに彩られた浮世離れした扉が現れる。

 そして、その扉がゆっくりと開く。

 ツカサくんは結構な速度で扉から離れていくが、こちらに突っ込んできている実験体たちが逃げるには既に遅い。開いた扉から伸びる白い子供の様な手に掴まれて引きずり込まれていった。

 一通り手近にあったものを持ち帰ると扉が閉まる。後には荒れ果てていた街の綺麗に(・・・)なった姿。



 「うん。すっきり。これで掃除もしなくて済むね」

 「な、なんだよあれ…」


 実験体たちの消えた場所には煉瓦の敷き詰められていたはずの地面が露出している。というか僕から前方20mちょっとぐらいのものが綺麗さっぱり消えて無くなった。

 ちなみにどこに消えたのかはよく知らない。でもきっと分解されて魔力になって散ったんじゃないかな?



 「さて、お話は終わった?」

 「くそ!わけわかんねぇよ!なんで俺がこんな目に!あぁぁああ!」

 「お?自棄?もう諦める?」

 「ふざけんなよ!なんなんだよお前!警戒しまくってて何かと思えば神様だ?そんなん俺にどうしろっつんだよ…俺の邪魔すんなよ…」

 「あれ?思ったより冷静だね?てっきり君って咎の王だから傲慢に突っ込んでくるかなってちょっと期待してたんだけど?」 

 「なんで知って…⁉︎」

 「と言うかさ…どうして飲まれてないの?」

 「…飲まれる?どういうことだよ?まだなにか隠してんのか⁉︎答えろよ【天の知識人】!」

 「あ、多分そいつは知らないと思うよ。というか、作った張本人の僕以外知らないんじゃない?」


 ”咎の王族”って言うのはその名の通り罰だ。

 暴食はその身を喰らう。強欲はその身を滅ぼす。嫉妬はその身を焦がす。憤怒はその身を焼き尽くす。

 色々とある人の罪に面白いからおまけを付けたものがこれ。メインスキルを使えば使うほどに精神が浸食され、壊れていく。

 ツカサくんは結構強いみたいだし、精神汚染が進んでてもおかしくないと思うんだけどな?



 「ま、いいか。ほら、早く本気でこないと」

 「…ああ、いいよ。やりゃいいんだよな…?どうせ俺より上にいるやつなんだ。喰らっちまえばいい」

 「およ?やる気になった?」

 「やってやるよ、ちくしょうが…っ!」


 そう言うとツカサくんの姿が変わる…というか元に戻るっていうのが正しいかな?こめかみからねじ曲がったつの、お尻の辺りからぬらりと光る矢尻のような先の尻尾。目は緋くなり、瞳孔は縦に割れ、どう見ても悪魔。

 そんなツカサくんが片手に剣を構えて切りかかってくる。振り下ろし、薙ぎ、回し蹴り。さらに追い討ちが来て、避けたところに鞭が飛ぶ。

 割と精錬された動きで、剣も鞭にも動きにキレがある。ちゃんと訓練したんだろうね。しかも結構早め。

 ま、2つ程度じゃ大した脅威にならないけど。

 だって武器2本じゃ両手があれば捌き切れる量だよ?それにいくら早くったって僕には【念動力】と【武器創造】がある。その程度の攻撃は全く苦にならない。



 「ま、地面よりこっちの方が捌きやすいかな…っと」


 【空歩】で空中に歩み出す。地面がなければ四方八方から攻撃を飛ばせるからこっちからの攻撃の方法を増やせる。

 


 「ちっ…!待て!」

 「あ、飛んだ?羽?コウモリっぽい…ああ、悪魔だもんね」


 一周動きが止まったかと思えばツカサくんは背中から翼を生やして空中に参戦してきた。

 でもそれって愚策だよね〜。だって空中じゃ強く踏み込むことができない。ただスピードに任せて剣を振るうのが限界でしょ?



 「【天の知識人】!腕を動かして手伝え!魔法も許可する!」


 そういった直後。さっきの黒い腕が僕に向かって飛んできた。

 さらに風の刃や火の玉、石の礫や木の槍など、様々な魔法が飛び交う。



 「『風の女神が名の下に拒絶する。風の拒絶(リジェクト・ウィンド)』」


 だけど残念。大半の魔法は風の壁に弾かれてあらぬ方向へと飛んで行った。

 でも腕は普通に通過してくるのでナイフや短剣や長剣やらを作って弾く。割と劣勢。ステータスの差は厳しい。魔力切れはないし、一度に捌ける量もほぼ無限にあるけどこちらからの攻撃ができない。直接対峙するには向こうと僕の体とのスペックの違いで二撃目あたりで僕に攻撃が当たる。

 できれば接近戦は避けて【念動力】で距離を保ちつつ隙をついて決定打を打ち込みたいところ。

 飛び交う腕や一部の魔法やツカサくん本人の剣撃と鞭を空中を飛び回りながら躱していく。



 「…さっきからちょこまかと。近づけねぇっつの」

 「よっ…気にせず突っ込めばいいじゃん。ほら、君の体は丈夫なんでしょ?剣の一本や二本ぐらい痛くないって〜」

 「なるほど…近接戦闘が苦手か。あるかもしれない」

 「あ〜…聞いてないね。まぁいいや。ほら〜、頑張って〜」


 どうやらゼウスmark.7と会話をしている様子。

 僕の声に耳も傾けてくれない。さいびしいなぁ〜。



 「わぁっ⁉︎びっくりした⁉︎何?雷?あ〜、びっくりした。チリッてしたよ。肌が焼けたよ。さっきまで雷…っと、危ない。人の話ぐらい聞いてくれたっていいじゃないのさ」


 黒い腕を躱したと思ったらピリッとした痛みがきた。

 何かと思って腕をよく見ると微弱な雷が腕を覆っているのが見える。原因はこれだったらしい。

 なに?奥の手ってやつ?



 「おぉっ…!岩投げてきた⁉︎そいつって以外と力持ちなんだね。初めて知ったよ…っと。ホームラーン」

 「ふざけやがって…」


 今度は地面の方から巨大な岩が飛んできた。

 次々に飛んでくるそれを手ごろなハンマーを作ってかっ飛ばす。

 …多分そっちに誰もいないよね?



 「というか学習能力高いね〜…あ、そっか。ゼウスmark.7がやってるのか。ツカサくん本人は鞭と剣以外やってないもんね。なら納得」

 「…なんだよ。余裕がなくなってきたか?」

 「いや、別に〜」

 「チッ…」

 

 さっきより避けるのが大変になってきているのは事実だ。

 飛び交う剣や魔法は一度に出せる量が制限されている。出し過ぎると僕自身が動きづらくなっちゃうからね。それを見越したかのように向こうが腕を僕の動きを止めようと段々と近づいてきているのだ。

 仕返しにツカサくんの周辺に剣をばらまいたり、打ち込んだりしてるんだけど腕とかツカサくん本人に弾かれてる。

 やっぱりあれかね。普段僕と同じようなレベルで処理できる知能を持ったのと戦ったりしないから気づかなかっただけで、この体だと処理能力とかもちょっと落ちてたりするのかね?そう考えてみるとちょっと頭を使うのに意識を割くのが大変なような気がするし。



 「痛てっ…」

 「やっと当たったか」

 「う〜ん。邪魔くさい…こんなに剣とか出しちゃって」


 地面には大量の短剣や長剣やナイフやハンマーが突き刺さったり転がったりしている。

 もはや一種の観光地みたいだ。

 そんなレベルで武器を作り続けているのだから僕の周辺だって当然えらいことになってる。見渡す限りの銀色。キラキラと光って綺麗だ。

 そんな僕を中心に形成されてる武器の球体は腕に突き破られ、魔法に崩され、その隙間にツカサくんが突っ込んできて穴を広げられ、壊れたものから地面に落としては新しいものを作り。

 自分の視界じゃなくって別の視点から観れるから避けられてるものの、実際”苦痛する悪魔の瞳グリマス・イビルアイズ”を解除したら大変だろうね。第一に視界を作らなくていいから隙間なく僕から1mちょっと離れた場所から武器の壁ができてるし、そのおかげで防げてるわけだし。



 「あ、気づかれちゃった?」


 そんなことを思ってたら鞭が近づいてきて視界が一つ途絶えた。剣の影になるような場所でこそこそと動かしてたのに見つかっちゃったようだ。

 それを見つけたのを機にツカサくんが僕の目をかたっぱしから潰しにかかってきた。こっちが見えるようにでも気づかれないように動かすっていうのは以外と至難の技で、その気になって探されると脆い。

 あっという間に視界が全て途絶えた。街の方も気になるけどこの際はしょうがない。どうせ向こうは大丈夫だと思うし。だって本陣ここだもん。



 「あぁ〜…目ぇ痛い。久しぶりに開いたかも。かれこれ4,5時間ぶり?おはよう太陽。今日もいい天気」

 「何言ってんだこいつ…」

 

 目の周りから垂れ流し続けていた血を拭う。久しぶりに目を開けたせいかなんか変な感覚。

 とりあえず剣に隙間を作って周りを見えるようにし、後ろを気持ち防御多めに、前を攻撃に特化させ、常に僕自身も動き回って攻撃をかわすようにする。


 

 「やっぱり見えないとつらいなぁ〜…」

 「こっちだよ!」

 「ほっ…あてっ。後ろが見えないから傷が増えるよ〜…」


 さっきよりツカサくんがいい動きをするようになってきた。ここまで飛び回って戦闘するのが初めてだったんだろう。今では突っ込むだけじゃなく、あっちこっちにビュンビュン動き回って不意打ちや死角からの攻撃や単調な攻撃やらと色々なバリエーションの攻撃を仕掛けてくる。一応、僕も同じようなことはしてるんだけど、基礎スペックの違いか後ろに回ってもすぐ逃げられるし、囲んでも抜けるしでいい感じに攻撃が当たらない。

 しかも僕にはちょいちょい攻撃が当たるってなんだろうね?別に悔しさとかはないんだけど、だって動けるスピードが段違いだし?言うなれば三輪車がレーシングカーにレースしてるみたいなもんだからね。でもちょっとうざったい。裏切り者がいるわけだから真面目にやってもいいんだけど、こうやってまともに戦える相手ってそんなにいないし、もうしばらく遊んでいたいんだけど…なんだろうこの気持ち?



 「モヤモヤする…はっ!まさか!これが恋⁉︎」

 「んなわけあるか…よっ!」

 「ははは〜。だよね〜。さて、本当にどうしようか」


 このままじゃ決定打も打ち込めず、ただただジリ貧なんだよね。

 もういっそのことこの体が普通だったら死ぬような状態になるまで遊ぼうか?



 「…あ」


 視界の端に神野が映った。 

 僕が一瞬そっちを見たのにツカサくんは気づいたようで、同じくそっちを見た。



 「へぇ…」


 僕は【念動力】と風魔法を駆使して、できるだけ早く神野に向けて飛んだ。


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