表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
258/361

80.指揮しましょう

ここからしばらく通常に




 『カウント…敵出現まで、5,4,3,2,1,0…北西門へ召喚陣出現確認。第一魔法部隊、指定魔法”パターン2”を準備。カウント…敵召喚完了まで、5,4,3,2,1,0…召喚完了を確認。第一魔法部隊、放て。続いて指定魔法”パターン5”を準備。カウント…敵出現まで、5,4,3,2,1,0…北東門へ召喚陣出現確認。第二魔法部隊、指定魔法”パターン3”を準備。第一魔法部隊、放て。さらに指定魔法”パターン6”を準備。カウント…敵召喚完了まで、5,4,3,2,1,0…召喚完了を確認。第二魔法部隊、放て。続いて指定魔法"パターン5”を準備。第一魔法部隊、放て。カウント…敵出現まで、5,4,3,2,1,0…北西門遠方に召喚陣出現確認。第一魔術部隊、弱体魔術準備。カウント…敵召喚完了まで、5,4,3,2,1,0…召喚完了を確認。第二魔法部隊、放て』


 儚炎龍(グレイン)に乗って空中を飛び、周囲と敵陣と戦闘区域内に数十個の”苦痛する悪魔の瞳グリマス・イビルアイズ”…”悪魔の碧眼(イビルアイ)”の強化版を飛ばし、両目から血を流しながら僕は指示を飛ばす。

 まぁ、名前の通りイビルアイを痛みを代償に数を増やすだけの強化だよ。おかげで両目はずっと閉じたままな上に血の涙が止まらないね。すっごい痛い。どのくらいかといえば目に針を突き刺されまくってるくらいに目が痛い。ほんとどこの拷問だろ?今度やってみよ。 

 …じゃなくて。今現在、この街は攻め込まれている。それを僕が敵陣に飛ばした瞳から送られてくる情報を元に街中に指示を出し、戦っている状態。敵が召喚に使ってるスキルが世界に干渉をかけた瞬間を見て頑張ってま〜す。


 

 『カウント…敵出現まで、5,4,3,2,1,0…南門へ召喚陣出現確認。第三魔法部隊、指定魔法”パターン3”を準備。カウント…敵召喚完了まで、5,4,3,2,1,0…召喚完了を確認。第三魔法部隊、放て。続いて指定魔法”パターン2”を準備。第一魔術部隊、放て』


 第三魔法部隊と呼ばれた南門に待機する魔法使いの部隊が一斉に攻撃魔法を放ち、第一魔術部隊と呼ばれた北西門に待機する魔術師の部隊が、出現しこちらへと動き始めた化け物たちに弱体化の魔術をかける。

 今のところ、効果が現れた様子は見えていない。今までに使わせた攻撃魔法も足止めのための地面を柔らかくしたりぬかるませたりする魔法もそこまでの効力は見られない。

 …だが、それでいい。現在、この街で攻撃しているのは一般的な冒険者や兵士だ。こうすると敵からは弱い連中が必死で抵抗しているように見えるだろう。事実、今のところ攻撃が入ったようには見えていないし、作戦通りだ。

 さて、こうやって必死で抵抗しているのを見ると敵はどう思うだろうか?敵はなぜかこの街を攻めるのに過剰なまでに慎重だった。なにせ僕が予想したより一週間近くも遅れて攻めてきたんだからね。だが、それだけに一切の抵抗の余地なくひねり潰そうと考えてくるだろう。たぶん、陣営に残るのを強い実験体少数だけに抑えてでも一気に落としにかかってくるはず。



 『カウント…敵出現まで、5,4,3,2,1,0…北西門中距離に召喚陣出現確認。第三魔術部隊、弱体化魔術準備。第一魔術部隊、再度弱体魔術準備。カウント…敵召喚完了まで、5,4,3,2,1,0…召喚完了を確認。第三魔法部隊、放て。第一及び第三魔術部隊、放て。カウント…敵出現まで、5,4,3,2,1,0…南門遠距離に召喚陣出現確認。第三魔法部隊、指定魔法”パターン5”を準備。カウント…敵召喚完了まで、5,4,3,2,1,0…召喚完了を確認。第三魔法部隊、放て』


 すでに瞳に映る敵陣営に化け物はほぼいない。

 時間があったとはいえど、この魔法を行うこと自体にも材料やら何やらと必要なものがいくらかあるために作れたのは120数体程度だったようだ。ま、これだけだとそこまで多く聞こえないけど実際一体一体が部分的にとはいえどAAランクに相当する化け物だ。



 『第一から第三魔法、魔術部隊、指定魔法”パターン1、4”にて待機。第一勇者部隊、出撃。第二兵士、冒険者部隊、出撃。第三勇者部隊、出撃。第一、第三兵士部隊、北東門にて出撃。第四治癒師部隊、それぞれ指定門付近にて待機。第五迎撃部隊、付近の部隊を援護』


 ぬかるみに嵌った化け物は魔術部隊によって弱体化…魔法陣の構造を歪めて身体構造の一部を書き換え、身体能力の低下と皮膚硬度を低下させたものに勇者や冒険者や兵士が立ち向かっていく。

 きっと何十人も死者が出るんだろうな。一応は人が戦えるギリギリまでは弱められたし、そこまで近寄らず油断さえしなければどうにか一般冒険者数パーティーで一体は倒せる計算だけど…ほら。



 『油断しない。過度に近づくと無駄にでかい手に握りつぶされるぞ〜。手の届かない範囲で戦え。第一勇者部隊の最前の盾師、後ろにも気を配れ。できるだけ後ろに回り込んで戦え。視界に入らないように注意しろ。敵は見えた敵に向かって単調に突っ込んでくる』


 勇者は戦争なんて未体験。兵士たちだってこんな化け物…しかも上半身の筋力だとか、皮膚の強度だとか、治癒力だとか、所によってはAAランクに値するような化け物と何て戦うのは初めて。普通はそう簡単にどうこうできる物じゃないんだから、一般人だった人にこれといきなり戦えってのも相当酷だってことは僕だってよく熟知してはいるつもりだ。

 こいつらはちょっと油断するだけで、軽く振った腕にぶつかっただけで重症。振り向いた体に擦られただけで重症。魔法を帯びた体に当たっただけで重症。それほどに能力だけは脅威なのだ。言うなればアリが弱った犬に立ち向かうようなもの。無茶なのは重々承知している。

 でも、実際に気をつけさえすればどうにかできる。基本的に圧倒的な一は数の暴力に抗えない。あ、僕とかみたいなランク外は除くとしてね。だから時間さえかければ一応倒せるのだ。多分一体倒すのに2時間とか余裕でかかるだろうけど。

 …だから残りは。



 『各部隊、総力を尽くせ。敵の数はこれだけだ。残りは神野くんたちがどうにかしてくれている。ここを抑えて今日を乗り越えれば僕らの勝ちだ』


 敵の実験体は今いるのがほぼ全て。残りは敵陣営の警備に当てられてるみたいだからこっちには来ないだろうし、話を聞いて実際に見た所一般的な皇国兵は実験体たちがほとんど壊して占領した後にやってる来るだったので心配はいらない。一応、警戒してパターン1を用意させてるし、もう僕がいなくっても負けるようなことはない。最悪は李川先生に一任してあるわけだし。



 『ここからの指示は各部隊の隊長に委ねる。健闘を〜』


 僕は”風声(ウィンドボイス)”を切った。



 「さ、グレイン。行くよ」


 僕は足元に目を向けそう言った。

 今、僕は1匹の竜の背中に立っている。名前はグレイン。儚炎龍っていう朧気な橙色をした鱗の綺麗な龍種の子供だ。かれこれ最近18歳の誕生日を迎えた…ニーズのせがれだ。実はちょっと前に初めて知ったんだけど、ニーズが番を連れてきたんだよ。なんかこっちの世界を行き来して色々やってる時に出会ったらしく、それからいつの間にかこうなってああなってそうなって番になったそうだ。で、子供…というか卵が産まれた時に初めて報告された。いやぁ、これはもうびっくりしたね。心臓飛び出したよ、物理的に。

 で、その卵が孵って生まれたのがこいつ。命名は僕ね。ニーズは箱庭の管理に忙しいし、番のエリフェリゼっていう龍もその手伝いで忙しい。ということで暇な時に僕が連れ出して遊んであげているのだ。まだまだ成長期だから質の高い魔力を浴びるといいので、生育にも役立って一石二鳥。

 


 「さて、神野くんたちは〜」


 両目から血を流しながら僕は左右に頭を動かす。実際に視界がに連動してるわけじゃないから全く意味はないんだけど、ついね?

 瞳から送られてくる情報を見れば戦闘をしている兵士たち…これじゃないね。えっとどれ?兵士、兵士、化け物、街、ゆーちゃん、マリー、冒険者、勇者、兵士、化け物、神野、グレイン…通り過ぎた。これか。



 「ああ、ちょうど向こう側に着く手前かな?」


 神野が一人敵陣営手前で的に対面しているのが見えた。

 多分、他の人たちはそこに至るまでの道のりではぐれたか敵を抑えてるかだろうね。わぁ、なんて主人公っぽいんでしょう。

 ま、そんなことは置いておいて。そろそろ向こうの本体も動く頃合いだと思うんだよね。割と全力を尽くした実験体を送ったはずなのに、その実験体たちはジリ貧状態。きっと考えているはず。追加で送るべきか、それとも向こうの勇者を送るべきか、兵士を送るべきか、自分が出るべきかってね。

 1つの敵の本陣を見張る目に意識を割く。



 「お、動いた。人?…あ、勇者かな?声は聞こえないけど、口の動きから見て”そっちの奴らを送れ”ってところかな?多分勇者を送るんだろうな〜」


 今、戦闘開始から15分。

 きっと今までだったらすでに決着がついたとも言えるような状況になってたんだろうから、向こうは困ってるんだろうね。短期決戦が向こうの基本戦法みたいだし、僕らとは相性が悪いよ。もっと向こうは念入りに準備をするべきだった。そうすれば確実に勝てただろうに。



 「…へ?いや、嘘〜⁉︎」


 陣が浮かび、転移されたのが見えた。

 街の上空の瞳に映ったのは勇者がほとんど全て。さらに兵士が3000ちょっと。予想外だ。もっと出し惜しみをするものだと思ってたからなおのことに。

 何より驚くべきは勇者のほとんど全てがいるっていう事実だ。確か鼻血くんの話だと鬱っぽくなってたりするのがいて使えないのが半数以上って言ってなかったっけ?なんであんなに闘争心に燃えてるのさ?

 ちょっと待って。うん、いろいろやばい。勇者がそんなに出てきたら僕らじゃ勝てなくなっちゃう。



 「『風声(ウィンドボイス)』」


 僕は急ぎ街に声を届ける。



 『全魔法部隊、指定魔法"パターン1"で南西方向及び東方向へ放て!』


 僕の声が響く。

 魔法部隊に一瞬迷いが見えたが、その後すぐに命令通り魔法が放たれる。

 指定魔法”パターン1”…力の限り気絶しようがなんだろうが魔法を放て。一切の容赦はいらない。そんな命令だ。

 爆音暴音が吹き荒れ、草原に突風が突き抜けた。



 『南西方向、東方向に勇者及び皇国兵士が出現。全魔術部隊は幻覚魔術を準備し放て。手の空いてる者は指定魔法”パターン4”を強行。街を落とさせるな!』


 予想が外れた。

 それ自体が予想外だ。僕の予想は脳内で相手の性格や戦力や技術や状況など、様々な情報をもとに何百もの試行をして可能性の高いものを順に考えて行われている。だから、ほとんど外れるようなことはない。なのに外れた。

 …予想外だ。



 「となると、向こうに残ってる戦力は…本体と一部の側近みたいな実験体だね。もうさすがにこっちには来ないはず」


 となると次に打たれる可能性のある手は…先行した部隊を叩き潰すってところ?

 神野くんたちのところは…む、目が足りない。人数分追加で生成。



 「ぅ…痛い」


 目から流れる血の量が増加した。

 僕の顔のそばに新しく赤い瞳孔が縦に切れた悪魔の瞳が生まれる。その瞳はすぅっと宙を飛んで視界を移動させる。

 グレインが見え、森に入り、幾らかの魔物の屍体を通り過ぎ、木々の倒れた場所に立つレイジュとジントくんと敵1人と。そこから先に少し行った先にある…もとい、あった街に石井と安井と敵2人と。その先の荒地と化した森の一部に渡部と敵1人と。さらにその先に街の手前で神野が敵と実験対数体とそれぞれ交戦中。


 

 「一応優勢かな?」


 どうにか戦闘は対等程度で進んでいるようだった。すでにレイジュとジントくんはボロボロ、でも敵もそこそこにボロボロ。石井と安井はそこそこに怪我、敵は結構ボロボロ。渡部は無傷、敵はちょっとだけ怪我。神野は今さっき始まったばかりのようだ。



 「…って、え⁉︎増援?一体どこから⁉︎」


 1つの視界の端に召喚陣が浮かんだ。



 『緊急。北方向に召喚陣出現。第五迎撃部隊、警戒。カウント…敵召喚完了まで、5,4,3,2,1,0…召喚完了を確認。奴隷による軍と確認。隷属魔法ランクから犯罪奴隷とみなす。迎撃部隊、対処を』


 もうわけがわからない。一体どこから沸いたの?確かに本陣には…まさか別のところにも控えがいるっていうの?

 ためておける場所なんていくらでもある…一体どこを警戒しろっていうのさ?



 「あ゛〜…こうなったら自棄だね。こっちに兵がいないなら僕が増やせばいいのさ」



 まず、今出してる勇者部隊を一部撤退させて、それから化け物にも対応できるレベルの眷属をいくらか引っ張り出して、それから皇国兵を魔法部隊に魔術部隊の幻覚に重ねて攻撃させて倒して…



 『勇者部隊、すでに倒した者は一旦街へ退避。『召喚(コール):ブラッディウルフハウンド』現在戦闘中の者は補助を回すからさっさと倒して街に戻る。治癒して状態を整えろ。治療が終わり次第に外壁に登って魔法部隊と合流。魔法部隊、魔術部隊の幻影に便乗して皇国兵を蹴散らせ。時間を稼げ。化け物の対処が終わり次第に僕の眷属が皇国兵を対処する。東側を優先して攻撃。西に眷属を向かわせたから魔法部隊は東へ移動。『召喚(コール):スクワッドタイタンズ』迎撃部隊、北方向の敵への攻撃やめ。勇者の戦闘補助に回れ』


 全くもって予想外だ。

 なんで僕の予想が裏切られる?わざわざ僕の読みそうなことを予測してその上をいくような天才が相手?いや、第一に僕の考えを読むくらい僕を知ってるのはこの学校になんていない。

 …じゃあ誰?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ