79.討論しましょう
「さぁ始まりました〜。第一回、魔術魔法研究会〜」
「ずいぶんと場違いなテンションね。仮にも戦争だっていうのに」
「え?別にそんなのはどうだっていいじゃん?さ、始めよ〜」
「は⁉︎ちょっとどうでもいいって⁉︎ねぇ、聞いてる⁉︎」
僕は僕の家の客間の1つにいた。周りには学校の生徒会と李川先生。
円卓を囲み、これから魔法魔術についての講義をするのだ。これをしないと魔術の一部が本番で使えない可能性が出てくるからね。必要なことなんだからしょうがない。
「さてと。じゃあ、まずは魔法と魔術とは何かについて話そうか。まず今、みんなはこれらは同じものだと思ってるそれとも別のものと思ってる?……うん。誰も答える気ないでしょ?まぁ確かに君らが警戒するのは理解できるし、僕のことを毛嫌いするのもわからなくもないよ。でもこういう時ぐらいまともにやろうよ?一応仕事なんだからプライベートを持ち込まな〜い。オ〜ケ〜?」
生徒会長は僕をにらみ、副会長はやれやれといった様子、臼井はそっと結城の後ろに身を隠し、李川先生が苦笑いを浮かべた。
「え、えっとしんちゃん?」
「ん?どうかしたの?」
「どうもこうもないわよね?なんでこんな険悪なのかについて詳しく教えてくれるとありがたいんだけど?」
「物理的に脅迫して脅しをかけた。以上〜。何か問題ある?」
「ありよ!大ありよ!なんで脅迫なんてしてるのよ?」
「いやね、先に手を出したのはそっちなんだよ?神野くんとかを使って僕を脅そうとするから返り討ちにしたんだ。要するに手を出そうとしたらどうなるかを身を以て知ってもらったの。僕は悪くないよ?」
「…そうね。ええ、全く。もうどうしてこうも…まぁ、いいわ。もう話を始めるわよ。戦争中なんでしょ?そんなに無駄な時間を使っている余裕はないのよね?」
「まぁね〜。じゃ、話を戻すけどさっきの件について理解してる人はいる?ゆーちゃんに以外に」
僕はゆーちゃんににっこり笑いかけてから、周囲に座る魔術師たちに目を向ける。
誰も僕に目を合わそうとせず、理解していないことが丸分かりだった。実に残念だよ。魔術師って一応研究者に近いんだから魔法なんてものを見つけたら研究しないと。
「会長さんか李川先生ぐらいはわかっててほしかったな〜。あ、もしかして僕の質問にまだ答えたくなくって黙ってる?」
「そんなことはない」
「あ、そう。まぁどうせそうだろうとは思ったけど。じゃ、説明はするんだけどさ。魔法と魔術は過程が違うだけで結局やってること自体は一緒なんだよ。簡単に説明するなら…パソコンで文字を入力するのをイメージしてくれる?魔術は文字を打つためにパソコンから作ってて、魔法はすでにあるキーボードを打って文字を打ってる感じ。どう?わかる?」
「わ、わかるんですけどぉ。それって魔術が損してるみたいに聞こえ…ひぅっ⁉︎すみません」
僕が臼井に顔を向けると縮こまって謝った。
そんなになるまで僕何かやったっけ?ただ単にやめないと李川先生を殺す的なことを言ったぐらいじゃなかった?そんなに恐怖植え付けるもの?
「そんなに怯えられると僕でもちょっと傷つ…かないかな!うん。まぁいいよ。で、魔術が損してるみたいだって言ったんだったね?確かに聞くだけだとそう感じるかもしれないね。それについては目の前で実証して見せてあげるよ。まず魔力をよく見て。『闇よ。ダーク』…これが魔法。見ててわかるかな?魔力が空中に出た時に別の属性を帯びたものに変化して、そこから空中に溶けて魔法が突然発生したように見えたと思うんだけど…どう?結城さん?」
「見えたわよ。確かに魔術とは全く違うわね。だって魔術は陣そのものから現象が発生するもの」
「うん。そうなんだよ。同じものを魔術で再現すると………こうなるんだ。見えてた?陣から現象が発生してるでしょ?」
「少し…待ってくれないかね?今、君は魔術を使ったのか?」
副会長が僕の話を遮る。
…あ、そういえば魔術は使えないって話前にしたんだっけ。
「そうだね」
「どうして会長の…いや、これ以上はやめておこうかね」
「別に説明が欲しいんなら教えてあげるけど?簡単なことだよ。会長さんが僕に使った嘘発見器みたいな魔術は精神干渉系に分類される魔術…だったっけ?これ、この世界にも同じようなものがあるんだよ。だから僕は対処法を知ってたってだけ。そっち対処法ないの?」
「いや、ないようだね。そうか…教えてくれてありがとう」
「いいえ〜。じゃ、続きにいこうか。さっき見せたように魔法と魔術は同じものを発生させるにも別の過程を歩んでるんだ。これは世界によるものなんだけど……これって話していいんだっけ?ん〜。ここで聞いたことをできるだけ他言しないでおいてくれる?あんまり人間が聞くべき話じゃないから」
「まるで君が人間ではないような言い様だね」
「李川先生。人には知っちゃいけないことっていうものがあるんだよ?」
あんまり世界について人が知るのは良くないんだよね。
無理に世界をどうこうしようとしてバランスが崩れて世界が崩壊とかほんとやめて欲しい。
「…そうだね。いや、今のは失言だった。忘れてくれるとありがたい」
「うん。で、他言しないでおいてくれる?」
「私はしないよ。みんなもそれでいいかい?」
「はい」
会長の返事に、みんなが同じように頷いた。
どうやら大丈夫なようだ。
「じゃあ言おうか。もとの世界、要するに人が地球と呼ぶ世界は原始の世界…正確には2つ目なんだけど、今現存する世界の中では最も古い世界なんだよ。その世界にはもともと魔法や魔術のための法則をつけようと考えていなかったからそういった類のものが一切存在しない。君らの先祖が魔術を身につけたのは本当に奇跡に近いし、言葉通り努力の結晶なんだよ。で、その結果そっちの世界における魔術は使用するのに世界からの補助を一切必要としないものになった。だから魔術は魔力を現象へと変化させるための過程が含まれてる。それに対して、この世界は原始の世界をもとに作られた世界の1つなんだ。だから、魔術をもとに考えられてる魔法は過程が違っても結果は同じようなものができる。ただ、魔法があることを前提としてこの世界が作られてるから魔法はこの世界に補助を受けて発動される…つまり、魔法はこの世界によって魔力を変化させられた結果なんだよ。まぁ、これ以上詳しい話になると面倒だから説明しないけど、だいたい理解できた?」
「…つまり、魔術は自力で、魔法は世界によって現象を生み出すっていうこと、なのかな?」
「そ。さすがはゆーちゃん。理解力高〜い」
「…えへへ」
周りがゆーちゃんがちょっとでも普通に話すのが珍しかったのかフリーズしちゃってるけど、とりあえず話を進めさせてもらおうか。
実際タイムリミットはそんなにないわけだから。
「というわけで、魔術と魔法は過程が異なるんだよ。じゃあ、魔術は無駄なことをしてる…と言いたいと思うんだけど、そうじゃないんだ」
「何がだ?」
「会長さん、もうちょっとコミュ力あげようね。話が通じづらい…まぁ今のはわかったけどさ。で、無駄じゃない理由なんだけど、魔法は世界によって成されるものだからある程度形が決まってるんだ。さっき例えに使ったキーボードを思い出して欲しい。あれには決まった記号と文字しか配置されてないでしょ?それと一緒で魔法は世界に決められた枠からは逃れられないんだよ。それに対して魔術は完全に自力。キーボードだろうが表示方法だろうが全て自力でやってるんだから可能性は無限大なんだ。思ったことないかな?魔法には魔術にあったような念波だとかの基本魔術が存在してないって」
「なるほどね。確かに言われてみるとそうだね」
「だから別に無駄じゃないんだ。魔法ではできないところを魔術はカバーできる。ここまでが基本的な魔法と魔術の違いだけど、何か質問とかある?」
多分、ここまで知っておけば使うものが効果があるかどうかが理解できるだろう。
「じゃあいい?」
「どうぞ〜、結城さん」
「前に拓巳が詠唱じゃなくって別の方法で魔法を使うのを見たわ。あれはどうなのよ?魔法なんでしょ?でも方法が全く違うわ」
「ああ、神野くんのか〜。あれは無詠唱だね。この世界において魔法を使うのには4つ方法があるんだよ。1つはみんなが知ってる詠唱。1つは神野くんのを見たことあればわかると思うけど無詠唱。1つは陣で、最後は魔道具。これらは工程が違うだけでやってることは全く一緒だよ。第一に、詠唱っていうのは魔力にイメージを乗せて世界に干渉させるっていうのが本来の目的だから、魔力にイメージが付随さえしてればどんなのでもいいんだよね実際。ま、でも陣と魔道具は少し魔術に近いところがあるかな〜。こっちの2つは自力ではやりきれてなかったのを世界によって補助してるって感じ。だからちょこっとだけ自由度が高い…って言っても陣魔法は今この世界で使う人はほぼいないし、魔道具だって作れる人はほとんどいないんだけどね」
「へぇ…そうなのね」
「あ、ゆーちゃんは陣魔法に似たものが使えるよね〜?魔法と魔術を混ぜたものを自力でやってたみたいだし」
「…あ、それは。まだ、秘密かな?」
「そう?まぁいいんだけど。で、どう?みんな理解した?」
僕は周りをぐるっと見回すが、微妙な表情が並んでる。
でも、この表情は理解はしてそうだね。どっちかっていうと人の知るべきじゃない領域に踏み込んでどうしたらいいのかに困惑してるって感じ。割としょうがないことだと思うよ。
「じゃ、本題にいこうか〜」
「え?これって本題じゃないの?ここまで神妙に話してたのに?」
「いや、だって最初にとりあえずって言ったじゃん。これまでは予兆みたいなものだよ〜?」
「確かに言われてみればそうね…」
第一にこの討論の本来の目的は魔術が魔法に効果があるかどうかを僕がよく理解してないから確認するためだしね。まぁ、実際に習ったわけじゃないからしょうがないと言ったらそこまでだけどさ。
今現在僕が使える魔法だとかそういった類のものは相当な数に及ぶ。それぞれ紫たちから記憶を覗き見させてもらって自力で覚えたものだ。だから統計してどんな模様、記号、文字、形状、大きさ、その他いろいろなものがどういったものを意味し、それによってどんな効果を及ぼすかをある程度予想できる。一応、魔術とほとんど変わらないものを使う世界もあったから今さっきやったように擬似的なものを使うことはできるんだけど、それはあくまでも擬似的なものでありオリジナルではない。
そのため他のものをもとに予想を立てても、それはあくまでも推測の域であり実際にそれがあっているかどうかはわからないのだ。
「じゃあ、本題に行こう。今回の敵…なんか変な言い方だね。僕は2回目だけど君達は1回目だし。まぁいっか。とりあえずこれから戦う敵は元は人だったものだ。だから何にも気にやむことはないよ…とは言っても魔術師な君たちには今更な話かもしれないけど」
「そんなことはない」
「あ〜…そうなの?てっきり人なんかばかすか殺してるのかと思ってたよ〜。あ、ゆーちゃんと結城さんと臼井さんは除く」
「なんで私たちは除くなのよ?別にいいんだけど。事実なわけだし?でも一応理由は聞いておきたいわね」
「うん。まぁ、人殺せなさそうな顔してるからね〜」
ま、そう言いつつ実際とは異なるんだろうとは思ってるんだけど。
ゆーちゃんに至ってはすでに向こうの世界でも体験してるんだろうね。僕の言った言葉に対する反応で丸わかり。他は李川先生と副会長ぐらいかな。
多分、この分だとこっちの世界でも人を殺したことがあるのは神野たちと僕と魔術師組のほんの一部のみかな…いざ戦う時になって魔物とは違う感覚に怖気づいて動けなくなる可能性があるかもしれないね。
「別に戦う時は戦えるから大丈夫よ」
「しかもよりによってそういう人ほど動けなくなるんだよね〜…神野くんたちを呼び寄せてもう少しどうにかすべきかもしれない」
「話を戻させてもらうが、”人だったもの”というのはどういう意味なのか聞かせてもらえるか?」
「ああ、人体実験の失敗作だよ。人を強化…ああ、もちろん意図して人外を作ろうとしたんじゃなくって、ただ普通に種族として進化を促すっていう実験を過去に行ってるんだ。それのうちの失敗作を作り出して敵は使ってるの。その失敗作は二度と人には戻らないし、死んだらそのままの形で朽ち果てるのを待つ屍になるだけ。だから安心して普通の魔物として排除してくれればいいよって話。オ〜ケ〜?」
「理解はしたのだが、どうしてそのような実験を行ったのだ?進化を促すと言っていたようだしそれを行う必要があったのだろう?」
「お、李川先生、冴えてるね〜。この世界の人はね。弱かったんだよ。今でこそ高ランクの魔物はいないけど、昔は深い森の中とかに行けば当然のように高ランクの魔物がいた。この世界における人っていうのは”支配者”じゃなかったんだ。むしろ狩られないように外壁を築き、集団になって強大な敵から身を守ることに必死になってたんだよ。だから、僕を含めた研究者が恐れることなく安心して暮らせるようにしようと考えたんだ。これはその研究のうちの1つなのさ。他にもいろいろやったんだよ?魔物を弱らせるとか、魔物自体の繁殖力を弱めて数を減らしていくとかね」
「そうだったか」
「そ。じゃあ話を戻すね」
僕らの討論はまだ続いた。
この先は連続で出したいからまた少しお休みです…
多分8月半ばあたりに一気に放出すると思います。




