78.覚えておきましょう
「最近忙しいようですね、主」
「うん。だから今日はお休み〜」
僕は家のソファーに寝転がりながらロメに返事を返す。
まぁ、実際は昨日のうちにやれるだけのことはやっちゃって、今日は各々で仕事をしてるから僕の仕事がないっていうのが正解なわけなんだけど。
「おにぃちゃん…?」
「およ?マリーどうしたの?」
僕が自分の部屋のソファーに寝転がってるとマリーが入ってきた。
どうしたんだろ?ていうか割と久しぶりにゆっくりできるから、こうやってマリーをじっくり見るのは…うん、久しぶりでもないや。毎日ギルドの会議とかを僕の都合に合わせてるから普通に空いた時間に遊んでるし、夜寝る前にはちゃんと家に帰ってきてるから毎日お休みって言ってるし。
あぁ、愛しき我が娘よって溺愛してるからね。
あれ?でもマリーは僕を”おにぃちゃん”って呼ぶから妹っていうのが正解なのかな?最近よくわからなくなてきたよ。その場合僕ってシスコンってことになっちゃうんだけど……うん、あんまり否定しないからいいや。言ってやろうじゃないか、シスコンで何が悪い!
「ええと、ね?」
「ん?」
マリーがちょこちょこと入ってきて僕のローブの袖を掴む。
手がちっちゃくってかわいいな〜。
「来て…欲しいの」
「よ〜し、どこにでも行こう。たとえ火の中水の中〜」
「そんなところじゃ、ないの」
「ははは〜、どこにでも行くってことだよ。で、どこに行けばいいの?」
「こっちなの」
僕はマリーに引かれて階段を降りる。
身長差で割と体制が辛いけど、マリーが引っ張ってるのがかわいいから許そう。これが神野くんとかだったら突き落とすね。
「ん?食堂?」
「待ってて、なの」
「ふむ。りょうか〜い」
マリーがトテトテと走って出て行った。
これはまさかマリーが料理を覚えたのか⁉︎そしてそれを僕に食べさせてくれるというのか⁉︎そうだったらいいな〜。本当は僕がそういうのを教えてあげたかったけど、僕よりそういうのはロメの方が上手だし、きっとロメにでも教わったんだろうな〜。
なんか想像するだけでも微笑ましい。ロメめ、その席変わりやがれっ。
「お、帰ってきた」
マリーとテラとクロリスが扉の前で止まったのがわかった。
え?なんでわかったかって?逆になんでそんなことすらわからないの?大切なものがどこにいるかぐらいわかるでしょ普通?
あ、でもこのあいだロメに普通じゃないって言われたね。普通じゃないのかな?別に聴覚とか触覚とかが良くなくってもわかると思うんだけど…というかわかったんだけど。
「ん?」
なんかヒソヒソ話してるようだ。微妙に声が聞こえてる。
いや、普通に聞こうと思えば聞こえるけど、こういうのは聞かない方がいい時が多いじゃん?サプライズとかさ。
少しして、マリとテラとクロリスがワゴンを押して入ってきた。
「おにぃちゃん、おたん生日おめでとうなの」
「おめでとー!」
「シン様、おめでとうございます」
「???」
あれ?今日だったっけ?
そうだ、ステータス!
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名前:エクレイム
種族:神魂
性別:ー
年齢:1690
称号:ー
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職業:虚言の王 レベル:error
筋力:error
体力:error
耐性:error
敏捷:error
神力:error
知力:error
属性:想像
スキル:【仮想技能Lv.error】
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「あ、ほんとだ。今日僕って誕生日だったんだ〜」
もはや嬉しさとかありがたみが薄れすぎててぜんっぜん覚えてなかったよ。
そうだね、確かにこっちに来てからの日にちを合わせると大体8月17日になってるし。
「忘れてた、の?」
「いやぁ、昔は覚えてたんだけどね〜」
「私、お姉ちゃんの誕生日はちゃんと覚えてたんだよー!」
「そっか。テラ、ありがと」
「うん!」
なるほどね〜。情報源はテラだったのか。
にしても1690歳か。随分と生きたね〜僕も。もう徳川も5代目になって10年経つ頃だよ。例えがわかりづらいっていうのは知らないよ。僕は結構日本史が好きなんだ。特に江戸時代。
「あのね、だからみんなでケーキ…作ったの」
マリーが運んできたワゴンの上を指差す。そこには確かにクローシェと呼ばれる銀色のドーム型の蓋が下にあるものを隠している。
ああ、身長的問題で開けられないのね。
「開けてもいい?」
「うん…」
「ははは〜。そんな不安そうにしなくってもいいのに。じゃあ開けるね」
僕はそれを開ける。
そこには大きな丸いスポンジに生クリームがたくさん塗られ、いろいろなフルーツが乗り、デコレーション用のチョコレートが大量に振り掛けられ、いかにも小さい子が作ったようなアンバランスなケーキ。
「おにぃちゃんみたいにできなかったの…」
「いいよ、そんなこと。僕こういうのって結構好きなんだよね。昔は良くやったな〜、おばぁちゃんとおじぃちゃんと一緒に。そういえば誕生日祝ってもらうのっておばぁちゃんたちが死んじゃって以来かも」
人のは祝うけど、こうやって自分が祝われるのって意外となかったんだよね。誰にも言わなかったし、聞かれなかったし。
「じゃ、みんなで食べよっか?包丁包丁は…【武器創造】これでいいね!」
僕は包丁を作ってケーキをテーブルに移動し切り分ける。
ポーチから皿を取り出し、それぞれにケーキを乗せた。マリーたちを席に着かせる。
「じゃあいただきま〜す」
主役だからなのだろうか?僕が食べるのを待ってるようだったのでフォークで一口。
不恰好だけど、美味しい。
何よりなんというかすっごく嬉しい。こういうのって嬉しいもんなんだね。すっかり忘れ去ってたよ。
「おにぃちゃん?」
「うん。ありがと〜マリー、テラ、クロリス。すっごく嬉しいよ。それに美味しい」
「よかった…の」
僕は横に座るマリーを抱きしめた。
あったかい。ピコピコト動く耳が愛らしい。ひょこひょこと動いてる尻尾が可愛い。
「私もー!」
テラが後ろから僕に飛びついた。
「え、ええと…私も?」
クロリスがちょっと恥ずかしそうにマリーの後ろから僕に抱きつく。
あれだね。こうやって見ると僕って単なるロリコn…これ以上はやめとこう。もう少ししたらちゃんと大きくなるわけだし、別に今だから好きだってわけじゃないし。
でもなんか…家族ってこういう感じなのかなって思う。僕には家族がいていないようなものだったから、こういうのってほとんどなかったからね。
「本当にありがとうね」
「うん…!」
僕はピコピコ動いてる耳のついた頭を撫でる。
あ〜、可愛い。いつまでもこうやってしてたい。戦争なんてほっぽってマリーたち連れて何処かに行ってもいいかな?
「…しんちゃん?」
「およ?結城さんだ」
「何をしてるのよ?一体どうしてそんなことになってるわけ?」
「ところで結城さんはどうしたの?」
「私の話聞きなさいよ⁉︎」
「ははは〜。聞いてよ。マリーたちが僕のために誕生日ケーキを作ってくれたんだよ〜。嬉しくってね」
「誕生日だったのね。おめでとう…っていつまでそうしてるのよ」
「ずっとしてていい?」
「やめなさいよ。特にお姫様が顔真っ赤だから」
「え〜。しょうがないな〜」
僕はマリーたちを放す。
あったかいものがなくなってちょっと寒い気がした。
「で、なにふぁよふ?」
「話しながらケーキ食べ始めないでくれない?なに言ってるのかわからないわ」
「あ、結城さんも食べたいの…?」
「そんな目をしなくても取らないわよ。とにかく嬉しいのはわかったから私の話を聞きなさいよ」
「どうぞ〜」
「どうぞって…まぁいいわ。魔術師としてなのだけど、相手の魔法を弱めるものあるわよ」
「ほうほう。じゃあとりあえず明日話そうか」
お。じゃあもしかしたら戦うのがいくらか楽になるかも。
でもその話はまた明日にしてもらおう。今日の僕はこの喜びを噛み締めることで精一杯だからね。
「それは…え?明日?今じゃないの?」
「だって今日は僕マリーたちと一緒にいたい」
「この自由人…」
「だっけマリーたちが僕を祝ってくれてるんだよ〜?それを優先せずになにを優先しろっていうのさ?」
「戦争よ!」
「やだよ〜。ということで明日、もしくは夜10時以降に出直してきて〜」
「はぁ…今日攻めてこないなんて確証はないのでしょう?」
「あるから大丈夫」
「だから、今か…あるの⁉︎」
「うん。僕の予想通りだったら今日は攻め込めまない。昨日の夜向こうの敵陣に視察をしてみたけど僕の予想は当たってたし」
「し、視察って⁉︎そんなのを1人でやったら危ないじゃないのよ!」
「大丈夫大丈夫。上空5000mから視察してたから」
上空5000m付近まで【空歩】で上がって、映像を蜃気楼の原理で映し出して視察した。本当は僕がスパイとかこの街の人でもできることをやるつもりはなかったんだけど、状況が状況だからね。
多分下からは鳥か何かに見えたんじゃないかな?
「それって別の意味で大丈夫なの?空気とか」
「別に全く問題ないよ?ほら、富士山が3776mだからそれよりちょっと高いぐらいだし」
「ちょっとじゃないと思うわよ」
「ははは〜。まぁ人が必要最低限な酸素量を切るのは8000mだし、大丈夫だよ」
「少なくともそのままの格好では行ってないわよね?」
「行ったけど?」
「高いところに行って寒くなかったの?」
「別に、このローブ実は魔道具だからまったく。防寒、耐熱、その他壊れるとかにはめっぽう強いだけのただのローブだよ」
「あんまりただのローブには聞こえないわね」
「そうかな?…ケーキふまっ」
そういった壊れないようにする以外はいたって普通のローブなんだけど。
「というかいつまで食べてるのよ?私はいつまで待てばいいわけ?」
「だから、夜か明日に出直してって。僕の楽しみを邪魔しないでよ。これ以上邪魔するんだったら結城さんでも…容赦しないよ?」
「な、何よそれ?容赦しないって…」
「子供には聞かせられないような色々〜。そんなに知りたかったらテラに聞くといいよ〜」
「子供に聞かせてるじゃない…もぉ、わかったわよ!夜にもう一度くるから覚えてなさいよ」
「果し状?」
「違うわよっ!」
「ははは〜。じゃ、またね〜」
僕が手をひらひらと振っていると、マリーたちが真似て結城に手を振っている。
こうやってみると微笑ましんだけど、当人からすると相当馬鹿にされてるように見える気がするね。まぁでも結城だからマリーたちが可愛いし別になんとも思わないんだろうけど。実は子供好きだっていいと思うよ?
「ふぅ、美味しかった。残り半分は夕食後に食べようか?」
「うん。わかったの」
「テラ〜。ここ、ここ」
「ん…?」
「クリームついてるよ〜。ほら、そっちじゃなくって右側の…そうそこ」
テラが右の頬のあたりについたクリームをテーブルに置いてあったタオルで拭う。
…でもどうしてそのタオルで拭いた後に別のところを拭いて悪化させるのかな〜?
「あ〜…おいで。拭いてあげるから」
「わかったー!」
テラは僕の目の前まで走ってきて、僕に顔を差し出す。
僕はタオルの綺麗なところでテラの顔についたクリームを取ってあげる。
「よし、綺麗になった。テラはもっと綺麗に食べようね?」
「えへへー…」
「ははは〜。さて、じゃあみんなで外にでも遊びに行こうか〜?」
「うんっ!」
「行くの…」
「マリーちゃんが行くなら、私も」
「じゃあ、荷物とか持っておいで〜」
僕は影人を出して食器を片付けつつ、マリーたちを部屋に戻らせて準備をさせる。
こういうのもいいよね。最近色々と面倒だからみんなで外に出る機会がほとんどなかったし。




