77.話を聞きましょう
今日から一週間ほどは前と同じ更新ができそう…
一通り現在できそうなことの通達を終え、ゆっくりプリンパフェを食べながら僕は医務室でジントくんが起きるのを待っていた。
「おはよ〜ジントくん。お目覚めかい?」
「ぅ…っ!アランカが!」
「それはもう聞いたよ。とりあえず深呼吸して。夢でも見た?少しうなされてたみたいだし」
ジントくんがベッドから上半身を起こして深呼吸をした。
おぼろげな意識がはっきりしたのかいつものキリッとしたイケメンに戻る。
「あ、ぁぁ………すまない」
「いいよ。しょうがないでしょ。じゃ、傷をえぐるようで悪いけど教えてくれるかな?」
「了解した。して、どこから話すべきか…?」
ジントくんはベッドに座り、こちらを見上げた。
なんか僕が見下してるみたいだね。別に男をいじめたり見下したりする趣味は…うん、なくもないね。男女共々嫌いじゃないし、一応身体構造上は間違ってないし。まぁでもジントくんはそういう風に考えるとしたら好みではないね。いやぁ、僕は気の強い人が好きだから。気の強い人を屈服させて調教するのって楽しくない?
…なんか思考が元々の話からぶっ飛んだ気がする。とりあえず横にでも座ろう。
「じゃあ、いつ頃攻めてきたとか街の中がどんな状態だったとか攻めてきた敵の陣の組み方とかとりあえず攻めてきた状況を教えてくれるとありがたいかな」
「そうか…ではまず攻め込まれた状況から話そう。私が報告を受けた…と言うより警鐘を聞いたのは街を見回っている最中のことだった。いつものように兵士を街内の見回りと外壁周りの警戒に割いており、特にいつもと変わりのない状況だったように思う。その後何事かと思い警鐘の鳴った際に指示していた中央広場へ急ぎ、街内で待機していた他の兵と共に警鐘を鳴らした兵士からの連絡を待った」
「その時何か物音がしたとかない?魔法が放たれてるようなさ」
「いや、なかったと思う」
「そか、じゃあ続けて」
じゃあ攻め込まれたのがわかった瞬間から警戒する必要はなさそうだな。少しの猶予はあるはず。
ジント君は続ける。
「その数分のうちに兵士が走ってきたのち、この街が攻められている状況を知って待機していた兵士をそれぞれの場所へ送り私自身も戦闘場所へ急いだ。到着した時外壁には兵士が並んで敵に備え、外壁の上からは進行してきている敵の状況が報告されていた。すでに敵は街からおよそ500m程度の距離まで近づいており、外壁上で待機していた兵にどうしてこんな距離になるまで気がつかなかったのかと聞けば、突然近くに現れたのだと言っていた。おそらくなんらかのスキルか魔法によるものだと思う」
「それってどんな感じに?パッと?それともどこかから湧いてくる感じ?前兆とか感じた?」
「いや…後に私も見たが、言葉通り突如そこにいたかのようにあわられたな。前兆などは全く感じ取れなかった」
「ふ〜ん。じゃあスキルだね。続けて」
多分、こっちも咎ノ王族がらみのスキルかな?通常のスキルに前兆なしのそんな悪質なものはなかったし、魔法だったら間違いなくわかるようなエフェクトがあるし。
とにかくこれは対応策を考える必要有りだね。
ジント君は続きを話し始めて表情を歪めた。
「その敵兵士の数は初めに見えたのはほんの20数名であったが、その20数名程度が一斉に一級レベルの火魔法を放ってきた。私の兵のほとんどがその攻撃を防ぐことができず炭となり、外壁の上にいた私と他数十名のみが生き残った。その攻撃が済み、こちらが詠唱の間に反撃しようとしたら次はその敵兵の後ろに新たに数十名の敵兵があわられた…いや、あれはもしかしたら兵士ではなく魔物だったのかもしれない。ともかくガタイの良いでは済まされないような巨漢の人型の生き物が現れたのだ」
「それってどのくらい?身長は?鎧とかは着てなかったの?」
「おそらく3mはあったかと思う。鎧や武器などは一切持たず、ボロ布を羽織ったようだった。外見は人のようではあったが、頭部はないように見えた上に明らかに人らしからぬ形をしていたのでな」
「う〜ん。とりあえず続きを」
火魔法はどうにか出来るからまだしもそんな生物この世界にいなかったと思うんだけどな。
僕そういうグロきもい系の生物嫌いだし。なにせあまりに嫌いだから一部絶滅させたくらいだからね。
そんな僕を置いてジント君は話を続ける。
「そやつらは外壁へ猛突進し、それを止めにかかった兵士もろとも外壁を貫いた」
「え?そんなことすんの?そいつら」
「ああ。まるで巨大な鉄の塊が飛んできたような威力だった」
「えぇ〜……つ、続けて」
これはどうにかしないといけなさそうだね。
大砲みたいなのを生身で受けるのは無理だとしても防がないことには外壁に穴が開くみたいだし。
「ああ。その衝撃で外壁の一部が崩れ去り、かくいう私もその崩落に巻き込まれ外壁と共に転落し一度気を失った。私の着ていた鎧のくぼみや歪みはそれが主な原因だ。その後少しして気がつくと街には火が放たれていた。なんとも情けないと思ったよ。私は気を失い、その間に何もできずに街が滅ぼされかけているのだからな。それから私は敵の増群を考えて外壁の周囲に敵兵がいないことを確認し、街の中へ急いだ。その際には外壁の外に誰もいなかったのですでに先程までの敵といるかもしれないと考えた増群は中にいると思ったのだが、その時に中にいたのは兵士ではなく化け物だった」
「化け物?さっきのやつ?」
「いや、先程言った巨漢の生物とは異なる、だがそれと似たような生物が街の中にいた。それにはただの人間種のような体に巨人族のような太く強靭で筋肉質な腕がついており、化け物のように大きな口と獣のような牙が生え、さらに目は白眼がなく真っ黒で、頭部に毛髪はなく歪な形状をした骨の形が露わになっていた。それはボロボロになった布切れを体に巻きメイスを持ってはいたが、私は少なくともあのような種族は見たことはない」
「ん…?ちょっと待った。それって人っぽかったの?」
「うむ。言うなれば人型の胴と脚に化け物の手と頭を移したようであったぞ」
「ふ〜ん。化け物の…ねぇ」
「どうかしたのか?」
「いや、微妙。同じようなのは他にもいた?」
「複数いたな」
「そか。とりあえず続きを」
僕のやった魔法実験の一つに似たような結果があったような記憶があるんだけど、そんなに同じようなのが作り上げる…もとい、できちゃわないはずなんだけどな。
作り上げるっていうと人体実験っぽいよね。今言っちゃったわけだけど。
「そいつとは私の部下が対峙していた。だが、すでに満身創痍で今にも叩きつぶされそうであった…いや、私の眼の前で1人が叩き潰されたのだ。私は怒りに駆られてそやつにハルバードを振り下ろしたが、鉄のような感覚とともにはじき返された。その衝撃でそやつは私に気がついたようだったが、足の動きは遅かったように見える。振り向く前に退避し、魔法を当てたが効果はほとんどなかった。その間に残った部下を逃し、そやつを誘導し狭い場所へ移動しようとした。そして、誘導しようとした先に同じようなのが2体おり、そこには私の部下がいた。そこでしばらく戦ったが攻撃は一切聞かず武器も壊され、私は救援を呼ぶことを頼まれ私の竜の元へ走り急いでここへ向かった」
「その化け物みたいなのはそいつらだけしか種類はいなかったの?それだけだったら逃げ切るのは割と簡単だったんじゃない?」
「いや、そやつらは移動こそ遅いが胴から上の動きは恐ろしく早かったのだ。人のような大きさのメイスを短剣を振るかのように振るう。その上、火魔法を使ってくる者がそれをサポートするかのように動くのだ」
「なるほど。確かに戦おうとしちゃったら一回攻撃を食らうだとか魔法を食らうで動けなくなって終了ね…」
これは多分実験だ。
僕の昔やった魔法実験の失敗を戦闘用の化け物を作るのに運用したものだと思う。幾つか失敗例があったからそれを試しているんだろう。だからこんな風に簡単に逃げられそうなやつが戦闘に使われている。おそらく幾つかの方法で試してより使えるのを作ろうとしてるんだと思う。この分だと新しく実験の奴らがいくつか生み出されてそいつらがそろったところでここに攻めてくるはずだ。
…でも、この実験結果って綺麗さっぱりこの世界には痕跡が残っていないはずなんだよね。実験自体を秘匿して行ったし、実験に携わった人には記憶消去を承諾してもらってるし。
「このぐらいしかないが、何か役には立てただろうか?」
「うん。だいたい理解したよ……僕のゲームにチートを持ってきたやつがいるってのも」
「チート?」
「ううん。こっちの話だから気にしなくっていいよ。とりあえず今は体力回復に徹してね。多分僕の予想通りのものだったら明後日かそこらに攻めてくると思うから」
「そうか…」
「じゃ、僕はみんなを呼んでこの件について話し合ってくるよ」
僕は医務室を出た。
とりあえず、この件を踏まえると兵士たちでは戦力不足になるのは間違いない。あれは普通の攻撃程度じゃ攻撃が効かないのだ。それこそ勇者レベルじゃないと。
だから兵士たちには遠距離からの時間稼ぎに徹してもらおう。一体一体なら勇者でも楽に相手ができるはずだ。そうとするなら弓とか魔法を覚えてもらうだとかにしてもらわないといけないからその準備もだね。
それにこっちに召喚するようなスキル持ちの本体を倒す算段もつけないといけないね。多分勇者だからそれは神野に頼もう。神野だったら僕が他のことに手を焼いてるうちに時間稼ぎはできるだろうし。
あ、そういえば魔術に敵に筋力を低下させるようなものとかはないか聞いておこう。それがあればあれの大半が対処できるようになる。
「やることがいっぱいだな〜…あ〜、面倒臭い」
「面倒くさいじゃないだろ」
「あ、神野くんいいところに〜」
「なにがだよ?てかどうだったんだ?」
「まぁ、色々と大変だったよ。ところで神野くん…もし敵が向こうの勇者だったとして、既に色々手遅れな人だったら殺せる?」
「…どうだろうな?」
神野が神妙に答えた。
明らかに声が違う。多分心の中では殺したいとは思わないけど、殺さないといけないとなったら殺せちゃうってことに気がついたんじゃないかな?
「そういうことだからさ、魔術師たち中心に作戦を立てることにするね。あと、敵は改造人間っぽい何かだと思って。ま、殺しても元に姿には戻らないけど。できれば魔術師にそういう魔法で強化されたの弱められるのがないのかも聞いておいてくれると助かる」
「マジか…?」
「マジだよ〜。残念なことに」
「そう…か」
「ということで、どうしても普通の兵士じゃ戦えないから勇者組にもそこら辺覚悟させておいてくれると助かるよ。戦ってもらうから」
「結局戦わせるんだな…?」
「僕も本当はあんまり戦わせたくはないんだけど、勇者とかレベルじゃないと攻撃がまず通らない。ジントくんの力があって鉄を叩くような感覚だよ?」
「…仕方ない、か。ていうかそれって俺に悪役を押し付けようとしてんだろ?」
「いやいや、ちゃんと戦えって話は僕からするつもりだよ。でも、士気をあげるのは神野くんの仕事でしょ?」
「そうか?」
「そうだよ〜」
生憎、僕には人の気持ちがあんまりよくわからないからね。
あ、僕に向かう感情と嘘ならわかるよ。
「じゃあよろしく。あと7時にもう1回会議ね」
「わかったよ」
僕は神野と別れジールにみんなに集まるよう通達するように話をしに向かった。
いやね、会議場所がギルドだからギルド長を使うのが一番手っ取り早いんだよ、これ。




