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76.驚愕しましょう

暇を見つけて1話更新




 「一体どういうことなんだろうね?予想から外れまくる現実に僕はびっくりだよ」


 帝国の街が落ちて早くも2週間。

 予想通り連合軍が結成され、ジントくんが連れ戻されたり共和国領の街の使者が来たまでは予想通りだった。問題はそのあと。



 「どうして共和国領が2つとも落ちるのさ?しかも同時だって?向こうの勇者が本格的に動かされ始めたの?向こうの勇者は半分以上が動かせない状況だって聞いたんだけど。しかも、向こうの世界の道徳精神でそう簡単に枷は外れないと思ってたんだけど。ねぇ、おじさん。それにスパイに送り込んだ人はまだ誰も帰ってこないの?」

 「ああ、誰一人てしてな。一体何がどうなってんだか…」


 僕らはギルドの会議室にいた。

 今この街は渦中にいる。

 まず、帝国領が落ちたのはすでに知っていると思うが、その後少ししてスパイが帰ってくるはずだったのに誰も帰ってこなかった。ちょっと手間取ってるのかと思ってもう少し待ったんだけど結局帰ってくることはなく、次の人を送ったけどその人も帰ってこない。一応その間も会議やら何やらと対策を練ったりはしたからそこまで時間が無駄になったとかはないんだけど、それでも敵の情報が得られないのは辛いのだ。一応どんなことがあってもとりあえずの対応はできるよう対策は練ったけどさ。

 もっと問題なのはこっち。勇者が数人消えた。行方不明…っていうか突如いなくなったっていうのがちょいちょいあるんだよね。しかも問題なのは咎ノ王族のうちの男の方がいなくなったこと。せっかく戦力増強したのに肝心のそいつがいなくなっちゃうってどうよ?全くもって迷惑この上ないね。

 


 「しかもさ、前回同様夜中に奇襲でしょ?なんで防げてないのさ。同じような手を使ってくる可能性なんて十二分にあったでしょうに…ま、いいや。別に共和国のところが落ちても僕には関係ないからね。いや、まぁこの周りでだんだん囲まれていってるような気がするっていうのは問題なんだけどさ。で、情報がないなかどうするの〜?今やれる最善は昨日の会議と変わらないと思うよ。だって予想以上に早く落ちただけで、結果は変わってないわけだし。というか神野くん、勇者組は使える人いないの?」

 「使えるって言ってもな…俺ら旧勇者と魔術師と教師数人、あとはほんの一部の生徒だけだぞ?」

 「う〜ん。そこに兵士を加えて…見回りの強化はそんなに増やすといざって時に動ける人が減っちゃうから…」


 いつこっちに来てもあんまりおかしくない。

 予想なんだけど、向こうに相当頭の切れる勇者がいるか兵士を強化できる勇者がいるのだと思う。そんなのが準備万端な状態で襲ってこないなんて確証は微塵たりとも存在し得ない。

 でも準備を整えるって考えると、きっとジントくんのいる王国領も落とそうとしてくるはずだ。するとこの街の包囲網なんてものが完成する。しかも万全の策を練られた軍か強化された軍が攻めてくるなんていうタチの悪いもの。まいったね。



 「うん。やっぱりある程度の人数を常に待機させて城壁の上から外を監視と中の見回りぐらいしかやらないほうがいいね。余計なことに人数割く余裕がないよ。勇者たち使って戦力強化するにしても奴ら基本は戦闘できないし、強いて言うなら回復役に役立つくらいだからなぁ〜。守らないといけない回復役とかもはや邪魔じゃん?」

 「いや、まぁ…てか、日本人に道徳捨てろってのが無理だろ。まぁ確かにこの期間で割と住民と仲良くなってるわけだし、もしかしたら進んでやろうするかもしんないけどよ」

 「そうなんだ〜。神野くんもちゃんと周り見てるんだね〜。でも、やっぱりちゃんと戦えないと意味ないじゃん?」

 「まぁ、それは…」

 「シン殿のおっしゃることも一理あるでしょう。しかし、それによって救える人も増えるのでは?」

 「まぁね〜。でも下手するとそれのせいで怪我人増えるし、割合が重要なんだよ。ちょうどいい割合で回復役を配置すれば被害は減らせるだろうね。それに……お?」


 ちょうど僕が話している最中にゴンゴンゴン…!と荒々しいノックが聞こえた。

 そして、誰が返事をする間もなく扉が開いてジントくんが倒れこむように部屋に入る。その風体はひどいもので、アイデンティティーの銀色の鎧は高熱にさらされたのか青黒く酸化して所々がひしゃげ、ハルバードは斧の部分がねじ切られたようになってなくなり槍の部分もグニャリと捻じ曲がっている。

 どうやら僕の予想は当たっていたようだ。でも勇者にそんな強化だとかのスキルの選択肢は与えてないから”咎ノ王族”のスキルのおまけとかかな?まぁどちらにせよまずいということだけは事実だ。



 「ジントくん、どうしたの?」

 「シ、シン殿…ア、アランカが…アランカが攻め込まれて…!どうか!どうか救援を!ど…どのような対価でも払う!私の部下を!民を救ってくれ!」

 「…神野くん。今何時?」

 「…は⁉︎いや、今そんなこと言ってる場合じゃないだろ?助けに行かないと!」

 「いいからさ。今何時?」

 「あぁー!もうわかったから、えっと…13時だな。これでいいか?じゃあほら早く」

 「ダメだね。ジントくんの格好から見るに歩くのは無理そうだからここまでの距離を騎竜用に育てられた地竜に乗ってきたんだと思う。地竜の速度でここまで来るにはどう頑張っても2時間弱。戦闘で被害を受けてた可能性を含めればもっとかかってる。前回の共和国領が落ちた時に戦闘開始と思われる時間から終了するまでの時間が約3時間半。敵は勇者だから昼までには終わらせて休憩しようなんてふざけた気持ちでやってると思うよ。そう考えたなら…悪いけどもう落ちてるね」

 「ま、まだ間に………わりぃ。ああ、わかってるよ!俺だって馬鹿じゃない。でもあそこには…っ!」

 「うん。ケーキ美味しかったね」

 「くそっ!」


 神野が頭を掻きむしりながら叫ぶ。

 ジントくんは現実を見たくないのかうつろな表情を浮かべている。こういうカウンセリングってどうやればいいのかわからないんだけど誰かできないかな?僕は誰も相手しなかったから壊れた側の元人間だし。



 「しょうがないし、頑張ってみようかな……ねぇ、ジントくん」

 「…ぁあ」

 「そんなんでいいの?残念だけどきっと向こうは落ちちゃったんだろうとは思うよ。でも、君がここにいるのはどうしてだい?多分向こうの中で一番強かったのは君だろう?」

 「フェイが…!デェイビが私が行けと…!一刻も早く助けを呼んでくれと…私なら!この戦場の中から抜け出して行ける力があると…!」

 「そう…でも、きっと彼らが望んだのは救援じゃなくって情報の伝達だよ。この街とのやりとりで敵の情報が一切ないって話はそっちにも行ってたでしょ?君が向かわせられたのは情報を届けられる可能性が一番高かったからだよ。今までこっちではスパイすらも帰ってこない状況だった。そんな中で君が情報を持ってここまでたどり着いた」

 「だ、だが…」

 「これは君の部下たちのおかげでもある。その気持ちをないがしろにするの?」

 「しない…できない…!私には!彼らを守れなかった罪がある…っ!」

 「でしょう?じゃあ、仇をとろうよ」

 「済まない…本当に、済まない…っ!」


 ジントくんは悔しさと罪悪感と悲しみにむせび泣く。部下を失い、民を守れず、自分一人がここまで逃げてきてしまったようなものだ。きっと辛いんだろうね。僕は基本怒りしかわかなそうだけど。

 その後、ジントくんはひとしきり泣くと緊張が解けたのかその場に倒れこんでしまった。



 「とりあえず今はお開きにしよう。レイジュ、ジントくんを医務室まで運んで〜。みんなは解散。あとでジントくんから情報をもらったら僕から話すからさ〜。よし、行くよ〜」

 「手伝ってくれないんですね…」

 「君の部下だよ?」

 「いや、まぁ…はい。そうです」


 レイジュは重い鎧を着たままのジントくんを担ぎ上げて部屋を出る。

 そういえばレイジュはあまり悔しそうだとかそういう表情してなかったね。なんでだろ?実感がないとか?それともみんなの前だから泣かないように我慢してたとか?



 「ま、いっか。敵じゃないのは確かだし。さて、向こうの勇者はきっと今頃ゆっくり占拠した街を片付けながら休憩でもしてるんだろうし、僕もお昼にしようかな〜」

 「よくもまぁこんな状況で食事などと悠長なことが言えますね?私でしたら到底そのようなことは出来ませんよ」

 「ははは〜。ま、ヒーリガルばあちゃんはそういうのに耐性なさそうだしね。じゃ、お先〜。あ、この件については僕らが話し合うまでは言いふらさないでね。混乱が起きると思うから〜」


 僕は会議室を出て、ギルド1階の酒場兼レストランに向かう。

 たまたまさっきのジントくんを見たと思われる冒険者が不安と興味の混じり合った目で僕の方を見てるけど、まぁ知ったこっちゃない。どうせ今言ったら大騒ぎしてこの街から逃げようとして捕まるだとか凶行に及ぶとか面倒臭いことを起こすだろうからね。



 「さて、今日は何がいいかな〜?…おぉ?すみませ〜ん、メニューの今日のパフェおねが〜い」


 僕はメニューのはじの方にちょこんと増えていた新しい欄に目がいってそれを選ぶ。多分僕のために作られた枠だろうな〜。毎日毎日ちびちびとメニューのデザート欄コンプしていってたからね。つい最近コンプし終わっちゃったからその代わりだと思う。



 「ふぅ…で、次はここに攻め入ってくると考えると、敵の攻撃方法は1つの街をいくら勇者がいるとはいえど数人程度で落とすのは無理だろうからたぶん兵士の強化…まぁ考えたくないけど勇者が一致団結して攻めてきてる可能性もなくはない。一応葉山くんだったかな?”勇者”がいたし、士気系統のスキルを持ってみんなを動かしてる可能性もないとも言い切れないわけだし。で、最悪は勇者と強化された兵士がどっちもいる場合かな…その場合はこっちも戦闘可能な勇者を全部出して戦わないと対応不可能かも。とりあえず最悪を仮定していこう。その場合は現在攻め落とされた状態から見て四方から一気に攻めてくるはず。全体的に戦力を分断してこっちの戦力を抑えられる可能性が高いからそれぞれの門付近に使えるやつらを配置しよう。神野と石井とゆーちゃんと渡部と結城とかを中心に魔術師を加えてそれぞれに配置すればいいかな。それにある程度バランスを見て勇者を入れて、残りにレイジュとかこの街でも有力なのを配置しよう。向こうが兵士を使ってるとすれば多量の敵を一度に排除できる攻撃が必要だから魔術師とこの街の魔法使いを属性ごとに総動員して開始早々に片付けるのがいいかな…いや、向こうもそれは考える。そうとするなら初めから大量に配置するのはまずいかも。城壁内に魔術師を配置して幻術でも出してもらおうか。そうすれば敵の魔力を削ることができるし

、その後にこっちが攻撃すれば詠唱してる時間も稼げるし。そうするならできるだけ敵を一箇所にまとめたいな。こっちに進軍するルートは三方の街からの街道とこないだ攻めてきたのと同じようにあそこの丘あたりだと考えるなら他の場所を潰しておこう。鎧を着た兵士とか歩き慣れてない勇者が厳しいような道にすればいいんだから今日の夜中のうちに通れそうな道を岩で潰したりクレーター作ったりして壊しておこう。入念に壊しておけば道は4箇所だけになる。そうしたら出てきて集まれるような場所も用意したらもっとかたまるね…この街の四方に何もないけど集まるには最適な草陰があればいい。更地を作った上に木と草を適当に生やしていい感じな場所を作っておこう。後はそこら一帯が見えるような位置で僕が見張る必要があるね…いいや、それは久しぶりに誰か呼ぼう。これでとりあえずの対応策は大丈夫かな。ジントくんが目覚めるまでに時間はあるだろうから神野に勇者の方は伝えとこう。レイジュは多分ジントくんに付いてるはずだから兵士の件を頼んで、魔術師の方は結城に、魔法使いの方は…ギルドとスラムを使うのが一番早いかな。いざって時に混乱が起きないように早く準備をしておかないとだよね。多分情報が今まで漏れてなかったのはその辺がしっかりしてたからだろうし、今回ジントくんがこっちまでたどり着いちゃってるんだから向こうも焦ってると思うし。ふむ………ま、とりあえずはお昼だよね〜」


 僕は目の前でどうしていいのか、話しかけるべきか、それとも考え事の邪魔をしないように待つべきか困るウエイトレス兼デザートのみのシェフに顔を向けた。



 「あ、ええと、今日のパフェ”プリンパフェ”です。どうぞ」


 彼が運んできたのは黄色というより白に近い色のプリンの乗ったパフェ。周りには生クリームとアイス、色とりどりのフルーツがよそられている。



 「おお〜。こっちの世界だと僕が作る以外だと初めてかも。これ、どうしたの?こっちの世界で見たの初めてなんだけど」

 「この間、ユウキ様が実際に作って見せて教えてくださった”もの”をもとに作りました」

 「…え?結城さん?確か料理ができなかったと思ったんだけど、違ったっけ?」

 「いえ、そのユウキ様であっています。彼女が教えてくださった”もの”を食べれるように(・・・・・・・)作り直したのがこちらです」

 「ああ、そういうことね。お疲れ様〜」

 「いえ。ではごゆっくりどうぞ」


 きっと苦労して食べれるように頑張ったんだろうね。

 結城は時間とか分量とか配分とかが結構違ってたりするから。まぁ、材料と調理法だけはあってるから頑張れば作れるとは思うけど。


 

 「…⁉︎なにこれ?プリン?というか一体どうやって作ったの?」

 「どうかされましたか?」

 「よし、ちょっとこれ食べたら調理場借りるね。これプリンっていうよりゼリーじゃん。ゼリーをプリンっぽい味にしたって僕はそれをプリンだとは認めないんだからね!全く、結城さん安物のプリンキットの原材料から作った?一体どうしてそんなものを覚えてるのさ」


 というかこの世界にゼラチンがあったことにびっくりだよ。僕は割とプリンは好きなんだ。そのぬか喜びを返してくれ。一口目で新感覚の食べ物を味わうとは思いもしなかったよ。

 僕は安物のプリンが嫌いだ。いくら甘いものが好きだと言ってもあれだけは認めない。



 「いい機会だから僕が喫茶店の美味しいプリンの作り方を伝授してあげる!」

 「は、はぁ…?それはありがとうございます」


 僕はいまいちなプリンをさっさと食べて、口直しにアイスとフルーツを食べてから調理場に向かった。


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