二人目の主人公:支配の時
彼は王となった。
だが…何かが違う。そんな気がした。
* * *
僕の名前はリード。リード・エルスチャント。今や鞭の奇術師何て呼ばれる皇国一の鞭使いだ。
僕の出身は何てことのない農村。
そんな中で魔法適性のある職業を持って生まれた僕は村のみんなの優しさで皇国にある共和国の魔法学園を真似た魔法使い養成所に行かせてもらい、そこで魔法を学び、一般兵として皇国の兵士になった。
僕は出身が農村だから家畜の世話に使う鞭の扱いなんかがうまく、これを戦闘にも使えないと考えたのが僕の出世の始まり。毎日空き時間を見つけては地道に練習と情報収集。調べれべば調べるほどに鞭の使えなさがわかったけどね。でも、そこまでたどり着くまでに僕はあまりに多くの時間を使っていたんだ。もう半ば自棄だったかな。こんなに頑張って練習したんだからどうにかして使ってやろうって気になってさ、それでたどり着いたのが過去にこの国にいた蒼黒の剣士っていう二つ名の冒険者。魔法剣っていう未だに詳しくはわかっていない剣術を使っていたらしい。
僕はそれに可能性を見出したんだ。
そこからは早かったよ。毎日が実験と失敗の繰り返し。お金はどんどん減っていくし、同僚からは笑われるし…でも、とっても楽しかった。そして1年半ぐらいが立った時、僕はついに今の方法の原型となる方法を生み出した。
その時かな?初めて周りの人が僕の努力を認めてくれた。ほんっとにもう嬉しかったよ。それから僕は研究に研究を重ね、ついに完成させた。その年の全大陸戦闘競技大会の総合戦闘部門で準優勝したんだ。そして、僕は皇国でその魔法技術と知識を認められて名誉騎士になった。
そして今、僕はここにいる。
「ツカサくん、だよね?」
「ああ、そうだな」
「そうか!無事だったんだね。いや、良かった。君が迷宮で行方不明になったって言われ、もういてもたってもいられなくって探しに行っても見つからなくって、もうダメかと思って心配してたんだよ」
「そうか。それはありがとう」
「いや、見つけられなかったんだ。悪かったね…ところで、これは一体どういう状況なのさ?」
「見ての通りだよ。俺は…この国の王になったんだ」
玉座に座る彼。天才的な才能を発揮し、僕の持てる全てを教えたいと思えた優秀な弟子。
今、その横には教皇が立ち、後ろには見たこともないような凶悪な肉体をした男、背の小さな少年、スタイルのいい女性、小さな少女が控えている。
そして、彼は王になったと、そう言っていた。
「他の貴族たちはどうしたのさ?それに皇王は?」
「貴族はいつも通り…ってかいつも以上に真面目に働いてるよ。皇王についてはいらないから消した」
「け、消した…⁉︎」
「あんな能のない肉塊肉塊を傀儡にしたって使えないからな。それに俺が王になるには邪魔だったわけだし」
「そ、そんなことが…」
「できるんだよ。今やこの国の貴族は皆俺の僕…というか操り人形だ。俺が王であることを認めさせるなんて造作もないことだったよ」
「どうしてそんな…いや、どうしてそれを僕に言うのさ?」
「リード。お前が俺の師匠だからだよ。お前が俺を鍛えてくれてなかったら今頃俺はここにはいなかった。だからその借りを返そうと思ってな」
「そう…かい」
「ああ。で、これを聞いてお前はどうする?俺を殺すか?それとも俺に下るか?それとも逃げるか?」
僕の頭によぎったのは家族や僕を送り出してくれた村の人たちのいる小さな農村。
「もし、君のもとに下るのならば…一つ、約束して欲しいことがある」
「何を?」
「この皇都の南端にある小さな村がある。そこを僕にくれないか?僕の故郷なんだ。そこさえ守ってくれるなら…僕は君の下で精一杯働こう」
「わかった。『契約は為された。本居司の名を以って準ずることを誓う』」
彼はどこからか1つの魔石を取り出したかと思うと何かの魔法を使った。
そして、その魔石を僕へ投げてよこす。
「な、なにさ?これは」
「契約の証だよ。それをお前が持ってる限り、俺は約束を守る。まぁ、お前も同じだけど」
「そ、そうか…」
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彼は玉座から降りる。
そして付き従う4人の奴隷を連れて城の天辺近くの部屋に戻った。
「これで僕が増えたな…」
近くにあるベッドに彼は横たわった。
彼の今いる部屋はもともと皇王の使っていた部屋だ。そこを掃除して使っている。
彼はこの皇都に戻って来るまでにレイリドから2週間ほどかかった。だが、実際は移動にかかったのは2日で残りは奴隷を買って傀儡化を試すのに時間を要したためだ。
レイリドを出た彼はすぐに飛び立ってバドプールへ向かい、そこで手頃な価格の奴隷を売る奴隷商で奴隷を買い、奴隷がどれくらいで壊れるのか、命令しないとどうなるのかなどを一通り試した。それから買った奴隷のうちスペックの良い者を傀儡にした上でスキル譲渡で強化して彼の手足とし、奴隷商へ再び行き奴隷商人を傀儡に。そして、その伝手をたどって情報を収集しつつ奴隷商以外の商人もどんどん傀儡にしていったのだ。
そうして次は商人の客である貴族へとその矛先を向け、この国の貴族をどんどんと傀儡に変えた。貴族はただ愚直に働く奴隷であればよかったので自力で可能な限りまともな領地運営を行わさせ、彼の呼び出しには絶対に従うなどの命令を残してシミュレーションゲームのお金を貯める方法でよく使うのと同じように金を吐き出すための道具にした。
城へと戻ってきた後もやることは同じだった。
まず、謁見する時に近くにいると思われる兵士を傀儡にし、謁見の間に呼ばれる前に大臣や宰相などに話したいことがあると言って呼び出して傀儡に、そうして準備を整えた上で謁見の間に入り、手足としていた奴隷や兵士を使って無理やり目線を合わさせて謁見の間にいた残りの貴族と皇王と皇女を傀儡にした。
そうして王となるべくいつくかの手順を踏んだのち、今ここにいる。
「なんでこうなったんだろうな?俺はもともと自由に情報収集してやりたいことをやるために邪魔になるものをどうにかしようと思って傀儡化を取ったのに、いつの間にか王になった。いや、考えたのもできそうだと思って実行したのも俺だし、今更何を言うわけでもないんだけどな…」
そんなことを思いつつ、彼はステータス画面を開いた。
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名前:本居 司
種族:悪魔/怠惰の悪魔
性別:男
年齢:17
称号:異界人 勇者の可能性 天使の加護
強欲の者 迷宮攻略者 悪魔の咎 傀儡王
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職業:強欲の王 レベル:84
状態:通常/憑依
筋力:753560(+7800)
体力:15005430+12300)
耐性:1129830(+4500)
敏捷:15001340(+21)
魔力:15011340(+7800)
知力:600950(+5670)
属性:闇 治癒 火 水 風 地 木 空間 契約
儀式
種族スキル:【半不老不死】【怠慢の義腕Lv.max】
【幻夢】【魔の躰】
スキル:【強奪Lv.max】【天の知識人Lv.max】
【強欲の咎Lv.12】【偽装Lv.4】【体術Lv.5】
【剣術Lv.7】【並列思考Lv.5】【魔力操作Lv.7】
【聴力強化Lv.3】【鞭術Lv.7】【暗視Lv.9】
【気配探知Lv.6】【異空間倉庫Lv.max】【隠密行動Lv.5】
【肉体硬化Lv.3】【治癒力強化Lv.5】【魔法罠設置Lv.5】
【危険察知Lv.5】【魔眼:透視Lv.3】【生物探知Lv.4】
【空歩Lv.4】【魔力耐性Lv.7】【魔法攻撃耐性Lv.8】
【攻撃耐性Lv.8】【大地支配Lv.3】【毒耐性Lv.4】
【魔力探知Lv.3】【超過成長Lv.3】【魔力吸収Lv.17】
【殴打Lv.8】【過眠Lv.17】【魔力回収Lv.8】
【自動反撃Lv.12】【帯電Lv.5】【空間把握Lv.15】
【腕力強化Lv.5】【鋭爪Lv.4】【飛行Lv.4】
【魔眼:千里眼Lv.3】
強奪スキル:
振り分け可能値:1142550p
憑依:【怠惰の悪魔】
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「それに完全に人もやめてるよな…俺は一体どこを目指してんだろ?いや、もうここまで来たわけだし行けるところまでは行ってみたいとは思うんだけどな。このまま世界征服とかいけそうだ。そうしたら世界は俺のもの…なんか楽しそうだ」
彼は不敵な笑みを浮かべる。
今、この城に彼の敵はいない。一部を除けば、兵士は皆傀儡に、貴族は皆傀儡に、給仕を行うメイドや執事たちは傀儡に、一緒に召喚されている勇者さえも命令は聞くよう傀儡に。今この城にいるのは彼と傀儡のみといっても過言ではない。
「向こうにも勇者はいるんだろうけど、俺の強化した兵士には勝てないだろうしな」
彼はリードと話す前に一般の兵士を傀儡化してから【スキル譲渡】によって強化し、勇者のうちの転移が使えるものを使って最前線に送っていた。
今頃はその兵士たちが自分の命令した通りに街を攻め落とした頃だろうと彼はニヤニヤと笑う。悪魔になった影響だろうか、彼の精神構造は欲望へ傾きやすくなっていた。
「どうなってるかな?【魔眼:千里眼】!」
彼は傀儡の遠隔操作のために取った【魔眼:千里眼】を使い、攻め落とさせている街に視点を向ける。
そこには暗闇の中、赤々と火の粉を吹き荒らして燃える街があった。
「ククッ…クハハハ!やっぱこういうのは少数精鋭でやるべきだよな。奇襲をかけるのにそんなに人数いたらバレるし。つか、何より暴れさせるんだから他の奴らがいたら邪魔にしかなんねえし」
彼は火の手の上がる街を見て愉快そうに笑う。
この街を攻め落とすに当たって彼が命令したのはただ一つ、”壊せ”だ。迷宮にいた火龍を模して作られたゴーレム…レッドバーンゴーレムドラゴンのスキル【火吸収】を改良によって作り変えた【魔力転換:火】と【火精使役】をスキル譲渡によって与えて無限に炎を吐き出す化け物に仕立て上げた傀儡。体は一般人で貧弱だが、遠距離だから問題ないと思い送り込んだ彼の兵器と化した兵士だ。
「あとどれぐらい生存者が居るんだろうな?これって生物探知とかでわからね?」
『肯定します。【魔眼:千里眼】との同時使用を行えば可能です』
「なるほど。義腕と同じ要領か…あ、いけた。あと半分もいないってとこか。多分これって一般人だよな?降伏勧告とかすれば捕虜とかで捕まえられるか?」
『肯定します。一度戦闘行為を止め退却し、正式に使者を送れば可能かと』
「じゃあそうするか。ある程度距離を維持しつつ撤退しろ」
彼は千里眼の向こうにいる傀儡に向けて命令を下す。
ただ、本来これだけでは彼の思った通りのことは行ってはくれない。ただ命令通りに”距離を保って退却する”のみで、彼の思った通り威嚇しながら傷を負わずに退却し次に備えて待機するなんてことはしないだろう。だが、彼はこれをうまく命令の意思を伝える方法を思いつき、すでに実行していた。
彼は事前にこんな命令を下していた。「俺の命令から読み取れる意思を含めて行動しろ」と。これによりある程度は彼の考えを読んで人らしい判断をする傀儡となっているのだ。
まぁ、そのおかげで思わぬ行動をする傀儡もいるが、予想の範囲内だろう。
「じゃ、俺も向こうに行くか」
彼は転移の使える勇者を呼びに向かった。
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私、今年大学受験なんてものをしなくてはならず、更新が止まったり突然再開されたりするかもしれませんが、ご了承ください。




