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75.塾考しましょう




 「結局夜中ずっと駆け回っちゃったよ」


 僕は目の前にいる神野に向けて愚痴を垂れる。

 夜中、戦場となった隣の街が見えたからレイジュに報告、領主を叩き起こして状況確認、ギルドに緊急命令を出して、スラムに密偵と生き残りの受け入れを要請し、トップを集めて今後の状況の予想と対策を練ることになった。

 めんどくさいけど結構楽しかったよ。これからのことを考えるとね。



 「んで、なんで俺らの部屋にいるんだ?」

 「あ、そうそう。忘れ物を届けに来たんだよ〜。渡部君が昨日僕の家に財布置いていったからさ」

 「ああ、そこにあったのか。わるい」

 「今度忘れたら中身が減っても文句は言わせないからね」

 「気をつける」


 僕は渡部の財布をぽいっと放り投げて返した。

 


 「それで、俺たちはどうなるんだ?戦争がまた…始まるんだよな?」

 「そうだね〜。まぁ詳しい話は後で集まる時とかにされると思うけど、まずはこの街付近の警備の強化と他の街との連携とかじゃないかな?」

 「っていうことは俺たちも別の街に派遣されるかもしれないってことか…」

 「多分そんなことはないよ〜」


 多分だけどそうならないはずだ。

 この街周辺の領土問題は結構いびつなのだ。

 この街は一応共和国領で、南隣の街は王国領で、北隣の街は実は帝国領、あとは西に丘陵があって皇国領、東は共和国領だ。今は一応連合軍を組もうってことで共和国と王国と帝国が会談中なんだけど、勇者召喚ができる国が王国しかないってことでひとまず召喚された勇者が一番攻め込まれる可能性の高いこの街に集められて連合軍の準備が整うまでの間の期間は皇国の勇者に対抗する予定だった。ああ、王国軍も付いてきてるのは戦争になれてない勇者の補佐と見知った顔だから信頼しやすいって理由ね。きっと王国は共和国から結構なお金をもらってると思うよ。

 けど僕らが撃退しちゃったから別の場所から攻めてかかることになったのが今回の結果を招いたんだと思う

。ま、後悔も反省もしちゃいないけどね。


 で、そういう理由で共和国との国境を今回だけ見逃してもらって通ってるのに、今回の件であっちこっちに勇者を送るだなんだって言い出したら外務官から文句がきて大変なことになるんだろう。

 仮にも神野たち元勇者は今この国…むしろ人の中では僕らを除いた最高戦力と言っていい。こっちの準備が完全に整うには国同士のちょっとした意地の張り合いのせいでもうしばらく時間がかかるから攻め込む準備が整うまでしばらくここから動かせてはもらえないだろう。

 だからこの街と周囲の街同士の軽い連携が組まれるのと周囲の警備体制が強くなるぐらいだと思われる。



 「なんでだ?」

 「渡部君、ちょっと考えてみなよ〜。隣の街には帝国の軍が留まってたんだけど、そこが落ちたんだよ?多分だけどさ。そのせいで『なんで協力しなかったんだー』とか帝国の外務官が文句を共和国と王国に言うでしょ。そしたら王国と共和国は国境のせいでグダグダと意地の張り合いをしているのを理由に帝国を批難するでしょ。すると協力体制が帝国がちょっと不利になった状態で組まれるはず」

 「…そこまで考えるのを普通ちょっととは言わないと思うが?」

 「まぁ続きを聞こうよ。きっと皇国が次に狙うのはこの街の東にある街か南にある街。そこを攻められるのを防ぐために王国と共和国が取るのはなんだと思う?」

 「なんだ?」

 「自国の軍をそっちに回しつつ、王国は勇者を共和国は冒険者を軍人代わりに連合軍を作って皇国に攻め入ることだよ。帝国は不利な状況になってるから文句は言えないしね。だから勇者たちは基本的にこの街で待機させといて王国軍の半分かそれよりちょっと少ないぐらいの量が近いうちに戻ってくと思うよ」

 「なるほどな…なら俺らはこのまま残されるっていうことか?」

 「多分ね〜。まぁ、神野くんたちが心配することはないと思うよ。めんどくさいことは上がやってくれるし、神野くんたちは強いから険悪に扱われることもないと思うし。お、もう時間だ。僕は会議に行ってくる〜」


 僕は近くの窓を開けて、【空歩】で空へ駆け出す。

 家の屋根を幾つか飛び越えてギルドの前に着地、扉を開けてカランカラン…と聞き慣れた音と共に中に入った。



 「ハルフィ。みんなはもう集まってる?」

 「はい。もう集まったます」

 「なんか惜しい…じゃあもう行かないと」


 僕はハルフィをお供に会議室に向かった。

 階段を登り、扉の前に立つ。

 ハルフィが扉をノックした。



 「シンさんをお連れしたのです」

 「微妙に…ん?あってる?」


 許可が下りたので僕は中に入る。



 「シン様、遅いのではないですか?」

 「ちょっと勇者の方に事情説明に言ってたんだよ。見逃して?」

 「はぁ…そういったことは事前にお願いします」

 「ははは〜、ごめんね。じゃ、会議…っていうより防衛その他の件についての討論を始めようか」


 僕はいつもの席に座る。ちなみにその席は他の席より立派で議長用の席だったりする。

 ジールの秘書からコーヒーをもらい、それをすすった。



 「では、まずは領主側としての意見が聞かせていただたい」

 「だってさ、ヒーリガルばぁちゃん。ま、そこよりも先に王国と共和国からこういう時どうしろっていう命令がきてるのが聞きたいけど、いいよ。先にそっちから始めようか」

 「わかりました。まず、私たちはこの街の防衛を最優先に考えています。言い方を変えれば国の命令よりこの街を優先するという反逆行為とも言えるでしょう。ですが、私たちは民の安全を一番に考えているのです。軍備については私たちより詳しいこの街の兵士長に尋ねるのがいいでしょう。今日は街を守るためにすべきことを確認し、これからどうするべきかを話しにきました」

 「ふ〜ん。ヒーリガルばぁちゃんにしては珍しい。まぁいいや。ジール、これでいい?」

 「ええ。ありがとうございます」

 「さて…」


 僕は今いる人の出来ることを確認する。

 ギルド長、ジール・ストラゲル。この街の冒険者を動かせる。単独で動く戦力を動かせると考えるといいだろう。

 領主の妻、ヒーリガル・シェルビート。この街の兵士を動かせる。軍で動く戦力を動かせると考えるのがいいだろう。

 スラムのボス代理、おじさん…そういえば名前知らない。スラムの人を動かせる。密偵や情報収集に長けた人が動かせると考えるのがいいだろう。

 王国軍団長、レイジュ・ハガント。王国軍と勇者が動かせる。この街の防衛の要といえるが多分近いうちに半分ほど兵士を戻してしまうだろう。

 シェルビート兵士長 スベイル。この街の兵士を動かせる。ただし領主並びに共和国の許可なしに他の街の防衛に協力はできないからこの街限定の戦力。

 帝国軍兵代表、ジャミュアナ。何かを動かせる権力はない。ただ、帝国へ伝達はできる。


 あとジールの秘書とヒーリガルばぁちゃんの護衛がいるだけ。



 「じゃ、僕の方から幾つか聞きたいんだけどまずレイジュ」

 「はい。何ですか?」

 「王国から何か言われてる?言われてるならそのことについて教えてくれるかな」

 「…大変判断に困ります。私としては話したいのですが、王国軍団長としては話すべきではないと」

 「なるほどね。まぁ多分僕の予想どおりってところかな。じゃああとで僕だけに聞かせて。それなら問題ないでしょ?」

 「はい。わかりました。それなら大丈夫そうです」

 「次、ヒーリガルばぁちゃん。共和国からこういう時何かしろって言われてる?」

 「ええ、多少ですが言われてますよ。ギルドと協力して連合軍の準備が整うまで時間を稼げ、と」

 「ふ〜ん。じゃあいいや。多分そっちも僕の予想と同じように動いてる…」


 僕は会議をそこからおじさんに一任して考えを巡らせ始める。まぁ一応話は聞いてるし理解もしてるから問題はないよ。


 さてと。じゃあ僕の予想どおり共和国と王国が動いてるとすると、僕が神野と渡部に話した通りのことが起こる可能性がほぼ100%近い。僕の知ってるそれぞれの外務官たちの性格からしてこれは間違いなくこうなると言える。

 その場合、この街を囲う4つの街、王国領1つ、共和国領2つに兵士が派遣されるだろう。


 まず王国軍についてはこの街にいる王国軍の半数が王国領の防衛という名目で被害を避けるために戻されるはずだ。なにせ王国騎士団団長副団長の両方が今この街にいるからね。国の最高戦力とも言える2人を派遣してたんだから協力したっていう名目は既にできてるわけだし片方と軍を戻しても文句は他の国から言われないだろう。多分その場合はジント君の方が戻される。団長だから多くの軍を戻しても文句を言われない理由にできるわけだし。そうすると王国領の方との連携が少し取りやすくなる。定期的にジント君の方から伝令を送らせればどっちが攻められてもある程度の協力はできるだろう。だからこっちは特に考える必要はない。


 次が問題、共和国だ。多分この街に一番近い2つの街に結構多めの軍が配備されると思う。その場合多くの兵士がいても滞りなく命令ができ、指揮能力もある隊長格の兵士がそれぞれの街に置かれるはず。すると少ししたらこの街に協力体制とかの話が飛び込んでくるだろう。けど多分それは形だけの意味がないもののはずだ。今この街には勇者がいるし、王国軍もいるわけだからこの街が落ちた時は王国に責を押し付けるだろうからね。だから非常時の連絡は取れるけど本格的な協力は望めないだろう。まぁ代わりにこっちも兵が街の防衛で限界って理由と勇者とかをあっちこっちに動かせないっていう理由で協力しなくて済む。というわけで共和国は形ばかりの威嚇にはできるけどそれ以外は使えないと考えるべきだろう。


 最後は帝国。これに至っては何も期待しないのが正解。どうせ落とされた街の責任の押し付け合いでしばらくはゴタゴタしてるだろうし、そこで失った兵士をすぐに戻せるわけじゃないから連合軍ができるまでは兵士を集めるのに必死でこの街付近まで来ることはないと思われる。



 「う〜ん…となると今いる王国軍以外の兵士でこの街の防衛、後でレイジュから聞いて王国軍も組み込んで防衛作戦を立てるのが正解ってところかな?」

 「シン殿。どうかなされたか?」

 「いんや、ちょっと今置かれた状況の整理中。気にしないで話を続けて〜」


 現在の状況を考えてみよう。

 街の中でのテロ紛いな戦力を削る特攻隊を防ぐために兵士がある程度の量が巡回。それに加えてスパイとかの警戒のためにスラム街の連中があっちこっちで情報収集をしてる。

 外壁の外に数十名ずつの隊でどこから攻められても対応できるように警戒。さらに外壁の上から四方八方を監視。

 残りの兵士を訓練、および勇者の戦闘技術上昇のための練習台にしている。

 スラムに密偵として攻め込まれた街の状況と皇国の情勢を随時報告させている。


 実際今できる最高限度のことはこれくらいだろう。

 第一にこっちから攻め込めない以上できることは相当限られるのだ。今できるのは攻められた時に備えることより他ない。



 「…もしもに備えてこれからは神野たちもここに巻き込むべきかな。情報の伝達も楽になるし意外といい案を出すかもしれないし」 


 でもそうすると聴かせたくないことも聞かれちゃうんだよね。

 どこを捨ててどこを生かすとか。神野はそういうとこちゃんと理解してるから文句は言わないだろうけど、あんまり聞かれたくはないよね。

 というか神野って意外と割り切るのがうまいんだよ。勇者やってた時だって、敵を倒さないと自分が殺される。つまり敵を殺すのはおかしいことじゃないって殺すのは普通だって思ってたし、街の人たちが戦って死んでも自分たちが間に合わなかったせいだとか考えるくせにこれだけの被害で済んで良かったとかいうことだってあるし。割と現実主義者だよね、神野ってさ。


 ま、だから僕は割と信用してるんだけどね。人間なんて基本的に信用しない僕が。



 「よし、とりあえずはこんなところかな。で、意見はまとまりそう?」

 「まだ固まりそうではありませんよ。私たちは相手のことをよく知らないのでまだどうすればよいのかもよく理解していませんからね」

 「ふ〜ん。そうえいばそうだったね。ま、その辺は今度おじさんのとこから情報が回ってくるからそっちのことはその時にしよう」


 僕らは話を続けた。


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