74.終末を楽しみましょう
「ケーキ美味しかったね」
「未来も今度こういうの練習してよ。試食楽しみに待ってるから」
「えぇ…私まだ簡単な物でも精一杯なのに」
「俺も楽しみに待ってる」
「あ、神野くんはチーズケーキが、僕はタルト系が結構好みだよ〜」
「俺は…って先に新ちゃんに言われたな」
「私…も?甘い物は、歓迎…」
「…この場合俺は乗ればいいのか?」
クロリスの作ったケーキはなかなかに高評価だった。
まぁ何十回も練習した甲斐があったよね。うれし涙でクロリス泣きそうになってるし。
「さて、じゃあ続きに行こうか〜」
「続きってなんのよ?」
「プレゼントに決まってるじゃん。あ、ケーキまだ食べたかったら僕が作ったのがあるけど、ゆーちゃん以外で欲しい人は?」
「え…?私は?」
「だってどうせ食べるんでしょ?ほい、他は?」
手を挙げた人数を数えて僕は影人を操作してケーキを運ばせる。
わいわいがやがやしながらプレゼントが再開された。
「何よあれ?闇魔法?」
「ん?ああ、僕オリジナルのね。本当は攻撃用魔法だけど便利だからこうやって使ってるんだ〜」
「ガッツリ使用方法間違ってるのかよ⁉︎」
「まぁいいじゃん。さ、マリー。次は誰がいい?」
マリーがふと思い出したようにみんなの顔を再び見回してから、ゆーちゃんを指差した。
「ほぉほぉ。ゆーちゃんのか〜。ゆーちゃんは昔からこういうの選ぶの上手だし、きっと素敵な物をくれるよ」
「…えっと、そんなにハードル上げないで欲しい、かな。マリーちゃん、お誕生日、おめでとう」
「ありがとう、なの」
マリーはゆーちゃんからサッカーボールほど大きさの包みを受け取った。
それを開くと丸くデフォルメされた三毛猫のクッションが。ちょうどマリーが抱きしめてちょうどいいサイズで、見てて微笑ましい。
「…えっとね。私が昔、おばぁちゃんにねだって買ってもらったのにそっくりだったから…喜んでくれればいいな」
「あ、そういえば引越しの荷物片付いた後に行った時ゆーちゃんの部屋にいたね〜。そんなやつ」
マリーがそのクッションをぎゅーってしてて可愛い。
「しんちゃん、優菜ちゃんの家の入ったことあるのね?」
「そりゃ幼馴染だし?」
「普通少しは躊躇しないの?」
「だって幼馴染だし?」
「はぁ…少しは気にしなさいよ」
「……さ、次行こう〜」
いやね、精神的には半分同性なわけであんまり気にならなくなっちゃったんだよね〜。多分前の体だったら気にしてたと思うんだけどさ。
「じゃ、マリー。次は?」
「…ん」
「安井さんね〜」
「あ、私?じゃあこれ。お誕生日おめでとー」
「ありがとう、なの」
安井が渡したのは小箱。その箱の中にはスノードームが入っていた。
小さなお城に城下町まで入った手の込んだものだ。キラキラと光を反射して雪が舞っている。
「ごめんね。なんか私には特にこれといった理由はないんだけど、一目見てこれがいいなって思って選んできたの」
「ううん。きれい…なの」
「ありがとー」
「ははは〜。じゃ、後は僕とロメとテラとクロリスだね。あ、身内が最後になってるのか。マリーは楽しみは最後にとっておくタイプ?」
「ああ。確かに言われてみればそうか」
「まぁいいんだけど。じゃ、次は誰のがいい?」
「ん…」
「ロメだね〜」
「私ですか。では、こちらを。マリー様、お誕生日おめでとうございます。眷属一同からお祝い申し上げます」
「…?」
マリーはロメから小包を受け取りつつ、疑問符を浮かべた。
「ああ、他のみんなの分も一緒なんだよ。アルドとまだ紹介してない僕の家族たちね」
「わかったの。ありがとう…なの」
納得したような表情を浮かべた後、マリーは包みを開ける。
その中には羽ペンやインク、紙など筆記用具が一通り入っていた。
「こういったもので申し訳ありません。主があまりこういったものを用意していないようでしたので、私たち一同で製作させていただきました」
「あ、うん。ごめんね」
「一生涯使えるようなものを用意しましたので末長く使っていただければ幸いです」
「…?」
「まぁ、ずっと使えるから大切に使ってね」
「うん。わかったの」
「さ、次は誰?」
「ん…」
マリーはテラを指差した。
テラは待ちわびていたようで、ニッと笑うと走ってきてマリーの前に立つ。
「マリー、目をつぶって!」
「ふぇ?…ん」
「えへへ…いいよ。目を開けてー」
マリーの首にはキラキラと輝く水色の宝石のはまったネックレス。
これは僕が頼まれてテラで作ったネックレスだ。テラはもともとジュエルスライムという部類のスライムの最高位。流動性を持った宝石でできたスライムで、ちょっとめんどくさい手順を踏めば最高級の宝石が取り出せるのだ。それお使って作ったネックレスである。
「お守りだよっ!」
「わぁ…」
「マリーが幸せでいられるように願いを込めて産んだんだよ!」
「…産んだ?」
「神野くん、忘れてる?スライムだよ?」
「あ、ああ。そうだったわ。すっかり忘れてた」
キラキラと輝くネックレスに目を奪われているマリーを呼ぶ。
ていうか意外と絵になってるんだよね。マリーってもともと美少女だし、それがいろんなものに囲まれてるとより人形っぽく見えて絵画の1枚みたい。
「さて、じゃあ次はどっち?僕?クロリス?」
マリーはしばらく考え込んだ後、クロリスを指した。
「お。じゃあ、クロリス先どうぞ。どうらや僕はとりみたいだから」
「はい。わたしからは…これを」
クロリスが手渡したのは両手に乗るくらいのサイズの箱。
その箱を開けると蓋の裏には鏡がついており、箱の中には幾つかのリボンが入っていた。
「マリーちゃん、最近かみの毛がのびてきて、結んだらかわいいと思ったので」
「ありがとう、なの…結びかた、こんど教えてほしいの」
「はい!いっしょにやりましょう」
「ははは〜。なんかこういう子供同士のやりとりってほのぼのしない?」
「そうね。残念ながら同感だわ」
「さて、じゃあ最後は僕か」
僕はポーチの中から少し大きいサイズの袋を取り出す。
「まぁ、子供がもらってもそんなにうれしくないかもしれないね…」
僕はそれをマリーに渡した。
マリーが開けて中身を見れば、中から20着ほどの服が出てきた。
「おようふく…なの?」
「マリー、ちょっと立ってみなよ」
「ん…」
いやぁ、やっぱり成長してるよね。さすがは獣人系亜人種。
スカートはもともとロングに近かったのに膝下ぎりぎりぐらいになっちゃってるし、手は長袖が七分袖に。まぁそれはそれで似合うんだけど、ちゃんとした服着ないとそのうちキツくなっちゃうでしょ。
「足、サイズ合ってなくない?腕の長さとかもさ。ということで服にしたんだよ」
「ありがとう、なの」
「…ちょっと待ってくれない?そんなに大量に買ってお金とか大丈夫なの?服って確かこの世界だと相当高価だったと思うわ。どう見ても古着じゃないわよね、それ」
「そうだね〜。まぁ問題は全くないよ。多分、掛ってる費用からするとむしろ僕はかなり安いほうだしさ」
「どういうことよ?」
「自作だからだよ〜。材料自体は大量に買えば店員さんがおまけしてくれたりするから、結構安く済んだし」
服が高い理由はその製作にかかる手間とかのせいだ。
この世界にミシンなんて便利なものはないし、僕も作らなかったし、僕より前の召喚された人たちにも作った人がいなかった。おかげで未だに服は全部人が1つ1つ手縫いで製作している。だから高価なのだ。そのために古着屋がこの世界では一般的。
だがしかし、製作する手間賃さえ除けば布自体結構安いものだし1着買うお金で10着近く作れちゃったりする。
その結果がこれ。今回は少し大きめのサイズで作ったから、またしばらくは新しい服を作らないでもない丈夫だろう。
「ほんとしんちゃんって多才ね…」
「それはありがと〜」
「皮肉よっ!ほんと、私たちが色々とお金をやりくりして買ったのがアホみたいじゃない」
「そんなことはないよ〜。僕にはこういう風な物しか思いつかなかったんだし、マリーだって喜んでるしさ」
マリーのほうを見れば、僕らが喋ってるのをそっちのけでクロリスと遊んでいる。
「うぅ…そうだけど、そうだけど…あーもう、アホらしい。いいわよ!」
「ははは〜。さて、じゃあ次は何しようか?色々とパーティゲームを作ってみたんだよ」
「おおっ!さすが新ちゃん、何があるんだ?」
「今出すからちょっと待って〜」
僕らはそうしてマリーの誕生日を祝った。
わいわいがやがや、楽しいひと時っていうのは過ぎるのが早い。
僕らみたいに長期間を生きていると、その時間が一生を占める割合が減って余計に短いような気がする。まぁきっとそんなことはないんだろうけどね。時間は全ての人に平等だと僕は思ってるんだしさ。
みんなが帰り、マリーとクロリスとテラは疲れて眠り、パーティの後の残る食堂にいるのは僕とロメだけにになった。
「主、後は私が片付けますのでどうぞお休みください」
「いいよ。どうせ寝れないんだからさ」
「それは…いえ。ではお願いしましょう」
微妙な表情を浮かべたロメが僕に軽く頭を下げた。
僕は軽く笑って請け負い、散らかった包装紙や食べカスなどを集める。
「ねぇロメ〜」
「どうかしましたか?」
「そういえばなんだけど今頃ルディはどうしてるんだろうね?新しく世界を作るって言ってたけど、もうあれから600年ちょっとが経ったよ」
「そうですね…キャルディ様は主と生きている長さが異なりますので、未だ同じ世界に滞在してるのではないでしょうか?」
「あ〜。そうかもね。僕はルディに比べるとそこまで長いわけじゃないし、時間感覚もまだ結構違うから」
まだ飽きずにその世界で遊んでるのかな?
どうせなら一緒に楽しみたかったと今になってちょっと思う。
これはゲームだ。世界を盤に人を駒とした戦略ゲーム。
CPUとやってもいまいち面白みに欠けるような気がしてならないのと一緒で、一般人とやっても面白みにかける。どうせなら僕とほど対等に戦えるようなプレイヤーを用意するべきだったかな。
まぁ今となっては随分と遅すぎる話なんだけどね。
「あ、忘れ物発見〜。渡部くん、アホでしょ?これは忘れちゃいけないよ」
「何をお忘れになったのですか?」
「見てこれ〜。財布」
「はぁ。それは確かに忘れてはならないものですね」
「掃除が終わったら届けに行ってこようかな」
僕は財布をポーチに放り込んで引き続き部屋の片付けをする。
ゴミをまとめてゴミ袋に入れて、皿を厨房に持って行って、軽く床を掃いて、テーブルを拭いて、飾りを外して…
「ふぅ…綺麗になったかな?」
僕の目の前には以前と同じようにゴミひとつない綺麗な食堂。
これでよし。
「じゃあ、僕は忘れ物を届けに行ってくるね〜。あ、ついでに夜中暇だから適当に時間も潰してくる」
「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
僕は残りの細々としたことをロメに任せて部屋を出る。
ちょっと長めの廊下を歩き、重い扉を開けて外に出てきた。
星が綺麗だ。
「今何時だろ?『ステータスプレート』…あらら、もう11時だ」
片付けに意外と手間取っていたみたいだね。マリーたちが疲れちゃってお開きになったのが10時少し前。結局1時間も片付けに費やしたことになる。
もう寝ちゃったかな?いや、さすがに高校二年生にもなって11時には寝てるってどんな健康優良児さ。まだ起きてるはず。
「でももう時間も時間だし、ちょっと急ごうかな」
【空歩】で宙に踏み出す。
そして、街の上空を歩いて赤い光に気がついた。
「空が赤いね…この方向は確か…名前は忘れたけど街があったはず。向こうはここを避けて侵略を始めたのかな?でも向こうにもいくらか兵士が待機してたはず…」
僕は考えを巡らせる。
赤い光の方向にはそこそこ程度の規模の小さな街があったはずだ。けれどそこにも規模が小さいからそこまでの量ではないけどある程度の兵士が待機していた。それなのに火の手が上がって攻め込まれて危機的状況みたいに見えるってことは、おそらく大量の閉量で押しつぶすような戦法をとってきたのだろう。というかそれ以外の方法が取れるとは思えない。こないだの件で勇者は当分来ないだろうからね。
それと攻め込まれたなら早馬がこちらに向かってきているはずだが、すでに大きな被害が出ていることから短くない時間が経過していると思われるのにこの街で兵士が騒ぐのは聞こえない。
つまり伝達係は潰されたと考えるのが妥当だろう。ならばもうあの街は落ちていると考えたほうがいい。
「…ちょっと仕事が増えたね」
どうやらゲームが再開されたようだ。
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