73.祝いましょう
神野たち到着からしばらく経った日の太陽が沈んだ頃。
「マリー。誕生日おめでと〜」
僕の声の次の瞬間、花火が打ち上がる。
赤黄色緑…ドーンと打ち上がる花火は綺麗だよね。うるさいって文句が来ても知ったこっちゃない。マリーの誕生日なんだから盛大に祝わないと。それに僕のおかげで花火が観れたんだからむしろ感謝してほしい。
「ふぇ…?」
僕に手を引かれて食堂に連れてこられたマリーは何が何だかわからないような表情を浮かべている。
まぁそれもそうだろう。たぶんマリーは自分の誕生日知らなかっただろうからね。
食堂は飾り付けられ大量の料理、パーティハットをかぶったクロリス、ロメ、テラ、アルド。さらに神野たちマリーとそこそこ仲のいい勇者パーティもマリーを出迎える。まぁアルドが変な感じになっているのは責めないであげてほしい。甲冑がパーティハットをかぶったっていいじゃないのさ。
「ははは〜。まぁマリーは知らなかったかもしれないね。ステータス開いてごらん。年齢が1つ上がってるはずだよ」
「『ステータス』…本当、なの」
「ちょっと色々とやって調べちゃった。勝手にやっててごめんね?」
「ううん。ありがとう、なの…」
マリーは僕の腕にしがみついた。
喜んでいるみたいで良かった。これで拒否されたら僕泣いちゃうよ。
「さ、マリー席について。今日は主役なんだから〜」
「わかったの…!」
マリーは僕が引いた椅子に座る。いつもより一層豪華な食事が並ぶ。
「さて、じゃあ改めて…「「「「「マリー、誕生日おめでとう」」」」」
僕らはマリーを祝う。
まぁなんでここまで大勢になったのかというのにはちょっと理由がある。本当は僕たち数名で細々とやろうと思ってたんだけど…いかんせん、僕はそんなものをやったことがない。
一応参加したことはあるよ?ほら王族とか貴族って基本的に僕の友人だから子供の誕生を祝う会には呼ばれるの。けど、僕が開いたことはないし、祝う会じゃなくって喜ばせる会ってのはなおのことね。だからその辺に詳しそうな女子に聞こうということで結城とか安井に聞いてみたわけだよ。
で、こうなった。
「じゃ、まずは…ご飯?」
「なんで疑問系なんだよ⁉︎新ちゃんが司会やるっていうから俺らが任せたんだろ」
「ははは〜。なんか緊張するじゃん?というわけで、今日のご飯はロメじゃなくって僕らが作ってみたよ。手の込んでるのは僕で、他のサンドイッチとかの軽いものはみんながね」
「ちょっとしんちゃん、それは言わないでよ。私たちが頑張ってないみたいじゃない」
「結城さんは頑張ってなかったでしょ?料理できないんだし」
「う、うるさいわね」
「ははっ。まぁとにかく食べようぜ。いつも拓巳がしんちゃんの料理がうまいって言っててずっと気になってたんだよ」
「そうだね。じゃあ、いただきます」
僕らは料理に手を伸ばす。
クロリスと楽しそうに話しながら食べているマリーが見えて嬉しい。僕はほのぼのとしながら食事を楽しむ。
「あ、神野くん、これあげる」
「ん?何だこの黒い塊?」
「結城さん作、卵焼きもどき」
「…うん、見なかったことにするわ」
「あ!ちょっとしんちゃん!それ、捨ててって言ったじゃない」
「いや、神野くんに食べさせたら楽しそうだな〜って」
「楽しそうじゃないわよ!ってそこ!食べようとしないで!」
「…苦みだな」
「ああ、苦い」
「神野くんと渡部くんはこう言ってるけど?」
「うるさいわよっ!」
結城の作って失敗した卵焼きを興味半分と未だに残る恋心で食べた2人の感想。
いやぁ、残しといて正解だよね。だって珍しいよ?顔を赤くしてる結城なんて。
「しんちゃん!なんだこれ!うまいぞ!」
「石井くん、落ち着こうか?」
「あ、悪い」
料理に手を伸ばしてる石井が騒いでる。そういう反応は嬉しいんだけど、もう少し落ち着こうか?
で、なんだろう?どの料理?
「あ、それ僕が昨日狩ってきたグランドカウだね。見つけるの大変だったんだよ〜。とりあえずレアに焼いてチーズとハーブとかで作ったソースかけてみたんだけど、どう?試作なんだよね。一応悪くないから出してるけど」
「めっちゃうまい!俺こういうチーズ系のやつ結構好きなんだよ」
「それは良かった」
確かに言われてみると皿にとってる料理にチーズ多いな。
ピザもどき、グラタン、ラザニア、チーズオムレツ…その他。というか全部チーズ系だったね。思い出してみると城の僕が作った朝食の時もこないだの歓迎パーティの時もそんな感じだったような気がするし。
「マリー。どう?」
「おぃふい…の」
「食べながら喋らなくっていいよ。ゆっくりね」
はふはふと口いっぱいに頰張ってるマリーを見てほっこりする。
こうやって美味しそうに食べてくれると作った側も嬉しいんだよね。作りがいがあるし。
「あ、そうそう神野くん」
「ん?なんだ?」
「こないだ面白いもの買ったからあげる」
「こ、今度はなんだ?」
「じゃ〜ん。仮面」
「うわぁ…イタいな。そんなものどこで見つけてきたんだよ」
「というわけでつけてみよ〜」
僕はポーチの中からパピヨンマスクを取り出して横座っている神野の顔にいきなりにつける。
銀色に赤い飾り毛とかがついた痛々しいやつね。
「あっ!ちょっ⁉︎外れなっ⁉︎」
「ちょっと細工してみたんだ〜。これで素性がばれずにヒーローができるよ」
「しないからな⁉︎ってちょっとマジで外れないんだが!」
「頑張って〜。ちなみにつけた人じゃないと外せない仕組みだよ〜」
「じゃあ外してくれよ⁉︎」
「やだ。神野くんはしばらくそのまま〜」
なぜって?マリーが面白そうに笑ってるからだよ?
マリーの楽しみのために犠牲になるのだ!
「さて…渡部くん」
「なんだ?俺にもなにかする気か?」
「いやぁ、別に。ただもう1個料理が…」
「やめなさいって言ってるのが聞こえない?」
「ははは〜、聞こえるわけないじゃないのさ」
「聞こえときなさいよ!」
僕がもう1枚皿を取り出そうとしたら止められた。
ちなみにこっちは卵焼きもどき二号。
「まぁなんだ…がんばれ」
「ああ〜!」
「ははは〜。結城さん、安井さんを見習うといいよ」
「うるさいわよ!」
「あ、あの…春ちゃん、今度教えてあげるから」
「未来まで乗らないで…」
結城撃沈。今度しっかりできるようになってから出直すといいよ。
そんなこんなでパーティは進む。
「ふぅ…食ったな」
「ああ。そうだな」
「神野くん、デザートはいらないの?」
「大丈夫だ。まだ食える」
「あんたたち相当おかしいわ…」
ということで、次はケーキです。
「ロメ〜。あれ運んできて〜」
「承知しました」
ロメが席を立って、厨房へ向かう。
マリーはいつもよりちょっと多いぐらい食べてたけど、たぶん成長期だから大丈夫でしょ。
「マリー、まだ食べられる?」
「うん。大丈夫、なの」
「そか。じゃあよかった。ね?クロリス」
「…はい」
「……?」
ロメがカートを押して入ってきた。
そこの上には普通より少し大きいサイズのケーキが乗っている。そして何より少し不恰好。
「と言うわけでケーキだよ。今日のは特別なんだよ。ね?クロリス」
「はい。その…わたしが作りました…」
「いやぁ、マリーの誕生日教えた次の日にケーキを作りかた教えてってきてさ〜。頑張ったんだよ、クロリス」
マリーが…というか僕とロメとクロリス以外の全員が驚いたような表情を浮かべる。
まぁ、半分以上は僕がやったとはいえど、子供じゃできないようなところだからそこは許してあげてほしい。
でも飾り付けとかは全部クロリスがやってたよ。
「そういえばなんだけどさ、この世界にも蝋燭とか消す習慣があるんだよね〜」
僕はポーチの中から8本の木の枝…綺麗に切りそろえて同じような形状になったものを取り出す。
「確か…”その者の未来を願って身内が木の枝を削り、それに火を灯して生を祝う”とかいう感じだったっけな。ということで僕が作ったよ。残念ながら…ううん、そうじゃないかな。マリーの家族は僕らだからね」
「あり…がと」
「さ、火を灯そうか」
僕は蝋燭代わりの枝をケーキに添えて魔道具で火を灯す。
ああ、さすがに木の枝だから刺すのは衛生的にどう?ってことで刺す風習はないんだよ。
「…で、これを消したりするのか?」
「神野くん、”火を灯して生を祝う”っていうのは木が燃え尽きるように人生を謳歌するっていう意味があるんだって。消すの?」
「いや、消さない!絶対消さない!」
「だよね〜」
火を灯し終えると、僕らはただ火を見つめるだけになってしまう。
さすがに暇だからこの辺でプレゼントでもあげるのがいいのかな?貴族のパーティの時は初めに親に奥離者をあげちゃうからいつあげるのか正解なのかよくわからないんだよね。
「じゃ、火が消えるまで見てるのもなんだし、マリーにプレゼントをあげよう。別に燃え尽きるまで見続けるっていう風習じゃないし」
「なんだよ…俺はてっきりずっと見てるもんかと思ったわ」
「昔はそうだったらしいけどね。さて、じゃあみんなプレゼントは用意してある〜?」
僕はみんなの顔を見る。みんなは軽く頷いたので大丈夫のようだ。
それぞれがプレゼントをカバンやら廊下やらから取り出して持った。
「じゃあ、マリー。誰のからほしい〜?僕らの順番であげても面白くないし、マリーが選ぶといいよ」
「面白い…の?」
「だって僕らが順番にあげても普通でしょ?何か斬新さが欲しくない?」
「そう、なの?」
「そうだよ〜。ほら、誰のがいい?」
「んっ…」
マリーはしばらくみんなの顔を見回し、少し考えるそぶりを見せた後結城を指した。
「だってよ結城さん。よかったね一番に選ばれて〜」
「え、ええと…それは喜んでいいのかしら?」
「さぁ?一番大きいもの持ってるから気になったとかじゃないの?でもとりあえず喜ぼうか。マリーが一番に選んでくれたんだよ」
「…そうね。何かすごくどうでもいいようなことを言われたような木がするけど気にしない。一番なのよ。マリーちゃん、お誕生日おめでとう」
そう言って結城が渡したのは長い棒状の包み。
「ありが、とう…なの」
「うん。ほら、開けてみて」
「わかったの!」
マリーは包みを剥いでいく。
その中から出てきたのは…
「杖、だな」
「な、なによ?悪い?」
「いや、悪くはないけど…子供にそれってどうよ?」
「うるさいわね。私たち魔術師には魔術を覚えたての子供にこれからの成長を祈って媒体になる物を贈る習慣があるのよ」
「へぇ〜。ちゃんと考えてるね〜」
「当然じゃない」
「春ちゃん照れてる?」
「もぅ!未来やめてってば」
「ははは〜。だってよマリー。これから魔法の練習頑張ろうね」
「うんっ!」
「あら、意外と喜んでいらっしゃる…まぁいっか。じゃあ次、マリー誰のがいい?」
次にマリーが指差したのは、神野。
大きい物から順になのかな?
「じゃあ神野くん、いってみよ〜」
「おうよ。マリーちゃん誕生日おめでとう」
「ありがとう、なの」
マリーは神野から…言い方が悪いんだけどちょっと大きいゴミ箱サイズの箱を受け取った。
リボンを解き箱を開けてみると、
「家ね?」
「おうち…?」
「ああ、それなんだけど…言ってもいいか?」
「マリー聞いちゃってもいい?」
「うん」
「実はな、俺と和也と渡部で向こうの世界にあった人形の家とかの女の子向けのおもちゃあっただろ?あれをバラバラに買ったんだ。俺が家で、和也は人形、渡部が小物って具合に」
石井と渡部が包みを渡す。
その中には可愛らしい小さなぬいぐるみたちと木製の小さなテーブルや椅子や皿や食べ物が入っていた。
「ふ〜ん。だってよマリー。そういえば僕はそういう物買ったことなかったね。これでクロリスと色々と遊べる物が増えるよ」
「うん。楽しみ、なの」
「いやぁ、気が回らなかったよ。僕はあいにくそういう物には疎いからね〜」
「子供の世話は得意なのにな」
「あれは別だよ〜。絵本でもなんでもやり方は色々あるしね。さ、次に行こう〜…と思ったけど、火が消えたね。先にケーキにして残りは食べてからにしようか」
僕は貰ったぬいぐるみと家に夢中なマリーとクロリスを脇目にケーキを切り分けて取り分けていく。
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