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70.ゴタゴタしましょう




 「さてと。じゃ、ちゃんとした理由。聞かせてくれる?」

 「はい…実は」


 僕の部屋。

 わざわざ新しいソファーを1つ出して、そこにクロリスを座らせた。僕はその前のベッドに腰掛けて影人(シャドーマン)を操作している。

 で、なんでこんなことをしているのかというと理由は至極単純なこと。あの過保護なフレルドが僕の所に行かせるためごときに幼い自分の娘を戦争中に白から出すはずがないと思ったのだ。それに昨日クロリスが自分で言った話にも嘘があったのがわかってたし。それで夜マリーが寝てからクロリスを呼び出してお話をしているわけだ。

 ま、さすがに小さい子を夜中まで起こす気はないから今はまだ8時半だけどね。



 「魔力を出せない?どういうことかな?出そうとしても根本的に出ないの?それとも別の原因で出せないの?」

 「出すとすごくいたいんです…」

 「じゃあ、たぶん魔力拡張症だね。悪いけどちょっと出してみてくれる?」

 「…は、はい」

 

 クロリスがちょっと手に力を入れつつ魔力を放出しようとしたのが見え、その幼い体から本来出るべきじゃない量の魔力が流れ出ようとして詰まるのが見えた。

 その瞬間クロリスは悲鳴を押し殺した声を出し、その場にうずくまる。



 「うん。間違いないや。じゃあ、フレルドがなんかの病気じゃないかって深く考えて僕の所にこさせたわけだね?」

 「は、い」

 「まぁ一言で言うなら全く問題はないね。実は人間種には少ないけど獣人種とかには結構ありがちな症状なんだよ。原理は細かく言ってもわからないと思うから説明はしないけど、コツと感覚さえつかめればすぐに治るようなものだから安心してね。治療法は大きく分けて3つほどあるんだけどどれがいい?痛いのを我慢して無理やり直すのと僕が毎日ちょっとずつ魔力をクロリスの体に流して体を慣らすのと成長して勝手に治るのを待つの。ああ、ちなみにかかる時間は最初に言ったのが一番早くて最後のが一番遅いよ」

 「はぁ…はぁ…それは、どのくらいかかるのですか?」

 「最初のはたぶん3日4日で治せる。まぁ、すっごい辛いけどね。2番目のはたぶん1ヶ月ちょっとぐらいかな?最後のはクロリスが、そうだね…たぶん3年後、11歳くらいになればだいたい治ると思うよ」

 「そう…なのですか」

 「どうする?勝手に治るのを待ってもいいけど、それだと治るまでの間は魔法一切使えないよ」

 「…わかりました。では、二つ目を」

 「了解〜。じゃ、ちょっと手を出してくれる?」

 「え…?あ、はい。わかりましたが、どうしてでしょう?」

 「今日から始めるよ。少しでも早く魔法使いたいでしょ?」

 「ありがとうございます」


 クロリスの表情がパァッと明るくなった。

 いやね、さっきまで僕は別に怒ってるわけじゃないんだけど説教してるみたいな雰囲気だったんだよ。別に僕は悪くないよ?ただクロリスが怒られると思って恐悚してただけなんだからさ。

 僕はクロリスがそっと差し出した右の手のひらを両手でつかみ、そこに少しずつ魔力を流していく。



 「痛くなったら言ってね〜」

 「は…ぁ…い」

 「まぁちょっと辛いけど、そこは我慢ね。少しずつ頑張ろう〜」


 やっていることは単純だよ。ただ僕の魔力をクロリスの魔力の流れ出る箇所…まぁ全身なんだけどそれでもイメージとしては汗の出る汗腺とか毛穴みたいに体のいたるところに魔力が流れる出る場所が存在しているわけで、それを僕が今現在に流れられる量の限界量を流して鍛えている。

 魔力拡張症っていうのはその魔力を体外に流出させることのできる量が少ない人が起こしやすい症状なんだ。魔力は人によって一度に体外に放出できる量に差があって、それが多い分には一向に問題はない…というか魔法の構築に有利だし威力の高い魔法も使いやすくてむしろ利点が多いんだけど、少ない人には問題がある。魔力っていうのは体を構成する物質の最終状態。実は扱いとしては汗とかの仲間なんだけど、それを体外に出せる量が制限されるとどうなるかというのは想像に難しくないと思う。



 「い゛っ⁉︎」

 「あ、この辺が限界か。じゃあ少し弱めるから、しばらく耐えてね」


 ま、魔力はそこまでひどいことにはならないよ。魔法が使えないだけで基本的に体に変化はないからね。

 小さい頃から少しずつ体外へ出せる量が多くなっていって一定量を越えれば魔法が使えるようになる。ステータスには表示されない隠しステータスみたいなもの。多ければそれだけ一気に魔力を出せるから魔法を構築する時間も減るし、多くの魔力を込められて魔法の威力も上がる。さっきの利点はこんなのが理由。

 で、出せる量が少ないと細い血管に大量の血が流れて頭痛が起こるのと同じように魔法を使おうとして魔力を流すと痛みが発生しるっていうのが魔力拡張症。

 でもこれにかかる大体の人はそこまでひどい痛みは感じるわけではない。せいぜい針に思いっきり刺される程度。頑張れば出せる。

 じゃあなんでクロリスがそんなに痛そうだったのかといえば、クロリスはもう1つ別のものも患っていたのだ。

 魔力渦流症。これは自分の意思で出そうとした量よりもずっと多くの魔力が体外に出されようとする、というもの。おかげでクロリスは魔力を出そうとするたびに身体中を針で刺されるような痛みを味わっていたのだろう。

 …うん。将来的に痛みに強くなれるよ。



 「さて、今日はここまで。大丈夫?」

 「は……い……」

 「まぁ、今日からこれを毎日やることになるから頑張ってね。あ、1ついいことを教えてあげると普通に放置して治すより僕がやる方が魔法を使うのに有利になるよ」

 「…?」

 「今言ってもきっとわからないと思うからまた理由とかは説明しないけど、大規模な魔法とかが使えるようになるね」

 「……そ…れは?」

 「まぁ今から講義してもいいんだけど疲れたでしょ?今日は休むといいよ。部屋まで連れてってあげる」

 「ピャッ…⁉︎」

 

 僕はベッドから立ち上がって、椅子にかろうじて座った状態でぐったりしているクロリスをお姫様抱っこして歩き出す。

 …まぁ、随分と面白い悲鳴が聞こえた気がしたけど聞かなかったことにしておいてあげよう。


 で、僕がやるといい理由だね。これはただ単に普通に治るのを待つだけだと勝手に体から放出される分が鍛えるだけ…ようするに人が立っているだけで足の筋肉を鍛えてるようなものだから必要最低限度までしか鍛えられない。それに対して僕がやれば大きな魔法を一瞬で構築できるレベルまで鍛えられる。せっかくだから必要以上に鍛えるつもりだけからね。戦場を一瞬で焼け野原にするのだって夢じゃない。

 ちなみにフレルドは僕が小さい頃からいろんな武術と暇つぶしに教えていったらこの国最強になったよ。まぁ、元々の武術が魅せるための武術が多いせいか実戦で戦うと最強じゃないのが残念。



 「じゃあおやすみ。いい夢をね」

 「は…ぃ。ぉやすみ…なさい」


 まるで全力で走った後みたいに疲れ切ったクロリスをベッドに寝かし、軽く布団をかけて部屋を出た。



 「さてと。じゃあ出かけるかな」


 僕はそのまま一階に降りて玄関に向かう。今日は領主の家にお呼ばれしているのだ。なんでも勇者と軍を歓迎するパーティーを行うとのこと。

 全く、今日は忙しいね。朝は会議、昼からジントくんの訓練、夜はクロリスの治療をしてから領主の家でパーティー。

 いや、まぁ本当は忙しくなかったんだけどさ。昼からは今日はゆっくりできたんだよ、本当は。ただなんか乗り気だったジントくんを徹底的に叩き潰してるうちに楽しくなっちゃって、結局身のこなしから何までしっかりと教え込んだんだよね。別にいいんだけど、なんというかこんな状態でパーティーなんて行きたくはないかな。



 「しかも結構近いから行かないとヒーリガルばあちゃんに怒られちゃうし…」


 僕の家と領主の家はそこそこ近い。だから面倒くさかったなんて理由で行かなかったら今度の会議のときに礼儀とかを第一に考えてるヒーリガルばあちゃんに怒られる。

 これまた面倒くさいんだよね。だったらおとなしく行って楽しんだほうがマシじゃない?

 ということで領主の家に向かっている。夜もそこそこなのにもかかわらず、騒ぐ声がこっちまで聞こえてきた。これって近所迷惑だよね?確かにまだ9時前だよ。けどもう小さい子は寝る時間だよ?うるさいよ?だから僕は家に防音結界張ってきたよ。

 まったく。戦争前だっていうのにみんな気を抜きすぎだね。

 …あ、でもむしろこれが最後のって考えるとおかしいことじゃないのか。死ぬまでにしたいことは早めに済ましておくことを僕は勧めるよ。



 「はぁ…とりあえず主催者が困るまで好きなものでも食べよう。うん、そうしよう」


 領主の屋敷の門に着いた。

 鎧を着た兵士が2人だけ悔しそうな表情とともに門番をしている。今日が番じゃなかったら参加できたのに残念だね。あ〜、かわいそう。



 「じゃあとりあえずヒーリガルばぁちゃんの所に行こうかな。挨拶しないと絶対あとで文句がくるし」


 兵士に門を通してもらい、中庭に向かう。

 行かなかったら行かなかったで礼儀がどうので怒られそうだからね。なんで僕のほうがえらいはずなのに怒られるんだろ?


 パーティ会場として使われている領主館はもともとこの街の設計が僕のせいでそれを統括する場所ってことでそこそこ…ていうかかなり広い。小さな城と言ってもいいぐらいに広い。ああ、なんでこんなに広いのかは聞かないでほしいかな。気分とノリでやったらこうなっちゃったんだから。

 で、そんな領主館の中庭は25mプールが約4個分ほどあり、そこを様々な料理の乗ったテーブルが占領している。銀色の四角い皿に辺りを照らす光が反射してなんともパーティー的な雰囲気を放っていた。



 「さてと、どこかな〜?」


 パーティ会場の入り口を抜けるとあまりに多くの人がいてどこにいるのかを見つけるのが大変そうな予感。

 …面倒くさいな〜。



 「…しょうがない。諦めて」

 「諦めて…ではありません」

 「あ、いた」


 そんなことを思ってとりあえずメイドさんのトレーから飲み物をとって前を向きなおしたらヒーリガルばぁちゃんがいた。



 「いたではありません」

 「ああ、そうだったね〜。本日はお招きいた…うん。ありがとう」

 「はぁ…」

 「いいじゃないのさ。僕はこういうの嫌いなんだよ。なんか堅っ苦しくて」

 「例えそうだとしても言うのが礼儀というものです」

 「そう?まぁとりあえず繁盛?盛り上がる?…してるみたいだし、僕も勝手に楽しませてもらうよ〜」

 「ええ。ですが、その前にするべきことを忘れてはいませんか?」

 「ん〜……なかったよ」


 そういえば校長先生のお話がごとく僕も何か話せっていう話があったような気がするけど…気のせいだよねっ!



 「こちらへ」

 「あ〜…人さらい〜」


 僕はメイドさんとヒーリガルばぁちゃんに連れて行かれる。

 パーティ会場から一旦領主館の中に連れて行かれ、1つの部屋に連れて行かれた。



 「まずはその服装からです」

 「え〜?なんかダメ?」

 「当然でしょう。まるで冒険者か魔法使いのようではありませんか」

 「う〜ん。僕は結構どこでもこの格好だからこれで一応正装なんだけど」

 「はぁ…場と時をわきまえなさい。貴方はこの場では主催者側の人なのですよ。それが参加者よりも劣るような服装で」 

 「なるほど。確かにそれはよろしくないね。ヒーリガルばぁちゃんにも迷惑かかっちゃうし」

 「やっと理解しましたか…では、今メイドに服を用意させますから」

 「あ、それはいいよ『召集(コール)怨精霊(プロメテウス)』」


 僕の前に赤黒い魔法陣が浮かび上がり、そこから黒い煙霧とともに執事が現れる。



 「お呼びでしょうか?主」

 「いやね、パーティでこの格好だと主催者側として面子が立たないからって」

 「なるほど。では…こちらをどうぞ」


 ロメがジャケットの内ポケットから1つの指輪を取り出す。

 これはロメ発案、僕開発の魔道具”怠惰の衣装箱”だ。まぁ名前からある程度は想像できると思うけど、いちいち着替えたりするのがめんどくさいから指輪一つ一つに1セットの衣装を登録してしまってあり、付けて使うだけで一瞬で着替えられるというもの。構造としては”異空間倉庫”と”アイテムルーム”の応用。



 「『仮装(セット)』…さて、これでいいかな?」

 「え、ええ」

 「ありがと、ロメ。『帰還(リターン)』」


 ちなみにロメはこういった時どういう服が正解かなのかをよく理解してなかった僕のために呼ばれただけである。いや、貴族やってた時もこういうのを全部ロメに任せてたから、今更ね?



 「では、行きましょう」

 「うん。で、何をするんだっけ?」

 「式辞です。きちんと考えてきたのでしょうね?」

 「…ははは〜。まぁ、慣れてるから大丈夫。歩きながら考えるよ」


 もう何も言うまいと前を向いて歩き出してしまったヒーリガルばぁちゃんに続いて僕は歩き出す。

 

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