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69.勇者神野の物語〜その6〜



 「遅いわよ」

 「いや、別に遅刻じゃねえだろ?てかまだ昼にすらなってないし」

 「女性を待たせるなんて言語道断じゃないの?」

 「普通に結城が早すぎるだけだろ」


 昼食をとり、俺らはギルドに集まっていた。

 久しぶりな雰囲気だ。アルコールの混じった鉄臭さが特に。



 「というか他は?」

 「まだ来てないわ。昨日の皇国で召喚された勇者ならそこにいるけど」

 「だよな。だいたい集合が13時過ぎって言われたのにその30分も前に来る方がおかしいから」

 「そう?」

 「そうだろ」


 俺は依頼書の貼ってあるボードを眺めて依頼書を見ながら返答する。

 本当に懐かしい。最近はギルドには来ないで迷宮っていうのに潜ってることが多かったおかげでこの世界に来てから来るのは初めてかもしれない。

 


 「あ、そういえばまだギルドカードって使えるかな?」

 「なにそれ?」

 「ここの登録カード。まだ使えるのかなって思って。ちょっと行ってくる」


 俺はネックレスからギルドカードを出し、それを持って1つの空いている受付に行った。



 「ようこそ、冒険者ギルドへでしょう」

 「でしょう?」

 「また…違ったです?」

 「あー、まぁいいや。このカードってまだ使えるかな?」


 なんだろう?新人?

 というか丁寧語としておかしくないか?



 「少々、お待ちです」

 「お、おう」


 やっぱりおかしいよな?

 俺はカードを渡しながらそんなことを思う。なんか指摘したくてたまらない。

 変なことに几帳面な性格のせいだろう。



 「う〜。終わった〜。椅子に座りっぱなしって疲れるね。ねぇそう思わない神野くん?」

 「まぁな」

 「うわ〜、適当に返すね〜」


 後ろから聞き覚えのある声がしたから振り返ると案の定新がいた。

 そんなことを言いつつ新は近くのテーブルに座り、メニューも見ずにウエイターに何か言ってる。常連だろうか?ギルドで会議をしてるって言ってたわけだし。

 そのまま結城と話を始めた。



 「お待たせ…しまた」

 「しまた…うん。気にしたら負けな気がしてきたわ。どう?使える?」

 「今確認をとったら使用は可能だったです…ただ、最終依頼完了報告?が602年前になりますので、ランクがリセットされるそうます?」

 「ああ、そっか…まぁいっか。ありがとう」

 「ご用は…他に?」

 「い、いや。ないよ?」

 

 俺の方を見てる目が怖かった…

 ないと言えと言わんばかりの威圧感を感じたよ…


 俺がないと言ったらすぐにカウンターから出てテーブルに…って新のところだな。俺も行くか。



 「神野くんどうしたの〜?」

 「いや、その子は?」

 「僕の知り合いの兄弟?みたいな感じかな」

 「なんで疑問なんだよっ」

 「孤児だからね〜」


 新は膝の上を占領しているその受付嬢…って幼な⁉︎さっき見たときは俺より少し低いぐらいだった目線が今じゃかなり低くなってるし。台でも使ってたのか?

 って、そんなことじゃなくて。また新は一体なにをしたんだ?



 「で、どういう経緯でそうなったんだ?」

 「えっと…病気を治したとかかな?いろいろあるんだよ」

 「お、おおう。そうか」


 新はその子の頭を撫でている。

 黒いものがピコピコと…ケモミミか!よく見れば尻尾もあるし。黒猫っぽいな。



 「お待たせしました。アップルパイです」

 「料金はレイジュにつけといて〜」

 「かしこまりました。ではごゆっくり」

 「…って、さらっと料金人に押し付けたな」

 「報酬だからいいんだよ〜。僕が兵士を鍛える報酬〜」

 「そうか…」

 「しんちゃん、ところでその子はなんなのよ?さっきから当然みたいに膝の上にいるけど…しかもなんかゴロゴロいってるし」

 「ここの受付嬢見習いだよ〜。というかその話さっきも神野くんにしたじゃん」

 「いや、そういうことが聞きたいんじゃないと思うぞ?」

 「そうなの?」

 「そうよっ!助けたのと知り合いの妹っていうのはわかったわ。でもそれがどうしてしんちゃんの膝の上にいることになるのよ?」

 「ん〜。懐かれた。いいじゃん、かわいいよ?」

 「ふにゅぅぅ…」


 新が黒猫少女の頬を引っ張る。



 「まぁ、かわいいな…うん。そこは否定しない」

 「ね、ねぇ…触ってもいい?」

 「ハルフィに聞いて〜」

 「ハルフィ?…あ、その子の名前ね。ハルフィちゃん、触ってもいい?」

 「や…」

 「だってさ〜」


 黒猫少女…ハルフィは結城が伸ばしていた手をパシッとはたき落としてそう答えた。

 というかその子についての話はどこ行ったんだよ。見事に逸らされてんな。



 「なんでこいつが良くて私はダメなのよ…」

 「いや、俺に聞くなよ。てか新ちゃん、そこに放置されてるのは?」

 「ん?ああ、勇者たちね〜。自由にしてていいよって言ったんだけど、朝からあんな感じ」

 「いや、見ず知らずの場所に放置されたらそりゃそうなるでしょ」

 「そう?お〜い、こっち来て〜」


 新は4人を手招きする。

 4人はこっちに歩いてきた。



 「何かしないの〜?」

 「いや、無茶なこというな。俺ら金ねぇんだから」

 「……あ。そうだったね〜。いやぁ、ごめんごめん。すっかり忘れてた。ギルドカードは持ってる?」

 「いや、持ってねぇから」

 「じゃあみんな登録して来なよ〜。いろいろ役に立つよ」

 「わかった。で、料金は?」

 「僕を指差してレイジュにつけておいてくださいって言えば大丈夫」

 「はいはい」


 大橋が受付に向かい、それに続いて全員が受付に向かった。

 竹内が俺と新に申し訳なさそうな表情を浮かべているのが気になる。



 「フゥーー!」

 「なんでよぉ〜」

 「しつこいと嫌われちゃうよ?」

 「まだやってたのか…」


 新の膝の上でハルフィが結城を威嚇していた。

 どんだけ触りたいんだよ。

 いや、俺も耳とか尻尾とかが気にならないわけじゃないけど、前に獣人から触られたりするのは嫌だって話を聞いてるからな。

 …って、新お前ほんと何したんだ?



 「ふぅ。ごちそうさま。じゃあちょうど来たし行こうか〜」

 「来た?…ああ、ジントか」


 新の目線を辿って後ろを向けばジントが鎧と武器を持って俺の後ろに立っていた。

 こうやって上から見られると威圧感あるな…



 「さ、移動しようか〜。ハルフィ、鍵は…持ってるね」

 「準備がいいな。で、どこに行くんだ?」

 「ここの地下だよ。神野くんは知らないかもしれないけど今のギルドって地下に訓練室が準備されてるんだ〜。しかも神野くんが前に話してた死んだら外に追い出される系の結界付き」

 「マジで実装されたのか…」


 俺が新と大会の時にした話の1つだ。ラノベにそういうのがあったなと思って話しただけなんだけど、本当にできちゃうなんてな。

 石造りの階段を下って地下に降りる。薄暗い通路を歩き、少し歩いたところで新が立ち止まった。



 「さて、じゃあハルフィみんなを観覧席に連れて行ってあげてくれる?」

 「ん…わかった」

 「ジントくんは僕とこっちね」

 「ああ、わかった」


 新はジントを連れて目の前の入り口から中に入って行った。おそらくステージと観覧席は違う入り口なのだろう。



 「こっち…ついてきて」

 

 ハルフィは新が入って行った入り口のすぐ横にある別の入り口を開けて中に入る。

 俺らもそれを追っていく。開けたドアの目の間にはいきなり石の階段があった。設計に文句を言いたいが黙って階段を上って上に向かう。



 「好きに座ってて」


 階段を上った先には円形のステージを囲むように観覧席が並んでいた。

 見た感じ学校とかの校庭といい勝負の広さのあるステージが地下にもかかわらず魔道具の光に照らされて外と大差ない明るさを保っている。観覧席からステージを見ると結界のようなものがステージを覆っているのがわかった。多分これがあいつが言ってた死んでもうんぬんの結界なんだろうな。 

 俺は適当な場所の椅子に座った。観覧席は一応で付けたのか硬くて座り心地は悪い。



 「あ、出てきたわね」

 「そうだな」


 俺の横に座った結城がそう言った。

 ステージの脇から2人の人が入ってきている。片方は白いローブをまとっただけで武器は持っていないあいつ。もう片方は銀の鎧に身を包みかなり大きいハルバートを片手に持っているジントだ。

  


 「どっちが勝つと思う?」

 「さぁ?私に聞かれてもわかるわけないじゃない。どっちとも戦ったことがあるわけじゃなのよ?」

 「それもそうか」


 結城に聞いたのはどう見えるかが聞きたかったんだ。

 無手の新と巨大な武器を構えたジント。手軽なローブを羽織っているだけの新としっかりと急所を守る鎧を着たジント。

 どう見ても形勢の不利に見えるあいつがどう見えるかが聞きたかった。



 「さて、みんな準備はいい?」


 新はこちらを向いて手を振る。

 俺らの反応を見て大丈夫と判断したのか、ジントの方を向き直った。



 「じゃあ始めようか〜」

 「シン殿、武器は?」

 「ん?ああ、何か持った方がいい?僕はスキルで…ほい。こんな風に武器が作れるんだよ」


 シンが右手を前に出すと、そこに短剣がパッと現れた。

 多分昨日見たステータスにあったスキルから考えるに【武器創造】だろう。

 そんなことを思っていると新が手に持っていた武器が消滅する。時間制限でもあるのだろうか?



 「そうか…」 

 「で、準備はいいかい?」

 「ああ、構わない」

 「じゃあどこからでもかかっておいで〜。気軽に相手してあげるから」

 「私に先手を譲ると…?」

 「うん。ああ、カウンターがうまいとかならこっちから行くけどさ」

 「別にそうではないが…いいのか?」

 「いいよ〜。さ、おいで。お兄さんが胸を貸してあげよう〜」

 「では…参るッ!!」


 ジントがその手に持ったハルバートを下段に構え、新に向かって突進する。そして、そのまま振り上げて新の首を狙った。



 「よっ…とと」


 新は一歩退いて難なくそれを躱した。

 ジントがさらに追撃し、槍で突き、斧でなぎ払い、切り上げ、振り下ろす。



 「…反撃しないのか?」

 「いや、様子見〜。どのくらいかなって。まぁ大体はわかったよ」

 「そうか…フンッ!」

 「おっと」


 ジントが振り下ろすハルバートを躱し、新は右手に短剣を構えた。

 そしてそれを投擲する。人とはそれを何事もなく弾いた。



 「そんなものでは私に傷は与えられないぞ?」

 「まぁまぁ。これからだよ」


 さらに右手に短剣を構え、投げる。

 構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げる。構え、投げ………

 同じ動作が嫌という程繰り返されていく。ジントはじりじりと後退しつつその短剣を全て弾き飛ばす。

 そしてジントがステージのほぼ中心に来たとき新の投擲は止まった。



 「魔力切れ…か?」

 「いや、準備完了だよ」

 「準備……ッ⁉︎」


 新が右手をスゥ…と上げる。すると投げた短剣全てが宙に浮き上がった。

 そしてヒュンヒュンと空を切る音を奏でながら、ジントを中心に球体を形勢する。



 「さ、これで終わりだよ」


 そのまま新が右手を横に振るうとその短剣全てがジントに向けて飛んだ。

 土煙が上がり、それが晴れると短剣が刺さって削れたステージと新のみが立っていた。



 「な、何よあれ…チートじゃない」

 「…だよな」

 「しかもしんちゃんは1回もちゃんと戦ってないじゃない。これじゃあ強いも弱いもないじゃないの。あれをどうにかできる人なんてかなり限られるわよ…」

 「まぁそうだな…」


 パッと見ただけでも短剣は弾丸と同じぐらいの速度で飛んでいるような気がする。

 言うなれば人に向けて機関銃の弾が短剣になったものを全方位から一斉に放ったようなもの。こんなもの強い弱いも何も関係ない。



 「さ、これで1対大量でどうにかできる理由の説明になった?ああ、もっとも戦争の時は…こんな風に斧とか戦槌とかいろんな武器をもっと大量に作ってやってたけどさ〜」


 新の周囲をポンポンと生み出される武器が舞う。

 …魔法すら使ってなくてこれかよ。しかも新って魔物使いだよな?



 「もう一戦。頼めないだろうか?」

 「ん?もう帰ってきたの?大丈夫?結構体力とか消耗してない?」

 「大丈夫だ」

 「そか。じゃあいいよ〜。今日はやることないから気が済むまでは付き合ってあげる」

 「そうか。感謝する」

 「じゃ、今度は僕もちゃんと戦ってあげるよ」


 そう言って新はジントと同じようにハルバートを作り出して構える。



 「大抵の武器の心得はあるから、指導してあげる」

 「胸をお借りする」

 「さぁ、来い」


 ジントが新に向けて走り出す。


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