68.勇者神野の物語〜その5〜
「こちらの部屋です。ではごゆっくりお話しください」
「あ、ああ。ありがとう」
俺らはさっきの部屋と同じような部屋…ただし中心に置かれているのは円卓ではなく長いテーブルのある部屋に案内された。
「とりあえず座るか…?」
「そうね。そうしないと話も進まなそうだし」
俺らは椅子に座る。それを見て新曰く捕獲された勇者が俺らの前に座る。
「で、どうするの?」
「どうするって言われても…ああ、まずは自己紹介か?俺は神野拓巳。王国側の勇者でこの世界で600年ぐらい前にも1回召喚されてる。よろしく」
「これって私もするの?…まぁいいけど。私は結城春菜。同じく王国側の勇者ね。ただ召喚されるのは普通に初めてよ」
「ということで、そっちも自己紹介してくれるか?お前とか君とかじゃ話しづらいし」
「そう、だね。私は竹内茜。この子はティア。私の使い魔なの」
「わ、わわ私は、えと、その速水京子とい、言います!す、すみません、わ、私、そのあ、あがり症で…」
「私は大野颯姫です。どうぞよろしくお願いします」
「俺は大橋夏樹だ。よろしくな?」
なるほど。で、誰と誰が付き合ってんだろうな?
多分見た通りなら大野と大橋だな。横に座ってるし、大野がずっとお大橋のことを見てるし。
「まぁでも話をしたいって言っても何を話すってのもないよな。いきなり見ず知らずでその上戦ってたかもしてない人と打ち解けろって言われたから言ってはみたものの」
「そう?私はあるわ」
「へぇ。どんな?」
「これからどうしたいかについてね。私たちは…と言うより私は早く帰りたいから戦ってるわ。どうして戦うのかって聞けばその人の考えがわかると思わない?」
「なるほど。つまり結城は敵に帰れるぞって言われて確証があれば寝返るわけだ?」
「べっ、別にそうじゃないわよ!私はみんなと一緒に帰りたいの」
なるほど。確かにどういう考えをしてるのかってのはわかるような気がする。
まぁとりあえず全員に聞いてみるか。
「じゃあ、誰からでもいいから戦う理由について話してくれないか?簡単にでいいから」
こういう時って日本人は積極性に欠けるって俺じゃなく新がよく言ってる。
確かになとも思うけど、割と仕方がないような気もするんだよな。
「じゃあ…私から。私には戦う理由がないかな。そんなに帰りたいってわけでもないし、戦いたいってわけでもないし」
「それって話を根本的に終わらせてね?」
「そうね」
「うっ。で、でも召喚されたんだからこの戦争を見届けないような気がして」
「ほうほう?」
「だから、援護でもなんでもいい。けど、最後まで行く末って言うのかな?しっかりと見たいと思う…かな。できれば一番近くで」
「そっか」
俺も最初に召喚された時、勇者なんだから魔王と戦わなきゃいけないような気がしてそれで最初は戦ってたし、別にいいんじゃないだろうか?できることは少ないかもしれないけど、それでも自分のできることをやろうっていう意志は伝わってきた。
「いいんじゃないの?」
「そうだな。まぁ責任感が強い子なんじゃない?」
「そうね」
俺らは小さい声で耳打ちし合う。
「じゃあ。次頼む」
「え、ええと、私が…」
「おう。ゆっくりでいいから」
「は、はい。え、えぇと…私は、まだわかりません。戦いたくないんです。だから、戦争を止めたい…みんなが分かり合えればいいな、って思ってたんです。けど、松井くんにこの世界の宗教は決してわかり合えないって言われちゃって…」
「新ちゃん、確かにわからなくもないけど…で、今はどう思うの?」
「今でも戦争を止めたい、と思ってます。けど、どうすればいいのか分からなくって…」
「そっか。1つ聞きたいんだけど、向こうにいた時どう思ってたの?」
「戦争を止めたいって…どうして戦争してるんだろうって思ってました。けど、松井くんに話を聞いて、どうしても皇国の人が悪いように思えてきちゃって…私、卑怯ですよね。戦争を止めたいけど戦いたくないし、分かり合えればいいって言いながら、私だって皇国が悪いって思ってて…」
「しょうがないんじゃないかな。俺だってそう思うかもしれない。きっと考える時間が足りなかったんだよ。誰だって常に正しいわけじゃない。ゆっくり時間をかけて考えてみなよ」
「ありがとう…ございます」
なんというか…純粋なんだろうな。
損な性格。自分で全部背負い込んでしまう。だけどその重さを1人じゃ支えられないような人。
「なんだろうな。普通にいい子じゃん」
「そうよね。私もそう思うわ」
とりあえず次に行ってみようか。
「じゃあ次の人頼む」
「さすがに何も言わずに黙ってんのも良くねぇよな?ということで俺が言うわ」
「おう。じゃあ頼む」
「俺は…こいつが守りたい!」
そう言って大橋は隣にいた大野の肩を抱いた。
やっぱ正解だったみたいだな。
「彼女…か?」
「あ、ああ。みんなには言ってなかったんだけどな。はぁー、すっきりした」
「え、えぇと…みんな、知ってましたよ?」
「そうだね。あんなに颯姫がぴっとりくっついてるのにわからない人はいなかったんじゃないかな?」
「マジか…結局俺の努力は無駄だったんだな」
「ごめんねなっちゃん。私、しっかり隠せてなかったみたい」
「いいよ。さつきは悪くねぇし。で、こんなんでいいか?」
「おう。だいたい理解した。じゃあ、大野が向こうに付くって言ったらどうするんだ?」
「何が何でもこっちに戻す」
「お、おおう。随分とはっきりしてるな」
「まぁな。だって向こうに着いて、新一がいるこっちに勝てるわけねぇじゃん」
「な、なるほど…」
これは…
「大丈夫だな」
「拓巳も随分とはっきりしてるわね」
「新ちゃんが向こうに付くのは絶対ないからな」
「それも…そうね」
マリーちゃんのために向こうを潰すことはあっても、マリーちゃんを連れてて向こうに付くとは到底思えない。
至極当然だな。
「じゃあ最後、頼む」
「私ですね。私はなっちゃんと一緒にいたいんです…」
「ああ、もういいや。あとはだいたい想像できるわ」
俺に彼女がいたことはないけど、いつも見てるからな。
こういう奴らの考えだったらある程度想像できる。
「なんか普通に大丈夫そうな気がしてきたな」
「奇遇ね。私もよ」
「というか、そっちから聞きたいことってなんかあるか?こっちからばっかり質問してるし」
「それより拓巳だけ言ってないわよ」
「ん?ああ、俺が戦う理由か…別に俺も戦いたいわけじゃないんだよな。俺は前にいろんな人に助けられてるから、いろんな人がいていいと思ってる。それを人間種じゃないからダメだって言うのは間違ってると思ってるから…って所だな」
「以外と普通ね」
「普通で悪かったなっ⁉︎」
いいだろ別に。
俺だっていろいろ考えたんだぞ。自分と同じ”人”を殺す…そう考えた時しっかりとな。
「何かある?」
「あの、しんちゃんについて…聞いてもいいかな?」
「いいけど、私じゃなくってこっちに聞いてよ。私はそこまで長い付き合いじゃないから」
「まぁ俺も中学の時からの付き合いだけど」
「それって割と長い方だと思うわよ?」
「そうか?」
「ええ」
「あの〜?いいかな?」
「あ、わりぃ。まぁある程度なら答えられるから、ドンとこい」
あいつのことを人に聞かれるのって意外とないんだよな。
なんというか、変な気分だ。
「じゃあ…しんちゃんって昔からああだったの?」
「ああだった、ってどういう?」
「えっと、なんて言えばいいのかな?誰かをその…殺してもなんとも思わない、みたいな…ご、ごめん。なんか言い方悪かったよね」
「ああ…どうだろうな。昔っから新ちゃんはああだったわけじゃないから。むしろ前は和也とかみたいな正義バカに近かった気がするな」
「…ぇ?」
「つい最近渡部にもした話なんだけどな、俺って昔はいじめられてたんだ。それをあいつは助けてくれたんだよな」
「へぇ。そんなことがあったのね。拓巳がいじめられるなんて想像できないわ」
「昔は俺って根暗で地味だったんだぞ。なにせ小学校の卒業アルバム見て俺だってわかったやついないからな」
「今度見せなさいよ」
「断る!断固拒否だ」
なんか昔の自分の写真とかって恥ずかしくね?
「ケチね」
「うっせい。で、答えとしてこんなでよかった?」
「あ…う、ん」
「そっか。他に何か聞きたいことってある?」
「じゃあ…どうしてああなっちゃったの?」
「あー…それって答えないとダメかな」
「……?」
俺にはこれを気軽に話せない。
あいつの個人的なことだとも思うし、俺自身にも罪悪感と悔しさがにじむ。
「半分は俺が原因っていうか…なんつうか」
「言いなさいよ。そこまで聞いたら気になるじゃない」
「はぁ…人のトラウマ?なんかそういう感じのものを気軽にえぐるなよ」
「それは…なんかごめん」
「いや、いいよ。で、新ちゃんがああなった理由だっけ?あんま言いたくないんだけど…掻い摘んで言うなら中学の時、あいつの妹が不良にさらわれて、助けに行ってボコボコにされた」
「そ、そんな…」
「一応助けられたけど、その怪我が治った後からああなった」
「そ、そんなのあんまりじゃないの」
「何が…なの?」
「新ちゃんの妹、去年交通事故で亡くなってるんだ。だから今あいつには家族と呼べる人はいない」
だからだろうな。
あいつはマリーちゃんとかを過剰なくらい大切にしてる。今のあいつにとっての大切な家族なんだろう。
全ては俺らが助けられなかったせいだ。
「ご、ごめんなさい…ごめんなさい…」
「ど、どうかしたの?」
「私…何も知らないのにしんちゃんにいろんなこと言ってた…」
「しょうがないよ。大丈夫だろ。新ちゃんはそんなことで何か言うようなやつじゃないよ」
「そうね。むしろ嬉々として罪悪感増やしにかかってくるんじゃない?」
竹内が話せないような状態になってしまったので、話がそこで途絶えた。
完全に空気が凍りついてる。どうにかして空気を変えないと…
「やっほ〜。どう?終わった?…ああ、神野くんは男として終わってるね」
「いや、今何を想像した⁉︎違うからな⁉︎俺は何もしてないからな⁉︎」
「わ〜。神野くんが竹内さん泣かした〜。い〜けないんだ〜。先生に言っちゃお〜」
「小学生かよっ⁉︎」
「とりあえず神野くんのお父さんには連絡を…」
「いや、勘弁してくれ。というか話を進めろよ⁉︎何かあってきたんだろうが」
「ああ、そうだったそうだった。すっかり神野くんの凶行のせいで忘れてたよ」
「違うから。別に俺が…いや、俺のせいではあるんだけど、なんつうか」
「まぁどうせ僕の話でもしたんでしょ?神野くんの表情からわかるよ。神野くんって本当わかりやすいよね〜」
新は俺に困り笑いを浮かべた。今にも消え入りそうな表情。久しく見たような気がする。
悪いな。俺がいつまでもこんなんじゃいけないってのに。
「まぁそうだな…わりぃ、勝手に話しちゃって」
「いいんじゃない?僕は別にどうも思ってないし、神野くんが罪悪感で死にそうにならないなら好き勝手き風潮すればいいし」
「いや、死にそうだからやめとくわ。で、何の話だ?」
「あ、そうだったね。明日模擬戦をギルドでやることになったから見たければ来るといいよ。時間は昼過ぎ。僕の事情によって多少変動ありだよ〜」
「おう。で、こっちはどうすればいいんだ?」
「どうだった?別に悪いわけじゃなかったでしょ?」
「まぁな。じゃあ俺らが面倒を見ろと?」
「うん。まぁでもその辺は大丈夫だよ。さっきレイジュとジントくんに話をしてきたからね〜。とりあえず今日はうちにいる。明日の模擬戦の時にそっちが連れて行ってくれる約束をしてきたよ〜」
「そっか。わかった」
「じゃ、また明日ね〜。夕食、楽しんでね?」
「あ、やっぱりデルピエールって」
「うん。僕の店だよ〜」
新が俺に向けてピースしてきた。そして楽しそうにニコッと笑う。
「じゃあ、また明日な」
俺たちはそのあと幾つか話をした後捕獲された勇者たちと別れて宿に帰った。
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