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63.働きましょう


 「ふむ…明日ってところかな」


 僕は誰一人いない食堂でつぶやいた。

 昨日のアレのせいで今のところ僕に寄ってくるやつはいない。

 ちょっと寂しい。まぁ、マリーとテラは普通に近づいてくるしそこまででもないと言えばそうなんだけどね。



 「じゃあ、最終確認はしないとかな〜」


 一応、勇者たち全員のこれからについての話は数日前に確認している。が、多分明日かそこらで神野たちがつくと思われるので最終確認をしておこうと思う。ちなみに神野たちが来るのがわかったのは耳についているキューブのもう一方の方につけた機能だ。

 ほら、よくドタキャンする人とかいるじゃん?突然今になって心変わりした人もいるかもしれないし、話はしておこうと思う。



 「ロメ」

 「…ここに」


 僕が呼ぶとスゥ…と僕の影の中からロメが出現した。今やるべき仕事がなくなったから僕の影の中に帰っていた様子。

 まだ何かをやってるものだと思ってたので、すぐに出てきてちょっとびっくり。



 「ふぅ。ちょっと勇者たちを招集してくれる?神野たちがもう少しでこっちに来るから最後に話をしておこうと思って」

 「承知しました。しばしお待ちを」


 ロメが部屋を出て行く。

 さて、残りも食べようかな。

 


 「ふむ。今日もロメのご飯は美味しいね」


 僕が何もしないでいた…というか別のことにかかりっきりだった間は全部ロメが請け負ってくれていたせいか、前よりも上達してる気がする。

 無能な上司の部下って成長するっていうけどこういうことなんだろうね。別に僕は無能じゃないけどさ。



 「おにぃちゃん〜」

 「ん?マリー、どうかしたの?」


 僕がロールパンをちぎってスープにつけているとマリーが走ってきた。

 そのまま僕に飛びつき、手を取って振り回しながら興奮気味に話し始める。

 どうしたんだろうね?マリーにしては珍しい。

 


 「あのね、クロリスちゃんがね、来るの」

 「ふ〜ん…ん?クロリス?」

 「うん」

 「へ、へぇ〜。なんで?」

 「王さまに、おにぃちゃんがいるから大丈夫だって言われたのって言ってたの」

 「ははは〜…まぁ大丈夫だけどね。よかったね、マリー」

 「うん」


 嬉しそうにマリーが頷いた。

 まったく、フレルドめ。戦争中だよ?僕がいるからって楽観しすぎだよ。確かに負けも被害もないだろうけど。というかクロリスは魔法とかの勉強はどうしたのさ?ほっぽり出してきた?

 …とりあえず、来たら聞こう。

 


 「…ま、マリーが嬉しそうだしいっか」

 「……?」

 「ははは〜。気にしな〜い。マリーはもうご飯食べた?」

 「食べた、の」

 「そか。じゃあ、お外でテラと遊んでおいで〜」

 「うん。わかったの」


 マリーがトテトテと走って行った。

 さて、神野たちだけだったら放置しようと思ってたけど、王女様がいるんじゃ話は別だね。明日は迎えに行かないと。今のうちに悪魔の隻眼(イビルアイ)でも出して監視しておこうか?着く時間もわからずにマリーを門の前で立たせるのはしたくないし。



 「う〜ん。他に遠くを見る用のものあったっけな〜…?」


 しばらく片目が使えないのは好ましくない。

 いや、別に困ることは少ないけど、ずっと閉じてるのがめんどくさいんだよ。あれって魔法の力で開けないようになってるんじゃなくって自分で閉じてるんだよね。ちなみに開くと激痛が走る。

 僕は別にMじゃないし?



 「主。お連れしました」

 「ん?あ、呼んできたのね」


 僕は手に持っていた最後の一切れで皿をきれいにして口に放り込み、コーヒーカップに手を伸ばす。



 「やっほ〜。さて、とりあえず座ったら?」

 「あ、ああ…そうだな」

 

 元気?覇気?がないね。

 僕がやったことでも聞いたのかな?いや、それはないか。結構精神的に追い詰めたし、しばらくは話せるような状態じゃないでしょ。

 ん〜?なんだろ?



 「さてと。まず、明日王国側の勇者たちが到着する。というわけで今日でみんなとはお別れだよ〜。鼻血くんは今日のうちに宿を見つけて出て行きなよ。たぶん明日以降は軍の住居として使われちゃうから早めに確保しとくといいよ。で、それ以外は明日の朝か昼かはわからないけど王国の勇者たちと合流。それでいい?心変わりしたなら今のうちに言ってね?僕は神野くんたちに話をしないといけないんだからさ」


 誰も何も言わないので僕が一人一人顔を見ていくと、全員が首を横に振る。

 僕はポーチから銀貨10枚の入った袋を出して鼻血くんに向かって放った。



 「じゃあ大丈夫だね。さて、鼻血くんには銀貨10枚を進呈しよう〜。さ、早く行くといいよ。前に行った場所くらいはわかるでしょ?その辺を中心に探すといいと思うよ」

 「…ああ」

 「なにさ?みんなして何か言いたそうな顔して。言いたいことがあるなら言ってくれないと通じないよ?いや、その気になれば魔法で心は読めるんだけどさ」

 「なぁ………シンディは、どうしたんだ?」

 「ゴーレムにして知り合いに譲った。大丈夫、信用できる人にあげたから壊されたりはしないと思うよ〜」

 「それって…つまり…」

 「つまり?」

 「殺したってことか……?」

 「嫌だなぁ。別に殺してないよ?というか僕は最初に言ったじゃん。殺すなんて程度じゃ許さないってしっかりとさ〜」

 「…っ!なんでそんなことができるんだよ!たった少しの間だけだったけど、一緒にこの家にいたんだぞ⁉︎それを………っ⁉︎」


 鼻血くんは途中で叫ぶのをやめた。



 「なにさ?どうかしたの?言いたいことは最後まで言いなよ」


 そして一瞬だけ表情がこわばり、少し震え気味になっている声で僕に尋ねた。



 「……1つ。1つ聞いていいか?」

 「どうぞ〜」

 「お前は俺らのことをなんだと思ってるんだ?」

 「ん〜…そう聞かれると答えに困るね。割といい奴ら、元敵キャラ、僕の友人に託される人、戦争を左右できる能力はないが意志はそこそこある奴ら…他にも色々とあるよ」

 「お、お前…」

 「まぁ、簡潔に言い表すなら”ゲームのCPU”だよ。仲間にしたり、チームに加えたり、倒したり、敵になったり、話しかけて情報を得たり、攻略しないと話が変わったり…そんな感じにこれからをちょっとだけ左右できそうな存在」

 「なんなんだよ…なんなんだよ、お前は!」


 鼻血くんがガタンと音を立てて椅子を倒しながら立ち上がる。

 その表情はよくいる正義感あふれる主人公面をしていた。気に食わないな〜。この物語の主人公は神野くんなのに。呼ばれた原因も、フラグを立ててきたのも、先頭に立つのも、ゲームの勝者も。

 僕のルールに従わないのはダメだよ?



 「元英雄かな?それとも現貴族とか?」

 「だからって…そんな考えで俺らを」

 「僕は君らの数百倍生きてるんだよ。考え方なんて君らとは次元が異なる。理解されようとは思わないから安心して君らの人生を歩むといい。僕は君らに何かされない限り手を出すつもりはないからさ〜」

 「手を…⁉︎それじゃあまるで俺らが何かしたら…」

 「手を出すよ?僕のものに手を出してみろ。この世のものとは思えないほどの苦痛を与えてやる」

 「…………わかった」


 鼻血くんはすっごい苦い表情とともにその手に持った袋を持って食堂を出た。

 階段を上っていくのが見えたから多分荷物をまとめに行ったかな。



 「じゃあ、あとは言いたいことある?ないなら僕はやることをしに行くんだけど〜?」

 「…ねぇ、しんちゃん。やることって何?いつもそうやってどこかに行ってるみたいだけど、何をしてるの?それも私たちには言えないようなことなの?」

 「ん?別にギルドのギルド長室で会議、そのあとはギルド内でこないだの先頭の時の兵士たちの訓練とこれからくる王国軍の話をして、一旦昼食、その次は道具屋とかを回って戦闘によって蹴散らされちゃったりした薬草分とかの補充と作業の手伝い、あとはスラムのボサボサくんに訓練とその愉快な仲間たちの住む場所の修復作業…あとはないかな?うん。今日はこれぐらい」


 最近夜中に暇つぶしに行ったらボサボサくんが訓練をつけてくれって言い出して、別に弟子を取る気にはならなかったから戦い方だけ見てあげてる。魔導義手の調整と経過観察のついでだけどね。さらにそのおまけとして住んでるボロ屋の修復を手伝ってる。いや、さすがに柱が屋根を支えてるだけって家とは呼ばないと思うんだよ?



 「…ぇ?」

 「ん?どうかした?」

 「なんで、そんなことを……?」

 「だって原因の大半は僕じゃん?僕が頑張らなかったらギルドは1人で勝手に潰れてたけど、それでも手を出したのは僕だし、兵士の訓練は数十年前からずっとやってたことだし、道具屋とかの人手不足は僕の作戦で死んじゃった人が出たせいだし、ボサボサくんは根本的に僕のせいだし…ね?」

 「そんなこと…でも、それをしんちゃんがやる必要なんてっ!」

 「だって暇なんだもん。じゃ、僕はギルドに行ってくるね〜。ロメ、あとは任せた〜」

 「承知しました。いってらっしゃいませ」


 僕は飲み終えたコーヒーカップをテーブルに置き、立ち上がって食堂を出る。

 残る3人も何かを言いたそうだったけど、面倒だし、時間もないから放置。どうしても言いたければあとで僕の部屋にでも来ることだね。



 「アルド、行くよ〜」

 『了解しました、主人。して、マリー様は?』

 「ああ、聖霊たちに任せてあるから大丈夫。アルドには見えると思ったんだけど?同じ霊系統に属してるわけだし」

 『…なるほど。これは過剰戦力ですね』

 「ははは〜。さ、今日も兵士たちの訓練相手を頼むよ。ちゃんと殺さないようにね」

 『了解しました』


 僕はアルドを引き連れて家を出た。2階の窓…多分テラの部屋からマリーとテラが顔を出して手を振っているのが見える。僕はそれに答えつつ、ギルドに向かう。



 「おじぃちゃん、今日も元気だね〜」

 「まだまだ若いもんには負けんよ。ほい、綿菓子」


 道を通ると最近顔見知りが増えたなぁ、なんて思う。

 露天の前を通ればいつものように元気に綿菓子を作ってるおじぃちゃん。その先の道具屋には気のいいおばぁちゃん。その向かいの雑貨屋にはセンスはいいけど寝不足過ぎる店主が。

 そういえば最近、おばぁちゃんが向かいに薬草を持って行っているのをしばしば見るね。大丈夫かな?



 「さてと。今日はレイジュはいるのかな?」


 僕はギルドに着くと周囲を見回す。

 王国のシンボルのついた鎧を着た兵士の姿が見つかればいるのだが……あ、いた。ということはすでに来ているんだろうね。ならもう訓練室を借りて兵士たちと待機しているはず。



 「アルド、下に行って先に始めててくれる?僕はちょっと会議に参加しないといけないから」

 『了解しました』

 「じゃ、気をつけてね〜」


 アルドがガッチャガッチャと肩を回して体を慣らしながら?階段を降りて行った。

 さ、僕も行こうか。



 「おはよ〜、ハルフィ。今日も眠そうだね〜」

 「ふぁぁ…おはよぅ、ございますです。シンさん、こちらでしょうます?」

 「丁寧語がごっちゃ混ぜ…ねボケてるな〜、これは」


 僕の前の受付嬢、向こうの世界でコスプレによく使われそうなメイド服をちょっと繕い直したような服から黒い尻尾を覗かせているちっちゃな猫の獣人族の少女が眠そうに目をこすりつつ、カウンターの向こうから出てきた。

 ちなみに数日前まではボサボサくんに世話されていたスラムの子。お金が必要だったのはこの子のため。現在12歳のいたいけな少女です。今はギルドの人気者。



 「にゅぅぅ…引っ張らないでくれないですか?」

 「なんと雑な丁寧語…そのうちギルド長から文句が来そうだけど?」


 僕はハルフィの耳を引っ張りつつ、階段を上って2階のギルド内の会議とかに使われている部屋の前に来る。

 ハルフィは扉を軽くノックし、扉の前に直立する。



 「シンさんをお連れしたのでしょう?」

 「なぜに疑問形……」


 数日前に教えたばかりだからしょうがないにしても、丁寧語ぐらいちゃんと言えて欲しいものだ。

 …まぁ、素で話されるよりかなり(・・・)マシなのは事実なんだけど、もうちょっと頑張って欲しい。小学校とかのテストに”もっとがんばりましょう”ってかく先生の気持ちが理解できそうな気がしてきてるこの頃です。



 『入ってくれ』

 「じゃあ失礼しますのです」

 「そのうち敬語の勉強もしないといけないのになぁ…」


 僕はハルフィの頭をポムポムと叩いてから扉を開けて中に入った。ハルフィが目を細めている横顔が観れる。

 …そういえば、黒猫族って自分に触れるのは主人以外許さないそうだね。



 「やっほ〜。で、もうみんな来てる?」

 「ええ、まぁ」


 僕は用意された椅子に腰掛けつつ、部屋を見回す。

 4つ用意された椅子にはシンシアのところのおじさん、現ギルドマスターのジールっていう邪眼種の青年、領主の妻のヒーリガルっていうおばあちゃん、そして僕。

 


 「じゃあ始めようか。で、今日の議題は何?」

 「では、ギルドから始めさせていただきます。シン殿に訓練をつけていただいている件です」


 僕はジールの秘書が運んできたコーヒーを飲みつつ話が開始された。


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