61.教え込んであげましょう
大雪が終わってその日の夜のこと。
「はぁ………僕はちゃんと忠告したよね?」
少し薄暗い廊下でテラが人質に取られてメイドの…名前は忘れた。とりあえず竹内についてたやつが僕に要求を叩きつけている。
要求内容は勇者の身柄を渡すこと。まぁ要するに皇国に連れて帰るか処分するのかは知ったことではないがこのまま僕の思い通りにされるのは都合が悪いと言うことだろう。
やっぱり知ったことじゃないね。
「聞こえなかったのか?私の命令に従わなければこの娘を殺す!」
「はぁ…テラ、帰っておいで」
「えー。人質ごっこはいいの?」
「もう飽きたでしょ?」
僕の周りには勇者全員とそのメイドがいる。マリーはロメに言ってここに来ないようにアルドと遊ばせている。ああ、ロメは普通に仕事してると思うよ。
「むぅー。お姉ちゃんが冷たいですー」
「じゃあちゃんと助けてあげようか?」
「なにを言っている!早くしろ!」
テラの首元にナイフを押し当ててメイドが騒ぐ。
僕の後ろで勇者達がああだこうだと言い合っている。メイドの残り2人は頃合いを見計らっているのか、動く様子はない。
「まったく。世話の焼ける妹だね〜」
僕は首に下げている息吹を普通のサイズに戻す。
「なにをしている!」と叫ぶメイドを無視してメイドに突っ込む。
剣を振りかぶり、メイドへ振り下ろさんとする。
勇者達が「あっ…」と声を漏らし、メイドがテラの首に当てているナイフでテラの首を切ろうとしたところで、そのナイフを弾き飛ばす。
そのまま足をかけてメイドを転ばし、頭を踏みつける。
以上、制圧完了。
「人って意外と反応から実際の動作まで時間がかかるものなんだよ?人質なんて特に意味はないんだ。君がよほどの暗殺者だとかじゃない限り瞬間的に人質を殺して逃げるなんて芸当はできない。残念だったね?」
メイドが僕を睨みつけてるが知ったことではない。
悪いのは僕じゃないからね。敵対する方が悪い。
頭をグリグリ踏みつける。
「さて、テラ。人質ごっこの感想は?」
「微妙だったー」
「だそうだよ。さてと……どうされたい?」
僕はメイドの方を見てそう言った後、勇者の後ろでこちらを伺っていたのをなかったことしてあたかも初めから味方でしたと言わんばかりにこちらを見ているメイド達を見た。
ああ、ちなみに勇者達はぽかんとしてるよ。きっと僕が大人しく従うとか、テラが殺されるだとかのを想像してたんだろうね。さすがに何事もなく制圧されるのは予想外だったみたいだ。
頭を靴底で地面に擦り付ける。
「あー…新一?」
「ん?どうかしたの?」
「これ…なにがどうなったんだ?俺にはさっぱりなんだが」
「ああ、ちょっとこのメイドが”君らを皇国に連れて帰らせろ、さもなくばこの娘を殺す”とか言い出してこうなったんだよ〜」
「あー……そうか。で、これからどうすんだ?」
「うん。どうしよっかな〜って。僕はちゃんと初めに僕のものに手を出したらただじゃ済まさないって忠告したから、ちゃんとその通りに実行してあげようと思うんだけど、どう?」
「いや、どうって言われてもなぁ。しっかり罰は与えるべきだとは思うが」
「じゃあそうしようか〜」
「…はっ⁉︎いや、今俺に聞いた意味あったか?」
「別に特にはないね〜」
僕は頭を存分に踏みつけて床にこすりつけたあと、ポーチから鎖を取り出してメイドを縛り上げる。
【念動力】でメイドを僕の目の前まで釣り上げてから話す。
「君らには2つ選択肢がある。1つは僕の言う罰を受ける。もう1つは僕が罰を与える。どっちがいい?」
「ふんっ!貴様なぞの言うことなど誰が聞くか」
「あ、そう。じゃあ僕が罰を与えよう。……ああ、君らも連帯責任ね?」
僕はニコリと微笑んで残りの2人に顔を向ける。
メイド2人の顔に明らかな不安が浮かんだがどうでもいい。
「あ、あの…しんちゃん?」
「ん?どうかしたの〜?」
「えっとね。その…罰ってなにをするの?」
「秘密〜。”君らには言えないようなこと”とだけ言っとくよ」
「シ、シンディは、いい人なの。ひどいこと…しないでね?」
「やだ、断る」
僕はポーチから2本鎖を取り出して残りの2人を縛り上げる。
抵抗が見られるが知ったことではない。
「ああ、安心するといいよ。連帯責任って言っても君らに直接的な害は与えない。ただ罰を見届けるだけでいい。大丈夫。僕はそれ以外はさせるつもりはないから」
「はなせっ!私たちを、姉様たち解放しろっ!」
「ああ、君が一番下なんだ。まぁどうでもいいけど。さ、行こうか」
僕はメイド3人を引きずって地下一階に向かう。後ろから未だに言い合う勇者たちの声が聞こえるけど放置しよう。
地下一階はもともと食料庫以外はなかったんだけど、僕が新設した。理由は部屋の中じゃできなさそうな実験とかをするためね。別に懲罰房とかじゃないからね。今回はそうなっちゃうけど。
階段を下り、無駄に厳重に作られた鉄の扉の前に立つ。
「鍵は〜…ああ、あった」
僕はポーチから鍵を引っ張り出して部屋の鍵を開けた。床が擦れて削れる音を立てながら扉を開き、メイドを引っ張りながら中に入る。
中はなにもないただのコンクリート張りの空間。部屋全体がよく見えるように明るい照明が光を放つ以外、部屋の内部にはなにも置いていない。
「さて、これでここには誰も入れない」
僕は扉を閉めて鍵を外側からかけた。というかこの部屋の鍵は外からしか開け閉めができない。僕が毎回【念動力】で外から鍵を閉めている。
「じゃあ、君らはこれに座ってるといいよ」
僕は椅子を取り出して標的じゃない2人のメイドの鎖を解いて座ることを促す。
標的の方は鎖で縛ったまま部屋の真ん中に放り投げる。
2人は渋々というか恐る恐るといった様子で椅子に座った。
「…シンディは何をされる?」
「ん?…ああ、これの名前か。そんなの言ったら面白くないじゃん姉A」
「姉A⁉︎なんだそれは」
「名前分からなかったから。別に僕は君らに興味ないし」
僕はそのシンディを床に大の字に寝かせながら質問に適当に返す。
「シンディを…許してやってはくれないか?一時の気の迷いだ。まだ誰も傷ついてはなかっただろう?私たちが責任を持って罰を与える。だから…!」
「やだ。第一、君は許せるの?言うなれば家を焼かれて被害はなかったんだから許してと言われてる気分だよ」
「それはっ…」
「今回は君らの管理責任を深く問わなかっただけ良心的だったと思うがいいよ。君らが隙を見計らってたのはわかってるんだからさ。この大雪の間君らは何をしてた?僕やマリーやみんなの監視、この家の見取り図の作成、勇者を誘導しようと思索、その最終的な結果がこれだよ。君らが勇者をどうしたかったのかはどうでもいいよからいいよ。僕らの監視がちょっと不愉快だったけど被害はなかったからこっちもいいよ。けど僕は初めにちゃんと忠告したはずだよね。僕のものに何かしたら許さないって。君らはたったその1つしかない条件を破ったんだ」
僕は髪を結んでいるゴムを取り、体を再構成する。
鏡でよく見て初めて気がついたんだけど長くなった髪が鉛色になってる以外にも、目が同じように鉛色になり、肌の色が色白になり、少し身長が縮んでいた。
適当にやると本来の体に引っ張られるようだ。あまり気にならないし、こっちの方が楽だから最近元に戻るときはこんな状態。
「…⁉︎なんだ、それは?」
「ん?ああ、ちょっと元に戻っただけだよ。僕の体は作り物なんだ。あの体だと力を思う存分使えないように軽い封印的なことをしてるからさ」
「白き暴虐…それが所以か」
「なんだ、知ってたんだ。ということはあの街の惨状は知ってるよね?確か街の建物の6割弱と人が4割強ぐらい消えたと思うけど」
姉Aはそれっきり黙り込んだ。
姉Bの方は精神が弱いのか知らないけどさっきから黙りこくっている。
ちなみにシンディは口に鎖をくわえさせてるから「うーうー」と唸っているだけ。それを外して両腕と両足を地面に固定した。
「さてと。じゃあ罰を与えよう」
「はなせっ!この私に罰だと?ふざけるなっ」
「うるさいよ。確か…ヴァルテヴィギア家だったかな?きっと昔は蝶よ花よって育てられたんだろうね。だからこんなにも傲慢に育っちゃって。それでよくメイドなんてできたね?没落した元伯爵家の令嬢様?」
「な、なんで…」
「さ〜てね」
僕はポーチからバケツを1つ出してそこに水を汲んだ。
「罰って言っても幾つかあるんだけど、何がいい?番号だけ言うからそれで選べ。1~4ね〜」
「貴様ァ…!」
「ああ、選ばないなら姉Aにでも選ばせよう。さぁ、姉A。どれがいい?」
「…許しては、くれないのだな」
「当然でしょ?」
「な、ならば私が代わりに罰を」
「だめ。ほら、選べ」
「わ、私に妹を傷つける選択を迫るというのか…!」
「答えないの?じゃあ姉B、選べ」
「……………」
「あっそう。じゃあ僕の独断で一番キツいの選ぶけど?」
「や、やめてくれ!私が代わりにになる!だから!」
「うるさいよ。そして邪魔。やっぱり縛り付けておいた方がいいみたいだね」
僕の足に懇願するかのようにすがりつく姉Aを鎖で椅子に縛り付ける。姉Bは身動き一つせずにじっと椅子に座っているようなので放置でいいだろう。
「ほら、選べ。誰でもいいよ?」
「私がぁ…私が代わりになる…!だからぁー!」
「うるさい。『黙れ』」
「さて、姉Aが選ばないみたいだから2人のどっちかが答えろ。答えない場合は僕の好きなようにするからね〜」
「………………一番、傷つかないのは?」
「お、喋った。一番傷つかないね?傷つかないのは3だよ」
「……それは、死なない?」
「まぁ死にはしないね」
「……わかった…なら、そうしてあげて」
「ふふふ…じゃあ、そうしてあげるよ」
絞り出すかのようなか細い声で姉Bが答えた。
よかったねシンディ。一番傷つきはしないけど、一番ひどい目にあってると僕が思う奴になったよ。
ちなみに言うと1は手足の先からヤスリで削って再生を精神が壊れるまで続ける。2は腕と足を切り落として生やしてを繰り返す。4は種族を色々と変えて魂に保存された身体の情報を不安定にして消す。
「さてと。じゃあいきなり始めても面白みがないから言い訳だけ聞いてあげるよ。ほら、弁解してみろ。ことごとく正論で叩き潰してあげるから」
「うるさいっ!何故貴様ごときにこの私が!」
「それは君が僕のものに害をなしたからでしょ?それ以外に理由ある?」
「くっ…!貴様のような低俗な存在ごときが…!」
「誰が低俗さ。少なくとも僕は君らより圧倒的に身分は高いよ?一応王国の国王専属の相談役だし」
「なっ⁉︎」
「ほら、もう終わり?というか言い訳にすらなってないよね。単に君が僕を見下してるっていうのがよくわかったくらいでさ。第一僕を見下す理由自体よくわからないんだけど」
「ふん。そんなもの、貴様が亜種族ごときを娘などと言うからに決まっている」
一応僕は2人を妹のようなものって言ったと思うんだけど、どっちのことを言ってるのかな?
「あ〜…それはどっちのこと?マリー?テラ?」
「……?何を言っているのだ?そんなものあの狐の娘に決まっているだろう。第一この家に亜種族はあの娘以外にいないではないか」
「…?何言ってるの?一つ言わせてもらうけど、この家にいる人間種は君らと勇者だけだよ」
「……どういうことだ?」
ああ、なるほど。確かに傍目から見ればそう見えなくもないか。
ロメは普通にしてれば人間だし、アルドは中に人がいると思ってたなら人間に見えるだろうし、テラは翼さえ出さなければ人間に見えるし、僕も人間として振舞ってるし。
「あいにくなんだけど、もともとこの家には人間種は誰もいなかったんだよ。テラとアルドとロメは僕の眷属。もともとは魔物だよ。テラがスライム、アルドがリビングアーマー、ロメが精霊。残念ながら人間種じゃないんだよ。というか人ですらないの」
「そ、そんな…」
「人を見かけで判断しちゃダメだよ?この愚か者」
「な、ならば貴様は!ならば貴様は何なのだ!」
「僕?僕はそうだね……出来損ないの神様だよ。さて、じゃあ言い訳タイム終了。罰を与えよう」
僕は耳元でそっと囁いた。
シンディの表情が凍りついたところでお仕置きの時間にしようか。
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