60.教えてあげましょう
僕は僕の部屋で椅子に座って竹内と対面している。
「ふう〜。やっと雪がやんだ〜。大雪終了〜」
雪が降り始め、どんどん積もって屋根まで覆い隠すぐらい街は雪で埋もれた。
だが昨日の夜中に降りやんだあと数時間で全て水となって街の中から姿を消した。
完全に不思議現象だと思うんだよね。
「今日はどうしよっか〜?」
僕はボードに石を置いて竹内に声をかける。
結局大雪の間に手伝ってくれたのは竹内だったのだ。おかげで多少仲良くなった。
「うっ…えっと、もう雪ってやんだんだよね?」
「そうだね〜。さっきマリーとテラがティア攫って外に遊びに行ったし」
「えっ⁉︎ちょっとそれは初耳かな。さっきからティアがいないなって思ったら…」
ああ、さっきから時折後ろとか見てたのはそういうことだったのね。納得。
ま、一応アルドについてもらってるから安心だし、放置しておこうか。
「で、どうする〜?」
「どうするって言われても…何か選択肢ってあるの?」
「あるよ〜。1.何もしない。2.出かける。さぁ、選べ〜」
「それってないのとほとんど変わらないよね?はぁ…うーん」
竹内がどうしようかと頭をひねる。
僕はボードの最後のスペースに石を置いた。
「はい、終了〜。また僕の勝ち」
「うぅ…これ、絶対に勝てない気がしてきたよ…」
「元からでしょ?」
ボードの上には黒い石が2つと、白い石がその残りのスペース全てを埋めている。
まぁわかると思うけど、今やっていたのはオセロだ。大雪の間暇つぶしに色々とボードゲームをやっていたんだけど、その中でも竹内が一番得意だと豪語したのがオセロだった。そのため、その自信をへし折るために僕が数回相手してあげたのだ。
ああ、もちろん単なる嫌がらせだよ。せいぜい数個程度の思考を同時に行える程度の生物ごときが僕に太刀打ちしようなんて何億年早いことか。
「うぅ。逆に何かできないことってないの?」
「普通にあるよ?」
「えぇっ⁉︎本当に?」
「銃とか弓とか」
「えっと、どういうこと?うまく使えないってこと?」
「使用できないってことだよ〜。打つとひどい方向に飛んでいく。なんか僕って道具を使う遠距離攻撃とかができないんだよね」
自分の手先の感覚で動かせる物じゃないとうまく使えない。銃とかは湿気とかで火薬の威力が変わるし、弓だって弦は外気の状態とかによって変化する。多分毎回完全に同じ状態を保つ物だったら使えるんだと思うけど、そんな物ないし?あとは呪いのせいかな。
ま、遠距離は投擲か魔法でどうにかできるから別に気にしないけど。
「そうなんだー。じゃあ他は?」
「ん〜…………?」
「えっとぉ…ないの?」
「さぁ〜?大抵のことはできるし」
「ははは…ねえ、そういえばなんだけどこれってしんちゃんが作ったんだよね?」
「ん?突然だね。それがどうかしたの〜?」
「えっと、すごいなーって。これも魔道具なんでしょ?私、昔から機械とかそういうの苦手でこういう物が作れるってすごいなーって思うんだよね」
「機械と魔道具は違うと思うけど?まぁ、そんなことはどうでもいいね。なんなら作り方でも教えようか?割と簡単にできるよ。ちょっとした物に限るけどさ」
「えっと…それって私にもできそう?」
「魔力の操作が出来ればね〜」
魔力で陣さえ描ければ、あとは魔石に押し込むだけだからね。
実に簡単な作業だよ。
「なら多分できると思う!」
「なんか突然やる気になったね〜?まぁいいけどさ。で、どんな物が作りたい?多分すぐにできるようになる物と言ったらせいぜい魔石に魔法を込めた物程度だけど」
「…?今更なんだけど魔道具ってそもそも何なの?よく宿とかに水が出るのとかあるけど、あれって1回で壊れないでしょ。でも戦闘で見かけるのって大抵1回で壊れちゃってる気がするんだけど、何が違うの?」
「召喚されてから図書館とか行かなかったの?多分ある程度は分かったはずなんだけど〜…?」
「あはは…ずっと訓練してた。すぐに作れないと戦えないと思ったから、他のことしてる時間があるなら訓練しようと思って」
「まぁ間違いじゃないね〜」
確かに必要なことだとは思うけど、他のことにもちょっとは気をつかおうよ。
戦えるようになっても敵の情報がないと死ぬよ?戦闘方法も不明な敵と当たってどうやって対処するつもりだったんだか…
きっとアホの子ってこういう奴のことを言うんだろうね。
「まぁいっか。じゃあ簡単に説明してあげる。わからないところがあったらその度に止めてくれれば細かく話してあげる。まず、魔道具が何かって話だったね。竹内さんはなんだと思ってる?」
「んー。不思議道具?」
「随分と曖昧だね〜。まぁわからなくもないけどさ。魔道具っていうのは魔石を核として作られた魔法を封じ込めた道具のこと。ちなみに魔物の持つ魔石に魔法陣を刻むことで魔法を封じ込めてるんだよ。それに魔力を当てることで起動して使用する。それが基本的な魔道具だね〜」
「へー。じゃあ、なんで1回で壊れちゃうのとそうじゃないのがあるの?」
「それは魔道具の仕組みの問題。その魔法を刻んだ魔石そのものを利用しているか、別の物をエネルギー源としているかによって違うんだよ。まぁ厳密に言うともっとめんどくさいんだけどどうでもいいから割愛するね。まぁ、向こうの世界のゲームとかを想像してくれるといいよ。コンセントを繋いでるやつはずっと電源をつけていられるけど、充電するタイプのやつは充電がなくなると電源がつかなくなるでしょ?あんな感じ」
「ああー、そういうことだったんだ。へぇー。じゃあ、さっき私でも作れるって言ったのはどういうやつなの?」
「簡単にできるって言ったのは魔石に魔法を封じ込めただけの物。これは竹内さんの言う1回で壊れちゃうやつ。魔石に魔法陣を刻むだけだからやり方と陣さえ覚えれば誰でもできなくもないよ」
「じゃあさっき言ってたコンセント繋いでる方は?どうやって作るの?」
「あれ?いきなり作りたいとか言い出すんじゃないんだ?まぁいいんだけどさ」
こういう奴って思い立ったが吉日とでも言わんばかりにいきなりやりたがるものだと思ってたんだけど、違ったみたいだ。
せっかくポーチから取り出したのに。
「もう片方の説明ね。もう片方はその簡単にできる方にさらに別の陣を刻んで他の魔石とかに接続するんだよ。ほら、宿屋とかにあった奴を思い出してごらん。水が出るところから線が引いてあって別の魔石に繋がってたでしょ?」
「んー………あ、そうだった。じゃああの線があればできるの?」
「あれは魔力を通すための回路で素人が引くと下手したら魔力が流れ出て魔法が暴発するよ〜。ま、それ以前に色々と面倒な手順があるから多分初心者がやること自体が無理だね」
陣が2つ以上同時に描いて維持できないと無理だし、それを魔石に固定すると同時に回路を引いて別の接続場所を準備、接続場所に直接陣を描いてあとはエネルギー用の魔石をはめるだけの状態にしてから完全に定着させて完成させるとか初心者に求める方がおかしい。
無理だね、間違いなく。僕の部屋が爆発とかでボロボロにされるのはごめんだよ。
「そっかー。じゃあ私でもできるのを教えて」
「はいはい。諦めは早いんだね。まず、僕がやってみせるからそれを見ててごらん」
僕はポーチから魔石を取り出し、そこへ目の前で陣を描いて魔石に押し込んで定着させる。
魔力視を持ってるって言ってたから何をしたかは見えたはずだ。
「どう?やってること見えた?」
「えっと、なんか魔力が魔法陣になって、それが魔石に当たったと思ったら吸い込まれて、いつの間にか出来上がってた…」
「うん、それでいいよ。大体はそれであってるから。まず、魔力を操作して陣を描く。それを魔石に当てるとちょっと反発するけど、安定するまで当て続けると魔石と僕の描いた陣の魔力が合わさって魔石の中に吸い込まれて完成する。これが手順だよ」
「へー。以外と簡単に聞こえるけど、実際見てると難しそうだった気がするんだけど…?」
「まぁ、安定するまで陣の形を保つのがちょっと大変かもね。さ、とりあえずやってみようか。やってみないと何ができないかとかもわかんないでしょ?」
「うん。わかった。じゃあ、何をやればいいの?」
「好きな魔法の陣を…あ、そっか。この時代じゃすでに陣魔法は廃れてるんだったっけ。アルも言ってたしな〜」
確かに並立思考とかのスキル持ち以外が戦闘中に集中して陣を描くのは難しい。それゆえに詠唱魔法が進歩して陣魔法が廃れた。
おかげで一部じゃ、魔法の行使方法の向いてる向いてないとかの情報がすっかり忘れ去られて詠唱魔法ができない人は魔法が使えないなんて思われてるくらいだし。
ルーが学園作ってくれて本当によかったよ。きっとそれがなかったら陣魔法とか完全に消えちゃってただろうし、魔法の知識も結構廃れてただろうし。
「えっとー…?」
「ああ、ごめんごめん。まずは陣について教えるね〜。陣は魔力で世界に対する命令文を描くことが基本になる。これは魔法文字っていうものを使うんだけど、面倒くさいからあとで一覧表をあげる。大体ローマ字と同じような感じだからすぐに覚えられると思うよ。そこに幾つかの図形を組み合わせて世界に干渉できる形にする。ま、実際のところ図形の方は割となんでもいいんだ。制作者の気分だね。世界に干渉できそうなイメージがあれば大抵うまくいくから」
「て、適当なんだね」
「まぁね〜。さて、じゃあちょっと待ってて。今一覧表を作るから」
ポーチから1枚紙を取り出してそこへ文字の一覧表を書いていく。
「ねぇ、じゃあどんな魔法があるの?」
「ん?それは刻める魔法ってこと?」
「うん。どんな効果がある魔法が封じ込められる?」
「割となんでもだね〜。封じ込められる魔法についても説明しようか?」
「うん。おねがい」
「封じ込められるのは3種類ある。まずは一般的に使われてる僕が属性魔法って呼ぶもの。火だとか水だとかそういう奴のことね。これはさっき説明したみたいに陣を描いて押し込むことでできる。次が付与魔法って呼ばれる魔法。こっちは割と知られてないかもしれないね。これはいきなり火をおこしたりするんじゃなくって鉄の剣に火属性を付けたりするんだ。要するにゲームでよくある”エンチャント”。霊系の魔物を倒すために教会で聖属性のエンチャントかけてもらわないといけないとかゲームでよくあるでしょ?あんな感じのことをする魔法。これは武器とかに付与するのと同じような感覚でできる。最後が今は多分僕しかできない魔法じゃなく魔導って呼ばれるもの。これは数世紀前の魔法使い、その頃は魔導師って呼ばれてた人たちが使ってた魔法。まぁできないから説明は割愛するよ〜。ま、こんなとこ。わかった?」
「わかったんだけど、最後のってなんなの?魔法と名前が違うってことは何かが違うんでしょ?」
「まぁね。魔法はその属性に関することしかできないでしょ?例えば火魔法は火を使う、水魔法は水を使うといった具合にさ。でも魔導は違う。属性なんてお構いなしに現象を発生させる。汚れたものを浄化したり、傷ついたものを修復したりとかね。あとはゴーレムもその一種かな。普通の魔法にロボットみたいな人工知能を作れる魔法なんてないでしょ?」
「あ、そういえば」
僕は一覧表を書き上げ、それを竹内に手渡す。
「はい。じゃあこれで詠唱と同じように言葉を作ってみるといいよ。まずは普通に横文字で、慣れてきたら丸く陣の形に合わせて。そこまでできるようになったら図形を組み合わせて魔法陣にする。そこまでできるようになったら魔導具を作るのを教えてあげるよ」
「うん。私頑張るね」
「じゃあ、自分の部屋でどうぞ〜。変に魔力込めると失敗した魔法が飛び出すから気をつけてね」
「えっ?…えっ⁉︎なにそれ⁉︎聞いてないかな!」
「まぁ言ってないからね。大丈夫。ちょっとした爆発が起きて顔がススだらけになったり、そよ風が吹いたり、頭から水かぶる程度しか起きないから」
「あー…うん。それなら大丈夫かな」
そう返事をすると竹内は苦笑いを浮かべて部屋を出て行った。
「さて、じゃあ僕はどうしよっかな〜」
結局やることをなにも言わずに竹内が出て行ってしまったので暇になってしまった。
失敗したね、うん。
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