59.どうしましょう
「残念だったね〜」
「まぁそうなのか?俺からすれば別に残念でもなかったけど」
「だって鼻血君はしばらくここに居られることが決まったんだからね〜。それは残念じゃないでしょうね〜。僕は非常に残念だけどね」
「だからそれを本人の前で言うなって…」
「まぁ確かに予約とかが入ってる可能性を考えてなかった僕が悪いね。でもあと2日くらいで大雪か〜。久しぶりだな〜。降り始めのうちに雪遊びでもしようかな?あ、でも無理か」
この世界の大雪によって降る雪は非常に特異なのだ。
ちょっとした温度で溶けるし、不思議と雪の量と解けたときの水の量が一致しないし、普通の雪と違って建物とかの上に乗っても建物に被害が出ないほどに重さがないし。簡潔に言うならただ世界を冷やすために使われるだけのもの。多分ルディが季節とかを楽しむために作って失敗したっていうのが事実なんじゃないかなって最近思ってる。
「あ、そういえばさ〜。他のメイドたちはどうすることになったの?今まで通りお世話係?解放して国に返す?僕に押し付ける?」
「いや、普通に今まで通りで収まってるからな。みんな今までと同じようにメイドとして俺らについてくれてる。一応全員にどうしたいかって聞いたんだけどな」
「ふ〜ん。ええと…なんとかディ、そうなの?」
「ミレディな」
「あ、そうだったね。で、ミレディそうなの?本当は勇者を誘導して皇国に引き戻したいんじゃないの?」
「……………」
「沈黙は是ってことで。まぁどうせそんなところかな〜。つまんない。やっぱり君らって退屈」
予想どうりなら僕を観察してどうにか隙を突こうっていう考えを巡らせてる最中なんじゃないかな?別にどうにもなりそうにないから放置してるけどさ。
だって連れ出しても困らないもん。むしろ皇国にいる勇者と接触したときに僕が教えてあげたことが広まってむしろ状況が悪化するだけだってことにまで頭が回ってないのかな?あ、邪魔だから処分するっていう可能性もなくもないか。敵に回すくらいならいっそ殺しちゃえっていう。うん、ありそうだ。
「さて、ただいま〜」
「ただいまー!」
「おかえりなさいませ、主。結果は…空いていなかったようですね。では部屋はそのままにしておきましょう」
「うん。残念ながらね。さて、僕はマリーを部屋に寝かせてくるからあとは勝手にしていいよ〜」
「おう。わかった」
僕はおぶっているマリーを連れて階段を上る。その後ろをテラが追いかけて登ってくる。
部屋の扉を開けてもらい、マリーをベッドに寝かせた。
「お姉ちゃん、マリーには言わないの?」
「何を〜?」
「お姉ちゃんがその…神様?みたいなのだって」
「それは言わないって話を前にしたじゃん。今更どうかしたの?…っと、うるさくなる前に部屋を出ておこうか。続きは僕の部屋で話そう」
「うん…」
テラが不満そうな表情を僕に向けつつマリーに掛け布団をかけて部屋を出た。
そして階段を登って僕の部屋に来る。鍵を開けて中に入るとテラがそれについて入ってきた。僕がソファーに座るとテラがその横に座って僕にもたれかかってくる。
さて、突然どうしたんだろうか?前に僕はマリーにはバラさないっていう話をみんなにしたと思うんだけどな〜?理由とかは細かく話してなかったけど、みんなは僕の考えを尊重してくれてるから言わなくってもいいかな〜と思ってたんだけど、やっぱり気になるかな?テラにとって初めてできた妹分だし。
「さて、突然どうしてそんなことを言い始めたの?」
「うん。そのね。マリーだけがお姉ちゃんのことをきちんと知らないから」
「…?つまり不公平って言いたいのかな?」
「ううん。違うの。えっと…マリーも家族でしょ?知らないのはかわいそうだって思ったから」
「ふ〜ん。要するに情が移ったわけだね。別に悪いことだとは言わないけど…あとが辛いよ?そんなに深く入り込むとあとで来る別れに耐えられないよ?」
「…うん」
「はぁ…まぁ、テラにお姉ちゃんとしての自覚が出来たっていうことなのかな?悪いことだとは言わないよ。それはきっとテラの成長なんだから。でもね、もしそれを話したらどうなると思う?」
「分かってもらえる。それにもっと…」
僕はテラが言おうとすることを言う前に言葉を遮る。
「ダメだよ。マリーは普通の”人”なんだから。僕らと共には生きられない。それに、きっとマリーが耐えられなくなっちゃう日がいつか来る。テラ、言いたいことも思ってることもわかるよ。でもきっとそれは一時的なものになってしまう。マリーは僕らのおもちゃじゃないんだよ。生きた命なんだ。わかるでしょ?」
「…うん」
きっとテラは一緒にいたいと思ったのだろう。
僕がそういった存在だとバラせば寿命を消したりすることはできるっていうこともわかる。了解を得た上で一緒にいて欲しいとテラは願ったのだろう。でもそれはダメだ。
人に長すぎる命は重すぎる。たかが数千年程度で僕みたいになる。僕がもともと壊れてたからこそ別になんともないけど、普通の人は変化に耐えられない。
人の身にあまる寿命は不幸しか生まない。それはきっと必然だ。例えうまくいってもそれは一時的な幸福だ。僕は僕の大切なものにそんな悲哀な生を与えるつもりだけはない。いつか終わることがわかっているからこそなお大切にする。その生を終える瞬間まで。天命を果たすその時まで。
これは僕なりの愛情なのだ。
僕に残る数少ない人らしい感性。他者を害するのも苦しめるのも喜ばせるのも祝福するのも、すべては僕の遊楽のため。だけど、永遠の痛みを分け合うつもりはだけはない。例え僕の大切なものがそれを望んでも決して。
大切なものが壊れるのも狂うのも見ていて楽しい。けれど憔悴しきって壊れたガラクタを見るのは僕の望むところではない。僕が見たいのは”主人公”なのだ。バットエンドを迎える悪役じゃない。
「大丈夫。まだ500年くらいはある。それまでは一緒にいられる」
「…ん。ぅん」
「いい子だね。テラはきっといいお姉ちゃんをやっていけるよ」
僕はテラを優しく抱きしめる。
手で髪を梳いてやり、しばらくそうしてやることにした。
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「さてと。今日は何しようかな?」
夕食を終えてマリーを風呂に入れて寝かしつけ、しばらく鼻血君を付き合わせてポーカーをやってボロ負けにしてたんだけど、さすがに1時を過ぎたあたりで鼻血君が寝てしまった。
仕方がないので部屋に帰ってきたんだけど、やることがないんだよね。
「やってないこと〜…よし、ボードゲーム作ろう」
どうせやることもないし、大雪の時期の間にみんなでやれそうなボードゲームを作ろう。チェス、オセロ、ダイヤモンド、将棋、囲碁、双六、ツイスター、バックギャモン、ブロックス…ふむ。みんなが知ってそうなのがこれくらいしか思いつかない。知識としてはもっと色々と知ってるんだけど、アバロンとかヘックスとか言っても通じないだろうしルール説明したばっかの初心者とやっても楽しくないし。
とりあえず作っていこうか。
どうせだし普通じゃないものを作ろう。意志を持ったチェスとか。ゴーレムの技術の応用で多分作れるし、楽しそうだ。
「じゃあ、まずは形作りからだね…えっと〜、これぐらいあれば足りるかな?」
僕はポーチの中からゴブリンレベルの小さい魔石を大量に取り出す。
ちょっとしたものならこれぐらいあれば作れるはず。てか出来なくってもちょっと魔力を無理やり押し込んで増やせばランクはあげられるし。
「あとは色かな。どうやって変えようか?上から何かで塗るのは綺麗じゃないし…」
魔石の色は透明な水色。
僕は魔石を1つずつ魔力を流して形状を変化させて無駄にこだわったチェスの駒の形に変えていく。
綺麗な槍と盾を持った歩兵、リアルな馬に乗った甲冑の騎士、装飾過多な杖を持ち十字架を刻まれた僧侶、レンガまで細かく表現した城、ティアラとネックレスをつけた女王、王冠とマントを羽織った王。
「さて、どうしようか…光魔法で色を変えるとかかな?」
とりあえず色をクリスマスツリーの装飾のライトのように光らせて変えてみた。
やっぱり無難に白と黒かなと思って白っぽい光を纏うのと黒っぽい闇を纏わせてみる。
「もうどうやって見ても勇者と魔王だね。せっかくだから装備とかもちょっとそれっぽくしてみよう」
白い方を神聖な雰囲気な装備と外装にして人っぽく、黒い方を禍々しく強そうな武器と外装にして角とかを生やして魔族っぽく。
完璧だね。
「さてと。じゃあとは意志を入れてあげよう。とりあえず入れる陣を考えようか」
ゴーレムといっても擬似人格と、プレイヤーの意志に従って動くのと、槍とかをちょっと稼動できるようにするのと、エネルギーを周囲から勝手に吸収するようにするのと、自己修復とかをつけて壊れないようにするのと…あ、ダメだ。容量が足りないや。
ちょっと魔力ねじ込んで拡張〜。
「あ、どうせだしキングを王様らしく、クイーンを女王っぽくみたいにそれらしく振舞うようにしてみようかな」
それぞれの駒に位を与え、それぞれの色に合わせて行動の仕方に違いをつけ、それらしく振舞うように擬似人格を構成する。ああ、ちなみに擬似人格は魂を作るっていうのが近いからこういうゴーレムはこの世界では僕しか作れない。
擬似人格を放り込み、修復その他に必要な陣を刻み込み、動きに必要な陣を刻み込み、エフェクトに必要なものを刻み込む。
「…あ、ボードを作らないと」
せっかくだしボードにもちょっとこだわろう。
全体は普通に透明な水色にして上にある駒の色に合わせて下からそれに合わせた光の粒子みたいなのが出るように、倒された駒は場外へ強制退場するように設定し、あとは修復その他。
「よし、完成〜」
駒達を乗せて起動する。
勝手にそれぞれが持ち場の位置に移動し、相手を威嚇するかのようにそれぞれの色のエフェクトを吐き出している。ただ、プレイヤーの意志なしでは動けないため牽制し合っているだけ。
なんか面白い。
「行動表現もちゃんとできてるし、完璧かな?」
ポーンはそれらしく、槍を構えて相手に向けてそれを振る。ナイトは馬を動かして相手を威嚇している。ビジョップは杖を振ってそれぞれにエンチャントをかけるかのように味方を照らしている。ルークはただ荘厳な城らしい雰囲気を放っている。クイーンは白い方がキングに興味津々、黒い方は悪の女王様らしい雰囲気を放っている。キングは白い方は手に持った聖剣をふるって駒の指揮を揚げ、黒い方は勇者を待つかのように黒いマントをたなびかせ禍々しい雰囲気を放っている。
「さて次に行こう。これは放置でいいかな」
面白いからそのまま駒達を放置して一種のオブジェクトみたいに机の上に飾って次のものに進む。
「オセロは、置いたら自動で色が変わるだけでいいよね」
マスを区切ったボードとマスと同じ数の石を作る。そして、ボードの両端に石を入れるための凹みを作る。あとは石に入れた方の凹みに設定されている色に光るようにし、挟まれると色が変わってもう一方の色で光るようにすれば完成。
簡単に出来上がってしまった。
試しに石を並べて一方ずつ交互に石を置いて1人オセロをしてみるが、修正点はなかった。強いて言うなら順番を間違えないように2回連続で石を置こうとすると反発されて置けないようにしてみたりとかする程度。まぁルール違反ができないように手を加えて今度こそ完成でいいね。
「さて次はダイヤモンド〜。指定したところまで勝手に動くゲーム風にでもしようか」
六芒星のボードを3色にし、それに合わせた3色の駒を作る。
駒に触れるとボードの上にゲームのように予測線が出て動ける範囲がわかるように設定。さらにその範囲中の場所に触れればそこまで移動ができるようにする。順番もしっかりと設定し、違う順番の人が触れても自分の番以外ではうごかせないようにした。
「あとは〜…」
せっかくだから無駄なエフェクトを入れよう。
ゴールするとその領地の三角形を囲うように光の壁でも出現させよう。光魔法で結界っぽい何かを表現すればいけるね。
「さて、完成〜。次いこう、次」
結局夜中じゅうボードゲームを作るのに明け暮れた。
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