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58.宿探しましょう


 「さて行こうか〜」


 僕は2人の手をつないで家を出た。

 ロメがいってらっしゃいませと言ってこちらに頭を下げている。



 「じゃあ、どんなところがいい?」

 「え?あ、ああ。つか俺に決定権あるんだな…」

 「当然でしょ〜?だってこれから住むのは君なんだからさ。まぁ、お金を払ってあげるのは最初の2週間だけだから金額とかは自分で考えてね〜」

 「お、おう。そうだな…」

 「あ、そういえばそこの…なんとかディさんは連れてくの?」

 「ミレディな。ま、連れて行くぞ。これまでも世話になってたし、ミレディをここで突き放すみたいなことはしたくねぇし、ミレディもついて来たいって言ってくれたしな」

 「へぇ〜。じゃあ2人部屋かな」

 「へ?」

 「ん?だって2人分の部屋とる余裕なんてないでしょ?第一僕が払いたくない」

 「お、おおう。それもそうなんだが…」


 ちょっと頬を掻き、ミレディへ視線を向けて顔を赤らめた。

 男がやっても何にもならないよ?むしろ気持ち悪いだけだよ?それがマリーとかだったら僕は喜ぶけど、別に鼻血くんがやってもなんとも思わないよ。



 「男女が一緒の部屋でいいのかって?だって世話係と主人だよ?そういうことがあっても…ねぇ?」

 「ねぇ?じゃねぇよ⁉︎いやな。俺だってそういう気持ちにならねぇわけじゃねぇんだけど、さすがにそういう関係を利用してヤるっていうのはさ」

 「こんな少女たちにそんな生々しいこと聞かせないで〜」

 「言わせたのお前だよなっ⁉︎」

 「まぁそういうのは僕が知ったこっちゃない。そういうことがしたかったらお金溜めて花街にでも行くといいよ。ということで要望は?」

 「…はぁ。要望か。一応住めればそれでいいんだけど」

 「いいの?向こうの世界のビジネスホテルくらいの広さで食事なし体拭くのとかも自前で」

 「い、いや、それは勘弁してくれ」


 ちなみに僕は1人の時にそういうところをよく利用する。

 だって風呂とかは自分の空間にあるし、食事は自分で作った方が大抵美味しいし、寝る必要がないから荷物置くだけだし、置く荷物もほとんどないし。



 「じゃあどういうのがいい?」

 「うーん…とりあえず、2人で住んでも狭くない程度の広さは欲しい。食事とかは最悪はミレディに頼むからどっちでも。シャワーとかは欲しいけど、どうせ高いんだよな?とりあえず体拭くタオルぐらいは支給して欲しい。まぁこんなくらいじゃね?」

 「ふ〜ん。ミレディはないの?」

 「ありません。リュウタ様のご要望がそうであるならばそれに従います」

 「つまんないの〜。君退屈。大人しく従うだけの従者とかくだらない。ああ、でも本来の主人は皇国だからいいのか」

 「なっ⁉︎」


 小馬鹿にされたのがわかったようで、顔を赤くしてこっちを睨む。おお怖い怖い。

 でも大人しく従うだけの従者とか余程ゴーレムの方が優秀じゃん?意思があるんだから自分の意思を以って主人に従い、時には意見を、時には反発をしてこそだと僕は思うわけなんだよ?ただ従うだけの従者なんてゴミだと思うよ。



 「さて、じゃあ探そうかな〜」

 「おう。てか、目星はついてるのか?」

 「ん?僕をなんだと思ってるのさ。この街に来た時に一通り街の中を探検したからね。ね〜、マリー、テラ?」

 「うん。たのしかった、の」

 「うん!」

 「ね?」

 「そ、そうなのか。というかその子たち連れて行くのか?」

 「うん。連れてくよ〜。だってしばらく家から出られなくなっちゃうし、今のうちに外に出ておこうかな〜って」

 「へぇ。というか昨日から聞きたかったんだけど、その子達ってお前の何なの?そんな小さい子を連れてて結構目立つぞ。ロリコンなのか?」


 目立つという件については同意するけど、そこからどうあってロリコンにつながったのかについて問いただしたい。


 

 「失礼だな〜。僕の妹と娘みたいなものだよ。可愛いでしょ?」

 「お、おう。そうだな。まぁ、俺にも妹がいたし可愛いのはわかる」

 「ふ〜ん。何人?何歳?」

 「別に1人だけだ。今…高一だな。女子校に通ってる」

 「そっか。高一か〜。…鈴も生きてたらちょうど同じだね」


 どうしてあの時の僕に力がなかったんだろうね?たった1人の家族だと思ってたのにそれすら守れなくって何が強くなりたかったんだかわからないよ。

 本当にバカらしい。それに気に食わない。僕のものなのにさ…



 「生きてたらって聞こえたけど、何かあったのか?」

 「ん?ああ、うちの妹の話。気にしなくっていいよ〜。ちょっと交通事故でいなくなっちゃっただけだから。もう1年も前の話。今はマリーとテラがいるから」

 「みゅ?」


 僕は2人をそっと抱き寄せる。

 今はもう僕の家族を失うことはない。マリーはいつか寿命でいなくなっちゃうけど、それでもそれが普通の生物にとって幸せなんだから僕はそれでいいと思ってるし、他のみんなはいなくならないし。



 「それは…なんかすまん」

 「いいよ、別に」

 「おう…」


 それからはしばらく何も言わずに歩いた。

 というかさっきから思ってたんだけど僕に向けられる視線がそんなにきつくない。普通昨日の今日であんな戦い方した僕が化け物だなんだと言われないはずがないし、避けられて当然。むしろ人によっては恨んだり憎んだりするはずなんだけど…今のところ誰からもそんな視線を感じない。それどころかかえって感謝とかそういう感情のこもった表情を向ける人すらいる。

 どうゆうこと?



 「お姉ちゃん、お姉ちゃん!あれ食べたい!」

 「ん?ああ、綿あめか〜。そういえば随分前に流行らせたんだっけ。割に合わない仕事だったと思うんだけど未だにやってる人いたんだ〜」


 砂糖とかが多少高価だから原材料とかでお金がかかるし、購入する人が少ないから稼ぎが少ないし、稼ぎが少ないから材料が買えないっていう負のループだったと思うんだけどな〜。

 まぁいっか。どうせそういうのは個人の自由だし、僕もそういうの好きだからね。



 「おじぃちゃん、3つくれる?」

 「はいよぉ。ちょいと待っとれ…」


 白髪のおじいさんがゆっくりと動いて火魔法と風魔法を駆使して作られた魔道具を使って綿あめを作っていく。ひゅるひゅると白い砂糖の雲が棒に絡まっていき、たちまち1つの綿になった。

 これって以外と難しいんだよね。前にやったことがあるんだけど、なかなかふんわりとしなくって固まっちゃうんだよ。


 おじいさんは慣れた手つきでそれを3本ほど作り上げる。



 「ほい。完成じゃ」

 「おお〜」

 「どうじゃ?素敵じゃろ?」


 何を思ったのかそのうちの一つに狐耳と尻尾をつけた。マリーを見て考えついたんだろうけど、料金からして赤字にならない?

 おじいさんがそれをマリーに手渡そうとして、マリーが僕の手から離れないことを見ると僕に渡した。 



 「マリー、はい。テラも」

 「ありがとう、なの」

 「わー!ふわふわだっ!」

 「ほら、おじぃちゃんにお礼言わないと」

 「ありがとう、なの」

 「ありがとー!」

 「おうおう。かわいいい女子じゃのう。特別に料金を負けちゃろう。220Bじゃ」

 「ほい。ありがとね〜」

 「またのぉ」


 おじいちゃんが手を振るのにマリーとテラが手を振り返す。

 それから綿あめに夢中になってかじりついた。テラもマリーも口の周りをべたべたにしている。

 …後で拭いてあげないとだね。



 「ふむ。うまっ」


 僕はテラが手を離して綿あめを食べていることによって空いた右手に持った綿あめを食べる。

 ちゃんとふわふわとしていて美味しい。

 


 「お前、その子たちにはあまいんだな…」

 「ん?当然でしょ?あ、もしかして欲しかった?奢るつもりはないから自分で買ってね?」

 「ちげぇよ⁉︎」

 「そういえばさ〜、場所とかはどこでもよかった?」

 「え?なんでだ?」

 「いやぁ、しばらくは他のみんなが家にいるわけだし、近い方がいいとかはなかったのかな〜と」

 「あ〜。微妙だな。できれば近くがいいんだけど、空いてるとは限らねぇんだろ?できたら近い方がいいけど、あくまでもできたらでいいって感じだ」

 「そか。甘〜」


 周りをちょっと見てとりあえずの目的地に向かいつつ、近辺にあった宿を思い出していく。 

 多分、昨日までの戦争のおかげで多少なれど被害が出ているから宿も部屋がいくつか空いてると思うのだ。ということでまず一番近い位置にある宿に向かってみている。運が良ければ…あ〜、縁起でもないけど部屋が空いた場合はこれで今日のやることは終わる。この時期はすでに大抵の宿は満室で、入れる方がレアなのだ。



 「つか、今更の話なんだけどなんで俺だけ宿で暮らさねぇといけねぇの?別にしばらく家においてくれたってよくね?」

 「やだ。僕は正義馬鹿って嫌いなんだ。なんかその…」

 「その?」

 「目障りだからさ〜」

 「本人の前でそれをはっきり言うんだな…」

 「いやね、うちの神野くんみたいなちゃんと考えた上で行動する正義の味方みたいなのは嫌いじゃないんだよ。けど、君みたいに頭ごなしに正義ふりかざす馬鹿って嫌いなんだ。そういう馬鹿は一回社会の波にもまれて大人しくなるべきだと思わない?」

 「うっ…そう言われると言い返せねぇ」

 「ということからだよ。さて、1軒目到着〜」


 僕は1つの宿の前で立ち止まり鼻血くんを宿に押し込んで空いているかどうかを聞きに行かせる。

 少しして帰ってきた鼻血くんは微妙な表情を浮かべていた。空いてたから残念で微妙な表情をしているのか、それとも空いてなかったけど素直によろこべないから微妙な表情を浮かべてるのかわからない。

 さぁ、どっちだ?



 「空いてねぇってさ」

 「あらら〜、残念。じゃあ次に行こう」


 どうやら空いていなかった方だったらしい。

 残念だね。せっかく邪魔なのを追い出せるかと思ったのに。


 僕は綿あめを口に運びつつ、マリーと手をつないで道を歩き出す。

 テラが食べ終わって僕のをじっと見つめているけど、あげないよ?僕から糖分を奪えるなんて考えないことだね。大抵の場合で僕が誰かに譲ることなんてないんだからさ。



 「ところでなんだが、この街にお前の目星をつけてる宿っていくつあるんだ?」

 「ん〜…7軒かな。まぁ、君の条件に合いつつそこまで遠くない場所ってそれくらいしかないんだよね〜」

 「そうなのか。じゃああと6軒だな」

 「空いてるといいね〜。君を追い出せるから」

 「それを俺の前で言うのやめね?ちょいちょい心に刺さる…」

 「やだ。しばらくお世話になる対価ってことでしばらく僕のストレス発散の対象物になってね?」

 「うわぁ…こいつ外道だ。間違いない、外道だ、鬼畜だ。間違いなく頼るべき相手を間違えたやつだ」


 それは悪かったね。

 まぁ、自覚してるから全く傷つきもしないんだけどさ。



 「さてと、ごちそうさまでしたっと」


 僕は綿あめの付いていた棒をきれいに舐めてからポーチに放り込んだ。

 ついでにウエットティッシュでテラの口と自分の口の周りを拭う。マリーはまだ3割くらい残ってるからそのまま食べ終わるまで放置しておこう。

 …小さい子ってさ、なんか綿あめ食べると鼻とかにつけてるよね。可愛いからいいんだけど、後でベタベタして大変だと思うんだけどな〜。



 「お姉ちゃんお姉ちゃん!」

 「後でね」

 「むー!まだ何も言ってないよー」

 「だってさ、テラいつもここ通るときに行こうとするじゃん。そんなに好き?炭酸飲料もどき。確かに好きなのはわからなくもないんだけど」


 通りの横の方でラムネっぽい飲み物を売っている屋台があるのだ。

 毎回毎回テラはここを通るたびに買ってとねだる。そんなに好きかね?僕はそこまでじゃないからよくわからないんだけどさ。



 「えー。買ってー」

 「はぁ…じゃあ自分で買っておいで〜。はい、銅貨」

 「わかったー!」


 テラが僕の手から銅貨3枚を受け取って屋台に走っていく。

 屋台の人も微笑ましい子供の行動を眺めるようにニコニコとしながらテラからお金を受け取って飲み物を渡す。結構来ているので見慣れた反応だ。

 ちなみにこれはガラス瓶に入った飲み物で果実水に僕発明の(・・・・)魔道具で炭酸にする。なんか僕がこの世界でやったことの大半ってそういうロクでもないことな気がしてきた。というか事実だけどさ。



 「なぁ、さっきから気になってたんだけどお前”お姉ちゃん”って呼ばれてね?」

 「ん?ああ、そうだね〜」

 「なんで?お前って男だろ?」

 「さぁ〜、どうでしょう?もしかしたら女の子かもよ?」

 「いや、声とかからしてどう考えても男だな」

 「あ、そう?」

 「そうだろ。ボーイソプラノだっけ?声が高いのは。そういうんだったら悩むかもしれねぇけど、普通の男声じゃあな?」

 「ふ〜ん」

 「って、そうじゃなくってなんで?」

 「髪型とかじゃないの〜?ほら、僕の髪って割と長いし。最近見たら肩下あたりまで伸びてたよ」


 僕は先っちょがくるくると癖っ毛になっている髪をいじりながら答えた。

 ここ最近ちょっと長さを変えたのだ。大体この世界に来てからの時間に合わせて伸ばしてある。さすがに髪の毛の長さとかが一切変わってなかったら不自然かな〜と思ってね。



 「そうか」

 「じゃない?」


 宿探しが続行された。


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