56.面接しましょう 〜その3〜
「入っていい?」
「どうぞ〜」
これで最後だ。僕の前の扉が開いて女の子が顔をのぞかせる。
その女の子は黒いマントに身を包み、動きやすさを重視したと思われるシャツとズボンを着て、腰には大量のポーチと数本の短剣。
多分僕と同じ特殊系統の職業を選んだ子じゃないかな?
「とりあえず座りなよ〜」
「あ、うん。そうさせてもらうね」
「さて、じゃあ自己紹介から〜。名前は?」
「私は竹内茜。どうぞ宜しく」
竹内は僕に軽く頭をさげ、それとともに後頭部から伸びるポニーテールが揺れた。
…ん?違った。ポニーテールじゃないや。これなんかの魔物の尻尾だ。
「そっちは?」
「ん?あ、この子はティア。私の使い魔なんだ」
そういって頭の上に乗っていた黒い生物を下ろす。
見た目はリスみたいだ。ただ尻尾がサラサラのロングヘアーっぽいし、全身が真っ黒だけど。
結構可愛い。
「さて、じゃあ今まで通りの流れでやろうと思ったけどちょっと気になるから質問変えるね〜。まずこの世界での職業は?」
「使役師。生物と意思疏通し、力を貸してもらう職業だって聞いたよ」
「ああ〜。やっぱりその類いなんだ。だからその格好ね〜。なるほど、納得」
おそらく、いろいろなものを身につけているは魔物や精霊やアンデットなどを使役する職業は総じて能力値が低いためそれを補うために考えた方法なのだろう。足りない力は別のもので補えばいい。例えば火薬なんかを作って爆弾を使うのも悪くないと思うよ。
「なんで納得なの?」
「僕もそういった類いだからね〜。ま、僕は普通に戦えるけどさ」
「なんの職業?」
「なんだと思う〜?」
僕はポーチからクッキーのお代わりを引っ張り出してつまむ。
さっきまでのは普通ので、今食べてるのは抹茶風味だ。あとチョコとイチゴが残っている。
しばらく考えて竹内が答える。
「調教師?」
「SM?…じつは興味が?」
「なんでっ⁉︎」
「なんとなく〜。まぁ、違うよ。『召集:バロン』」
僕のすぐ横に真っ白いたてがみの獅子が赤い召喚陣とともに呼び出された。
ちなみにこいつはジェミニレーヴェっていう種族で、必ず双子で生まれるライオン。ずいぶん前に、死んだ母親の横で死にそうになってるのを拾った。残念ながらもう片割れはすでに死んじゃってたけど、こいつは元気に成長して今はもうちょっとした中型犬を丸呑みできるぐらいの大きさになった。
グルグルと喉を鳴らして僕に頭を擦り付ける。可愛いいやつめ。
…あ。でも周囲から見れば僕が食べられそうに見えるかも。
「こんな感じ〜。さて、なんでしょう?」
「う〜ん…サモナー?」
「ちがいま〜す。正解は魔物使いだよ〜。可愛いでしょ?」
「ティ、ティアが食べられちゃう…っ!」
「ああ〜、別にそんなことはないよ。魔物使いの眷属には食事が必要ないんだ〜。ま、食べられはするけどね」
僕は手に持っているクッキーを1枚バロンに投げる。バロンは空中でパクリとそれを平らげた。なんかサーカスみたいだね。今度芸でも教え込んでみようかな?…あ、調教師だねこれ。
「ソ、ソウナンダー」
「ははは〜。じゃあバロン、またね〜。『帰還』…と、まぁこんな感じだよ」
「は、はうぅ」
「さてと、じゃあ面接を再開しようか〜。ところで聞きたいんだけど、そのポーチとかに何入れてるの?爆薬とか?多分戦闘能力が低いからそれを補うためじゃないかな〜って思ってるんだけど、どう?」
「え?あ、えーっと。その、ね?」
「ん?どうかしたの?ああ、恥ずかしいとかだったら気にしなくっていいんじゃないかな?ミリオタとかでも別にいいと思うしさ〜」
「そ、そうかな?」
「うん。というかその反応からすると正解?」
「えっと…うん。私のお父さんが自衛隊でね、初めはそれで興味を持ったんだけどいつの間にかはまっちゃって…」
なるほど。割とそういうことってあると思うんだよね〜。
ま、うちはあんなんだから身近ではないけど、おばあちゃんとかおじいちゃんのから僕は結構影響受けてるからね〜。料理、裁縫、いろんな芸とかね。
「そか。結構あるよね〜、ちょっとしたことからはまっちゃうのってさ〜。僕もそうだし」
「へぇー。ええと、松井くん?だったっけ?」
「そうだよ〜。もう一度名乗っておこうか?松井新一郎。この世界ではネロって名乗ってるよ〜」
「ネロ?」
「ああ、向こうの世界の暴君の名前だよ〜。確か最後は自殺しちゃったんだったけ…ね?」
「え、えぇー…」
「ま、特に理由はないよ〜。強いて言うならキリスト教徒を虐殺しまくったところに親近感?」
いやね。僕もついさっきやったわけだし、気に入らないやつを拷問にかけたり殺したりって結構するし、自分のもののために他を犠牲にとかも遠慮する気ないし、意外と近いところが多いかな〜って。
まぁ、一番の理由は他に名前が思いつかなかったっていうことなんだけどさ。なんか自分と近い人の名前ならともかく、違う性格の人の名前を名乗るのって変な気分じゃない?僕の偏見だけどさ。
竹内の顔が引きつった。
別に僕のせいではないよね?うん。
「し、親近感…え、えと、じゃあなんて呼べばいい?」
「普通に好きなように呼んで〜。ちなみに知り合いからはしんちゃんって呼ばれてるよ〜」
「じゃあ私もそう呼ぶね」
「うん。さて、ずいぶん話が逸れちゃったね。一応聞きたいんだけど、戦争をどうこうしたいとかって思う?」
「うーん。思…わないかな。私にそんなことができるなんて思えないし、何よりその…私には力がないし」
「まぁ、力不足には違いないね〜。ところでポーチに何入れてるの?銃?爆弾?…あ、でもそんなに大きな物は入らなそうだね。う〜ん。火薬とか?」
「ええと、基本的には鉄とか火薬の元になる物とかかな。私のスキルに【調合】っていうのと【錬金】っていうのがあって、それを使って材料から武器を作ってるの」
「なるほど。それは効率的だね〜。魔力を余らせがちな僕らの職業に向いてていいと思うよ〜」
基本的に僕らの職業は攻撃に魔法を使うということさえしなければほぼ魔力を消費しない。魔力を使うのは召喚や指示するときのみで、それ以外は何も魔力を消費しない。それなのに職業が魔法使いとかの部類に入るせいで能力値の成長が魔力とかに偏っているのだ。おかげで魔力が多い。
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいかな」
「まぁ、そうやって知識があるからこその戦法だよね〜。なかったら魔法を使うか大人しく後方支援に徹するかどうにかして戦うかしかないわけだし?」
「そういえばしんちゃんはどうやって戦ってるの?あんな風に動けてたし、能力値が高いの?」
「いや〜、僕の能力値は一般人程度だよ〜」
レベルあげても上がるのは魔力と耐性と知力ばっかりで、基本的な体の能力値は上がる気配すらない。まぁ、この体自体が作り物だから体力とか魔力とかはほぼ無尽蔵なわけだし、知力は下げようにも下がらないから、結局どうにもできないわけなんだけどさ。
おかげで処理能力が無駄に高い上に、無限に動けるだけの一般人だね。強そうに聞こえるかもしれないけど、実際のところはガソリンが切れないだけの車で改造車とレースするような感じだよ。火力がないんだよね〜。
僕のそんな答えに竹内が首をかしげた。
「でも、さっき戦えるって言ってなかった?」
「ああ〜。別に能力値と戦えるかどうかは別の話だよ。ほら、合気道とかって力のない女性でも男性を倒せるでしょ?あれと同じだよ〜」
「へぇー。で、どうやって戦ってるの?やっぱり魔物に戦わせるの?」
「そういえば最近誰かを戦わせたことはないね〜。全部結局自分で戦ってるし」
「…え?」
「いやぁ、呼ぶ出すより自力で戦った方が早いしストレス発散になるし〜」
「じゃあなんで魔物使いを選んだの…?」
あれ?なんか呆れ顔された。
何かおかしい?だって普通に戦う方が早いじゃん。1回魔法陣組み立てて召喚するより、腰から剣を抜いて切る方が早いのは道理じゃない?
「ん〜。最初から魔物使いだったからかな〜」
「最初から?」
「うん。僕はこの世界に来るの2回目なんだよね〜。で、最初来たときが魔物使いだったんだ」
「えっ?2回目?」
「あ、口が滑った。うん、忘れて〜。どうせそのうちわかると思うけど、それまでの間は聞かなかったことにしておいてくれる?僕が説明するのが面倒臭いからさ」
「えぇー…わ、わかった。でも、2回目っていうことはこの世界に詳しいの?」
「うん。まぁそこそこにね〜。ってあれ?また話が逸れた。次行くよ〜。これからどうしたいって思ってる?」
「これから…?これから、私は……私はこの戦争にもう少し関わってみたい。私は弱いから深くじゃなくていいの。でも、呼ばれたからにはそれを見届けないといけないような気がして、その…傲慢、かな?」
「ふ〜ん。じゃあしばらくここにいることを許可してあげる。僕は戦争を楽しむ人は大歓迎だよ〜。これからロメを呼んで今日の部屋割りを話すし、今後の話もするからね」
「わかった。…あ。その、シンディたちってどうなるの?」
「シンディ?…あ、もしかしてあのメイドさんたち?」
「うん。これからどうされちゃうのかな…って」
竹内が少し不安そうな表情を浮かべた。
でもそうだったね。
どうしようか?僕は割と僕のものに手を出さない限り放置でいいと思ってたんだけど。今まで世話してもらってたわけだし、一緒にいたいのかな?精神の安定に使えるかもしれないし、一緒にいさせるのは悪くないとは思うんだけど、偏見の塊だから他種族に何かやらかしてその責任が僕に飛んできたら嫌だし…
「ちょっと聞きたいんだけど、竹内さんはどうしたい?」
「ええと、今までお世話になってたからこれからもそうしてもらいたいかな?」
「ふ〜ん。まぁいっか。責任を僕は一切負わないけどそれでいいなら君らに一任しておこうかな。ところで今いるのって誰のメイドさんなの?」
「シンディは私のメイドで、ミレディは隆太くんの、ウィンディが恭子ちゃんのメイドかな。ここまで来る時もお世話になってて、できればみんなも離れたくないと思うの…」
「そか。まぁ話はこんなところかな。じゃあみんなのところに帰ろうか〜」
僕は席を立つ。それを見た竹内が立ち上がって部屋を出た。
部屋を出る時にかけていた魔法を解除し、クッキーをポーチにしまう。残りはまた今度食べるとする。
隣の部屋に入ると残りの人たちが雑談を交わしていた。内容は僕と話したことのようだ。鼻血くんが僕の方を見て微妙な表情を浮かべた。おそらく追い出されるのが自分のみだということに気がついたといったところだろう。
まぁそれを望んだのは自分なわけだしね。だって他の人は全てをよく知って行動したいとか言わなかったし?一応1人近いのはいたけどそれは今考え中なわけだし、多分僕の思った方向に動いてくれるだろうし。
「さてと。ロメはもうそろそろ来ると…あ、来た」
「いやどうしてわかるんだよ?」
「ん?だって魔力のライン的なのが繋がってるからね〜」
「あ、もしかしてロメって呼んだのはしんちゃんの眷属なの?」
「うん。怨精霊っていう種族だよ〜。さて、来たみたいだしこれからのことを話そうか〜」
僕は後ろの扉がノックされてから開いたのを見て言った。
ロメが僕の後ろで軽く礼をする。
「遅くなってしまう申し訳ありません、主」
「いいよ〜。じゃ、まずは部屋の話をしようか。今、うちの空いている部屋は確か7部屋ぐらいだったっけ?」
「はい。物置として使用している部屋を合わせますと11部屋ですね」
「と言うことで、今日は泊めてあげる。鼻血くんは明日っから街に出て自力で生活。速水さんはとりあえず保留だから2週間ぐらいはここに置いてあげる。考えがまとまったら教えてね。大橋くん大野さんの2人は王国軍と合流する予定だからそれまでの間はここに置いてあげる。竹内さんは気に入ったからこの家の部屋を1つしばらくの間貸してあげるよ。あと最後はメイドさんたち」
僕が壁に鎖で固定されているメイドに目をやると、周囲から非難を浴びせるような視線が飛んできた。別に殺したりするつもりは今はないのにね。
その鎖を【念動力】で鍵を外して回収し、ポーチにしまう。
「メイドさんたちは君らに一任するよ。今までみたいに世話になりたければそうすればいいし、王国軍の手土産にしたければすればいいし、性欲のはけ口にしたければそれでもいいし、僕によこすっていうのでも構わない。ま、僕のものに手を出した場合は問答無用で拷問にかけて生かすから」
「生かす?殺すじゃねぇの?」
「そんなもの生ぬるい。生きているだけで地獄としか思えない状況に叩き込んであげるよ」
「う、うわぁ…」
鼻血くんからなんとも言えない反応をもらったところで僕は部屋の分担とかをロメに任せて部屋を出た。
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