見当違いの最強
「嘘…だよな」
俺は目を疑った。ふざけ半分でまともに仕事もせず遊び呆けてとしか見えなかった奴が、今戦場で敵兵をこれでもかと言わんばかりの勢いで殺していた。いや、もはやこれを殺すと言うべきではない。一方的な虐殺、自然災害にも等しいだろう。
宙をに浮く大量の武器の数々が敵に飛び、ある時は切り裂き、ある時は叩き、ある時は突き刺さり、ともかくこの世の光景とは思えなかった。
この街のギルド最強を語った俺がバカみてぇだ。いや、事実バカだ。
昔から強い奴の権威に守られて、自分は何の努力しねぇ。俺はそんな人間だ。
おかげで上手く世を渡る方法も戦場で生き残る方法も学んだ。おかげで熟練の冒険者だとか言われ、調子に乗ってた。自分は強えと思ってた。
そんなのは偽物の強さにすぎねぇ。本当は俺自身に力がないのはよく理解してたつもりだった。本当は俺が無能なのも理解してたつもりだった。
今はっきりした。俺は飛んだ愚か者だ。
「は、ははは…」
口から零れるのは乾いた笑い声。
俺はもう何も言うことは許されねぇ。もっと上手くやってりゃあ、あんな化け物に頼らなかったのかもしれねぇ。
少なくともこの街で生きていくというのはあいつと顔を合わせることになる。顔をあわせるだけで恐怖でその身が震えそうだ。
『……我、常世を嘆く者。汝、その身に余る絶望を詠い、甘美なる叫びに身を焦せ。禁呪第078項、死者の狂宴』
そいつの詠唱が聞こえた。
それと同時に地面に横たわっていた兵士が立ち上がり、アンデットのように…いや、ありゃあアンデットだ。アンデットになって立ち上がりやがった。
宙に浮く武器に手を伸ばし、ほんの数分前までは味方だった者へその腕をふるう。そのアンデットとなった兵士の表情が苦悶に満ちている。「嫌だ」と叫ぶ声が聞こえる。
「…化け物だ」
誰かがそう言った。
昔腐れ縁で入れてもらっていたAランクパーティの奴らとなんざ比べ物にならねぇ。俺のいたパーティの魔法使いは炎の竜巻を起すぐらいが限界だった。それに比べ、あいつの魔法は戦場全てを覆うかのように黒い霧が覆っている。…規模が違いすぎる。
あんなもん、見たことも聞いたこともねぇよ。
俺だって少しは魔法が使える。だが、あんな規格外なものは無理だ。使えるからこそその異常さに目がいく。
「もう、訳がわかんねぇよ…」
それだけじゃねぇ。
あいつは当然のようにさっきからいろいろな武器を振り回している。種類の違う、部類すらも違う武器を。
無駄に戦いで生き延びている俺だからこそわかることがある。あんなのはあり得ない。一種類の武器を極めるのに一生をかけるのが普通だ。それなのにあいつはその大量の武器を扱いこなしている。
マジに冗談じゃねぇよ。俺はさっきまであんな化け物に喧嘩を売ってたと思うと寒気がする。
きっとその姿に誰もが目を見張ることだろう。
武器を振り回す姿は微塵も一生懸命に見えやしない。そこらへんで会話をするがごとく、日常の一瞬のように自然に武器を振り回す。
俺もそんな風になってみたかったと心のどこかで言っている気がする。
昔から俺はダメだった。才能はない。努力もできない。そんな俺には強え奴の権威を借りる以外の方法を思いつく頭もなかった。
だからきっとこんなになっちまったんだと思う。
自分じゃなくパーティの権力を鼻をかけて周りを見下し、うまいこと逃げ延びることだけばっか考えて生きてきた。
そんなんじゃあどうしようもねぇのはよく理解している。本当に愚かだ。
どこかで道を正せなかっただろうか?そんな言葉が俺の頭に浮かぶ。
もしどこかで努力して、そのパーティにふさわしくなろうとしていればそのパーティが壊滅することもなかったかもしれねぇ。
「クソッ…」
今さらそう考えるだけで悔しくなってくる。
俺がバカだったんだ。
そのリーダーは俺を幼なじみだからという理由だけで誘ってくれた。
俺は何事もうまくいってなくて、そのうまい話に乗って諦めた。俺じゃあ無理だったと言い訳をして、そいつらの好意に甘えてた。パーティが壊滅したのはきっと俺のせいだったんだろう。俺がそこで努力すれば少しぐらい変わったかもしれなかったのに、そのパーティで誰かに教えを乞うことができるぐらいに俺がプライドを捨てられていれば違った未来があったかもしれねぇのに。
「どうすりゃよかったんだよ…」
その戦う姿に畏怖を覚える。
あんな強さが俺も欲しかった。偽りでも、自称するだけでもねぇ、本当の力が。
「あれが…”白き暴虐”」
すぐ横でその戦いに目を奪われていたベイルがそう呟いた。
確かに、その姿は白いローブをたなびかせながる暴虐の化身。誰もがそれに恐怖を覚えるはずだ。
あぁ…きっとあいつは誰もから恐怖の対象として捕えられることを承知で戦っているのだろう。だからこそ今まで戦わなかったのだろうからな。それなのに今はその力をふるって周囲に恐怖を撒き散らしている。
化け物のように、腫れ物のように扱われるのを理解して戦っている。
…強えな。
『あ゛ぁ゛…ぁあああ…あああぁ゛…』
生きる屍となった兵士が言葉を失った。
敵兵士たちが恐怖に駆られて逃亡を始める。
あいつはそれを許さない。巨大な剣が行く先へ先回りし、地面に突き刺さって道を塞ぐ。
逃げ惑う敵兵になんの慈悲もなくその力を振るう。
地面は血にまみれ、若草色だった草原も赤黒く塗りつぶされていった。その中で異常なまでに白い人影が目につく。
…おいおい、冗談だろ?それじゃあ一度も返り血を浴びてねぇってことじゃねぇか。あんな乱戦の状態で血を浴びねぇなんざどんな達人にだってきっと無理だろう。それをあいつはやってのけているということだ。
マジでシャレにならねぇ。
どうして今まであいつの強さに気がつかなかったのだろうか?
いや、その答えはすぐに出るな。ひょろっとした体型、やる気なく気の抜けた表情、ふざけた物言い。その全てが強者あるまじき姿を映し出している。
そんな中でも一番の理由はいくらなんでも威圧感がなさすぎたことだろうな。通常なら強え奴はその強さに見合った威圧感を感じる。これは直感とかじゃねぇ。俺のスキルだ。【危険度理解】っていう危険度を知るスキル。
それに全く引っかからなかったんだ。大抵の奴は多少なれどそれが反応する。剣を持ったガキですら反応するのにもかかわらず、あいつからは何も感じられなかった。
そこでおかしいと気がつくべきだったんだな。
『もういいや。飽きちゃった。『世界は虚言でできている。ならばその身は存在し得ない。消え失せよ、消滅せよ、掻き消えよ。汝は偽りなり。禁呪第2001項、戯言でできた世界』』
再び詠唱が聞こえた。
そしてその瞬間、兵士が消えた。まるで存在しなかったかのように綺麗に消え失せた。
「ははは…冗談じゃねぇや」
最強なんて馬鹿馬鹿しい。
そういうのはああいう奴のためにある言葉だ。
俺も…やり直せるだろうか?
俺はプライドを捨てた。
竜の駆ける足音が聞こえた。
今さらになって援軍が到着したらしい。
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