52.選択しましょう
すみません。予約投稿ミスってました…
「はぁ…ダメだったか〜」
結局2日間この街は耐え切った。
いやね、頑張ったんだよ?
魔法を打ち込みまくって牽制している間に冒険者の身軽な奴が本拠地攻めに行ってみたり、一斉に突撃して戦力削ろうと頑張ってみたり、防壁作りまくって敵の体力消耗させたところで一気に倒しにかかってみたり、外壁の中にこもって妨害ばっかりしてみたり、遠距離攻撃しまくって敵を抑えたり、強い魔法を打ち込むの狙って頑張って敵を引き寄せたり…まぁ他にも幾つかの手を打ってみたよ。
結果、敵の半分までは削ることに成功した。それに対してこっちの被害はおよそ400人と少し。その中で死亡はたったの30人だ。結構頑張ったでしょ?でしょ?
「もう限界かな〜」
けれど精神的に折れて戦えなくなっちゃった奴が全軍の内の3割、怪我の治療中で戦えないのが4割。結局は3割しか残っていない。
もう限界っていうやつだ。
もうじき夜が明ける。
昨日の夜中の時点で敵の援軍の到着は確認した。こっちの援軍はあと半日はかかる距離にいる。
「…そろそろ使者が来る頃かな?」
夜が明けたら敵軍が戦闘態勢で現れることだろう。
それを見れば多分こっちの奴らは戦闘を放棄して降伏する。例え自分に近しい者が捕虜として、奴隷として捕えられることになろうとも。だって戦力差的に無理があるからね。戦って死ぬぐらいなら人は大抵自分の命を第一にするものだ。もちろん自分より大切なものがある人だっているだろうけど、この街の半数近くは降伏を選ぶと思うよ。
だって無駄死にしろって言われて大人しく従う奴がどれくらいいると思う?
「あ、移動し始めた」
日が昇り始めた午前5時過ぎくらい。敵兵が陣形を組み始めた。
薄暗い中ガチャガチャと鎧がぶつかり合いながら敵兵が動くのが聞こえてきている。それはしばらく続き、おそらく陣形を組み終えたのだろう。数分して音が止んだ。
小さくだが声が聞こえているから今日の作戦の最終確認でもしているのだろう。こっちを舐めきっている証拠だ。まぁ事実こっちの増援が当分望めないのは知られてるし、戦力がほとんど残っていないのもばれてるわけだからしょうがないと言えばそうなんだけどさ。
「鳴らしますかな〜」
ガラン…ガランガラン…ガラン…ガランガラン…
こっちの兵士と冒険者のまだ動ける連中が外壁の上へと登ってくる。もう戦力にならない者が多いために昨日のうちに会議を開き、籠城戦をすることになっている。
日が半分ほど昇りきったところで外壁の上には100人前後の兵が集まった。それぞれが弓や杖や魔道具なんかを構えている。
「敵は…?」
「ん〜、2000とちょっとかな〜?」
「なっ…⁉︎」
「司令塔さんや、もうちょっと落ち着いていようよ。みんなに不安が伝染するでしょ?」
「あ、ああ…そう、だな」
僕のすぐそばまで来た司令塔さんが僕の言葉に絶句した。
まぁ、無理だってのはすぐにわかったんだろうし、しょうがないよね。
「どうする〜?」
「ど、どうするとは…どういうことだ?」
「このまま籠城するか、正面から立ち向かうか、本隊に向けて奇襲部隊を送るか、こっちの増援が来るまでどうにか耐えきるか」
「そ、それを私に決めろというのかっ…⁉︎」
「当然でしょ〜?だって司令塔さんは司令塔なんだからさ」
「ぬ、ぬぅ…」
司令塔さんはもともと根っから優しい善人だ。戦争だっていうのに人を殺す命令にも戸惑うし、味方が死ぬとものすごく悲しむし、怪我するだけでふさぎ込むような勢いで落ち込むし。ま、だからこそみんなが任せてもいいと思えるんだと思うけどね。
司令塔さんが顎に手を当てて考え込んでいるうちにこっちの兵士が全員持ち場についたようで、寄生虫がやってきた。
「ベイル、全員持ち場についたみてぇだぞ」
「上官に対してもうちょっと敬意を払うべきだと僕は思うよ〜」
「うるせぇな。お前に言われる筋合いはねぇ」
「さて、もうちょっとで向こうが進行してくるよ。今、今日の作戦の最終確認をしてる。今日は絶えず攻め続けて本気でこの街を落とすつもりみたいだね。作戦変更するなら今のうちだよ」
「ぬぐぐぐ…」
全員が持ち場につき終えた。つまり、こっちの戦闘の準備は整ったわけだ。あとは敵が来るのを待つだけ。まぁ来ないに越したことはないけどさ。
ここからは司令塔さんの命令次第になった。今のうちにみんなの前で激励の言葉を言って士気を高めるもよし、攻め入られるまで黙っているもよし、作戦を変更して敵への対策を立てるもよし、裏門から街の住民を逃がすもよしだ。
「…あ、来ちゃった」
僕は誰にも聞こえないレベルの声でボソッとつぶやいた。
1人の兵士が動くのが聞こえた。おそらく使者として任を帯びた兵士だろう。
その兵士はカチャカチャと小さい音を立てながら歩いてこちらへと向かってきている。カサカサと草を踏みしめ、兵士がだんだんとこちらに近づく。
兵士が近づくのに合わせるかのように日が昇っていき、辺りが明るくなっていく。
そうして敵兵の軍団がその全貌を露わにする。
『私は皇国軍から使者として参った者だ!どうか門を開けてほしい!』
兵士が門から少し離れた場所でそう言い放った。
こっちの兵士や冒険者たちに絶望が満ちる。まぁあの量の敵兵を見たらそうなるよね〜。
「あ〜、どうする?司令塔さん」
「…その場で聞こう。もし中で戦闘が起きたら」
「まぁ慎重なのはいいことだと思うよ」
司令塔さんが言うのももっともだ。この状況で中に入れて、そいつが使者じゃなくて戦闘訓練を積んだ強兵とかだったらえらいことになっちゃうのは事実だし。
じゃあこの場で聞くとしようか。
「あ〜、使者さんとやら〜。言伝があるんでしょ?そこで言ってくれるかな〜?」
僕は風魔法で兵士に届くように音の振動を操作しながら喋った。
兵士はちょっと驚いた様子だったが、すぐに立ち直り、返答を返す。
『承知致した!では我らが隊長からの言を告げる!…』
兵士は降伏してほしいということとその条件を言い放った。
簡単に言うと、
1.街を開城すること。
2.敵対行動を禁止し、住民及び兵たちは向こうの隊長の要求に従う。
3.兵士へ食料や住居、武器などの提供。
4.こちらの首謀者を差し出す。
5.行政やギルドなどの権限を向こうの隊長に委ねる。
6.人間種以外を奴隷として差し出す。
だ。
よし、お断りだ。
「司令塔さんや、どうする?」
「そ、それは…もし降伏した場合住民たちの安全は、保障されるのだろうな?」
「聞いてみようか。降伏した場合の住民はどうするの〜?」
僕の質問に使者が答えた。
『人間種であれば安全を保障しよう。だが、それ以外の種族の保障はしかねる』
「だ、そうだよ?」
「くっ…そ、それでは…」
「うん。この街の半分ぐらい奴隷になるね〜」
この世界は人間種>獣人種>エルフ種>その他いろいろ、みたいな感じに人口が多い。いくら人間種が多いとはいえど、ここはいろんな種族が集まった街だ。この街の半分とちょっとが奴隷に身をやつすことになるだろうことは想像に難しくない。
だが、この街全体のことを考えれば敵対して略奪されて多くが死ぬより、降伏した方が生存者が多くなることは間違いはないだろうね。
「降伏…しちまおうぜ。そうすりゃ半分は助かるんだろ?」
「君はアホ?君は人間種だけど、司令塔さんや戦ってる人の半数以上がそれ以外に入るんだよ?面と向かって死ねって言いたいわけ?」
「そ、そりゃあ…」
寄生虫は言いどもる。
だが、その言葉に一部兵士は降伏する気になっている。
「もうダメだ」だとか、「降伏しよう」だとかの声が聞こえている。
「………降伏、しよう。私たちが一度奴隷となっても、これからくる援軍がきっと救い出してくれる」
しばらく考え込んだ司令塔さんがやっとのことで答えを口にした。
「援軍が来ても助かるとは限らないよ?」
「それを信じるしか…もう道はない」
「ふ〜ん。じゃあ、もしその間に司令塔さんの家族が性欲のはけ口にされるとしても降伏するの?」
「…ああ」
「街中の人間種以外が腹いせに殺されてしまうかもしれないとしても?」
「…ああ」
「もしその間に司令塔さんがが殺されるとしても?」
「…ああ!」
「その心意気は買ってあげる。まぁ僕が降伏するつもりがないから、その結果はありえないけどね」
僕は【武器創造】で短剣を一本生み出して使者の首を斬りとばす。
もはや絶望的状況に立たされていた兵士たちに衝撃が走った。
「テ、テメェ!なんつうことしてくれてんだ!こ、こここれじゃあ俺らが」
「少し黙って見てなよ」
僕は15mほどある外壁の上から外に飛び降り、スチャッと華麗に地面に着地した。
使者が殺されたのが…というか倒れたのが見えたのか、敵がこちらに向かって進軍しようとする声が聞こえた。
「『あ〜、あ〜。敵兵の皆さんごきげんうるわしゅ〜。今からまともに僕が相手してあげる。死にたくないならさっさと帰ってくれるかな?今なら逃げるのも見逃してあげるからさ』」
僕は声を風魔法で増幅して敵に呼びかける。多分味方にも聞こえてたと思うけどね。
まぁ、交渉決裂なのは目に見えてわかった。
『『『『うぉぉおおおおおおおお!』』』』
敵兵が波のように押し寄せる。
槍兵が先頭に、大量の兵士がこちらに向けて進軍を始めた。
「交渉決裂〜。じゃあ、やろうか」
僕はストレージポーチの中から前に武器を大量にしまいこんでおいたものを出す。
それの口を広げ、中から大量の武器を取り出し始める。
10…20…30…40…50…100…200…300…1000…2000…
次々と武器が溢れてくる。
それらは宙を舞い、僕の周辺を漂う。
僕はそのうちの1つを適当に手にして走り出す。
「さてと。じゃあ僕に従わなかった愚か者には滅んでもらおうか」
敵までの距離、100m…90m…80m…70m…60m…50m…40m…30m…20m…10m…9m…8m…7m…6m…5m…4m…3m…2m…1m…
さぁ、虐殺の始まりだ。
槍をかわし、空中に一歩踏み出しながら首を切る。さらに後ろで控えていた数本の斧が敵兵を真っ二つに切り裂く。
空中で一回転体をひねって近くにいた兵士の腕を切る。後ろから槍数本が飛んで敵兵を串刺しにする。
兵士を踏み台にして奥へ進んで再び近くにいた兵士の首を掻っ切り、そのままの勢いで地面に着地して足払いをかけてもう一人の首に剣を突き刺す。
その剣を手放して中に舞う1本を掴み、それと同時に近づいた兵士が大鎌に頭部を斬り飛ばす。
地面を踏みしめて前方に直進、剣を横に薙いで鎧の隙間から腹部に切り込みを入れる。後方から長剣が弾丸のように飛んで数人の敵兵の頭部を消し飛ばす。
目の前に出てきた敵兵の腹に剣を突き刺し、手頃な位置にあった戦槌を手にとって重量に任せて振る。さらにそのまま投げ飛ばして近くの短剣を手に取り、肢体を踏み台に後ろにいた槍兵の首に切り込みを入れる。
「ふふふ…やっぱりストレス発散はこうじゃないとだよね」
耳に響く苦しみ悶える叫びが心地いい。
空いてる左手に手斧をつかんで投げて奥にいる兵士の首を飛ばす。
後方で宙に舞う短剣の束が津波のように押し寄せて敵兵士を言葉通り”削る”。
走って前方にいる兵士の目に手に持つ短剣を突き刺す。脳まで突き刺さったところで短剣から手を離し、槍に持ち替える。そのまま横にいる敵兵を突いて数人を串刺しに。
再び宙を飛ぶ手頃な剣に手を伸ばし、そのまま振り下ろす。後方で槍が舞って敵兵が致命傷を負って地面に倒れこむ。
死体を踏んで宙に飛び、手に持った剣を投げて敵兵の首を飛ばし、空中を踏んで跳躍して大剣を持って重力に従って振り落とす。
僕の周辺には阿鼻叫喚の地獄が構成されていく。
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