50.見守りましょう
「ただいま〜」
「おかえりなさいませ、主。今日もお務めご苦労様でした」
「ははは〜。ロメが妻みたいだよ〜。僕に男色の趣味…ああ、肉体的には正解かな?」
「ご冗談を。お食事にしますか?それとも一度休息を取られますか?」
「ご飯にして〜。マリーも疲れてるし、明日は多分早いしさ?」
「そうですね。では食事にいたしましょう」
そう言ってロメが玄関からいなくなる。
僕はマリーを背中から降ろし、テラとマリーと手をつないだまま食堂に向かう。
結局、この街の行政は色々酷かった。
簡潔に言おう。戦争がきたら即つぶれるね。この街が一つの世界みたいな感じで、外からの干渉を全く考えていないものだったのだからしょうがないと言えばそれまでなのだが、さすがにすぐ戦争が起こるのだからまずいということでギルドにちょっと干渉、スラム街のボスとお話し(物理)をして、幾つかをどうにかした。
うまくいくかなぁ〜?うまくいくといいんだけどなぁ〜。
「さて、いただきます」
今日の夕食のメニューはクロワッサン、ゆで卵、ローストビーフ、人参の冷スープ、ロールキャベツ、白肴のワイン蒸し、グラタンだ。デザートにはシャーベットが付いている。
「マリー、テラ、僕は明日と明後日とその次ぐらいまでは忙しいから二人で仲良くしててもらえるかな?」
「…なんでなの?」
「大雪ってわかる?それのせいで家が雪で覆われちゃうからその準備をしないといけないんだ」
「わかったの…」
「私も手伝うー!」
「そしたらマリーが寂しいでしょ?テラはマリーと遊んであげてね」
「むぅー…わかった」
「うん。いい子だ」
当然のことながら嘘である。
実際にその準備もあるが、それはすでにロメと協力して大方済ました。あとはほんのちょっとなので残りのことはロメに任せる。
でまぁ勿論のこと、本来の用事は戦争だ。あまり乗り気じゃない…っていうか戦争に乗り気なのは頭が逝ってるやつだと思うけど、多少は協力しないとまずい。多分3日持てば頑張ったと言えるだろう。それほどまでにこの街は弱い。一番初めに攻めようとするのも納得の弱さだ。
だってさ、兵士はそこそこいるのに戦略とかについて全く知識がないってありえないでしょ?ギルドでレイド組んでやったりした経験者がいないっておかしいでしょ?スラム街のやつらが協力する気ゼロってアホでしょ?
何?みんなそんなに死にたいの?本気でそんな感じだよ?
おかげでこの3日ほどギルドやらボスの家やら領主の家やら兵士の詰所やらに通ったんだからね。もうくたくただよ。心が折れちゃうよ?本当にさ。
「ふぅ。ごちそうさま〜」
僕は食後のコーヒーでイライラを紛らわす。
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明朝。だいたい6時過ぎくらい。
霧はないけど、まだちょっと外が白んできた程度で視界は良くない。
「はぁ…憂鬱だよ〜」
僕は外壁の山側に向いている場所の上に立ってそんなことをこぼす。
だいたいこんなの僕の領分じゃないんだよ。僕はシミュレーションゲームは好きだけど、RPGは嫌いなんだ。わざわざフラグ立てに走り回る手間が大っ嫌い。それが好きって人もいるんだろうけど僕は大っ嫌いだ。面倒くさいじゃん。
「本当、僕がなんでこんなことしないといけないのさ〜…」
今僕がここにいるのは警鐘を鳴らすためだ。
名乗り出たのは確かに僕なんだよ?だって見える距離に来てから鳴らしたんじゃこの街すぐに潰れちゃうもん。だからせめて準備できるようにって僕が名乗り出たんだよ?
だからと言って一人に押し付けるのはどうかって思わない?あいつらみんな頭おかしい。
そんなことを思っていると、視界の端に鎧が見えた。
「全く…これっきりだからね」
ガラン…ガランガラン…ガラン…ガランガラン…
一度鳴らして一回間を空け、二度続けて鳴らす。
ガラン…ガランガラン…ガラン…ガランガラン…
だいたいこれでいいだろう。
ギルドにも兵士にもスラムにも聞こえたはずだ。ああ、うちにはロメ以外聞こえたいないはずだけどね。防音の結界張ってきた。だってマリーたちを起こしちゃいけないでしょ?
「さて、どうなるかな〜」
街が騒がしくなってきた。
兵士が領主館から出てきて外壁の外に並び始める。それに続いて冒険者もまばらに出始めた。
この世界の戦争はえらく古典的だ。
兵の集団が陣形を組み、それらがぶつかり合うというありきたりなもの。本当どこの戦国時代だって言いたくなるんだけどさ。
しかもこの街については特に魔法使いが役に立たない。よっぽど信長が用いたとされている銃の方が有能だ。味方巻き添いにするし、命令聞かないし、そのくせ魔力が切れたらぶっ倒れてお荷物になるしさ。まぁ威力だけで言ったらピカイチかもしれないけど、ほとんど無能。別に全部の魔法使いがそうてわけじゃないけどさ。いっそ魔力切れを狙って盾師で固めた方が勝てるんじゃないかって思う。
まぁ知ったこちゃないんだけど?
「さて、第一戦開幕〜」
ここからは僕の時間だ。
当初の目的通り、観戦するのを楽しむことにするよ。
多分第二戦で終わるけどね。2日耐えれば我慢してあげる。3日目は敵に僕の八つ当たりに付き合ってもらうことにした。そうすれば街も守れて僕も楽しめて一石二鳥。
そんな間に街の兵士と冒険者が外壁の外に並んだ。
兵士は一定数ごとにまとまって司令官の指示を待ち、冒険者は遊撃部隊としてあちらこちらにパーティごとに配置されている。
さすがに街と命が掛かってるとなるとみんなやる気が違うね。目に絶望が浮かんでるよ。
「さて、敵さんは〜」
僕は雑貨屋で買った望遠鏡を目に当てる。
敵の司令官と思われる人物が何か言っているのが見えた。
兵量はだいたいこっちの2倍強。うち魔法使いっぽいのが3割、重剣士系統が4割、槍部隊が2割、弓兵がちょっと、軽装備なのは…ああ、勇者発見。ほんの数人だけど勇者とその護衛っぽいのが弓兵と合わせて1割に満たない程度いる。
これは2日も持たないかな〜?
「あ、動いた」
ガランガランガラン…ガランガランガラン…
僕は警戒の鐘を鳴らす。
特別だ。さすがに1日たらずで滅んじゃったら興ざめってやつだからね。向こうさんが進行して来たのは告げてあげる。
ザッザッザッザッ…と行進する敵兵たち。昔見た戦争の映画みたいだ。
ああ、いや戦争だったね。とにかく、綺麗に陣形を組んで敵兵がこちら側に向けて進み始めたっていうのが言いたかったんだよ。
敵兵たちは槍兵を先頭にこちら側に向けて少しばかり進行してきた。
ちょうどこの辺りは山が山っていうよりもはや丘陵みたい…要するに単なる丘みたいなレベルでしかないために向こう側にあまりアドバンテージがない。それでも少しだけ向こうの方が上に位置しているためにこちら側からは攻めずらくなっている形だ。
向こうの兵は魔法使いが丘のてっぺん辺りに配置され、槍兵と盾を持った重装兵が一番前に構えたところで止まった。
「さて、どう動くかな〜?」
今、こちら側からも向こうの兵士が見える距離に…正しくは兵士が見える位置に移動してきたため、あとは戦を始めるのみだ。
別にこちら側から攻め入る必要は全くないが、それでも放っておけば向こうから遠距離の攻撃を食らうのは間違いない。だからと言って外壁の中に引っ込めば、敵は好機と見て攻め入ってくるだろう。
つまるところ牽制する必要があるのだ。敵が攻め入ろうと思わず、こちらにも被害が出ない程度のね。
『魔法兵部隊、詠唱開始っ!』
敵の隊長格らしき人物の声が聞こえたと同時に一番上で待機していた魔法使いたちが詠唱を開始する。
ああ、そういえばだけど陣を使う人はこの世界にはもうほとんどいないよ。陣について僕がルーに詳しく教えなかったおかげで魔法学園で教えるのは魔法詠唱。そのため手間がかかる陣魔法は姿を消しかけてる。未だにそれらを使うのは長生きな人達だけだね。
実際そっちの方が使い勝手がいいのにね〜。
『第一陣…放てぇ!』
そんな間に魔法が放たれた。
地魔法だ。
だいたい人の半分ほどの大きさの岩石が生み出され、それらが次々と丘を転げ落ちていく。そして、その岩たちはこちらの兵士に向けて転がり、加速し始める。
「うわぁ〜、理不尽」
坂を転げるおかげで速度が増した大量の岩が兵士に向かって転がってくる。
実際かなりの恐怖だろうね。子供ぐらいの大きさをした岩が猛スピードで迫ってくるのはさすがに一般人には辛いと思う。どこのアトラクションかなって感じだよ。
その攻撃に対し、こっちの兵士たちは混乱。司令塔が盾持ちに防御するよう命令を飛ばしているが、混乱の声に混じってあまり届いていない。
「全く。みんなアホなのかな〜?」
ガラン…ガラン…ガラン…ガラン…
鐘を鳴らして注意を引きつける。ちょっと混乱がマシになり、盾を持つ兵士たちが一番先頭で岩を受け流すような構えを取り、残りの兵士がそれを支えるなり安全な位置に移動するなりと攻撃を受ける構えを取った。
岩が放たれておよそ20秒と少し。ガンッ!と金属の盾に当たった岩が音を立ててぶつかり、兵士たちが少し後ろへ吹き飛ばされつつも岩を外壁前の堀の中へ落とす。中には吹き飛ばされた兵士もいるが、それも来ている鎧のおかげで軽傷のみで済んでいるようだ。
『第二陣…放てぇ!』
兵士が立ち直るのを待ってくれるはずもなく、向こうの隊長格が再び魔法使いに命令を下す。
次も同じく岩だ。だが、詠唱時間が延びた分こちらの方が大きい。
こちらの司令塔が再び命令を飛ばし、盾を持った兵士が構える。
今度は時間に余裕があったおかげでみんなしっかりとその手に持つ盾を構えた。さらに先ほどの攻撃で負傷を負った兵士が後ろに下がって治療を受けている。これならしばらくは持ちそうだ。
『第三陣…放てぇ!』
だが、その岩が到達するより早く次の岩が転がり始めた。
ガンッ!と音を響かせて岩を掘りに落としてすぐに次の岩が迫る。
「お、冒険者が働いた」
その岩に向けて岩を避けるような位置で控えていた冒険者たちからバリエーション豊かな魔法の攻撃が飛ぶ。岩の表面が削れ、さらに減速したおかげで盾を持った兵士たちはその岩も難なく受け流す。
あと多分向こうからは見えていないだろうけど地竜に乗った冒険者が応援を呼びに出て行くのが見えた。
『槍兵部隊、重装兵部隊…突撃!』
一番前で構えていた槍兵と重装兵の半分ほどが進行を開始する。
おそらく兵力を温存するためだろう。敵も今のだけで兵を削れなかったから作戦を変えたようだ。
ま、今ので倒せると思われてたこっちもこっちだとは思うけどね〜。
それを見たこちらの司令塔も魔法使いと軽装の兵士たちに命令を出した。
魔法使いが詠唱を開始し、射程距離に入るまで軽装の兵士たちが引きつけるために果敢に立ち向かっていった。
槍が当たらない程度の距離で移動を繰り返して敵を錯乱。近寄ってきたらすぐに引いて距離を置く。犠牲を最小限に抑えるつもりなのだろう。
…ただ、そんなに近づかれて倒しきれなかったり退いてくれなかったらどうするつもりなんだろうか?やっぱりここの奴らってアホ?
『弓兵部隊…放てぇ!』
矢が放たれた。ちょうど味方に当たらない程度の距離だったのだろう。引きつけるために前に出ていた兵士の一部が矢に刺さって絶命。少しかすった兵士たちも動きが少し鈍ったおかげで槍兵に突かれてまた一部が死亡。
それを見て司令塔は撤退命令を出す。
そして、大方が退いたところで魔法使いたちに命令を下した。
直径30cmほどの炎の球が草原を飛ぶ。
かすった草を焦がしながら敵兵へと飛んでいく。
「狙いは悪くないみたいだね〜」
その炎の球は敵兵の頭部や腕、膝や首など鎧のない部分に半数ほどが命中。それ以外も武器に当たったり鉄でできている鎧に命中して内部の兵士に火傷を負わせたりと多少なれど攻撃として役立っている。
倒れたり、怯んだりするのを見てここぞとばかりに司令塔が冒険者や兵士に攻撃命令を出す。数人がかりで一人の兵士に立ち向かい、最終的に攻撃を仕掛けてきた敵の1/4程度に負傷または致死性の被害を負わせた。
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