48.帰宅しましょう
「まいど〜。またおいで」
「またくるね〜。おばちゃん」
僕は店主のおばちゃんに手を振って店を出る。
結局夕方まで歩き回ってしまった。
マリーは僕の背中で首をカクカクして眠そうにしてるが、テラは僕の腕にしがみついて未だに元気。だって僕らには睡眠は必要ないし。
寝れないのは僕だけだけどさ。
「じゃあ帰ろっか。マリーももう寝ちゃいそうだし」
「うん、わかった!」
僕はテラの頭を軽く撫で、家への帰路につく。
最終的に1日で回り切れたのは街全体のおよそ1/5程度。大体は店を回って遊びまわっていた僕とテラのせい。普通に見て回るだけなら半分は見れてたんじゃないかな?
ま、楽しかったから反省も後悔もない。
街は結構栄えていた。
多分今日僕らが回った場所がそうだったっていうわけじゃなく、全体としてそうだと思う。大抵どこに行ってもみんながみんな比較的笑顔だし、マリーが楽しそうだったし。
一応兵士や見回りをする冒険者も見かけたけど、それのおかげでもあるのか治安も悪くない。住みやすいしいいところだと僕は思う。見たところだとギルドが領主と共同して街の管理の乗り出していて、街の安全を守っているという感じかな。
…実際、ギルドはどこにも所属しない1つの国みたいな扱いだから、普通はこういうのって越権行為に当たっちゃうんだけど、きっと何かしらの理由があるだろうね。一応ギルドに聞いてみたけど答えてくれなかったしさ。
まぁどうせ「行政には関わっていません」とか、「あくまでも街の治安維持への協力です」とか言うんだろうね。割と関わってると思うんだけどね〜。
「テラ、これあげる」
「んー?」
「さっきおばちゃんに飴もらったから」
無論さっきの店だ。あそこは薬草とかで魔法薬を作るいわば薬局みたいな所。
マリーがそういった関連に才能があるから一応行っておこうと思ったのだ。まぁ肝心のマリーは寝てたけど。悪い人じゃないし、機会があればマリーに教えてもらいたい。僕だって向こうの世界ならまだしもこっちの世界の薬学には精通していない。向こうだったら催眠ガスとか作れるのになぁ〜。
そんなことを考えつつテラに飴をあげる。
ちなみにその飴は蜂蜜っぽい何かからできているもの。食べてみるとわかるのだが、蜂蜜よりもすっきりとした感じがする。多分似たような何かか、蜂蜜と何かを混ぜて作ってるんだと思うんだけど、蜂蜜は手に入れづらいし多分別の何かだろう。
ついでに言うと味は蜂蜜レモンみたいな感じ。
「さて、ただいま〜」
「ただいまー!」
僕らは家に入った。
僕らが家に入るとロメがすぐそこで出迎えてくれた。全くいつも思うんだけどどうして僕が帰ってくるのがわかるのかな?超能力?それとも超直感的な何か?あ、主人公補正とか?
うむ、なさそうだね。
「おかえりなさいませ、主。マリー様は寝ておられるのですね。ベッドまでお運びしましょうか?」
「いいよ〜。僕が連れてくからさ。まだ慣れてないロメが連れてって、途中で起きちゃったらマリーびっくりするでしょ?」
「そうですね。失礼いたしました。では、私はお食事の準備をいたしましょう。何かご要望は?」
「たまごサンドが食べたいかな〜」
「承知しました」
ロメはそれだけ言うと厨房のある方へ引っ込んで行った。
僕はマリーを部屋まで運び、ついでにポーチから1匹のぬいぐるみを取り出す。
「あー。私も欲しいー!」
「し〜。マリーが起きちゃうでしょ?」
「むぅー…」
そしてそれをマリーのすぐ横に置く。
ぬいぐるみと言うか、まぁ抱き枕なんだけどね。狐の抱き枕。真っ白で尾が9本あるマリーとお揃いのやつ。サイズは尻尾まで合わせて1m40cmほど。ちょうどマリーが包まれるような感じでマリーの母親みたいだ。
「テラにも後で別のをあげるからさ」
「本当にっ!」
「し〜…!」
「しぃー…」
僕はマリーに毛布を掛け、僕らはそっと部屋を出る。
「『聞こえてるかな?』」
『はい、王様』
「『マリーが起きたら教えて』」
『了解しました』
僕は聖霊たちにそれだけ頼み、テラとともに厨房へ向かう。
そういえば壁が寂しいね。何か飾ろうか。
あ〜。屋敷に僕の買った絵とか全部置いてこなければよかったなぁ〜。いなくなったのが不自然に思われないようにするためとは言ってももったいないことをしたね。
よし、明日探しに行こう。
「ロメ〜。後どれくらい時間かかる?」
「そうですね…夕食まではおよそ2時間前後かと」
「りょうか〜い。じゃ、できたら呼んでね。部屋にいるから」
「承知しました」
「さて。テラ、行くよ〜」
「はーい!」
階段を上がり、3階にある僕の部屋に入る。
ちなみにマリーの部屋は2階、テラの部屋も2階、ニーズは3階、リューゼルドは3階で、ロメは1階だ。部屋割りの理由は移動時間だね。僕は論外だとして、いない時が多いニーズとリューゼルドは3階。そこそこ移動するテラとマリーが2階。家全体を移動するロメは1階になっている。家中なら2階の方が便利かと思うかもしれないが、ロメの移動する区域はほとんど1階だからこっち方が便利なのだ。
僕は部屋の鍵を開け、部屋に入る。
「やっぱりソファーが欲しいかな〜」
僕はそう言いつつベッドに飛び込む。
部屋に寝転がれるスペースがある方がいいね。なんというか気分的にさ。疲れない体だとはいえど、気分的にはちょっと疲れたような気がするんだよ?まぁこれがなくなったら完全に僕が人じゃなくなったってことだと思ってるんだけどね。
僕の横にテラも寝転がる。
「さて、お土産広げようかな〜」
僕は靴を脱ぎ捨て、ベッドの上で胡座をかく。
そしてストレージポーチを取り出す。
「マリーのものはマリーが持ってるから別として、まずはテラのものからかな」
「わーい」
「えらく棒読みだね〜」
「だって、お姉ちゃん何買ったか教えてくれなかったんだもん。そっちの方が気になる〜!」
「ははは〜。まだ秘密。じゃあテラ、これあげるからこっちに移していきな」
僕はテラ用に作ったアイテムがほとんど無限に入れられるバックパックをあげる。
全体として薄い水色のカラーリングで、所々に水玉模様が入っている。
「ああ、後さっき言った別のはそこの中ね〜」
「むぅ?」
テラにはドラゴンを可愛らしくデフォルメしたやつをあげる。
簡単に説明すると、全長2m半、ニーズをモデルにカラーをピンクに変え、所々を丸くして可愛らしくした感じ。個人的には渾身の出来なんだけど、ニーズが見たら怒られそうだからテラにあげる。
いやね、ニーズって意外と照れ屋なんだよ。ただ、照れると周囲に被害が及ぶけど。主に尻尾で。犬じゃないのにさぁ〜…?
「ああ、自分の部屋で出してね。しまうのがめんどくさいから」
「んー…わかった!」
「よし。じゃあテラの荷物を出していこう〜」
「おぉー!」
僕はポーチの中からテラの買ったものを出していく。
髪飾り、ネックレス、飴の入った瓶、金魚のようなモンスターをデフォルメしたフィギュア、ヨーヨー的な何か、羽ペン、インクセット、本…その他よくわからない雑貨の数々。
…ほんとなんでこんなもの買ってるんだろうと思う。
それらをテラはもらったばかりのカバンに嬉々としてしまっていく。
なんか複雑な気分…
「さて、これで終わりっと」
「おわったーっ!」
最終的に使った金額…40B。つまり4千円。
あれ?意外と使っていない。本当どうしてなんだかわからないけど、いろいろ買ってこれだけの金額にしかなっていないという不思議仕様。
多分テラが値切りに値切って、さらにおまけを付けさせ、まとめて買うからといって更に値切ったのが主な原因。
まぁ、いいんじゃないかな?
「さて次は僕のかな」
「お姉ちゃん何買ったのー?」
「じゃん…っ!」
綿、布、糸…まぁこの辺はそろそろ切れそうだったから。
針金、寸胴、細い鎖、南京錠、革紐、鉄球、鉄串、銀のナイフ、十字架、鉄屑…その他いろいろ。まぁ、ねぇ?うん、気にしないでほしいかな。端的に言うとおもちゃだよ。
「何に使うのー?」
「内緒〜」
「ええ〜。教えてよー」
「ダ〜メ。さ、昨日の続きしようかな」
僕は壁紙の張替えが一部終わっていなかったので、そこを貼り直し始める。
テラは僕の横でそれを面白そうに眺めている。
いや、正しくは僕と一緒に眺めているだね。だって仕事してるのは”影人”だし?
「面白い?」
「うんっ」
「そか」
壁紙を貼り終えたら、天井を剥がす。
いや、もちろん物理的に天井をじゃないよ?埃とかススとか。ススが付いてるのは多分、大雪の時期に部屋にあったストーブでもつけてたからかな。
そういえば今いつだったっけ?
「ん〜…あ、来月だ」
「どうしたの?」
「雪の時期。もう来月だったね。ていうことは後1週間くらいかな?…あれ?神野くん達間に合わなくない?」
そうだよ。じゃあ兵達がここに来るの間に合わないじゃん。
…もしかしてこの街の人だけで敵をどうにかしないといけないやつ?うわぁ、面倒くさ〜。
「お姉ちゃーん?」
「あ〜…まぁいっか。大丈夫でしょ。どうにもならなかったらその時はマドーラの時と一緒で」
とりあえず見ていればいいよね。
というかロメがあと4日くらいって言ったってことは、その間にこの街を占領しようって考えかな?占領して大雪を乗り越えて、この街に兵が来たところをだまし討ちって感じかな?
やっぱ見てるのなしかも。どうにもできない場合は僕が前に行く羽目になりそう。
天井の埃などをきれいに剥がし、それをそのまま風魔法で外に追い出す。
しばらくその作業を続け、天井が大体きれいになった。もともと白かったのが少し灰色ががっている程度だ。このぐらいは劣化のせいだからしょうがない。
次に灯の魔道具を取り替える。基本つけっぱなしで魔石の魔力を無駄遣いするものから、遠隔操作式の僕自作のものへと変更。天井に取り付けた本体の灯の魔石から陣を描き、扉付近に取り付けた燃料用の魔石につなぐ。
「よし。あとは…」
部屋自体にうっすら自己修復、浄化を描く。
これで今度こそ完璧。朝はすっかり忘れていたのだから仕方ないと思ってほしい。
…あ〜。こうやって言うときって大概まだ残ってるんだよね。何を忘れてるんだろ?結構地味なところだと思うんだけど…
「あ、水だ。水道用の魔石作って付けてなかった」
水道用の魔石を昨日作っておきながらも、まだ付けていなかったのだ。
水を出す魔石のついた蛇口の先端から蛇口をひねるところの燃料用の魔石につなぐ。
よし、これどもうないはず。
あとは思い出したらでいいだろう。
「主、夕食の準備が整いましたよ」
「りょうか〜い」
横にいるテラに言おうとしたらいない。一人でうんうんと唸っていたせいかテラはいつの間にか自分の部屋に戻っていたようだ。多分飽きたのだろう。あの子は僕の性格を引き継ぐというか、昔の僕と同じで結構飽きっぽいところがある。
今は結構飽きなくなった。だって一々飽きてたら、やるがなくなっちゃうからね。僕はまだまだ生きるのだ。
僕は階段を降りる。
途中でマリーの部屋に行き、マリーを起こす。夕食抜きだと夜中に目を覚ますかもしれないし?
ついでに言わせてもらうと僕のあげた抱き枕に抱きついていて超可愛かった。
ついついカメラを出して撮影するぐらいに。最近充電できないのに携帯を使うせいで電源がどんどんなくなっていくね。
「さて、じゃあいただきま〜す」
僕はテーブルにつき、夕食を始めた…
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