47.お出かけしましょう
「主、まだやっておられたのですか?」
「ん?ああ、どうせなんだからこだわりたくない?」
「ですがこれは如何なものかと…」
「あ〜…確かに整理はしたほうがいいかもしれないね」
僕は引っ越して早々、家の改装をしていた。
3階にあった部屋の2つをつなげて僕の作業部屋にしているのだが、まず壁をぶち抜き、次の扉を外して入り口を1つにし、窓を増やし、家具を全部運び出して床を張り替え、壁紙を剥がして別の物にし、天井のシャンデリアを通常の照明器具に変え、水道を作り、作業台を作り、鍛治とかのできるような炉を作り、壁を大半を収納棚に作り変え、色々な工具を作り出したところが今の現状。
床には木屑とかが散乱し、工具や材料に使った木材があっちこっちに置いたままになり、簡潔に言うと部屋の中が荒れ果てていた。
確かに少し片付けたほうがいいね。
「片せ〜…よし」
「ご自分では動かないのですね…」
「だって面倒くさいでしょ?」
僕は影人を動かして部屋の物を整理する。
「まぁでもこのぐらいでいいかな〜?」
片付いた部屋を見回し、一応満足した。
だいたいのことはここでできるようになってるし、特に困りそうな所はない。
あとは要る家具を入れるだけかな。
「【念動力】でやればいっか」
僕は指を振るい、廊下に運び出していたクローゼットや本棚、椅子と机、それからベッドを運び込む。
ドアが突然開いて家具がプカプカと浮きながら部屋に入ってくる。実に異様な光景だ。
「ところでどうかしたの?」
「ああそうでした。主、朝食の時間です」
「あれ?もうそんな時間だったの?」
「はい。いつまでも主人が来ないので私が呼びにきた次第です」
「なるほど。それは悪かったね。今行くよ」
僕は手に持っていた部屋の構図をテーブルに放り、立ち上がる。
やっぱり時間感覚がずれているようだ。そんなに時間は経っていないと思っていたのだが、いつの間にか夜が明け朝食の時間にまでなっていた。これからは時計を見る習慣でもつけておこうかな?
僕は食堂まで向かいながらそんなことを考える。
「みんなおはよう〜。ごめんね、待たせちゃったみたいで」
「おはようなの…」
「お姉ちゃんおはよう〜!」
「さて、じゃあ朝ご飯にしようか〜」
僕は椅子に座り、目の前に並んだ料理に手を伸ばす。
今日の朝食は目玉焼き、ベーコン、ソーセージ、生野菜のサラダ、トマトっぽい野菜の冷スープ、ロールパンだ。
「さて、今日はどうする?出かける?家にいる?遊びに行く?…出かけるのと遊びに行くのは同じかな?」
僕はパンをちぎって口に運びつつみんなに尋ねる。
そういえば昨日はどうしてたのかな?
「おにぃちゃんが、行くところに行くの…」
「私も〜!」
「はいはい。う〜ん…じゃあ、街の散策でもしようかな。まだ来て間もないし、街の全体を把握しておきたいし」
第一に着いたのが一昨日で、まだ街全体をよく見れていないのだ。これからしばらく住むわけだし、ある程度全体を把握しておきたい。またマリーにあんなことがないように気をつけないとだし。
…まぁ、今回はテラもいるわけだから結構どうにでもなるんだけどね。
「とりあえず、朝ご飯食べたら準備して玄関に集合ね〜。えっと今は…8時過ぎだから、9時でいいかな?」
「うん…大丈夫なの」
「うんっ」
「じゃあ、ロメ。家のことよろしくね。片すのとかは終わってるから、好きにしてていいよ〜」
「承知しました」
僕はせっせと…ではないね。普通にゆっくり朝食を楽しむ。
さすがはロメ。簡単な品なんだけど、いちいち手が込んでる。
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「結局、もうこんな時間だね〜」
僕らはやっと家を出た。
現在は9時半。予定を30分ほどオーバーしている。僕らの中に時間感覚がまともな人がいなくて、急がないのが主な原因。だって僕とテラには寿命がないし、マリーも寿命が長い種族だから急ぐという感覚が薄い。
つまり誰も悪くない。うん、悪くない。
「じゃあロメ、後はお願いね〜」
「承知しました」
「ああ、後暇だったらアルドに訓練でもつけてあげてよ。じゃ、行ってきま〜す」
「お気をつけて」
僕の右手にしがみつくマリーがちょっとだけロメに顔を向け、恐る恐る手を振っている。まだ人見知り?対人恐怖症?は治っていないようだ。まぁ、テラに関しては昨日1日中取り憑かれていたせいで、テラとはそこそこ仲良くなれたみたいだけどね。
今は僕の右手にマリーがしがみつき、それをテラが羨ましそうに見ている状態だ。
「テラ、しつこいのは嫌われちゃうよ〜?」
「ふぇっ⁉︎…むぅー。わかった〜…」
「ははは〜。ほら、左手貸してあげるから」
「うんっ!」
テラが僕の左手にしがみついたところで僕らは街へ歩き出す。
この街、というか要塞都市…シェルピートは、だいたい千葉にある東京って名前がついてるネズミの国6つ分よりちょっと大きいぐらい。規模でいうと5千人が暮らす街。まぁ実際スラムとか合わせるともっとだろうけど。
で、大きな特徴はその外壁の形。ヨーロッパの昔の外壁を知ってるかな?あの星型のやつ。あれをモチーフに僕が設計した。九角形の外壁に幅4mの堀を這わせ、外壁の上には魔導師が有利な位置から攻撃できるような場所やら何やら色々と設置されている。出入りできる場所は3箇所で、それぞれ南、北東、北西の位置。これが昔のヨーロッパとかなら完璧な砦なんだけどねぇ〜…
残念ながらこの世界には魔法というものがあり、堀なんか地魔法で普通に橋を渡してくるし、壁もそこそこ厚いけど何回も魔法に当てられちゃうと壊れちゃう。実に虚しい。せっかくの努力が水の泡になるような感じ。
ま、とりあえず籠城したり引きこもるだけなら2週間は耐えられると思うよ。伊達に僕が設計してないからね。
「あ、串焼き発見。おじちゃん、それ3本」
「まいどっ。6Bだ」
「ほい」
「…確かに。気をつけて持てよっ」
僕はちょっとマリーとテラから手を取り返して串焼きを受け取る。ちなみにお金は【念動力】で渡した。
「食べる?」
「うん…」
「ほしいー!」
「うむ。よかろうぞ〜」
僕は2人に1本ずつ串焼きをプレゼントする。
ウェードカウっていう、草原にいる牛の串焼き。肉が柔らかく、それでいて崩れにくいのでこうやって屋台で売られることが多い。僕的にはケバブとかみたいにするともっと売れるんじゃないかな〜?と思っている。
マリーは僕のローブの端を掴み、テラは相変わらず僕の左腕にしがみついて歩き出す。
僕の家は南門から少し西側にずれたところにあり、今僕らは街の中心に向かって歩いている。
街の中心には領主の家がある…わけではなく、ギルドがある。領主の家はギルドより少し北側に。
「あ、マリー口が…」
「みゅ…?」
口に串焼きのタレをつけたままこちらに顔を向けて首をかしげる。可愛い…じゃなくって、拭いてあげねば。
一度立ち止まり、僕は食べ終わった串焼きの串を口にくわえてポーチからハンカチを取り出しマリーの口元を拭う。
ついでにテラも確認するけど、案の定同じ…というかそれ以上にひどかったので口と鼻のてっぺんを拭いてやる。
「2人共、もうちょっと綺麗に食べなよ〜。顔にタレがついてるじゃん」
僕はその光景を微笑ましいと思いながら、食べ終えた串をポーチに放り込んで2人と手をつないで歩き出す。
そういえばこうやって歩いてると僕が2人の父親とかみたいだね。僕は完全に体がもう成長しないけど、178cmはあるんだよ?そこそこに大きい。要するに結構歳が離れているように見えるから子供連れっぽい。
ちょっと気恥ずかしいね。
「そういえば2人とも何かほしいものとかないの?」
「………?」
「んー…あっ!」
「どうしたの?何かあった?」
テラが僕の手から離れて一軒の店に走って行った。
僕はマリーとゆっくりそこに行き、そして看板を見る。
”フェル雑貨店”
「雑貨ねぇ〜。何かあったのかな?」
僕は先に入ったテラを追って扉を開けて中に入る。
シャラン…と心地いい鈴が鳴った。
「いらっしゃいませぇ〜」
「病人?」
「いやぁ、ちがうよぉ〜…」
「病人だね」
青白い顔の店員がカウンターの向こう側から迎えた。目元にはクマがあり、長時間寝ていないのが感じられる。多分顔色が悪いのはそのせいだろう。
「あ、テラ」
「お姉ちゃん見て〜!」
「ん?ああ〜」
テラが手に持っていたのは簪のような髪飾り。それをマリーの頭に当てている。
なるほど。納得。
僕は鏡をポーチの中から引っ張り出してマリーの前に出す。
「マリー、可愛いー!」
「どう?」
「…みゅぅ」
あ、照れてる。
よし購入で。
「ねぇ、これくれる〜?」
「はいよぉ〜……」
「あ、倒れた」
返事と共に店員がカウンターに突っ伏した。
値段わからないんだけどなぁ〜。どうしようか?
「えいっ!」
「あ…」
テラが突っ伏した頭に水をかけた。いや、正しく言えば水魔法で作った目覚まし用の魔法。かなり冷たい。そして一瞬で蒸発するため周囲に被害が出ない。
ほんと天才なのかアホなのか。
「にぎゃあぁあ⁉︎」
「変な声出して起きたね〜」
「ふにゃぁ…」
ちょっとふらついてるけど…まぁいっか。
僕は簪を持って店員の前に行く。
「おはよ〜。で、これいくら?」
「んん〜…あぁ、そうだったねぇ〜。えぇと〜…ああ、20Bだよぉ〜」
「やっぱり病人だ。ほい、これでいい?」
「ああ、お釣りは…これであってるかな…」
店員がおぼつかない手つきで銅貨を数えて僕に渡す。
ほんとに大丈夫なんだろうか?割と気になるよ?
いや、別に僕だって悪人じゃないんだし、体調悪そうな人が前にいたらそれは気にするよ。本当だよ?
僕はお釣りを受け取り、マリーの髪にその髪飾りをつけてあげる。
「うん。いいね〜」
「すっごく似合ってるよー!」
「きゅぅ…」
やっぱりイヌ科だよね?猫みたいな気がするのは僕だけ?
まぁいいんだけどさ。可愛いから。
僕は2人と手をつないで店を後にする。
ちなみに店員にはしっかり寝るように言っておく。
「さて、次はどこに行こうか〜?」
「マリーはどこか行きたいところないの?」
「………?」
「まぁ行ったことがないし、しょうがないよね〜。じゃあ、とりあえずぶらぶらしようか〜」
今まで結構色々と僕が連れ回してるけど、それでも場所が場所…つまり皇国内だったせいでそこまで多くの場所には行っていない。
なのでマリーはそういったことについての知識が枯渇している。
ほらいるでしょ?一緒に遊びに行ってもどうしていいのか分からなくってキョドる子って。今のマリーはそんな感じに近い。
「あ、糖分発見〜」
僕はカフェに入る。
と言うのも、ちょうどテラスでパフェを食べてるなんか貴族っぽい…多分領主の娘とかだろうね。護衛を引き連れている女の子がいたのだ。
僕もあれ欲しい。
カラン…と鈴がなって僕らは店内に入る。
「いらっしゃいませー。何名ですか〜?」
「3人だよ〜」
「ではこちらのお席へどうぞ〜」
ファミレスみたいに僕らは席へ案内される。
ちなみにこのファミレスじみた案内は僕のせいだったりするんだけどね。だって一々ああだこうだするの面倒じゃん?と言うことで行った先々でこういうことを教えていたらこうなってた。
「メニューは壁に貼ってありますので」
「はいよ〜」
そう言って店員は作業に戻る。
「2人は何か食べたいものある〜?」
「ないの…」
「ケーキ!」
今思い出したけど、僕らって実は朝食食べてそんなに間が空いてないんだよね〜。
マリーにはちょっと悪かったね。
そんなことを思いつつ僕は店員に大量のオーダーをして苦笑いを向けられた。
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