46.引っ越しましょう
「大家さん、そこをもうちょっと〜」
「もう負けられないよ。ここが限界さね」
「ええ〜。あともう一歩〜」
「あんたBBランク冒険者なんだろう?そのぐらい勘弁しなさいな」
「しょうがないな〜」
僕は渋々言われた通りの値段を大家さんに支払う。
そして大家さんはそれを受け取ると一枚一枚確かめ、数え終わると1枚の紙を僕に手渡した。
「確かに。じゃあ今日からここはあんたん家だよ」
「ありがとね〜」
「まったく、飛んだ損だよ」
「ははは〜」
王都を出て3週間。スリングの皇国に一番近い街に着いた。途中過程については割愛する。
強いて言うと途中の道でたまたま商人さんと仲良くなり、そのつながりで大家さんに家を割り引いてもらったのが今の状態。
僕はその紙をポーチに放り込み、大家さんを見送る。
「さてマリー。今日からここが僕らの家だよ〜」
「わたし…の?」
「うん。いやぁ、やっぱり自分の家って落ち着くと思うんだよね〜」
結局買ったのは三階建、キッチントイレ風呂付き…は普通か、大体小さいアパート一軒分の家。
元々は商会が使っていた家らしいんだけど、つい昨年会長が亡くなり、そのまま衰退してこの家が売りに出されたそうだ。今も客間や無駄に豪華な広間があったりとその面影を残している。
そして何よりこの家を選んだ理由がある。
「じゃあ、マリー。今日からここがマリーの部屋だよ」
「わたしの部屋?」
「そ。好きなように使っていいよ〜。普通に使っても、物置に使ってもね?」
会長にはまだ相当幼い一人娘がいたらしく、その部屋がそのまま残っていたのだ。
全体が真っ白で清潔感のある部屋。二カ所窓があり、そこにもこの世界には珍しいレースのカーテン。壁には鏡がつけられ、天井からは豪華すぎない部屋にちょうどマッチするようなシャンデリア。そして極め付けは隣の部屋一部屋まるまる改造して作られたウォークインクローゼットがあるのだ。
ちょっとしたお姫様気分が味わえるような部屋である。
「わたしの…部屋」
「寂しかったらリビングに降りてくればいいし、マリーは一人じゃないんだからね。まぁ、そろそろプライベート空間的なのはあったほうがいいかな〜って思って」
「わかったの…」
「そか。あ、あと今から1回広間に行くよ。みんなを呼ばないと」
「みんな…?」
「そ。僕の眷属…家族だよ」
僕はマリーの手を引き、一階にある広間に降りる。
そしてアルドを呼び、僕の後ろに控えさせる。
「じゃあ呼ぼうか。『召集:眷属』」
僕の目の前に赤い陣が生まれる。
そして一瞬光を放ち、光が収まったと思うとそこには四人ほどの人影がある。
「主、遅いですよ。すぐと言われていましたのに、お呼びにならないのでテラを押さえるのが大変でしたよ」
「ははは〜。ごめんね、ロメ」
「いえ。それがわたしの仕事ですから」
「そっか」
「お姉ちゃ〜ん!」
僕の腕に飛び込んでくる少女が1人。
まぁ言わずともテラである。
「ごめんね〜、遅くなって」
「遅いよっ!」
「ははは〜。で、ニーズ、呼んだけど大丈夫?管理任せっぱなしで悪いね〜」
(いえ。それが主の望みならば、我は喜んでその任を受けましょう)
「ふふふ〜。変わりないようで何よりだよ。で、ここの地点は覚えた?いつでも来ていいからね。ニーズは僕の大切な家族なんだからさ」
(感謝します。では、失礼)
ブワッと影がニーズ…黒髮の少年を包み込んで消えた。
ニーズを呼んだのはこの場所を教えるためだ。本当はゆっくりしていてほしいけど、ニーズには任せた仕事があるし、その邪魔はあんまりしたくない。それに箱庭のみんなはニーズを中心にまとまっているみたいで、今更管理用の眷属を作るに作れなくなっちゃったのがニーズが忙しい主な原因だったりする。
「してエクレイム。なぜ我輩をも呼んだ?」
「いやぁ、大切な友人だし?ここの鍵でもあげようと思ってさ」
「鍵などもらっても我輩が空間転移はできぬぞ?」
「ああ、この家の鍵じゃなくって”鍵”だよ。空間を登録した転移用の鍵。ちょっとした暇つぶしに作ってみたんだ。これでリューゼルトも擬似的だけど空間転移ができるよ」
「ふむ。ではどのように使うのだ?」
「魔力を通す。脳内にその地点をイメージして鍵の中に固定。以上だよ〜。詳しい説明はこれに書いておいたから」
「そうか。ではありがたく頂戴しよう」
「うん。あと、この家のその紙に書いてある部屋、好きなように使っていいよ〜。リューゼルトの自室としてあげる」
「ふむ。わかった」
それだけ言うと、リューゼルトが僕の目の前から消えた。
「おお〜。もう使えたんだ〜。さすがは魔王さま、出来が違うね〜」
「では主、私たちはどうすれば?」
「ああ、そうだった。まずは紹介するね。テラ、ちょっと離れて」
「ええ〜。やだよー」
「ちょっとでいいから〜」
「むぅー。わかった」
テラが離れたところで僕はマリーを呼ぶ。
マリーは恐縮しているのか緊張しているのか、はたまた恐怖しているのか、一向にアルドの後ろから出てこない。しょうがないのでその手を取って僕はテラとロメの前に連れてくる。
「この子はマリー。この世界で拾った。かわいいでしょ?」
「むぅー」
「ちょうどテラの妹かな?」
「妹っ!」
わかりやすくって何よりだね。
テラは僕の妹のようなもの。そして僕が家族として呼ぶのはテラとロメとニーズのみ。おかげでテラは最年長だけどみんなから妹扱いされる。
なので妹ができて嬉しいのだろう。
テラがマリーをぎゅっと抱き締めて頬ずりする。どうやらこれがテラなりのスキンシップらしい。…僕が女の子の時もそうしてくるし。
(テラ、マリーは対人恐怖症なんだ。優しくしてあげてね)
(わかった!私、いいお姉ちゃんになる!)
(…うん。頑張って〜)
どうやらダメそうだ。
僕はテラの腕の中でどうしていいのかわからず震えているマリーを救出する。マリーは救出されると同時に僕の後ろへ隠れた。それを見てテラが見て取れるほどに落ち込んだ。
「マリー。この2人は僕の家族なんだ。マリーもきっと仲良くなれるよ。こっちの人がロメ。なんでもできるすごい人」
「…おにぃちゃんよりも?」
「いえ、私が主を超えるなどおこがましい」
「おこがましい…?」
「ははは〜。まぁ僕の方がすごいってことだよ」
未だにちょっとプルプル震えているマリーの頭を撫でつつ、僕はマリーにロメのことを紹介する。
「で、こっちがテラ。マリーのおねぇちゃんみたいな感じだよ」
「さっきは驚かせちゃってごめんなさい…」
「ははは〜。まぁ許してあげてね?テラはちょっと不器用なんだ。テラはマリーのことを驚かせたかったんじゃなくて仲良くなりたかったんだよ」
「そう…なの?」
「うん!これからよろしくね」
僕のローブを掴む手の震えが収まった。
テラがマリーに向かってにっこりと笑いかけた。マリーも少し安心したのか僕のローブを掴むだけで留まっている。これが昔ならずっと震えていただだろうに。
やっぱり三ヶ月だけど結構成長したのだろう。クロリスと一緒にいたのが良かったのか、アルドに慣れたのが良かったのか…うん。確実に後者だね。こんな強いものに慣れたんだから可愛らしい女の子に怯える方がおかしな話だ。
「よろしく…なの」
「お。マリーが」
マリーが僕の後ろからそっと手を伸ばしている。
握手かな?
テラがその手を取って…やっぱり抱き締めた。
「ははは〜。まぁ、仲良くね?」
「うんっ!」
「………ぅん」
「道は長そうだね〜」
マリーとテラが仲良くなるのはいつの話になるかな〜?
人って第一印象が大事だっていうし、結構時間がかかりそうだね。
マリーはもはや諦めてされるがままになっている。震えているようには見えないので、好かれているということは感じているのだろうか?こっちはクロリスのおかげ?
あ、とりあえず部屋をどうにかしないといけないんだった。
「アルド、マリーとテラをよろしく。何かやらかさないように見張ってて。特にテラを」
『了解しました』
「マリー、しばらくテラとアルドの一緒にいてくれる?その間に僕は家の中を掃除したり、片したりするからさ」
「…わかったの」
「うん。ありがと〜」
僕はマリーの頭を撫でる。
(テラ、マリーには僕たちのことを教えるつもりはないからそのつもりで)
(…うん。わかった)
(よろしくね?)
意外とすんなりテラは僕の指示を受け入れた。
ちょっと一抹の不安が残るが、多分大丈夫だろう。テラだってそこまでアホじゃない…と思いたい。
「じゃあ、よろしくね。マリー、嫌だったらアルドに助けてって言いな。きっとアルドがどうにかしてくれるからさ〜」
「え?ちょっとお姉ちゃん、私が何かするみたい!」
「してるでしょ〜?マリーは弱いんだから大切にしてあげて?」
「むぅー。わかった」
「じゃあマリー、また後で」
「わかったの…」
ちょっと寂しそうだが、それもクロリスと2人でいることが多かったおかげかそこまでではなさそうだ。
僕はテラがマリーの手を引いてどこかに歩いていくのを見届ける。
…テラこの家の中知らないけど大丈夫かな?まぁいっか。アルドもついてるし。
僕はそんなことを思いつつ、ロメを従えて一つの部屋に入る。
「さて、現状はどんな感じ?」
「はい。後数日ほどで兵がこの街に到達し、戦争が開始されるようです。その中に勇者は数名。すでに登録済みです」
「ふ〜ん。で、どんな感じまで育った?」
「おそらく、ゴブリン兵団の1人で全員が倒せる程度です」
「まぁそこそこかな〜。そのぐらいだったら許容範囲内か。ま、でもここを攻めるのはよろしくないかな」
ちなみにゴブリンとは言っても、その一人一人は下手したらAランク冒険者よりも強い。
でもそんなことよりここに来られるのはまずいなぁ〜。せっかく家を買ったのに邪魔するのは許さない。
とりあえずちょっと脅して引き伸ばして神野たちが来るまでの時間稼ぎをしようか。多分向こうは後二週間くらいかかりそうだし、そこまでの時間が稼げればこの街まで襲いに来ることはなくなるだろう。
今は僕が戦わない場合、波に飲み込まれるように一瞬で街が壊滅するからね。
「で、他には〜?」
「1人、”当たり”がいました。現在皇国内で単独活動中です」
「へぇ…そっか。で、なんだった?」
「強欲です」
「おお〜。結構当たりだね〜。いい暇つぶしになるといいな〜」
僕がステータスとかを自分で選ばせたのには理由がある。
ゲーム感覚で楽しんでもらうというのとともに、”当たり”を探すためだ。普通、”〜の王”とか書かれた職業を選ぶ奴がいるだろうか?しかもその”〜”には七つの大罪やそういった人の咎が書かれている明らかな悪役職だ。そうそういない。それでも選ぶのは酔狂な奴か、僕と同類の気狂いだ。きっと楽しいことになるだろうと思って用意した。
そっか。あの時洞窟にいたのは”当たり”だったのか〜。ま、その時はまだ何もしなくって正解だったね。
だってまだ”芽”が出たばかりだろう。ちゃんと”実”が熟すまで待たないと楽しくない。
それに今はマリーのことで忙しい。せっかく色々と準備したけど、見てるだけかな〜。まぁそれだけでも十分に楽しめそうだし、別に構わないけど。
「まぁそのくらいかな?他には何かあった?」
「いえ。報告は以上です」
「了解〜。じゃ、掃除しよっか」
僕は椅子から立ち、風魔法を起動して家中に溜まっていた埃を片っ端から吹き飛ばす。
「はい、終了〜」
「はぁ…テラとマリー様に何かあったらどうするのですか…?」
「うん。大丈夫だよ。ちゃんといる場所把握してからやったから。というかいつの間に家から出て庭に行ってたんだろうね?」
アルドがついてるから安心だけど、できればそんなに遠くには行って欲しくないかな〜。
まぁでもむしろ好都合かな。ちょうど家中の物を動かしたりするし、近くにいないから安心して無茶な動きができる。
「では、私は何をすればよいですか?」
「う〜ん。そうだ。夕食の買い物に行って夕食作って〜。僕は家を住めるようにするから」
「承知しました」
僕はロメに銀貨の入った袋を投げ渡す。
ロメはそれを受け取ると部屋を出て行った。
「さて、『影人』掃除と、部屋の整理と、物の設置と…色々やることがいっぱいだね。がんばろう〜」
僕は数十体の影人を生み出して家の整備を始める…
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