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45.お別れしましょう



 それから2日の間、僕はマリーを神野たちにも紹介し、普通に楽しく過ごした。マリーはクロリス…ミリーの妹。第3皇女で、マリーと同い年だった…と仲良くしてたし、僕は神野たちとたわいのない日常を過ごした。久しぶりに味わう一般的な日常は、久しぶりであるからなのかちょっと楽しかった。

 広間での朝食をとっている神野たちとは別に、僕は食堂にいた。


 何をしているのかと言いますと、僕が朝食を提供しております。

 数十体の影人(シャドーマン)がせわしなく働いている。あるものは野菜を炒め、あるものは煮物の味付けをし、あるものはパンを焼き、あるものは肉を切り、あるものは出来上がった物を広間に運んでいる。

 せっかく久しぶりにちゃんとしたキッチンがあることだし、ちょっと料理がしたくなったのだ。で、フレルドの許可を取り、料理人たちをかたっぱしから調理場から追い出して占拠して今に至る。まぁ今日のこの時間のみだし、料理人たちもちょっとした息抜きと思って許してくれるだろう。第一大半が顔見知りだし、今までもこんなことを数回やってるし。



 「さて、このくらいでいっか」


 大量生産を終えたところで僕は影人(シャドーマン)の大半を消して、広間に向かう。僕も朝食をとるのだ。マリーはクロリスと一緒に朝食をとってるだろうし、僕も自由にする。

 広間に行くと影人(シャドーマン)がいそいそと動いている…というか僕が動かしているのを除けば、みんなゆるりと朝食のひと時を楽しんでくれているようだ。あちらこちらで笑い声が聞こえている。

 僕はトレーを手にバイキング方式にしてある広間を歩き回る。



 「あ、新ちゃん。どこ行ってたんだ?」

 「ん?ここで働いてたよ〜」

 「働いてたって…?」

 「本日のシェフでございますが何か?」

 「お、おおう。それはお疲れ」


 僕がそういう事をしているのは神野はよく知っているのでさほど驚いてくれなかった。残念。



 「というより、それは?」

 「見ての通りだけど?」

 「しんちゃん、主食はどこに行ったの?」

 「安井さん、何言ってるのさ〜?どう見たって主食でしょ?炭水化物だよ?」

 「え?あ、うん…」

 「いや、乗せられるなよ」


 いやはや。いったい何がおかしいのやら?だってケーキとかってパンだよ?主食でしょ?

 ちなみに否定は求めてないよ。



 「ははは〜。まぁ、大丈夫だよ。で、みんなしてどうしたの?」

 「あ、ああそうだった。しんちゃん今日行っちゃうんだろ?だからみんなで見送ろうって」

 「まぁどうせ向こうで会えるんだろうけど、一応な」

 「ふ〜ん。じゃあ、行ってきます」

 「いや、早えよ⁉︎」

 「冗談だよ〜。まぁ、朝ごはん食べたら結構すぐに出てくと思うよ〜」

 「そうか」


 神野が少し残念そうな表情を浮かべた。

 ゆーちゃんはなんとも言えない表情を浮かべ続けている。ちなみにこれは僕がここに来てからずっとだよ。あれから色々とゆーちゃんには話したから、たぶんそれが原因かな。

 ま、向こうに帰ってからの生活に関わるからしょうがないよね?それにバラしてしまったので、全部話しちゃったほうが楽だったのだ。おかげで余計なことについては一切追及しないでおいてくれる。表情に曇りがある件についてはちょっと悪いことしたなぁと思うが、僕的にはゆーちゃんには知っておいて欲しかった。

 とりあえず多少なれど信じているっていうことで理解してくれればと思っている。

 僕はフォークをモンブランに突き刺す。



 「で、それ全部食べる気か?」

 「当然でしょ〜?」

 「いや、当然じゃねぇ…」

 「しんちゃんの一体どこにそれが入ってるの…」


 安井が僕の体をまじまじと見て羨ましそうな目を向けてくる。

 別に僕が太りにくい体質ってわけじゃないよ?というか元々は結構太りやすかったし。今まで太ってなかったのは、日頃の努力だね。ちなみに今は太れないだけだ。いや、太ろうと思えば太れるけど、基本的には太れない。わざわざ体を太らせて作るのが面倒くさい。



 「ところでマリー知らない?」

 「ああ、確かそこらへんで見かけたよ」

 「そっか。ありがと〜」


 僕は指差された方へと向かう。

 すでにマリーには今日出ることを伝えている。だけど、せっかくできた友達と離れ離れにするのは忍びないので昨日?というか今日の朝?…まぁいいや。で、ちょっとした物を作ったんだ。

 簡単に言うとケータイ風の魔道具。名を”友好の蔓”。正確には風魔法によって声を空気の振動として保存し、その振動を空間魔法でもう一方の機器へ飛ばし、それを再び音として変換し直して話すという物。仕組み自体は簡単なのでささっと作ってみたのだ。


 

 「あ、いた」


 ちょうどデザートをまとめて設置したあたりに2人の少女がいた。

 片方は九つの尻尾をゆらゆらと嬉しそうに揺らし、もう片方はティアラの乗った頭から伸びるツインテールを揺らしている。

 なんとも微笑ましい光景である。邪魔したくないな〜…



 「ま、時間かかりそうだからしょうがないよね〜」


 僕はちょっと携帯を取り出して写真を撮り、それを保存してからマリーに声をかけるために近づく。



 「おにぃちゃん…?」

 「あれ?よく気がついたね〜」


 声をかけようとしたところでマリーが僕の方を向いた。

 気配かな?ほら、動物ってそういうのに敏感だし?


 「シンさま?」

 「クロリスちゃんおはよう」

 「おはよう、ございます」

 「うん。さて、マリー…?」

 「や…いきたくないの…」

 「ああ、違うよ〜。まだ行かない。ちょっとプレゼント」


 マリーはもう行かなければならないと思ったようでちょっと涙目になった。



 「…プレゼント?」

 「そ。2人ともちょっとこっちに来て〜」

 「わかったの…」


 僕が手招きすると、2人が後ろからひょこひょことついてくる。なんかカモの親子みたいだね。

 そのまま広間の端の方まで行くと、僕は2人が僕の陰になって周りから見えないような位置に連れてくる。

 …結構危ない光景に見えるのは身逃してほしいかな。



 「はい。これ付けてみてくれる〜?」

 「指輪ですか?」

 「いいからいいから〜」


 僕は2人に草の蔓と小さい花のついた指輪を手渡す。2人はそれを右手の小指にはめた。

 そしてはめたところで首をかしげた。



 「何…なの?」

 「マリー、指輪に魔力を込めてごらん」

 「わかったの…」


 マリーは察しがいい。これが何かしらの効力がある物だということに気がついたようだったので、使い方を実践させて教える。

 マリーが魔力を指輪に送るのが見えたところで次だ。


 

 「花の真ん中が光ったでしょ?」

 「うん…」

 「クロリスのも」

 「ふぇ?…あ、本当です」

 「マリー前に念話って教えたでしょ?」

 「う、ん」

 「その要領…わかりづらいね。その時とみたいにクロリスに話しかけてごらん」

 「わかったの…」


 マリーがちょっと額にしわを寄せる。

 その後、クロリスが「ひゃっ」と小さい悲鳴をあげた。どうやらうまくいったようだ。



 「それはマリーとクロリスがお話しできる魔道具だよ。これで遠くからでもお喋りができるよ」

 「…!」

 「あ、気がついた。戦争とかで使ってるやつあるでしょ?あれの強化版。だからみんなには秘密だよ?」


 クロリスは一応王女様であるため気がついたようだ。

 これはギルドなんかに置かれているやつを小さくして作ったもの。これが流失すると戦争とかで色々と面倒事が発生する。



 「わかり…ました」

 「あと、クロリスはまだ魔力操作できないでしょ?」

 「はい」

 「それは魔力を通すと繋がるようになってるから、今はマリーからしかかけられないよ〜。頑張って練習してね?そう簡単には壊れないようになってるから乱暴に使っても大丈夫だし、練習台に使ってもいいよ〜」

 

 マリーには僕が移動中のちょっとした間に教え込んだ。

 ま、魔法の訓練のついでだったし、やっておいた方がいいのは確かだったし。ちなみに言うと今のマリーはその辺の治癒師の範囲を過剰に逸脱している。一応この世界の魔法の範囲内だけど、ぷっつりちぎれた腕とかは軽く繋げられる。



 「わかりました…がんばります!」

 「うん。その意気だ〜」


 最近クロリスが魔法の勉強にやる気がないとフレルドから言われていたのでついでだけどそれも解決。

 


 「じゃあ、しばらくは2人でゆっくりしてていいよ〜。あと20分ぐらいしたら出るから」

 「…わかったの」


 マリーは今度はそんなに嫌そうな表情ではないので、話せるようになったから我慢することしたのだろう。

 ちょっと成長?

 ま、普通に話せて、こうやってちょっとだけど反抗までするようになったのだ。大きな進歩ではある。


 

 「じゃあ、クロリス。マリーをよろしくね〜」

 「わかりました!」


 元気な返事が返ってきたので僕はそこに2人を放置して再び朝食を再開する。

 やっぱり甘い物はいい。なんか気分が良くなる…自分で作ったとはいえどもね。



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 「じゃ、またあとでね〜」

 「おう。死ぬなよ」

 「しんちゃんが死ぬわけないでしょ。俺らより強いんだから」

 「まぁそうだね」

 「しんくん…元気でね」 


 僕はみんな?に見送られ王都を出た。

 ああ、あとマリーがクロリスとえらくスッキリと別れを告げてきたと思えば”友好の蔓”で話したままだったことに気がついて笑ったね。今は魔力を使い切って僕の背中で寝ている。

 しばらく歩き、神野たちの姿が完全に見えなくなったところで僕はアルドに声をかける。



 「さて、じゃあとりあえず次の街までダッシュね。多分結構近いうちに攻めてくるだろうから早く行きたいんだ。そうしないと家がなくなっちゃうかもしれないでしょ?ふふふ〜」


 ガチャッガチャッ…と後ろからアルドの走る音を聞きながら僕は走り始めた。

 …周りから見ると”街道をでかい鎧に追われて走る青年”って感じに見えるね、これ。アルドが冒険者とかに魔物と勘違いされて攻撃されないといいな。まちがいなく面倒事が発生する。主に僕の眷属だっていう説明に。

 

 

 「面倒だけど知覚は広げておこう…『風よ、虫の知らせを我が元に。風の声(ウィンド・ベル)』」


 僕の耳の横を風が吹き抜ける。

 大体2km弱かな?僕の耳にはそのくらいの範囲の情報が流れ込んでいる。

 歩く足音。葉擦れの音。人の声。竜車の音。鎧が擦れる音。布の擦れる音。結構遠いけど戦闘音。剣が何かに当たった音。

 まぁ他にもいろいろ。どうやらここから1.2km位先で人が戦闘をしているようだ。まぁ聞こえてる感じからするともうすぐ死にそうだから放置してもいいだろう。人の方が。

 


 「とりあえずいい家が見つかるといいね〜。そういえばアルド、ロメとかに会った?」

 『え、ええ。会いました』

 「僕がいつまでも呼ばないからテラとか拗ねてたでしょ〜?」

 『はい』

 「ははは〜。やっぱり。ま、もう少ししたらみんなでゆっくりできるからそれまでは我慢してもらおう。代わりに呼んだときは目一杯遊んであげる」

 『是非、そうしてあげてください。我が身が持たぬゆえ』

 「あ、八つ当たりでも食らった?」

 『ええ。寝るまもなく追いかけられました…』


 リズムよくガチャガチャと音を立てていたのが、一瞬身震いのようなものが混じった。トラウマにでもなってるのかな?僕は別にテラをヤンデレにしたつもりはないし、きっとものすごく拗ねてたんだろうね。

 テラは拗ねるとひどいから。


 

 「おとなしく遊んであげればよかったのに〜」

 『む、無理です。それはさすがに…』

 「ふふふ〜。知ってるよ〜。だって、アルドなんて簡単に殺されちゃいそうだもんね〜」


 テラは僕がいない状態で拗ねると他の眷属とかを追い掛け回し、



 『何故あんなことをするのですか…』

 「さぁ?本能じゃないかな〜?」


 スライムに戻って体内に取り込む。そして満足するまでいろいろと嫌がらせをする。くすぐるとか、気絶するまでマッサージするとか…ただしある程度の丈夫さが不可欠で、ロメとかニーズとかならまだしも生まれたばっかりの眷属がやられると吸収されちゃう。



 「とりあえず元気そうで何よりだね〜」

 『そうですか…』


 アルドが苦笑い…とは言っても僕にしかわからないと思うけど、フェイス部分がちょっと変わってそんな表情を浮かべた。




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