44.再会しましょう
「入ってくれ」
フレルドが僕の方を見てそう言った。僕はそれに従い、段の上にある控え室から姿を現す。
「し、新ちゃん!」
「やぁ。神野くん、久しぶり〜」
僕は段の上から神野を見下ろしてそう答える。ゆーちゃんが僕の方を見て惚けている。他のクラスメイトたちも僕を見て何が何だか理解できずにいる。
「では紹介しよう。私の友人であり、同時にシルフィード王国国王専属補佐官を務めてもらっている。シン・デルピエールだ。いや、そちらの世界では松井 新一郎だったか?」
「まぁ、どっちでもいいよ〜。というわけで、皆様ごきげんうるわしゅう〜。皇国から抜け出してこっちに来てみたよ。とは言っても結構すぐに出てくけどね〜」
「聞くところによれば同郷の者なのであろう?積もる話もあることであろうし、この場での話はここまでにしておこう」
フレルドがそう言うと、生徒たちが追い返されるように謁見の間から出て行かされる。僕は全員が出て行ったところで、その後ろを追って謁見の間を出る。本来はこんな風に何も言わずに出て行ったりすれば不敬罪だろうけど、僕にはそんなの関係がない。だって、フレルドは王様。僕は神様。どう考えたって僕の方が偉いんだから。
僕が謁見の間を出たところで後ろの大きな扉が閉まる。そして、扉の前では神野たちが僕を待ち構えていた。ただ、1つ言いたいのは神野が大剣を背負ってる件についてだね。謁見…王の前なのに帯刀しちゃってたってどうなのさ?
「やっと来たのか、新ちゃん」
「ははは〜。ここまで結構遠かったんだから勘弁してよ〜」
「そうか。じゃあしょうがねえな」
「まぁ、神野君たちが王都を出る前に僕は出て行っちゃうけどね〜」
「いやいや、一緒にいればいいじゃねえか」
「僕は戦争に首突っ込む気ないし?」
「はぁ…いや、それは予想ついてたけどよ」
「まぁ、行き先は神野君たちと一緒だし、先に行ってるだけだから安心してよ〜」
話を聞いていたら、行き先が同じだって事に初めて気がついたのだ。ま、普通に考えて敵国に一番近い場所に来ない方がおかしいよね。まぁそういう事で行き先が全く同じだった。という事は、早く行かないと家とかを借りれなくなっちゃう可能性が高くなるのだ。兵士の滞在先として差し押さえられちゃう可能性がね…
「なら一緒に行けばいいじゃんか」
「先に行かないと家が借りられなくなっちゃうんだからしょうがないじゃん〜」
「そうなの?しんちゃん」
「いや、兵士とかが休む場所って事で国に持っていかれちゃう可能性が…ね?」
「ああ、そういう事か」
「そういうこと〜。だからちょっと先に行くから」
「ならまた向こうでだな。で、いつ行くつもりなんだ?久しぶりに会えたんだし、ゆっくりしてくんだろ?」
「あ〜…3日後くらい?」
僕の発言に神野がなぜ?みたいな表情を浮かべる。
勇者を含み、兵士たち全体が移動を始めるのが6日後の予定。多くの人数が移動するから時間がかかるとはいっても、できれば余裕を持っておきたい。マリーを連れての移動でもあるし、家を借りるのにどれくらいの時間がかかるかもよくわからないのだ。
それに、何より大人数での移動を一緒にするのがめんどくさい。だって時間かかるし、食事とかが美味しくないし、コミニュケーションとらなといけないし…
「そ、そうか。じゃあ、それまでの間は一緒に居られるんだろ?」
「まぁそうだね〜」
「よし。ま、とにかくこんな場所じゃなんだし、食堂にでも行かね?」
「そうだね〜。ああ、あといい加減にそこらへんのボケーっとしちゃってる2人を起こしたら?」
「ん?あ、まだ和也と安井は理解してなかったのか…」
神野が自分の後ろを見て初めて気がつく。
この2人はなんで僕があそこ…つまり、なぜそんな位を得ているのかが理解できずにずっと固まっていたのだ。石井は「え?え?」と頭を抱え、安井は額に指を当てて考えている。
「ああ、ちなみに僕がお偉いさんなのは僕がそっちの世界に帰ったのが結構あとだからだよ〜」
「いや、結構あとって言っても600年も経ってたんだよ?それだとしんちゃんが600年も生きてたみたいじゃん」
「うん。それであってるよ安井さん。僕はちょっとズルして600年生き続けてたんだから」
「…へ?」
安井がポカーンと口を開けたまま固まった。
石井はなぜか納得した。
神野はやっぱりみたいな顔をした。
ゆーちゃんが苦い顔をした。
「まぁ深く考えなくていいよ〜。さ、移動しようよ」
「まぁそうだな」
僕らは場所を変えるべく謁見の間の前から動き出す。行き先は神野の部屋のようだ。他の生徒たちは僕が出てきたときにはすでにあらかたいなかったので、神野について来ているのは僕といつもの3人に加え、結城と臼井…ああ、魔術師の人ね。さらになぜか渡部だ。
神野が僕と話している間は誰も口を開かなかったけど、まぁ神野に任せていたのか、混乱していたのか、久しぶりに話している僕らに気を使ったかのどれかだろう。ああ、臼井は間違いなく恐怖で何も言えなかったんだろうけどね。だって一度盛大に脅してるし?そういえば李川先生とやらはこっち陣営に呼ばれてたと思ったんだけど、どうしてるのかな?
脳内でたわいない考えをしながら神野の質問なんかに応答しているうちに神野の部屋まで到着した。
神野が扉を開けて中に入る。さすがに8人もいるおかげで部屋が少し狭く感じるが、まぁしょうがないと割り切る。僕はベッドに腰掛けた。
「さて。で、僕のここまでの道のりの話の途中だったっけ?」
「ん?あ、ああ。そうだな」
「ええとね〜…マリーを連れて山を越えたあとは普通に街道を通ってここまで来ただけだから特に話すこともないんだけど?」
「いや、もうちょっとなんかないの?」
「え?移動しているだけの話を細かく聞きたい?」
「あ、うん。遠慮するわ」
事実ちょっとしたいざこざはあったけど、結局何もイベントのないままに王都まで来たのだ。話せって言われても舗装された道を歩き続けただけだし…ね?
「…で、お前は結局何なんだ?」
「え?渡部君それ聞くの〜?」
「いや、普通は気になるだろうが」
「まぁいっか。僕は勇者になれなかった人だよ〜。一度勇者として呼ばれたことは聞いてるんでしょ?そのときから僕は勇者じゃなくって、そのおかげで今も相変わらず勇者じゃないんだよ〜。で、しょうがないから色々と頑張った結果がこれ」
頑張った内容がエネルギーを無理やり吸収して魂そのものの格上げを行うってことだけどね。これ以外と辛いんだよ?例えると毒薬を飲んで自分で免疫を作れっていう感じ。
「全然わけわからないわよ」
「え〜。結城さん別に良くない?適当でさ〜」
「良くないわよ。あんたは知ってるでしょ?私たちが魔術師だって。それから見たって異常なのよ」
「ええ〜。人を異常扱いってひどくない?」
「全くひどくなんかないわ。ねぇ蓮香?」
「ひぇっ⁉︎あ、え、ええと…うん?」
臼井が変な声を出してビクッとしてから、僕の方をチラチラと見ながら頷いた。
別にそんなことぐらいで僕は怒らないからさ。
「まあいいじゃねえかよ。新ちゃんは無事なんだし」
「そうだね。しんちゃんには何もないんでしょ?なら拓巳が言うように気にしなくっていいんじゃないか?」
「ほら。気にしなくったっていいじゃないのさ〜」
「うう…で、でも。私たちからすればあんた相当おかしいのよ?それを許容するって…」
「…気にしないでおきなよ。しんくんにだって色々あるんだから」
久しぶりに口を開いたゆーちゃんが僕をかばうような発言をする。
ゆーちゃんに威圧されて結城は黙った。
「で、今度は僕の番だね。神野くんたちはどうだったの〜?」
「ああ、そうだな。俺らはこっちに呼ばれてからは…って、先に王様から聞いてたりしねえよな?」
「一応は聞いてるよ〜。ステータスの確認をして、訓練をしてたんでしょ?でも、それだけじゃ神野くんたちが今どういう状況なのかわからないし、できれば当事者の話が聞きたかったし」
「そうか。じゃあ、やったことは知ってるっていう前提で話していいんだな。俺らは呼ばれた後、そのまま謁見の間に連れて行かれて現状についての話を聞かされた。皇国が人間以外を迫害してて、戦争が起きて、向こうに召喚されてる勇者…同じ学校の奴らと戦うかもしれないこと。いろんな話を聞かされて今のこの世界の状況を知った。俺は戦争なんてしたくないし、俺以外の生徒だってほとんどがそうだったよ…」
それからしばらく神野はただ淡々と今まであったことを話してくれた。
表情がころころと変わるのでなかなかに滑稽だったのだが、それは顔には出さないようにしよう。さすがに不謹慎というか、また神野と正面衝突する羽目になるというか…ね?
主な内容は
・皇国が他の国全部に対して戦争を仕掛けようとしていることを聞いた。神野たちのほとんどは戦争はできればしたくないと思っている。
・この世界において最低限身を守るために訓練をつけられた。力をつければ当然使いたくなるのが人間という生き物なのであり、最近は戦争に賛成的な奴らが少し増えた感じがする。ただし逆もまた然りで、中途半端に力をつけたせいでそれらを使ってする戦争が強くなって精神的に参っている者も少なからずいる。
・生徒たちの中で協力しあって今はうまくやっている。戦争に参加したくない者を強制することもないし、持て余している力を振りかざす馬鹿者も見たところはいない。現状としては1人1人が神野たちとまではいかないにしても一般的な兵士数十名分の戦力になれるぐらい。
・戦争に参加するつもりの者は近場に発生している迷宮に定期的に潜ってレベルを上げている。精神的に参ってしまっている者も街に連れ出したりして静養させている。現在の平均的なレベルは30程度。
・神野たちは戦争に参加するつもり。戦争はしたくないけど、迫害されていると知ってそれを放置するのは嫌だとのこと。
大体はこんなところだった。
「そういえばなんだけど、しんちゃん前に私たちを元の世界に返してくれたよね?今は帰還の魔法は失われちゃっているって言ってたけど、しんちゃんだったら私たちを元の世界に返せるんじゃないの?」
「無理。というかやだ」
せっかく準備したゲームを誰が取り潰すもんか。やっと始まるっているのにさ。
それに今の僕には空間魔法の適性がないし、なにより時魔法の適性もないから元の時間軸に戻せない。今の3ヶ月近く経った向こうの世界に帰りたいって言うなら別だけどね。
「や、やだってなによ。あなた私たちを返したくないって言うの?」
「まぁそれもあるね〜」
「はぁ⁉︎ふざけてるんじゃないわよ!」
「も…?じゃあ新ちゃん、それ以外の理由は?」
「おや、神野君は以外と冷静だね〜。まぁいいよ。今の僕には空間魔法と時魔法の適性がない。だから帰還魔法が使えないんだよ」
「…じゃあ、しんくんが教えればいいんじゃないの?」
「それが無理って言った理由の1つだよ〜。誰か数百の陣を同時に描ける人いる?」
「いや、それは無理だろ…」
あれは実際そういう芸当をこなしているのだ。召喚はいたって単純な術式だが、帰還は色々と面倒な作業があるのだ。異世界を発見するところから始まり、その世界への道筋を大量の魔力と術式を以って固定し、魂を傷つけないように慎重に世界を渡らせ、向こう側の世界についたところで向こう側の世界のエネルギーを利用して身体を再構成、繋げていた穴を術式を解除して消し、その穴周辺の空間の修復と補正を行う。この時点で人には相当厳しい。
さらに言えばこれをほとんど一瞬で行えないとこちら側の生物が向こうの世界に放り込まれる現象が発生してしまうのだ。そのために複数の人が協力して行うことも望ましくない。つまり、無理なのだ。
「と、言うことで無理だよ?まぁできないこともなくもないかもしれない可能性がある可能性も少しぐらいはあるかもだけど、僕がそんな面倒なことをするとでも思って?」
「…しないわね」
「じゃあ今回俺らはどうやって帰るんだ?」
「石井くんいい質問です!答えは簡単。自力でだよ?僕はいつでも帰ろうと思えば帰れないわけでもないけど、準備には時間がかかるんだ。そんなことをしてたらみんな死んじゃうからね〜」
「一体なんの準備だよ…つまり、新ちゃんは俺らが帰る方法がないって言いたいのか?」
「いや。別にそうじゃないよ〜。ただ、何もしなくっても勝手に帰されるだけで」
「へ?」
「ここから先は最上級の機密事項で〜す。知りたければ自力でどうぞ〜」
僕はそんなことを言って、部屋の扉に近づく。
後ろから僕を止める声が聞こえているが放置だ放置。まぁ、くっ付いてきているゆーちゃんは見逃しておこう。
意見感想等もらえると嬉しいです




