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42.のんびりしましょう

 「『召集(コール)アルドグランテ』」


 僕は山を越え、2つ目の街を出たところでアルドを呼ぶのをすっかり忘れていたことを思い出した。

 まぁいろいろと大変だったんだよ。異種族嫌悪がひどい人がマリーに八つ当たりしてきたり、マリーを背負って山を越えたり、皇国のスパイと勘違いされて捕まりそうになったり、ギルドでなんかわけのわからない喧嘩に巻き込まれたりね。全く、いい迷惑だったよ。

 僕が内心でいろいろと言い訳をしている間に、目の前にアルドが呼び出された。 

 未だに突然何かが起こると驚くマリーに思わず口元が緩むのは許して欲しいところだ。



 『お久しぶりです。主人』

 「あ、うん。呼ぶのが遅くなっちゃってごめんね?」

 『いえ。我も良き経験を積むことができましたので』

 「そう?じゃあいっか」


 かれこれあともう少しで王都に到着する。時間で換算すれば1時間かからないくらいだ。すでに僕らの視界には小さいながら城が見えている。ここからの道は僕はよく知っている道だし、魔物だって弱いのしか出てこないから安心していける。

 まぁ、さっきから僕が安心してマリーから目を離しているせいで花畑に突っ込んでいったり、森に入ろうとしてみているのに疲れるが。

 マリーもこの2週間と少しの間で随分と普通の子供らしくなった。王国に近づくにつれてやたら嫌がられなくなり、むしろ可愛がられることが増えたこともあって今では結構子供らしくはしゃいでいる姿を目にすることが増えた。まぁ、未だにそばに僕がいる時のみみたいなんだけどね。それでも結構な進歩だったと思うよ。かれこれマリーを僕が拾ってから2ヶ月以上たってるけど、それで心の傷が癒えているのなら嬉しいことだ。ま、忘れ去られまくって傷がそこまで深くなかったのも早く傷が癒えている理由の一つではあるだろうけどね。残念なことに。


 

 「ああ…マリー。そっちは危ないよ〜」

 「だいじょうぶなのっ!」

 「はぁ…これは喜ぶべきか、否か」


 走り回っているマリーに注意をしつつ、僕らは街道を行く。

 この辺まで来ると、国の中心である王都に近づくために道行く人も増えている。護衛を連れた商人、貴族が載っていると思われる馬車、近くまで依頼を受けに行く冒険者、武装した兵士…他にも色々な人を見かける。それらのすべてが色々な種族で構成されている。まぁ同じ種族のみで構成されるものもあるけど、ほとんどが色々な種族が入り混じっている。普通はこうやっていろんな種族がいた方が便利なのでそうなるのが普通なのだが、皇国から来た僕から見るとすごく安心できる絵面だ。なにせマリーが嫌がられない証明なのだからね。肩の荷も降りるってものだよ。

 って、そんなことを考えている間にもマリーがアルドの腕を引っ張って走り回ってるし…まぁ元気なことはいいことだと思うけどさ、もうちょっとぐらい落ち着いたっていいと思うんだよ。嬉しい限りではあるが、僕が気疲れする。いくら肉体が疲れないとは言っても、気持ち的には疲れるんだよ。最近頭痛がしているような気がするよ。きっと子育てに悩まされている父親はこんな気持ちなのだろうね…いや、違うか。僕の方が幾分か特殊だし。



 「アルド…マリーのことしっかり見ておいてね。危ないことしそうだったら止めてあげて」

 『わかりましたが…主人、大丈夫なのですか?心なしか顔色がよろしくない気がします』

 「ははは〜。僕の顔色が悪いなんてありえないじゃないのさ。まぁ、僕も見てるけど何かありそうだったらよろしくね」

 『はい、わかりました』


 僕はアルドにそれだけ言って、あとはボーッとマリーを観察しながら足を進める。まぁ、そのうち疲れて大人しくなるだろう。そうしたらおぶって連れて行けばいいし。
















 「いや〜、久しぶりの王都。何年ぶりかな?5?6?まぁ、そのくらいかな?全く変わりないみたいだね〜」


 僕は全く変わることのない風景にため息とともにそんなことを言った。

 北門から入った時に見える景色は今も変わらずギルドまでの大きな一本道で、もう店主の変わった老舗の道具屋や今は亡き僕の弟子の育った孤児院がある。少し道を外れた場所には未だ栄えるレストランも。

 僕ははしゃぎ疲れて僕の手を握ってうとうとし始めているマリーを抱き上げ、表通りを進む。


 通りを歩くと召喚された勇者についての噂が聞こえる。

 3人の勇者がどうのこうの、もう2人の勇者がどうのこうの…とか、多分神野たちと生徒会のことだろうね。まぁ、行ってみればわかる話だ。今日はもう午後3時を過ぎたくらいなので早く王城に行くつもりだし。単純に王城の4階には僕の部屋がまだあるのだ。というか、最初の召喚の時からずっとあの部屋は僕の部屋ってことになっている。ま、置いてあるものといえば大量の僕の暇つぶしに作ったぬいぐるみや魔道具やアクセサリーなんかだけなんだけどさ。

 ああ、僕の屋敷にはまだ”デルピエール”公爵家が住んでるよ。今も変わらず国のために働いてくれている。この国一番の忠臣だと思うよ、多分。

 僕は表通りから外れて人通りの少ない道に入る。完全に誰も通らないんじゃないかっていうくらい静かな場所の壁の一箇所に触れる。



 「『開け』」


 煉瓦造りの壁が左右に割れ、人一人が通るのがやっとのスペースができる。これは僕と僕の部下の魔力が登録されていて、それと開くイメージを送ると開く仕組みになっている。

 僕はアルドが通ったところで壁に再び触れて、「閉じろ」と唱える。すると壁が元通りの状態になる。

 

 

 「さ、アルド。行くよ〜」


 僕はアルドを引き連れ、青白く光る魔石の照明が黒光りする金属質な壁に埋め込まれている通路を歩いていく。この通路は行き先が幾つかあり、僕の屋敷や王城などこの王都内のいたる所につながっている。今僕はそれを通って王城に向かっているのだ。

 カツーン…カツーン…と、僕の足音が通路に響く。その後ろでガチャガチャ…と鎧の金属が当たる音が響いている。非常に静かだ。ま、それもそのはずだろう。だって、僕の部下はすでに誰も生きていない。部下による引き継ぎもあっただろうが、それもいつのまにか途絶えてしまった。おかげで僕が超頑張って作った屋敷の機能が埃をかぶってるんだよね。非常に悲しいことにさ。

 しばらく歩いた所で壁に手を触れ、魔力を送る。すると、ゴゴゴ…と壁がスライドして階段が出てくる。その階段を上るとそこは壁で塞がれている。僕はまた魔力を送る。こうやって何度も手順を踏むのは面倒なのだが、さすがに王城に簡単に入れるのは問題かと思って厳重にしている。

 壁が開いて光が差し込んでくる。僕は開ききった壁から外に出る。



 「相変わらず綺麗だな〜」


 ボソッと僕の口からそんな言葉が溢れる。

 通路から出るとそこにあるのは王城の中庭。この大陸一の庭師が丹精込めて手入れをし、魔法を使って四季関係なく…この世界には四季はないが、咲く時期はある程度決まっている…様々な種類の花や木々に美しく彩られる小さな中庭。その中心にはアンティーク調なテーブルと椅子がバラのような植物で出来たアーチの下に置かれている。

 この場所はハルが作らせたそうだ。死ぬわずか4日前に完成したこの場所は、ハルがカリーナとの結婚記念日に見せようと思っていたもの。僕の前で嬉しそうにそう語ったハルはその数日後にカリーナに見せる前に死んでしまった。代わりに僕はカリーナに見せたよ。あの時の泣き顔は悔しそうで寂しそうで、何よりも嬉しそうだった。


 僕は椅子にマリーを座らせてローブをかけてやり、寒くないようにボタンの陣を起動させた。そして僕もその向かい側に座り、ポーチからティーポットとカップとクッキーの乗ったケーキスタンドを取り出しテーブルに置く。本来はケーキスタンドってサンドイッチやケーキなんかの生菓子も乗るものなんだけど、今日は僕一人だし面倒だから出さない。何よりそんなに食べたい気分でもないし。

 ティーポットにはすでに紅茶を入れてある。昨日のうちに今日のために入れておいたのだ。今日やるのが面倒だったし、どうせポーチの中なら劣化しないし冷めないし。僕はカップに紅茶を注ぐ。ちなみに今日入れてあるのはダージリンティーだったりする。



 「な、何者ですかっ!」


 おや、お客さんだ。

 長いエメラルド色の髪、端整でありながら可愛らしさも感じさせる風体、白いドレスに身を包んだ女性というにはまだ随分と若い女の子。この国の王女さまです。いやぁ、成長したね。僕が前に来た時はフレルド…ああ、今の王様だよ。その後ろに隠れて僕の様子をチラチラ見てくる臆病な少女だったのにな。体も女の子らしくなって、言葉遣いも高貴な人に相応しい話し方ができるようになったみたいだし。

 


 「随分と大きくなったんだね、ミリー」

 「ななな、なんで私の名前を…いえ、この国の人ならば知っていてもおかしくはありませんね」

 「ははは〜。相変わらず人見知りなのは治ってないのかな?前に見た時もフレルドの後ろに隠れちゃってたし」

 「お、お父様を呼び捨てにっ…⁉︎一体、あなたは何者なのですか」

 「覚えてないのか〜。ま、小さかったししょうがないか。確か9歳だったっけな?僕のあげたぬいぐるみを抱きしめてた可愛らしい少女だったもんね」

 「ぬいぐるみを…も、もしかして、あのクマさんですか?」

 「あ、まだ持っててくれてるの?それは嬉しいね〜」


 僕が手作りしたテディベアだ。モコモコの柔らかな茶色いクマ。結構手間をかけて作ったんだよね〜。誕生祝いにフレルドにあげたのだ。それをずっと持ってるっていうことはもう15年近く一緒にいるのかな?まぁ、浄化とか修復とか綺麗な状態を保つための付与はしてたしね。

 以外に大切にされてて嬉しいな。



 「お父様の…お知り合いでしょうか?」

 「うん。正確に言えばお父様のご先祖からの付き合いかな。確か謁見室前に廊下にある肖像画に描かれてた覚えがあるけど…あ、これのせいか」


 僕は髪色を鉛色に戻す。

 確かハルが家族と一緒に肖像画を描くからといって呼び出された時には髪色はこっちに変えてたんだったっけな。ちょっと嬉しかった覚えがある。



 「へ?…あ、あの、間違っていたら申し訳ないのですが、初代デルピエール侯爵ですか?」

 「ああ、うん。そうだね〜」

 「え…?ええっ?えええええ⁉︎」

 「いや、何をそんなに驚いてるのさ〜?」

 「え、いや、だって…耳も尖ってないですし、角もないですし、羽もないですし、人間…ですよね?それなのにどうしてそんなに?」

 「ああ、ごめん。何か勘違いしてるみたいだね。僕は生き物じゃなくって高エネルギー体。もっと正確に言うと魂を構成するエネルギーを限界まで昇華させて生物を超越させたものに色々と書き加えて無理やり作り出された神様ってことろかな」

 「…?」

 「要は出来損ないの神様だね〜。うん。ま、遅かれ早かれこの国の王族なら知ることになるし」


 この国の王族にだけはバラしてるのだ。だってそうしないと僕が自由に遊びまわりづらいんだもの。貴族に色々されたりするのを王様に防いでもらってる。面倒ごとは回避しておきたいのだ。代わりに”シルフィード王国国王専属補佐官”とかいう位を持ってるよ。何かあれば手助けをしてあげる、そんな位。ま、滅多に呼び出されないし、呼ばれてもいちいち来ないで”神託”がごとく声だけを届けてるし。



 「え、ええと…?」

 「マリーは…寝てるね。ならいいや。しょうがないし。『解除』」


 ミリーが怪訝そうに僕を見ているので、説明するのが面倒になった。

 久しぶりに完全に体を元に戻す。

 3対の髪と同じ色の翼の生えた小さい女の子。この体はなんというか落ち着かないのだ、人前だと。多分緊張とかそういった感じなんだと思うんだけどね。



 「き、綺麗…」

 「うん、やっぱり嫌だ」


 僕はさっさと元の通りちょっと長い黒髪の青年の姿に戻る。



 「で、どう?」

 「………」

 「お〜い」

 「はっ…!」

 「あ、復活した。まぁ、とりあえず座ったら?」

 「あ、はい。失礼します…」


 僕の横にミリーが座る。僕はポーチからさらにカップを1つ取り出して紅茶を注ぐ。



 「紅茶、嫌い?」

 「い、いえいえ。むしろ大好きです」

 「そっか。砂糖はいる〜?」

 「あ、お願いします」

 「はいよ〜」


 僕は砂糖の入ったガラス製の花の形をした入れ物を取り出す。これはこの世界の知人が作ってくれた物だ。



 「え、ええと…神様?ですか」

 「ああ、シンでいいよ〜」

 「そ、そうですか。ではシン…様?」

 「ははは〜。もっと肩の力抜いて話したら〜?」


 僕はミリーとティータイムを楽しむことにした。


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