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41.移動をしましょう

 「やぁ、遊びに来たよ」

 

 僕はすでに僕の目の前にいる女…ガーネットがボスのみを残して誰もいなくなってしまった建物の中でそう言った。

 ガーネット…それは”実りの象徴”とされ、目標に向かい、コツコツと積み上げてきた努力の成果を実らせて、成功へと導いてくれるという意味を持つ宝石だ。この組織がそうんな名前なのは僕がそう名付けたから。このガーネットのボスは若い女だった。その女は自らの父親の組織を忌み嫌い、自分の愛する町を守るため、自分の守りたい物を守るために組織を立ち上げた。

 …その組織が今や自分の忌み嫌った父と同じことをしているとはなんとも皮肉なものだろう。


 僕はボスの腰掛けるいかにもって感じな椅子の前に並ぶソファーに腰掛けた。



 「あんたが…白き暴虐か?」

 「その名前止めてくれる?なんかすごく恥ずい。僕はネロだよ」

 「そうかい。で、遂にこのあたしを殺しに来たんか?いいさ、覚悟はできてる。こんなことを続けてきたんさ。いつかはこうなると思ってたさ」

 「へぇ…ああ、そういえば贈り物たちは気に入ってくれた〜?」

 「…っ!ふ、ふざけるんじゃないよ!あいつらは…あいつらは」


 ガタッと音を立ててボスが椅子から立ち上がった。



 「…ふざけるな、だって?それはこっちのセリフだってことに気がついてるかな?エリス・ディノバーナって名前。君には聞き覚えがあるはずだよ」

 「ああ、知ってるさ。当然のことじゃないのさ。このガーネットの初代ボスだよ。それがどうしたのさ?」

 「エリスは、いい人だったよ。この街のため、自分の父親の罪をつぐなうためにこのガーネットを立ち上げた。彼女の仲間も同じようにね。だけど今のこの現状は何さ?何もかもが台無しだよ。だから僕はなおのこと君が気に食わない」

 「ちょ、ちょっと待ちな。それじゃあ…それじゃあまるで、あんたがその光景を見てきたみたいじゃないのさ」

 「そうだよ。ガーネットっていうのは僕がつけた名だ。それを汚すのは許さない。だからこの組織には滅ぶ必要がある。原型をとどめていない宝石はもう価値はないんだよ」

 「あ、あたしらが滅べばあたしらが抑えてる組織も、この街の裏も、全部崩壊するのに…」

 「安心していいよ〜。価値あるやつらはまだ生きている。きっとエリスたちの意思はそいつらが継いでくれるよ。だから、もう…いらない」


 僕は指を振るう。

 地震が起きたかのように床が揺れた。



 「なっ、何をした!」

 「この建物はじきに崩壊する。君が昔どんな意思を持っていたのかは知っているよ。けど、君は染まりすぎたんだよ。知ってたかい?幹部たちは誘拐や違法な金貸しにも手を染めていたよ。たとえ君が望んでいたことじゃなくなっていたとしても、それを止めることができなくなっていった。ましてや君もそれに加担するなんてことは言語道断だったのに…さ」


 僕はローブを翻しながら窓に近づき、壁を透過して外に出る。

 再び指を振るい、建物全体を隔離する結界を張る。



 「さようなら…遠き日の幻想よ。その夢は既にない」


 窓を叩くボスの表情はどこか悲しそうで、悔しそうで、涙に濡れていた。

 「こんなはずじゃ、なかったんだ」…そう言っているように見えた。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 「ただいま〜」


 僕はドアを開け放ちそう言った。

 今は午前7時。今日は8時に乗合竜車が出るのでもうそろそろ準備をしないといけない。荷物は昨日の時点で片付けてある…というか元々ポーチに入れるだけだからどうせ時間はかからなかったけどさ。着るものなんかの準備も既にできてるし、あとは朝食を食べてマリーを着替えさせて宿を出るだけだ。

 今日の朝はフレンチトーストにでもしようかな。時間もないし、準備が卵液作って漬けておくだけだし。

 僕はポーチから卵と牛乳とバニラエッセンスを取り出し、混ぜたところに食パンを漬ける。



 「マリー。起きて、今日はこの街を出るよ〜。竜車の時間に遅れちゃうよ〜」

 「…うぅぅ」

 「よし、起きた。ほら、顔を洗って」


 僕は桶に水を出してベッドに置き、マリーが顔を洗っている間にタオルをポーチから取り出す。

 マリーが僕からタオルを受け取ると、桶の水を闇魔法で作った穴の中に放り込む。そしてポーチからマリーの今日着るものを取り出してベッドに置いてキッチンに戻る。マリーは1人で着替えられるから放置しておいて構わないため、僕はフライパンを熱して朝食の準備に取り掛かる。

 さっきまで漬けておいた食パンをフライパンの乗せしばらく蒸し焼きにし、焼目がついたらひっくりかえす。合計十数分で出来上がり。なんともお手軽な朝食だ。

 僕はそれらを皿に乗せ、テーブルまで運ぶ。そして、その間に影人(シャドーマン)を3人ほど出して部屋の掃除とキッチンにあるものを片付けさせる。



 「マリー。ご飯だよ〜」

 「わかった、の」

 

 マリーが着替え終わった服を畳んで僕に手渡し、僕はそれらに”浄化”をかけてポーチにしまう。

 マリーが席に座り、相変わらず僕が食べ始めるのを見てから食べ始める。



 「どう?美味しい?」

 「…ふみゅ」

 「うん。そっか。それなら良かった」


 口いっぱいに詰め込んでハムスターみたいになったマリーが嬉しそうな顔をしているので、今の言葉はきっと肯定だろうと勝手に解釈し、僕も朝食をさっさと済ませる。

 今日の予定は乗合竜車に乗って隣の街まで移動する。ただそれだけ、というか隣の街まで竜車で1日近くかかってしまうためにそれ以外ない。竜車でもお昼ご飯は出るだろうけど、干し肉とかそう言った保存の効くものを中心としたいまいち美味しくないものが出てくると思うので、早く朝食を食べてサンドイッチとかそういった物を作っておこうと思う。


 僕はそんなことを思いつつフォークを進める。

 そして、食べ終わると皿を洗いながら影人(シャドーマン)を2人ほどだしてポーチの中の材料からミンチにしたランドカウの肉とレタスみたいな感じの野菜と玉ねぎみたいな野菜と少し前に作ったパンを取り出す。サンドイッチはこの間ピクニックの時に作ったから今日はハンバーガーにしようと思う。

 1人の影人(シャドーマン)が肉を幾つかの調味料と混ぜてパテを作り、フライパンで焼く。もう1人の影人(シャドーマン)がパンと玉ねぎみたいな野菜を半分にスライスする。僕はそれにレタスみたいな野菜と玉ねぎみたいな野菜をスライスした物を挟む。いつも通り分業制だ。こうやってやるのが一番楽だ。人数的にこのぐらいが一番場所を広く使えるし、余りがいない。


 

 「マリー、食べ終わった〜?」

 「…おわった、の」

 「よし、じゃあお皿はそこに置いておいて〜。マリーも荷物を持っておいで〜」

 「わかったのっ!」


 マリーがリュックを背負い、部屋に忘れている物がないかを確認している。意外に几帳面なマリーである。

 パテを作り終えた影人(シャドーマン)が皿を魔道具から出す水で洗ってポーチにしまい。パンと野菜を切っていた影人(シャドーマン)が僕の挟んだ物を紙で包んでいく。僕は手を洗い、包み終えた物をまとめてカゴに入れてポーチにしまう。ポーチから息吹を取り出して剣釣りに下げ、ベルトに他のポーチを取り付ける。普段からつけていると、使わない物が邪魔だったのでアイテムポーチとマネジメントポーチのみをつけて他はアイテムポーチの中に入れたあったのだ。



 「さ、行こうか。アルド、行くよ〜」


 僕はマリーと手をつないで廊下に出る。アルドが出たところで鍵を閉め、鍵を持って階段を降りる。

 受付のおばちゃんに鍵を返し、お礼を言った。するとマリーに「またおいで」何て言われたので少し驚いてしまった。マリーに対して険悪にしないでとは言ったけど、またおいでと言ってくれるとは思ってもみなかったのだ。

 宿を出て、表通りを外壁の出入り口に向かって移動する。乗合竜車の乗り場は出入り口のすぐ近くにある広場にあり、その広場には1台のキ幌馬車のような物を体長3mくらいある地竜につないだものがいる。ああ、幌馬車っていうのは馬車に幌っていう砂ぼこりとかを防ぐための覆いがついた馬車のことね。僕らはそれに向かって歩いていく。

 そして、竜に繋がれた手綱を持つ青年に声をかける。



 「レストノア行きの乗合ってここであってる〜?」

 「はいっ。券を…ってネロさん、でしたよね?」

 「ん?そうだけど。ああ、アルドの訓練の時の顔洗うの忘れてた人だ」

 「ひ、ひどくないですかぁ…」


 顔を見て初めて気がついたけど、アルドの訓練を見ていた青年だった。

 確か…名前はミューラだったかな?



 「ははは〜。確かミューラくんだったね。君はここで働いてるの?」

 「はいっ。まぁ、この竜車の持ち主の人に雇われですけどね。レストノア行きですか?」

 「あ、うん。これ券ね〜」

 「えっと…そちらの方は?」

 「ん?ああ、アルド。悪いけど一旦”眷属の箱庭ファミリア・ミニチュアガーデンに帰っててくれる?さすがにこれから移動するのは大変だと思うから山を越えたらまた呼ぶよ。それまではゴブリン達にでも鍛えてもらいな」

 『そう、ですか。わかりました』

 「じゃあ、またね。『帰還(リターン)』」


 僕の目の前からアルドが一瞬にして消える。少し寂しくなるけど、まぁ1,2週間ぐらいの短い期間だ。マリーが少し寂しそうだけど、ちょっとの間我慢してもらうとしよう。さすがにアルドを竜車に乗せると重さで竜車が動かなくなる可能性が高い…というか確実だし。



 「え、ええと…」

 「あ、うん。これで問題はないよね」

 「あ、はい…」

 「さて、じゃあ僕らはどうしてればいい〜?」

 「えっと…もうすぐ出発ですから、乗って待っててください。乗るのは大丈夫ですよね?」

 「うん。じゃあ、乗って待ってるよ」

 「はいっ」


 僕はアルドが消えたことに未だすこし呆然とし続けているミューラを放置し、車両に向かう。

 車両は10人ぐらいが乗ることのできるスペースがあり、中にはまだ誰もいない。おそらく早く着いたためのまだ乗っていないか何かだろう。広場には荷物を抱えた人が数名いたし。僕はマリーを抱きかかえて車両に乗って一番奥…いや、この場合は一番前かな?御者の座る席のすぐ後ろに座る。そしてあぐらをかきマリーをその間に座らせた。

 座ったところで、他の客を呼ぶミューラの声が聞こえた。それから少しして2人組の女性とお爺さんと男3人組と夫婦が乗り込んできた。どうやら僕らが最後だったらしい。お爺さんと男と夫婦が嫌そうな表情をマリーに向けているが、あいにくマリーは竜が気になってしょうがないらしく、ずっと竜の方を見ていて気づきもしない。

 

 

 「じゃあ、出発しますよー」


 パシンと鞭の鳴る音がすると、竜車が動き始めた。

 僕が頑張ったおかげで揺れや振動はそこまでひどくない。ゆったりとした速度で竜車が走り出す。外壁を通過し、街道をゆったりとした速度で走っていく。まぁゆったりとは言っても時速20kmくらいは出てるけどね。これ以上の速度で街道を走るのは法律違反なのだ。というか、鎧を着た人間でも竜車に轢かれればひとたまりもないのだからしょうがない。まぁ、ほとんど暗黙の了解になっているけどさ。



 「マリー、ずっと見てるけど楽しいの?」

 「うんっ!」

 「そ、そか。じゃあよかった」


 マリーは僕の方を見ることなくじっと竜を見つけたままに答えた。そのうち誰か龍を連れ出そうかな?マリー喜びそう。

 周りを見れば武器の手入れをしていたり、荷物を漁っていたり、いろいろとやっているので僕もこのまま何もしないでいるのは暇だし、ポーチからニーズの牙を取り出す。サイズがちょっとした短剣ぐらいあるそれを息吹を小さくして削っていく。形を整え、短剣の形に切り出していく。あ、一応言っておくけど、魔力で相当強化して硬度を高くしているからこそ削れるのであって、牙の硬さはダイヤモンドなんかよりもずっと硬いからね。

 

 竜車は街道を進む…


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