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35.つけ狙われましょう

 しばらくしてマリーが起き、朝食をとった。


 僕は食器を片付け、マリーを膝に乗せて読書をしている。マリーも僕の読んでいる本を覗き込んでいる。 

 …よく内容をわかってないと思うんだけど、それって楽しいのかな?マリーが楽しそうだから続けてるんだけど。


 今日はあまり外に出る気がない。今、外で悪魔の隻眼(イビルアイ)が幹部その他の様子の監視をしているが、壊れた建物の処理や殺された大量の構成員の後始末に追われているようだ。まぁ、兵士がやる気がないせいで…というか賄賂がまかり通りまくってるせいで犯罪が大量発生していたのだが、今回のやつで色々と発覚して面倒なことになっているようだ。 

 ま、知ったこっちゃないね。これから被害は増えるんだしね。


 そんなことを思いつつ本を読んでいると、コンコン…と扉をノックする音が聞こえてきた。

 誰だろうか?あ、店主かな?僕は知らないよ。



 「すみません。少し伺いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


 あ、違ったようだ。若い男の声が扉の向こうから聞こえてきている。

 僕はマリーを膝から降ろし、扉に向かって歩いていく。マリーは椅子に座って待っていればいいのに僕のローブを端を掴んで一緒についてきた。僕は扉を開け、顔を出す。



 「どちら様〜?」

 「ああ、発見しました。少しギルドまでよろしいでしょうか?」

 「ん?別にいいけど、何かあったの?」

 「いえ…その。昨日の」

 「ああ、ちょっと待って。今準備するよ」


 おそらく、昨日僕を見かけた人の証言でも頼りにここまで来たのだろう。多分、これから事情聴取的なのもとかをやらさせるんだろうな〜。はぁ…面倒くさい。まぁ、大人しく行くよ?だって行かないと犯罪者として指名手配されかないからね。


 僕はマリーにリュックを背負わせ、置いてある荷物を全てポーチへ放り込む。何かあったらそのまま逃げるのだ。アルドに声をかけ部屋を出て鍵を占める。



 「さて、いいよ」

 「そうですか。では」


 僕はマリーと手をつなぎ、その男について歩いていく。

 その男は見たところ小綺麗な格好をした青年だが、おそらく普段なら配達とかそういった業務をこなしているのであろう。腕や足にはしっかりと筋肉があるのが見受けられる。身長も高く180cmはあるかといった程度。髪は薄い水色で目も同じ色をしている。結構きれいだと思うよ。そして、髪はちょっとロングなくらい。顔もそこそこに整っており、人間よりエルフに近い感じだ。

 …というか、耳元にちょっと違和感があるので多分エルフだ。今まで全く気づかなかった。耳に髪の毛がかかっているのでよく見えていなかったんだ。しょうがない。


 そんなとこを観察しているうちにギルドに到着した。


 カランカラン…とどのギルドでも変わらぬ音色を醸し出す扉を開けて中に入り、僕らは3階へ連れて行かれた。こういった階にあるのって面接用か接客用かギルド長室だけなんだよね。間違いなくギルド長室に通されるパターンじゃん。

 


 「こちらへ…」

 「はぁ…了解〜」


 案の定通される部屋に僕はため息をついて入った。

 部屋はどこのギルドともあまり大差なく、ソファーと机と棚と幾らかの物が置いてあるだけの執務室。僕はマリーを連れ中に入り、中にいる人を一瞥してこちらもエルフであることを確認して何も言われる間もなくソファーに腰掛けた。



 「…普通は何か言われるまで待つものじゃないのかな?」

 「生憎、今日の僕は不機嫌なんだ」

 「そうかい」


 それだけ言うと、その人は僕の目の前に腰掛けた。

 見た目はどう見ても若い青年だ。紺色の髪と目をした端正な顔つきの男。耳に幻影の魔力が見えている。



 「で、なんの用なの〜?」

 「ああ、そうだね。まずはその話をしよう。君、昨日何人かの人間と戦闘をしたね?」

 「してないよ〜」

 「そんな目立つ格好の人はこの街では君ぐらいなものだよ…」

 「じゃあしたね〜」


 僕は自分の格好を振り返り、確かにこんな真っ白な服装な人はこの世界で見た覚えがないな〜、などと思い起こす。



 「じゃあって、君ねぇ…今君の置かれている状況というものを理解しているかい?君は今この街のガーネットという組織に狙われているのだよ?」

 「あ〜。その件の話なら帰っていい?その組織はあと4日で滅ぶから」

 「君は命をねら…ん?4日で滅ぶだって?今そう言ったのかい?」

 「うん。昨日は1人の幹部が死んだよ。今日もまた1人が死ぬ。明日も明後日もね。この街から組織は消えるんだよ。どうせなら街を見てくれば?1区画ほどの3割が消滅してるからさ」


 僕はマリーの耳をふさぎつつ、紺色の男に話す。

 僕がそういうことをしてるのはマリーには知られたくない。マリーには綺麗なまま、純粋なままに育って欲しい。まぁ、もう既に遅いとは思うんだけど、それでも…ね?



 「あ、あれを君が…?」

 「大丈夫。あれは組織に加担してた奴だから。一般人には手を出してないよ。僕は比較的良心的なんだ」

 「りょ、良心的だって?あそこまで完膚無きまでに潰されたのなんて見たことがないよ。それを…君は良心的と言うのかい?」

 「うん。良心的でしょ?だって、店にいなかったんなら死なずに済むんだよ?ちゃんと中にいた一般人は外に放り出したし」


 飛ばしたキューブには重力で押しつぶすのと斥力で一般人を追い出すのと、引力で組織の人間を引っ張るのが付いていたのだ。まぁ、他にもいろいろつけたけどさ。



 「と、とにかくだ。早く君はこの街を出るべきだ。間違いなく近いうちに君たちに被害が及ぶ」

 「いいよ。別に次の乗合馬車でこの街を出るつもりだからさ。それにさ」


 僕は体の中から聖霊たちを押し出す。

 聖霊たちは僕の周りに出てくる。あ、フレアが転んだ。



 「そ、それは精霊?…いや、そんな生易しいものじゃない。一体、それは…?」

 「聖霊だよ。第一にランクが違うし、どこにでもいるレベルですらないけど」


 エルフには種族スキルとして【精霊視】を持っている。力を見せるのが一番楽だろう。



 「…そんな精霊がいてたまるかい。それは精霊の域を超えてるよ。ありえない…ありえないんだ」

 「それはそうだろうね。この子たちは僕が生み出した聖霊たちだもの。聖霊の中でも最高位に位置する聖霊よりも上だからね」

 「う、生み出した…だって?」

 「はい。お話終了〜。もういいでしょ?エルフのギルドマスターさん」

 「…気がついていたのかい?いつからか一応聞いてもいいかな?」

 「初めから。じゃあ、後始末は全部お願いね〜。この街の権限とかは全て君にあげるからさ。資料とかを後でまとめて持ってくるね」

 「あ、ちょっと…それは」


 僕は文句を言っているのを無視して部屋を出る。

 まだ言いたいことがいっぱいあるようで、何かを言おうとこちらに手を伸ばしてるけど知ったこっちゃないね。今日の僕は不機嫌なんだ。しつこいと滅ぼすよ?

 まず第一に昨日のあれだって僕が機嫌が良くなかったら一瞬でこの街が消滅してたところだからね。


 僕はマリーを連れて歩き出す。

 マリーは一体何があったのかとキョトンとしているが、僕がにっこりと微笑んであげると僕に向かって笑顔を返してきた…うん、可愛いね。もうあんなことは起こらないように気をつけよう。

 僕らはギルドを出る。そして、乗合馬車の予約?をするために街を歩く。どうせ外に出たんだ。できることは一度に済まそう。



 「でも、まずその前に。『イマ…喰らえ』」


 僕はさっきから尾けてきている組織の人間と思われる人間を消す。僕の中にいた命の聖霊がその魂を喰らい尽くす。ちなみにエネルギーはそのまま僕に供給されます。



 「マリー。お昼ご飯は何がいい〜?」

 「…おにぃちゃんが作ったものが食べたいの」

 「よし。ちょっと僕頑張っちゃうよ〜」


 そんなこと言われたら頑張りたくなるじゃないか。何がいいかな?こっちでそんなに見かけない物を作ろう。

 う〜む見かけない物…あ、カステラとかはこっちじゃ見かけないな。まぁおやつだけどさ。以外と色んな物があるおかげで僕がいろいろ作って布教したから滅多に見かけない物が減った気がする。

 …うわ。原因僕じゃん。


 まぁ、お手軽に美味しい物で何か作るとしよう。あ、マリーに料理を教えるっていうのも悪くないな。でもそれはマリーがやりたいって言い出す時まで取っておこう。

 でも僕、本当に料理って効率的な趣味だと思うんだよね。始める前には想像する楽しみがあって、やってる最中は製作する充実感があって、完成すると達成感が得られ、食べて満腹感も得られる。実に効率的でしょ?まぁ、普通に楽しくってやってるんだけど、こうやって考えると料理ってなかなかに得してる感があるよね。一度に多くのことを楽しめる。


 とりあえず、簡単な物がいいよね。お昼だし、パンケーキとかがいいかな?簡単だし、まだ精霊大陸で貰った蜂蜜が残ってたと思うし。

 …エルさんとまた一緒に食べたいな〜。エルさんも甘いものが好きだったんだよ。僕とよく話が合う数少ない人だったのに。


 

 ちょっと感傷に浸っていると、馬車と竜の絵が描かれた看板の店に着いた。これが乗合竜車のやつとか竜車を借りたりとかいろいろとできる店だ。


 ガランガラン…とクマ鈴のような音がして僕らは店に入った。音にびっくりしてマリーがビクッとしてちょっと微笑ましい。中はカウンターと接客用のテーブル2つしかない狭い店だ。カウンターではおじさんが座って煙草をふかしている。

 僕はカウンターに向かった。

 


 「おう。いらっしゃい。レンタルか?それと乗合の方か?」

 「乗合の方だよ〜。次のレストノア行きはいつ?」

 「次は4日後だがそれで構わないか?」

 「大丈夫だよ〜」

 「じゃあ身分証明できるもん出しな」

 「ギルドカードでいいよね?」

 「はいよ。2人って…ああ、そのお嬢ちゃんか。随分と可愛らしい服着てるんだな」


 おじさんがマリーを見た瞬間ににっこり笑ってそう言うので、僕は驚く。この国でそんなことを堂々というのはかなり珍しい。おじさんの目は嘘を言っていなかった。おじさんがギルドカードを僕らに返す。

 ま、皇都から離れれば離れるほど信仰が深い連中は減るし、これから王国に近づくにつれてはもっと減ることだろう。


 「よかったねマリー、可愛いってよ?ははは〜。この国でそう言ってくれる人はおじさんが2人目だよ」

 「そりゃあ残念だ。もうちょっと早けりゃ一番になれたかもしんねぇな」

 「ははは〜。おじさんは教えを信じてない人?」

 「いや、表向きは信じてるぜ。まぁ、今はあんさんと俺しかいねんだ。内緒にしといてくれよ?」

 「当然だよ〜。で、いくら〜?」

 「可愛い嬢ちゃんに免じて安くするぜ?2人で100Bだが、90Bでいい」

 「おお〜。じゃあ、お言葉に甘えるよ」


 僕は銀貨1枚をおじさんに支払う。

 おじさんはそれを受け取ると、2枚の紙と銅貨10枚を僕に渡す。

 この紙は予約券だ。これを当日に乗り場で提示すると竜車に乗せてもらえる。



 「時間は4日後の午前8時だ。遅刻すんじゃねえよ?」

 「うん。ありがとね〜」


 僕はマリーを連れて店を出る。マリーの頬がちょこっと赤くて照れてるように見える。まぁ、可愛いなんて言われる機会は僕が言う以外になかったし、当然といえば当然だけどね。

 さて、今日の分の食材は昨日買ったので今日は買い物に行かなくて大丈夫だし、宿に帰りますかな。



 「『イマ…喰らえ』…さ、マリー帰ってお昼ご飯にしよう」

 「…うん。おひるごはんは、何なの?」

 「今日のお昼はパンケーキだよ。マリーは甘いの好き?」

 「…?」

 「およよ…マリー甘いもの食べる機会が少なかったか。ま、とりあえずほぼ初体験だね。楽しみにしててね〜」

 「…うんっ」


 マリーは最近子供らしい行動が増えたような気がする。今も僕と繋いでいる手を大きく振って歩いている。まるで両親と手をつなぐ小さい子供のように。いい傾向だね。

 このまま健やかに育って欲しいと思うのは僕が親になったみたいで少し変な感覚だ。

 なんだろうな。僕はマリーを鈴に似た感覚で接してるのかな?もういないけどさ。別に代わりだと思ってるわけじゃないけど、妹ができたみたいな感覚ではあるよね。昔こうやって手をつないでおばぁちゃんに連れられて歩いてたような記憶がある。



 「マリー…」

 「…どうかしたの?おにぃちゃん」

 「マリーは今幸せ?」

 「…わからないの。でもたのしいの」

 「そっか。じゃあよかった」


 僕はマリーに向かって微笑み、街を歩いていく。

 …なんだろう。寂しいな。


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