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34.訓練しましょう

 宿に帰ってきた。

 マリーはまだ目覚めていないらしかったので、夕飯を作って起きるのを待つことにした。ちゃんと髪色を戻し、体にまとっている結晶たちも作られないように抑えた。

 まったく、不便な体だね。この結晶たちは僕の溢れてた神力に感化されて僕にくっ付いて来ちゃったものみたいで、神力の放出を止めてもしばらくは精製され続けて消すのに時間がかかっちゃったし、髪色は戻ったんだけど長さは伸びた分だけじゃなく全部を一旦神力に戻す必要があって面倒だったしさ。

 まぁ、すでに作られちゃった分は大体2cmほどの立方体になっていて綺麗だったので、2個ほど使ってイヤリングにしておいた。中に陣が透けて見えるキューブのイヤリング2つが僕の耳についている。


 ということで、いろいろやってビーフシチュー風なものを作る。この世界の物だけだと少し違うような物が出来上がるのだ。まぁ、さすがにそれはしょうがない。だって同じ食材が存在していないんだもの。

 人参が欲しかったとして、それと似た食感でも味が少し違ったり、同じ味でも食感の異なる物だったりと、ちょっと違う物が結構あるのだ。それをうまく使って作るため少し違った物になり、〜風な物になっちゃうのだ。


 部屋にだんだんと美味しそうな匂いが充満し始める。

 そして、しばらくしてマリーが目を覚ます。



 「マリー。おはよう」

 「…おはよう?なの」

 「何があったか覚えてる?」

 「…ふんすいのところで待ってて、それから…?」

 「ははは〜。マリーは疲れて寝ちゃったんだよ。ほら、夕ご飯ができたから食べよう」


 キョトンと首をかしげたマリーに僕はそう言う。

 よかった。どうやら覚えていないようだ。多分、眠らされた方法のせいで前後の記憶がちょっと混濁しているのだろう。使われていたのは”黎明草”という薬草の一種で、本来は不眠症など用の薬に使われる。僕がマリーのリボンに刻んだ陣には魔法系等の対策はしてあったのだが、治癒などに使う薬草系に対策はしてなかったのだ。で、それには使用した前後の記憶が混濁するという副作用がある。どの辺りで使われたのかがわからなかったのでマリーが覚えているかわからなかったのだが、どうやら早い段階で眠らされていたようだ。

 僕はベッドで寝ているマリーを席に着かせ、部屋に置かれていた皿に料理を盛りつけ、パンの入った籠と共にテーブルに置く。


 

 「さて、食べようか〜」

 「…ぅん」

 「ははは〜。まだ眠そうだね。今日は早く食べてもう寝ようか。マリーは今日頑張って歩いたもんね」


 実際、今日マリーは4時間近く歩いているのだ。疲れているだろう。だって、獣人種に近い亜人種の種族だとはいえまだ子供なのだ。向こうの世界ではまだ小学1年生だ。

 ああ、ちなみに獣人種に近い亜人種の特徴は、獣人種と同じように基本的に知能の発達が高く、身体能力が高くなりやすい傾向にある。さらに多くが幻術などの特殊技能に優れ、長寿である。

 マリーくらいの年齢だと、身体能力は年相応であるが知能は小学校高学年ぐらいに相応する。あと1,2年もすれば知能に肉体が追いつき、そして12歳あたりで追い越して15歳になれば成人程度まで肉体が成長する。まぁ、マリーは一時期栄養不足だったしちゃんと成長するかが心配なところだ。


 そんなところで僕はマリーと共に食事を始める。



 「どう?美味しい?」

 「……ぅん。おいしいの」

 「よかった。結構あるからお代わりが欲しかったら言ってね」

 「…わかったの」


 マリーはお気に召したようで、少ししたらおかわりを欲しがった。まぁ気に入ってくれたようで何よりだ。明日は何を作ろうか?


 しばらくして、マリーはお腹いっぱいになったようだ。まだ疲れはとれきっていないようで、目がトロンとしている。今にも瞼が落ちそうだ。僕はマリーの皿を片し、”影人(シャドーマン)”を出して皿や鍋などを洗う。それを終えると部屋の掃除もした。

 マリーは今日はぐっすり眠ることだろう。その間に、アルドの訓練でもしようか。



 「マリー。今日はもうお休み。服とかはそのままでいいからさ」

 「…ぅ、ん」

 「ほら、ベッドまで運んであげるから」


 今にも眠ってしまいそうなマリーを抱きかかえ、ベッドまで運ぶ。マリーはベッドまで運ぶと、そのまま眠りそうだったので毛布をかけてあげる。



 「お休みマリー。いい夢を」


 マリーは少しすると眠ってしまった。きっと疲れていたということもあるが、薬品の作用がまだ残っていたのだろう。

 僕はベッドから立ち上がり、”影人(シャドーマン)”を解除する。



 「アルド。おいで」

 

 僕は椅子に腰掛け、アルドを近くに呼び寄せる。

 今回の件はアルドに全ての原因があるわけではないが、アルドが一対多数の戦闘に慣れていなかったのも一つの原因である。おそらく、元の持ち主にはあったのかもしれないが、アルドにはその記憶が全て引き継がれているわけではないのだ。寧ろ、その引き継がれた一部のおかげで今回アルドはしっかりと戦闘が行えなかったと思われる。アルドはもともと巨人種の鎧。このサイズでの戦闘はしたことがあるわけがないのだから。



 「アルド。言いたいことはわかる?」

 『我の失敗のことですね?』

 「いや、違うよ。あれは僕のせいだ。だけど、君の戦闘能力…というか、戦闘方法に問題があることに気がついたからさ」

 『問題…でありますか』

 「そ、問題。アルドは今、もともとの記憶に頼って戦闘をしているでしょ?だから弱い。君の体は痛みで怯むことはない。剣で斬り飛ばされることもない。ならもっと積極的な戦闘もできるはずだよ?それに、その大きさでの戦闘はまずあり得なかったはずだ。だから今までとは異なった戦闘技術が必要になる。まぁ、これは僕が悪いんだけどさ。ま、結局言いたいのはだよ。君は生物としての戦闘から離れないと。僕らは異形の者。それを生かさずしてどうするのさ?」

 『は、はい』

 「ということで、今から訓練だ。外に行くよ」

 『マ、マリー様は?』

 「この子たちに頼む。『アープ、ノトス、シェイド、エール。この子を護衛しろ。敵対する者は全て消せ』」


 僕の体から4人の聖霊が出てくる。それぞれ水、風、闇、空間の聖霊だ。一応、部屋に被害が行かなそうなのをチョイスした。



 『かしこまりました。王様』

 「よし、じゃあ外に行くよ。『悪魔の隻眼(イビルアイ)』」


 僕は片目を置いて、部屋を出る。マリーが起きたらすぐに戻ってくられるようにね。夜中に起きて、誰もいなかったらマリーがきっと怖がるだろうから。

 僕の後ろをアルドがガチャガチャ…と歩いてついてくる。



 「おばちゃん、裏庭借りていい?」

 「別に構わないよ。何に使うんだい?」

 「訓練〜」

 「そうかい。頑張りな」


 僕はおばちゃんに許可を得て、裏庭に出た。

 空中からみて初めて気がついたのだがこの宿には裏庭がある。そこにあるのは井戸だけなのだが、それでも5m×15mくらいのスペースがあり、そこそこに広い。

 ちなみにいうと、この井戸はこの宿に水を出す魔法道具がないために設置されている。部屋に水道はないし、シャワーもない。なので、料理をするにも体を拭くためにもここから自分で水を運ぶか、自分で水を出す魔道具を手に入れるしか方法がないのだ。ああ、僕は後者だよ。


 

 「さて、アルド。剣を抜いて〜」

 『わかりました…』


 アルドが剣を抜く。



 「さて、まずだ。アルドの剣の振り方はいいんだよ。もともと大きい体でどうやって小回りの効く攻撃を行うかに重点をおいた振り方だったしさ。で、問題は肉体の心配をしすぎていることなんだよ。君にあるのは鋼鉄の肉体…というか、僕の魔力を浴びたことで変質し、この世界の生物が傷つけるにはあまりに固すぎるような物質なんだ。なのに、君は過剰なくらいに武器が当たるのを嫌がるように動くんだ。鎧は一定以上の痛みは感じないはずだよ?避けるのは構わない。だけど、相手の攻撃を受けそうになってわざわざそれを剣で受け止めて攻撃を中断するのは如何なものかと思うんだよ。集団戦において、体力を消耗するのは実によろしくないことだ。それは理解しているだろうけど、君にはもうその心配すべき体力は存在しないんだ。もっと積極的に戦っても構わないとは思わないかな?」

 『そ、それは…確かに』

 「アルドには人であった…人と共に戦ってきた記憶が強く残ってるんだね。だからそれに頼った戦い方をする。けど、それは一旦忘れよう。これからは君の意思で動くんだ。中に人はいない。君のために戦え」


 僕は剣を抜く。



 「さ、僕は筋力は一般人程度にして勝負してあげる。一本でもとれたら次の訓練に移るよ」

 『なっ⁉︎それでは主人が…』

 「僕が負けるとでも?一応、体力は消費しないようになってるし、別にいつまででも続けられるよ?僕に今ないのは筋力だけだし」


 筋力だけセーブして、僕の体はほとんど通常の状態に戻してある。



 『で、では…お胸をお借りいたします』

 「うん。かかってこい」


 アルドの訓練が始まった。



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 ガリガリと音を立てながら僕の耳元をアルドの振るう剣が僕の剣によって受け流される。

 地面に到達する前に強靭な力で無理やり振り上げられる剣を僕は横に少し移動して避ける。

 アルドが一歩距離をとって横薙ぎに振るった剣を壁に向かって飛んで躱し、そこへの空中にいる僕への一撃を体をひねって躱して地面に着地する。

 地面に着地したところに叩きつけるように振り下ろされる剣を避けて後ろへ飛びのき、それを追うように来た斬撃を僕の剣でいなす。


 結局もう朝の5時半になるくらいなのに未だにこうやって訓練を続けている。

 一応、僕はまだ一撃ももらってない。



 「アルド。動きがわかりやすい。顔は動かさなくても見えるでしょ?もっと他の動きにも工夫しないと」


 鎧であるがゆえに元々は視線を向けるためにやっていた動きだろうが、今は頭部のあたりの全体から視覚を得ているはずだ。余計な動きはどんどんカットしていく。

 こうやって1つ1つ消してきたおかげで、だんだんとリビングアーマーらしい動きになってきた。攻撃を受けることを躊躇わず、その体の異様なまでの力と素早い瞬発力を生かした動き。こうやって動かれると攻撃を仕掛けづらいし、一撃でも受ければ大抵の生物は死に至る。


 まぁ、でもそろそろ今日のところは終了にしよう。さっきから僕らの訓練を眺めている人がいるので時間的にこの世界の人たちが動き出す時間だろう。しばらくしたら井戸を使うためにここに来る人がいるかもしれないし、邪魔になってはいけない。



 「アルド、今日はここまで。続きはまた今日の夜中にね」

 『承知…しました』

 「ははは〜。そんなに悔しそうにしなくてもいいよ。もともと僕らの戦闘技術は自分達より能力が高い相手に対して作られたものだ。アルドが僕に勝てなくても全くおかしいことじゃないんだよ」

 

 僕は一度紫たち全員の記憶を体験(・・)させてもらっている。まぁ、教えてもらったりもしたけど。それのおかげで紫たちの戦闘技術をいくらか…というかほとんど学んでいる。僕たちの戦闘しないといけない相手は”神”とか”国”とか、ほとんどが自分達より絶対的に強い能力を備えた相手だった。それゆえに僕らの戦闘技術は自分より強い能力値を備えた相手に対応したものが多いのだ。


 僕は息吹を鞘に戻し、ローブについてしまった少しの汚れを魔力を流して”浄化”する。

 アルドは僕が剣を戻してしまったので自分の背に背負う鞘に剣をしまい、体についている砂などを水魔法で綺麗に流した。



 「あ、あの…すごいですね!つい見とれてしまいました」


 さっきから見ていた人が近寄ってきた。

 何だろうか?



 「どうかしたの?」

 「い、いえ。なんか勝手に見ていたのでちょっと悪いかなぁ…なんて」

 「ははは〜。気にしなくていいのに〜。まぁ、見たかったら好きなだけ見てなよ。明日もやってるだろうし」

 「そ、そうですか?」

 「うん。別に僕らが勝手にこの場所でやってるだけだし、見られて文句言うほど僕の心は狭くないんだよ?」

 「あ、そうだ。ぼくミューラっていいます」

 「ぼくはネロだよ〜。よろしく。ところで君は何しに来たの?」

 「…あ。ぼく、顔を洗いに来たんでした!」

 「それなのにずっと見てたの〜?」

 「すっかり忘れてましたぁ…」

 「ははは〜。じゃあ、僕は部屋に戻るね〜」


 ドジなのかな?

 僕はミューラの井戸に向かう後ろ姿を見ながら部屋に帰る…


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