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33.探しましょう

 我が名はアルドグランテ。我が主人より頂いた名だ。

 我は今窮地に立たせられている。


 右から振られた剣を弾き、その剣の持ち主を蹴り飛ばす。

 その持ち主は蹴り飛ばされることなくその場で血だまりに変化した。


 主人に命じられた使命を果たさなさなくては。

 マリー様をお守りしなくてはッ!



 * * *


 僕は機嫌よく戻ってきたところで、一気に気分が落ちた。

 噴水があった広場には水が吹き出す壊れかけの彫刻があるのみで、そこでアルドが1人で(・・・)戦闘をしている。


 

 「『邪魔。消去(デリート)』」


 久しく神力を使って魔法を行使する。アルドと戦っていた生物が魂もろとも消滅する。



 「アルド!マリーは?」

 『申し訳ございません。向こうの方向へ、袋に入れられ攫われました』

 「…そっか。アルド、もう…いいよ。やっぱりやめた。僕は僕の好きなように力を使う…」


 僕の背中に髪の当たる感覚が広がる。髪色が変化し、鈍い銀色を放つ。それが太ももぐらいまで伸びていく。

 一度【仮想技能】を解除し、通常の状態で体を再構成した。適当にやったため、体は男であるが髪の毛がそのままの状態になっているようだ。多分、この世界にいたときにいつも髪色だけそのままにしてたから癖みたいになっているのだろう。

 感覚が広がる。僕の体にキューブ状の魂からできた結晶が螺旋状に絡みついていく。周囲のエネルギーを吸収する。



 「『世界は目を閉じた。狭い世界(スモール・ワールド)』」


 この街自体がこの世界から切り離される。これでもう…誰も逃さない。



 「…さぁ、行くよ」


 僕は地を蹴って中へと浮き上がり、探知とともにマリーの元へと飛ぶ。

 今の僕は街の住人全てが認識できる。膨大な情報が頭の中を流れ、空間を掌握する。

 空中を蹴って空を走る。僕の髪に触れた虫が魂ごと僕に吸収されたのが感じられた。制御が不安定になっているみたいだ。過剰な神力が体をめぐる。それを抑えなくてはマリーにも触れられないな。

 僕は神力の放出を少し抑えつつ、移動を続ける。

 中央通り近くの道を曲がって小道に入ったのが感じられた。僕はその方向へと向きを変え、一気に加速した。



 「…やぁ、ゴミども。死ぬ準備はいいかい?」


 僕は空中から急降下してマリーを連れたゴミ6人の前に着地する。

 それらはしばらく僕が誰だかわからなかったようだが、僕の服装と顔を見てやっとわかったようだ。まぁ、僕の格好は真っ白のローブだし、結構目立つからね。

 だがもう遅い。



 「おい!おみゃ…ひゅい⁉︎」


 気がついたときには僕に全員が首を切り飛ばされている。

 魂を頭に移動して無理やり固定してやった。意識はあるのに、首から下がないのが理解できるのに、呼吸ができないのに、痛み続けているのに…死ねない。

 楽に死ぬなんて許さない。死なせない。

 


 「…ふふふ。君らは神の怒りに触れたんだ。諦めろ」


 僕の最も嫌いなことは、僕のものに誰かが勝手に触れることだ。

 だから、許さない。


 …最悪の気分だ。


 僕の方へ一つの袋がゆっくり中を移動してきている。マリーを押し込めていると思われる袋だ。僕はその袋から案の定入れられていたマリーを出して、僕の手元で浮かせる。どうやら薬品か何かで眠らされていたようだ。このこと自体に気がついてないならいいな。


 後ろからアルドが走ってくるのを感じた。



 * * *


 主人が戻ってきた。

 その表情は今までに一度たりとも見たことのないほどに歪んでいた。



 「『邪魔。消去(デリート)』」


 主人がそう言うと、我の戦闘していた人間たちが言葉通り消滅(・・・)した。



 「アルド!マリーは?」

 『申し訳ございません。向こうの方向へ、袋に入れられ攫われました』

 

 我は謝罪とともに、指をさして方向を主人に伝える。



 「…そっか。アルド、もう…いいよ」


 その声は主人がいつも聞かせる楽しげに聞こえる寂しげな声ではなかった。ひどく冷たく、哀しみのみを濃縮したような響きだ。 

 主人の顔は無表情だった。怒りに満ち、どこか苦しそうで、寂しげ…そんな表情。

 そして、主人の髪が突然伸びた。それは刃のように鋭く鈍い色を放つ。



 「『世界は目を閉じた。狭い世界(スモール・ワールド)』」


 主人はそれだけ言うと、空を蹴って何処かへ向う。我もそのあとを追う。

 主人の移動は早い。我のとても追いつくことの不可能な速度でどんどんと進み、見ることができなくなってしまった。我はその力の痕跡を追い、どうにか主人のいる場所へと向かう。


 通路の先に主人の姿が見える。相手は6人。そして、次の瞬間に首が宙を舞う。

 あまりの速度に剣筋を見ることさえ許されない。

 剣を抜いた主人がそこに立っている。主人が剣を使うのを初めて見たような気がする。

 主人は剣をしまうとその男たちのかついていた袋からマリー様を出した。



 * * *



 アルドが来た。



 「ちょうどいいや。アルド、マリーを宿まで連れて行ってくれる?」

 『承知いたしました。部屋にお連れすればよろしいのですね?』

 「うん。今度はよろしくね?」

 『…はい。申し訳ございませんでした』

 「いいよ。アルドは頑張った。今度一対多数の戦闘方法でも教えるよ。じゃあよろしくね」

 『はい。ところで、主人は?』

 「僕?決まってるじゃん。元凶を滅ぼす。僕がこんなことをするのはマリーには見せたくないんだ。大丈夫、すぐに戻るよ」


 アルドがマリーを抱えて宿に向かうのを見送る。

 ごめんね。僕のせいで怖い目にあわせちゃって。これからするのは単なる自己満足だけど、こうでもしないと僕の気が晴れないんだ。



 「…さて、僕のものに手を出したんだ。覚悟はしてるんだろうね」


 僕は再び宙へと浮かぶ。街の中心に浮かび、街全体を見下ろす。どうやって料理してやろうか?今の僕の脳内はそれでいっぱいだ。


 …とりあえず、幹部から滅ぼしておこうか。それを達磨にしてボスに送りつけてやろう。それと同時に街の支配下に置かれてる施設すべて破壊かな。



 「…まぁ、まずは地面に転がってる首たちを幹部に届けないとだよね」


 僕は恐怖の形に歪み続けて生き続けている頭を乱暴に手元まで重力の操作で引き寄せ、それを連れて幹部のいる場所を目指す。

 今こいつらの脳内情報をすべて閲覧したところ、どうやら毎月上納金を直接幹部に届けているようなので場所はすぐにわかった。そこへ向けて、こいつらを投下すればいいのだ。

 僕はその首に再生魔法を強引に付与し、強烈な痛みとともにその場所へと落とす。これで地面に落ちた衝撃でぐちゃぐちゃに潰れても修復される。よかったね。これでしばらく痛みと仲良くできるよ。


 その建物の屋根を突き破り、2階の幹部がいる部屋に落ちた6つの首は、案の定床に叩きつけられた衝撃でぐちゃぐちゃに弾け飛び、部屋を真っ赤に染める。何事かと身構える幹部とその側近がその首たちが修復されていくのを見て恐れおののき、扉を開けて部屋から逃げようとする。

 そんなのは許さない。僕は部屋自体を空間として固定し、その空間は周りとは断絶された場所であるため出ることができなくした。

 扉が開かず、逃げられないと悟った幹部たちは詠唱を始める。そして、その首が完全に修復されたところで、恐怖により詠唱が止まる。首は痛みを訴え、死ねない恐怖に狂う。さて、そろそろ降りるか。


 僕はその空間の固定をやめ、屋根にあいた穴から建物に入る。



 「やぁ…それは僕のものに手を出したゴミだよ。返却に来た」


 僕は髪を揺らしながら地面に着地し、その幹部と側近の前に立つ。

 幹部は茶色の髪を短く刈り込んだそこそこなイケメン。側近は30代に入る3日前くらいの女性。その2人の魂も僕の脳内に情報を送り続けている。



 「き、君は一体なんなんだ!」

 「僕?しがない神様だよ」

 「か、神…だと?それが、一体俺に何の用だ…?」

 「言ったでしょ?お礼参りだよ」


 僕は指を振る。

 急に部屋の温度が下がる。血の巡りの悪い箇所…つまり指先から幹部とその側近が凍り始める。

 僕はゆっくりと2人に近づく。



 「…とりあえず、これから4日で君の組織は壊滅する。幹部が全員死に絶え、組織に関わった建物がすべて地面に埋まり、構成員は全員変死し、組織は無くなるんだ。いいかい?」

 「な、にが…いいかい、だ」

 「おや?喋りにくかったみたいだね」


 僕は再び指を振る。幹部の口と上半身のみ寒さで凍りつかないようにした。

 そんな間に側近の方は腕が肘のあたりまで凍りついた。



 「こんなことがあってたまるか…クソッ!俺が何をしたってんだ?」

 「君は悪くな…くもないか。君がこれを生かしたのが悪い。それが原因だよ」


 僕は凍りついた右肘にデコピンをして、腕の一部を砕く。

 次は人差し指の第一関節。次は小指の第一関節。次は手首にヒビを入れ、手の甲に穴を開けた。次はほぼ1cm刻みに腕に穴を開けていく。

 だんだんと自分の顔に向かって近づいてくる恐怖ってどんな感じなんだろうね?



 「うわぁぁああああ!いや、いやだ!やめてくれぇ!」

 「やだ。どうせ君らだっていくらでも悪事を働いてきたでしょ?報いってことで我慢してね」


 次は左。

 まず中指を折り、それをちょっと溶かして手のひらに取り付ける。次に親指を粉々に砕く。その次に手首から折って、右手の肘のあたりにくっつける。折った左手の手首のあたりから数cm刻みに割り、テーブルに並べる。二の腕の中程まで来たら凍った部分に追いついてしまった。



 「わぁぁああ!や、やめろぉ!俺を壊さないでくれぇ!」

 「じゃあこっちの人にするね…へぇ、君の奥さんなんだね。あ、指輪がある」

 「だ、だめだ!やるなら俺にしてくれ!そいつは悪くないんだァ!」

 「い・や・だ」


 僕は何も保護していないせいで、もう胴体の中程までが完全に凍りついて氷のオブジェとなりかけている側近…幹部の奥さんであるらしい女性の左肩に手を置く。そして、そのまま体重をかけて肩から先を外す。それを幹部の男性の左手のすでに無くなっている手首にくっつける。

 


 「やったね。これで手が伸びたよ。ふふふ…ふふっ…ふふふふ」

 「ヒィィイイ⁉︎やめてくれ!なんなんだよこれ!もう許してくれ!なんでもする。なんでもするからよぉ!」

 「そうか。じゃあ、このまましばらく精神崩壊を起こすまでおもちゃになって、それからボスへの贈り物になってくれ」

 「頼むからやめてくれよぉ!」

 

 隣の女性は完全に氷に包まれかけている。残るは頭部のみだが、すでに心臓が凍りついて脳に血が巡っていないために仮死状態になりかけている。

 僕は【武器創造】によりメイスを作り出し、それを手に取る。



 「お、おい!な何をする気だ!や、やめろ!やめるんだ!そいつに手を出さないでくれぇぇ!」

 「さようなら〜。ほいっ」


 僕は完全に凍りついたところで、その女性の腹部をメイスで思いっきり叩いて粉々に砕く。

 砕いたところで、幹部の目はどこか虚ろで視点が定まらなくなった。



 「あ、ああミリア。ああ…ああ」

 「あ〜あ。壊れちゃった?ま、いっか」


 僕は砕けてしまった女性の破片へと手を伸ばす。破片は光の粒となって僕に吸収される。

 そして僕は幹部の四肢を砕き、胴体部分に再び強引な付与をかけたところで建物を後にする。

 入ってきたように屋根から出ると、僕は再び指を振るう。

 建物に何十倍の重力がかかり、真っ平らになって建物は姿を消した。 



 「さて、次だ。ああ、切り取ったの解除しておかないと。乗合馬車が出なくなっちゃったら困るな」


 この作業で20分。マリーが起きる前には帰りたいな。

 世界から空間ごと切り取ったのを元に戻し、別の結界を張る。特定の生物をこの街から出さないだけのものだが、復讐には十分に足りる。

 僕は「あ、あああ…」ってずっと言ってる幹部をボスのいる建物のボスの部屋へと転移させて、次の場所へと向かう。他の幹部の情報もしっかりと得たし、協力したり関わりを持ってる人の情報も得た。今日はこの幹部の下についていた人を消滅させたら宿に帰ることにしよう。


 僕は体にまとわりついているキューブ状の結晶たちに重力魔法と探知をつけて、それぞれの建物へと飛ばす。これ以外に便利だね。使い切りの魔道具みたいな感じだ。


 建物が消滅したのを感じたところで、僕は宿へと向かう。


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