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31.首を突っ込まないように注意しましょう

 「ふぅ〜。やっと出られた」


 かれこれ朝から4時間半ほど移動を続け、やっとのことで森を抜け街道に出た。

 だいたい総移動距離は普通に移動して2週間ぐらいかかる程度の距離を移動したかな。まぁ、ここからは普通に街道を進んでいくのみなので随分と楽だろう。だって魔物を警戒し続けたり、周辺にいる魔物を殲滅したり、木から気へと飛び移ったときに枝が折れて落ちそうになったり、空中に飛んでいた魔物と顔面衝突したりすることなんてないんだからね。

 というか、ここからは歩かないでの移動ができるのだ。

 乗合馬車と言って通じるだろうか?この世界では馬車ではなく竜が引く竜車なのだが。客を乗せる竜車が街の間を走っていて、それに一定料金を払えば乗ることができるというものだ。これは街間の道が整備されたおかげで僕がこの世界から消えて20年ほどで出来上がった。街と街との間を大体3日から6日ほどかけて移動している。


 まぁ、街から出発してるからどうせこの近くの街には行く必要があるんだけどね。


 

 「マリー、歩ける?」

 「…うん」

 「よし。じゃあ、頑張って今日のお昼くらいまでには街に行こう〜」


 もうすでに街は見えているので、ここから約3時間もかからないだろう。

 僕はマリーを背中から降ろし、手をつないで歩き出す。

 

 確か、ギルドの地下書庫にあった地図によるとこの次の街はリパーノという街だ。リパーノからはスリング方面とシルフィード方面の2つの街道が通っており、物流で栄える街だ。特産品は特にないが商会の本部が数多く存在し、そのせいもあって治安が色々とよろしくないことになってるというのが600年ぐらい前の状況だった。今はどうかは知らないが、その状態が今も続いているなら地下組織が大量に存在していたのがまとまって、なおのことタチの悪いものに進化している可能性が高いだろう。これには少し注意を払うことにしよう。



 









 途中に薬草の群生地を見つけ、少しばかり時間をとったが無事リパーノにたどり着いた。

 外壁の門番にちょっと嫌な表情を向けられながら僕らは街に入った。にっこり微笑んでやったら「けっ…」って言われた。そして、後ろに立ってるアルドに見つめられているのを見て冷や汗をかいていた。ちょっと愉快だった。



 「さて、マリー。ギルドに行くのとお昼ごはん、どっちが先がいい?」

 「…お腹空いたの」

 「よし、じゃあお昼ご飯にしようか〜」

 「…そう、するの」


 森での移動はひたすら僕にしがみつくだけだったが、しがみつくのも意外に体力がいるのだ。マリーはちょっと疲れた様子なので、先に昼食にするとしよう。昼食をとったらギルドに行って薬草を売って、次の乗合馬車の日にちと時間を聞いて、今日じゃなかったら宿を探して馬車が来る日まではそこで休むとしよう。


 ところで最近になって思うのだが、マリーは鼻がいい。いや、獣人種と一部の亜人種…というか種族スキル【獣化】を所有する種族に共通することなのだが、そんななかでもマリーは格段に鼻がいいと思う。

 なんでそう思うかというと薬草の群生地を見つけた時のことなのだが、マリーは僕が前に薬草についてちょっと教えた時に匂いを覚えていたらしく、い1,2kmほど離れた場所からその群生地を発見したのだ。いくら匂いが強い薬草とはいえど、普通の【獣化】を持つ種族はそんなに離れたところからは見つけられない…というか、そんなにはっきりと匂いを嗅ぎ分ける技能を持ち合わせていない。

 


 「そこがいい〜?」

 「…うん。おいしそうな匂いがするの」

 「よし、じゃあそこにしよう」


 マリーは一軒の店に目をつけた。マリーが選ぶ店は当たりが多い。僕はマリーとその店へ入る。

 シャン…と心地いい鈴の音と共に店内に入ると、すっごく嫌な空気だった。簡潔に説明しよう。借金取り…多分高利貸しが、店の店主と思われる人物が必死に頭を下げているのを蹴っている。マリーはその光景に昔を思い出してしまったのか僕の手を握る手がひどく震える。

 僕はマリーにそれを見せないようにマリーの顔を僕のお腹の方へ向けて抱き寄せる。



 「ねぇ、この店は客が来たのに案内もしないのかい?」


 僕が声を発して初めて客が入ってきたことに気がついたようで、取立人が蹴るのをやめ、店主が少し顔を上げる。そして、僕の後ろに立つ屈強そうな騎士…つまりアルドを見て、取立人がその人物から離れる。



 「チッ…また来るからな」


 取立人は僕らの方を見て舌打ちをした後、僕らの横を通り抜けて出て行った。



 「あ、ありがとうございます!本当にありがとうございます!」


 地面に頭を擦り付けていた店主と思われる人物は僕の方へ駆け寄ってきて、今度は僕に必死に頭をさげる。

 こういうのをなんて言うんだろ?無様?滑稽?



 「とりあえずさ、この子がお腹すかせてるんだ。お礼とかそういうのは後にしてくれない?」

 「は、はい!で、ではこちらに!何かお嫌いな物はございますでしょうか?」

 「特にないよ〜。ほらマリー、もう大丈夫だよ。お腹空いたでしょ?お昼ご飯にしよう」

 「…う、ん」


 僕は未だに震えているマリーを促し、席に着く。アルドは僕の後ろに控えるように立っている。

 店主と思われる人物は僕らが何も注文しないうちに調理場に引っ込み、少ししたら料理をしている音がし始めた。

 今更ながら僕は店内を観察する。壁には古くなっているが、元はかなり上等な素材で作られていたことがうかがえるような料理名の書かれた板があり、その壁自体もそこそこにいい物でできているのがわかる。おそらく、今はこんな状態であるが昔は繁盛する店だったのだろう。店内に並んだテーブルが無駄に広い店内に合わせられたように多く置かれていた跡があるし、調理場からの通路も何回も歩いたせいで少し凹んでいるように見える。



 「お待たせしました!まずは簡単な物ですが、スープとサラダです!」


 そう言って運んできたのは本当に簡単な物であるが、コンソメスープと幾つかの野菜のサラダだ。

 それと同時にコップに水を注ぎ、店主と思われる人は調理場に戻ろうとする。


 「では、私は次の物を作りに行きますので!」

 「他に働いてる人はいないの?」

 「…ええ。少し前に全員出て行ってしまったので」

 「そっか。ま、頑張って〜」


 僕はやっぱり店主であっていたその人を調理場に追い返し、食事にすることにした。僕が食べ始めたのを見てからマリーも食べ始める。まぁ、その誰かよりも先に食べない癖は治さなくとも問題がないので放置している。むしろ毒とかが入っていた場合に役に立つしね。



 「ふむ。悪くないね」

 「…おいしいの」


 素材の味を引き出す調理をしているのだろう。見たところそこまで高級な食材だったりするわけではないが、なかなかに美味しい。サラダに使っている食材も、ドレッシングがかかっているだけだが野菜の味を引き立てている。あれだ、レストランというよりは料亭とか家庭的な味に近い気がする。

 ゆっくりとそれらを食べながら、調理場の方へ目をやる。調理場はこちら側からは見ることができないので、ちょっと透視をして観察する。こういった物はあんまり使うつもりはなかったのだが、今回はちょっと興味がわいたので使用する。

 調理場は綺麗なものだ。真っ白いタイル張りのそこまで広くない部屋で、コンロが2つ1組で4ヶ所、シンクや調理台も同じように4つほどあるので、もともとは4人またはそれより少し多いぐらいの人数でやっていたのだろう。それにしても、不自然なぐらいにこの部屋だけは汚れていない。なんと言えばいいのだろう…まるで、まったく使われた形跡がないのだ。今店主が使用している台がかろうじて使用した形跡があるのみで、他の台はまったく使用したようには見えないほど綺麗だ。

 お、次の料理ができたみたいだ。



 「お待たせしました!次はウェードホーグの角煮です!もう少ししたらパンが焼けますので、焼けましたら次の料理と一緒にお持ちしますね!」

 「ところで料金は?」

 「いりませんよ!今回は本当にやばかったんです!死んでたかもしれないぐらいにね!それから救ってくれたんですから料金なんていいですよ!」

 「ふ〜ん。まぁそういうならいいけど」


 タダほど怖いものはないってよく言うけど、僕は別になんとも思っていない。というかタダならそれで一食分の料金が浮いたと思うだけだね。なので店主の何があったのかを聞いてくれ的な目線は無視する。

 次に運ばれてきたのは日本でいう豚の角煮だ。ウェードホーグって言うのは長い草の生えた場所に生息する魔物で、脂が乗ってて美味しい上にランクもF程度の魔物だ。冒険者にもランクが低いのにそこそこ高く売れる魔物であることで人気がある…が、1匹の体重は90kg超えが普通で、そこそこ大きくて運びづらいのが難点

である。

 というか、店主さん気が利いてるね。さっきから僕のとマリーのとで量が違う。僕のはそこそこの量であるのに対してマリーには気を利かせて少ない量になっている。



 「次は結構こってりだね。まぁさっきのサラダとかと合わせてちょうどいいけどさ」

 

 とてもご飯が欲しくなる味付けだね。まぁ、残念ながらこの世界に米は存在しないんだけど。というか似たような植物さえも存在しない。なので食べたければ向こうの世界から運ぶか、一から植物を作る必要があるのだ。

 食事は続く。



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 「ふぅ。ごちそうさま〜」

 「…おなかいっぱい、なの」

 「満足いただけたようでよかったです!」


 僕らはあれから幾つかの料理を平らげ、マリーがお腹いっぱいになったところで店主がこちらに戻ってきた。僕はさらにここからデザートを要求したいところだが、さすがに今の状況でそんなものを作る余裕はないだろうから我慢する。

 なので、店主の何があったのかを聞いてくれっていう視線は無視する。



 「さ。マリー、ギルドに行こうか〜」

 「…うん」

 「いやいや、ちょっと待ってくださいよ!普通は何があったのかぐらい聞きません⁉︎」

 「聞きません」

 「いや、聞いてください。そしてできれば助けてください」

 「嫌です」

 「そ、そんな…」

 

 店主が膝から崩れ落ちた。なんだろうこの茶番。

 でもまぁ、なんとも楽しい反応をするねこの店主。面白かったので少しだけ話を聞いてあげよう。



 「しょうがないからちょっとだけ聞いてあげるよ」

 「ほ、本当ですか!」

 「うん。だから、50文字以内で簡潔に答えなさいな」

 「ご、50文字以内…」


 店主は指を折って数え始め、しばらくして話す準備ができたらしく口を開く。



 「借金をして調理場を新しくし、利息が増えすぎてシェフたちが出て行って、奴隷にされる一歩手前です」

 「うん。よく分からない」

 「じゃあなんでそんな無茶を言ったんですか…」

 「なんとなくかな?まぁ、大体はわかったよ。君はどこかで借金をしてそのお金で調理場を新しく改装したんでしょう?その時に借りた金貸しがよろしくないような連中で、どんどん増えていく借金と取り立てが厳しくなってシェフやウェイターたちがやめて1人になってしまったせいで客寄せや運営もうまくいかなくなり、借金奴隷にされる一歩手前まで来ちゃってるんでしょ?」

 「十分にわかってるじゃないですか…」

 「ははは〜。で、君はどうしたいのさ?そういうのはギルドに相談でもしたら?補助してもらえないわけじゃあるまいし、多少はどうにかなるはずだよ?」

 「それがですね、そうもいかないんですよ。その金貸し、”ガーネット”っていうこの街を支配している大組織の末端らしくて、ギルドも手出しができないんです」

 「もう少し、話を聞かせてくれる?」


 なるほど。この街はついに支配されちゃったわけか。ガーネットね…心当たりがあるな。昔は女頭領だったはずだね。確か、結構な面子で構成された少数精鋭みたいなグループだったけど、いつの間にか大所帯になったようだ。

 それにしてもこれはギルドとかにも手を回ってる可能性も考えないといけなくなったな。構成員にギルド職員がいた覚えがある。まったく、面倒な話だね。僕は面倒なのは嫌いなのに。


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