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30.出発しましょう

 「じゃあね〜」

 「またどこかで会いましょう〜!」 

 「兄貴〜!お世話になりました〜!」


 僕らは舎弟4人組に見送られながら街を出ることになった。

 みんなして腕が抜けるんじゃないかってくらいの勢いで手を振って僕らを見送っている。いい奴らだったよ、みんな。


 僕はマリーと手をつないで歩き、その後ろでアルドがのっしのっしと歩いている。

 馬車とかは獣道では使用できないので、結局歩くしかなく、森に入ったら僕がマリーをおぶって移動するつもり。マリーの要望で初めはマリーが頑張って歩くけど、森に入ったら問答無用でおぶらせてもらうよ。

 マリーは戦闘向きじゃない。

 職業、白魔法使い。それは魔力と知力に大きい補正をかけ、さらに治癒魔法とかの補正に特化した職業。本来であれば巫女や聖者の仲間に分類される職業なのだが、マリーはさらに特殊で”忌み子”っていう攻撃に関係する技能を下げる代わりに自らの治癒や耐性を強化する称号と、”特異種”っていう色々なものにブーストをかける称号が付いているおかげで、さらにひどいことになってる。

 で、結局どんなものかというと、単純に言うと完璧に防御に徹しちゃった治癒魔法使い。

 攻撃力がかなり低く、体力と魔力が他に比べて振り切っちゃってる。


 つまりだ。マリーは魔物に襲われると死ぬことはほとんどないと言っていいほどにありえないが、しばらく恐怖を浴び続けて【修正】される。

 それは避けたいのだ。外に出て、ちょっと魔物とかから逃げる方法や移動するときに重要なことくらいは教えたけど、それ以外はからっきし。他に教えたことは治癒魔法の使い方と補助系統魔法の使い方、薬草とかの見分け方だけ。てなわけで、僕はマリーをおぶっていくのだ。

 戦闘は全てアルドに任せる。頑張れアルド。


 

 街を出て数分ほど歩いたあたりで僕らは街道から逸れて森へと脚を踏み入れる。日本ではもうほとんど見ることのできないような数十mもある木々が生え、地面からは多種多様な植物が絡み合い、頭上からの木漏れ日が眩しい。こういう所ににいると異世界だなって感じがする。まぁ、今の僕にはあんまり異世界じゃないのは気にしないけど。


 

 「マリー。まだ頑張る?」

 「…うん」

 「そか。じゃあもうちょっと頑張ろう」


 マリーに声を掛けるが、マリーはまだ頑張るつもりのようだった。

 僕らはアルドを先頭に森の中を突き進む。進む速度は普通に街中を散歩するかのようなくらいで、普通の冒険者が進む速度とは違う。僕は風魔法で周囲の状況を完全に把握しているし、アルドが威圧?的なことをしているおかげで僕らにケンカを売るような魔物はいないので、何も気にすることなく進むことができている。それに、今は起動してないけど僕が作った魔道具を起動させれば魔物が嫌う周波の魔力を放って魔物が近づきづらくなる。


 僕らは特に会話することなく森の中をただただ進んでいく。

 だんだんと草の量が増え、だんだんと魔物の気配が増え始める。相変わらず近寄ってはこないけど、そろそろマリーには限界だろう。



 「マリー、おいで」

 「…わかったの」


 マリーもちゃんとそれを理解してのことか、僕が呼ぶとおとなしく僕の所へ来て僕におぶられる。マリーは僕の肩に手を置き、しっかりしがみつく。



 「さて、アルド。一気に進むよ〜。時間をかけるのは面倒だしね〜」


 ガチャ…と肯定の念が伝わったので、僕は森を走り出す。

 近くの気に登り、忍者のように木から木へと飛び移って進む。これなら障害物もなく進めるので結構楽なのだ。アルドが地を駆けてそれを追うのを確認しながら僕は次の木へと飛び移る。このままの速度で走り続ければ1日ちょっとで森を抜けられる。

 さすがに今の僕の肉体の能力値ではそのぐらいが限界だ。もともとの能力値のままだったら2,3時間で着くのにな〜。まぁ、しょうがないけどね。これで少なくとも今日は野宿決定。盗賊とかに会わなければなんてことない暇な時間だね。だって、多少は周りに注意を払いながら寝ずの番をしないといけないんだよ?暇で暇でしょうがない。こんな森の中で何か作ろうとは思わないし、時間をつぶせるものがないんだもの。暇つぶしと言ったらせいぜい向こうの世界ではもうよく見えなくなった星を眺めるくらい?

 あ〜、もうちょっと僕の感覚がルディに近づいてればましなんだろうけど。

 

 

 「アルド、前方20mくらいにゴブリンの集落発見。消し飛ばすから注意。『腐敗の時を刻め。終刻(ラストエイジ)』」


 魔石を回収する気がないので、綺麗さっぱり消滅させる。木々か腐り果て、集落が見るも悲惨に崩れ去っていく。しばらくしてそこに残るのは腐葉土のように大地の栄養分になる土のみ。ちゃんと魔石を壊しているからアンデットの心配もない。

 そのあとにはガッチャガッチャ…と盛大に音を立ててアルドが走り抜けていくのが探知できるのみだ。

 僕はその音を聞きつつ、周囲に注意を払いながら森を進んでいく。


 この森には実はそんなに多くの魔物はいない。

 ただ、少し特殊な魔物が多い。

 例えば今のようなゴブリンの集落。この集落は森の深くに人が立ち入らないことにより無駄に発達してしまったもの。そのおかげでゴブリンナイトやゴブリンソルジャー、ゴブリンシーフなど、実に様々な種類のゴブリンがいる集落だったはずだ。

 他にも体長15m弱ある巨大なカメレオンとか、緑色をした虎とか、目が6つもあるフクロウとか、猛毒を発しつづけるスライムとか、変な生物がいっぱい。主な原因はこの森の生物1匹1匹が生き残るために進化を遂げている上に、冒険者などが滅多に入り込んでこないためにさらにその進化を続けられたからだ。まぁ、僕が進化の条件を少し引き下げたのも原因の1つであるのだが、それは置いておく。

 代わりにその1匹1匹のランクがそこそこに高く、縄張り意識が強かったり、共生のできないような体質であったりと、他の生物を寄せ付けないものが多くいるおかげで森にいる魔物の絶対量が少し少なくなっている。ま、通常の冒険者たちに荷が重いという事実には代わりないけどね。


 僕は時折魔物を消しとばしながら森を突き進む…
















 

 その後、ただただひたすらに走り続け、お昼になった時にマリーにポーチから弁当を出してあげて昼食をとったのを除けばが、休むことなく森の中の移動を続けた。

 結局、夜の7時過ぎくらいになると外も暗くなってきたため、今日の拠点の準備をすることにして僕らは地面のできるだけ平らな場所で止まった。地面の草を腐敗させてきれいに整地し、そこてテントを張り、暖をとるための魔道具を起動させ拠点を準備する。そして、その中心に魔物よけの魔道具を設置した。これで完成。



 「マリー、疲れた?大丈夫?」

 「…うん。だいじょうぶ、なの」

 「そか。じゃあ、今日はもう夕食を食べてお休み。明日もしばらくはこうやって移動しないといけないからさ」

 「…わかったの」


 マリーはおとなしく僕が作った夕食をとり、自分で選んで買った水色の寝袋に入って眠りにつく。しばらく僕はマリーにそばにいて欲しいと言われてマリーの寝ている横で座っていたが、マリーが眠りについたので僕はテントの外へ移動した。


  

 「さて、今日の暇つぶしは何にしようか」


 さすがにこのテントから離れるのはできないし、細かい作業は【暗視】スキルを取っていない以上暗くてやりづらい。簡単にできて、なおかつ手間のかかるやつがいい。

 マリーに作ってあげると良さそうな物はこの1ヶ月で大概作っちゃったし、僕が使う物なんて服と武器以外はこの世界でそんなに必要じゃないし…



 「しょうがないし、適当に魔物狩りでもしよう。魔物よけのおかげで魔石も枯渇気味だし。【武器創造】」


 僕の手元に次々と何の装飾もない簡素ではあるが機能美を兼ね備えた短剣が作り出されていき、それが僕の手に触れたら宙に浮いて僕の後ろの辺りで待機している。以外にこうやってみると綺麗だね。異世界的と言うか、ファンタジーと言うか、なんと言うか…うん。まぁそんな感じにさ。



 「目が必要だね。『悪魔の隻眼(イビルアイ)』」


 僕の目の前に紅い陣が描かれた後、1つの目玉が生まれる。それは黒目の部分がトパーズのような色の瞳で、その瞳孔は爬虫類のように縦長になっているもの。

 これは禁呪の1つで、別世界から悪魔の一種を呼び出し…というか、実際は悪魔じゃなくて呪精霊で普通に世界の中にいるんだけど、その瞳だけをこの世界に顕現させてその視界を借り受ける魔法。ちなみに禁呪のほとんどは通常の魔法の中でも特殊な物のことを指して使われることが多く、生贄が必要だったり、契約をすることが必要だったり…とか、そんな感じなものが多い。あと、闇属性に近いものが多いので僕がよく使う魔法でもある。


 僕は右目をつぶり、その目の方へその片目の視界を移動させる。

 僕の閉じている右目にその目の視界が映る。



 「さて、やろうか。『風声(エア・データ)』『風手(ウィンドハンド)』」


 風の探知を起動し、風の手に袋をもたせて僕は狩りを始める。


 目と手と共に宙を飛びながら短剣の大群が森を移動していく。

 お、初めの敵はブラッディーバットだ。まぁ、見事に名前の通りの血塗れのコウモリだ。これは魔物の血を吸う際、魔物を殺してから血を吸うために血に濡れたためだ。

 そこへ短剣の大群が飛んでいき、初めの20本が翼を切り落とし、次の10本が首を切り落とす。はい終了〜。なんと言う過剰攻撃。ああ、切り落とすのにこんなに短剣の量が必要なのはこのコウモリが体長3mとかいうおかしい大きさをしてるせい。

 1本の短剣が素材を切り取り、袋ししまって次へ進む。


 次に見つけたのはサウンドスネーク。これは音を攻撃に使う蛇。喉が特殊な器官に変わっていて、そこから生物であれば振動で破裂させることも可能なレベルの超音波を放つ。ただその代わりに知覚能力が低下し、索敵能力に乏しい。

 1本の短剣が額に突き刺さって終了。蛇が小さいために1本で殺せる。その短剣が素材部分を切り取って袋へしまう。


 さらにその次はマジシャンスタッグ。これは魔法を使う鹿。角の部分に生まれつき幾つかの陣が刻まれていて、そこへ魔力を流して魔法を行使する。

 4本の短剣が首に突き刺さって終了。5本がかりで皮とかを剥いで袋にしまう。


 どうやら、人の気配がしないために魔物が気づきづらいらしい。


 さらに森を移動していくと、今度はボーンソルジャー。これはアンデットで、人型…大概ゴブリンとかの魔物が死んだ後の肉体に霊系の魔物が宿ったもので、そのうちの剣とかの武器を持っているやつだ。

 これは魔石を壊す以外に倒す方法がないので、勿体無いが魔石を粉々に砕いて殺す。ただ、このアンデット化した後の素材は元々の物よりも丈夫になっていたり、魔力を帯びていたり、特殊な機能を備えていたり…と使い道は多いので分解して袋にしまう。


 そこからさらに移動すれば、今度は洞窟を発見した。中を見てみると、肉片とかが落ちているので肉食系の魔物が棲む洞窟のようだ。そこへ目と短剣が乗り込む。

 この悪魔の隻眼(イビルアイ)は【暗視】などのスキルも兼ねた物であるので暗いのも全く気にすることなく突き進む。奥へ進むと、何かの動物の骨が転がっており、その奥には…松明?が壁に設置されている。人が住んでる?それとも今日の野営地だったとか?とりあえず、これ以上はいるのはやめておこう。僕は剣を退却させようとし、後ろに人がいるのが見えた。

 剣を1箇所に固め、その中心に目を置いて警戒する。



 その人影はだんだんと近づいてくる。

 松明の光が当たり、一瞬全体の姿が見える。


 紺色のズボン、赤黒く血で染まったTシャツ、黒いローブを身につけた身長170cmくらいの黒髪の人間。目は狂気に染まり、口元には歪んだ笑みが浮かんでいる。

 おそらく勇者として呼ばれた、というか僕が呼んだ今回の勇者だ。

 

 いやいやいや。何があったの?この人召喚されてすぐの頃に僕をじっと見てた人だと思うんだけど、1ヶ月でこんな状態になるって一体なんの冗談よ?少なくとも僕が見たときは比較的まともな表情を浮かべてたと思ったんだけど。

 まぁ、この状態で会話したりするのには面倒ごとが絡みそうだし、さっさと退散させてもらうとしましょうか。僕は今マリー以外の誰かのために忙しく動く気はそんなにないんだ。

 それに、おそらく僕の様に追い出されでもしないでこの周辺から出てきたということは、迷宮をクリアした”咎之王”シリーズの職業保持者だろう。僕の”嘘つきの王”のように”〜の王”っていう職業の保持者は迷宮クリア後に迷宮の入り口に転移するんじゃなくて、適当な深い森の中に送るようにしてあったから。

 とにかく、今は面倒事はお断りなのだ。



 「【武器創造】解除」

 

 短剣の軍団が一気に消滅する。

 それに相手がちょっと驚いた隙を見計らって袋と目を逃す。人の横を猛スピードですり抜け、そのまま出口へ。外に出た瞬間に空中へと飛び上がり、雲の上を通って僕のところまで帰ってくる。


 

 「『悪魔の隻眼(イビルアイ)解除』」


 目がパッと消滅し、僕は右目を開く。

 さて、収穫の整理でもしようかな〜。



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