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二人目の主人公:強欲の時

 彼は……?




 * * *



 彼の前の岩は人型を成し、高さ5mほどある巨大なゴーレムへと姿を変えた。そのゴーレムは今まで彼の見た魔物とは圧倒的に違う”存在感”を持っていた。

 彼は叶わないと思い扉に近づいて逃げようとするが、そのゴーレムは安全地帯へと足を踏み入れてくる。

 そして扉までたどり着いた時、彼は見てしまった。扉に大きく刻まれた”75”という数字を。



 「な、なんだよ…ふざけんなよ。どうして俺がこんな目に合わねえといけないんだよ!」


 彼は淡い光を発する迷宮(ダンジョン)の中に彼の声が響き渡る。

 ゴーレムがこの空間内に入れたのはちゃんとした理由がある。本来、この場所は安全地帯であるが、この階層においてはそうではない。このゴーレムのみ進入可能になっているのだ。このゴーレムはある一定速度を超える速度で移動したものがいた場合に発生し、その対象者を攻撃する。

 彼はまだ運がいい。これは対象者分の数が発生するため、1人である彼は1体に対応するだけで済むのだから。


 彼は鞭を取り出し、それを振るう。



 「『エンチャント・シェーブウィンド』」


 彼は鞭にヤスリのように削るような風を宿し、それをゴーレムめがけて振るう。

 バシンッ!と大きな音を立ててゴーレムの体を削るが、せいぜい10cmほどの溝ができる程度であり、全く有効打には見えなかった。今の彼の持つ付与魔法攻撃(エンチャント)の中でこれが最も攻撃力が高いものだ。


  「くそっ…次の階層に逃げようにも、ボスと戦って…きっと勝てなくて殺される。どうすればいいんだよ…どうすれば」


 彼は鞭を邪魔になると思い腰にしまい直し、走って現在立つ位置から逃げる。走り出したところでゴーレムの拳が彼のいた場所を殴る。

 パラパラと拳についた砂を落としながら再び元の体勢に戻るゴーレム。その殴った場所は数十cmほど凹んでいる。

 


 「おいおい…嘘だろ」


 彼はその光景に冷や汗をかきつつ、再び走ってゴーレムの目と思われる部分から隠れるようにゴーレムの後ろに回りこむ。

 向きを変えて彼を襲おうとするゴーレムの動きに合わせて彼も全力で動く。見えてはいないがある程度の位置がわかるようで拳を後ろに振り下ろしてきたり、背中から岩の弾丸を飛ばしてきたりするが、彼は【危険察知】の反応を頼りにその攻撃から身をかわす。見えていないことにより大ぶりな攻撃が多く、彼はかろうじて全ての攻撃を避け続けている。



 「…そうだ。【鑑定】!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:第75階層、転移扉付近行動可能守護者罠

種族:アロイ・ゴーレム

ランク:AA

状態:対象補足

スキル:【思考補助】【地魔法】【魔力探知Lv.7】【金属軟化Lv.8】

【視力強化Lv.5】【魔法攻撃耐性Lv.8】【攻撃耐性Lv.8】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 情報があれば少しでも倒せる可能性が見いだせると考え、彼はゴーレムを鑑定した。

 そして、そのランクとスキルに絶望することとなった。


 

 「ふっざけんなー!ランクAAとか、耐性Lv8とかなんなんだよ!無理だろ!絶対に無理だろ!」


 存在しないんじゃないかなどと言われていたランクAAであり、魔法と攻撃に対して異様なほどの耐性を持っていた。どう考えても勝つことなんてできないと彼は思った。

 しかし、そう叫んだところで彼は思いついた。

 


 「耐性があれだけあっても俺の攻撃は通ったんだよな…なら、それがなくなったら?」


 彼が考えたのはそのどちらもを【強奪】できた場合だ。彼の攻撃自体は10cmほどではあったが確かにゴーレムの体を削っている。ならば、その耐性がなくなったら?

 彼は急いでステータス画面を引き出し、【強奪】のLvを13まで上げた。そして、近づきゴーレムに触れるために【空歩】を再取得し、Lv.4まで上げる。

 勇者たちから【強奪】し大量に得ていた振り分け可能値も330pまで減ってしまったが、気にとめることはない。ここでうまくいかなければ彼は死ぬかもしれないのだから。



 『【強奪】ノLv上昇ヲ確認。取得可能スキルガ増加シマシタ。一定Lvノ通過ヲ確認。使用可能技能ガ増加シマシタ』


 彼はゴーレムから4mほど離れた位置を走って逃げ回っていたが、【強奪】をするためにゴーレムへと走って近づいていく。

 近づいていたことがわかったのか、ゴーレムが彼に向けて大量の岩の弾丸…直径が20cmもあるもはや大砲とでもいうようなものを飛ばしてくるが、彼は【危険察知】を頼りにギリギリで避けていく。

 

 岩の弾丸が肩を掠り、足場を砕き、目標までの距離をより厳しいものに変えていく。

 かすっただけでもその衝撃はかなりのもので、彼の肩は骨が見えるぐらいに抉れている。彼は初めて経験する激痛に耐えつつ、それでも足を進める。


 

 「…いくぞっ!【空歩】」


 彼はゴーレムから3mの範囲に入ったあたりで空中へ足を進める。

 Lv.4…つまり、今の彼は4歩まで空中を歩くことができる。


 ゴーレムの腕を避け、弾丸の出る場所を避けてゴーレムまで近づく。そして、ゴーレムの背中に触れた。



 「【強奪】ッ!」


 彼は叫ぶ。そして強く願った。

 


 『筋力1300 体力1300 耐性1300 魔力1300 地属性【思考補助】【魔力耐性Lv.7】【魔法攻撃耐性Lv.8】【攻撃耐性Lv.8】ヲ強奪シマシタ。重複ヲ確認。振リ分ケ可能値100p取得シマシタ』

 

 彼の脳内に声が響く。

 そして、彼は地面に向けて落ちていく。彼がいるのは【空歩】によって移動してきた上空3mあたり。落ちたら大怪我をするのは間違いない。選択を間違えた。彼がそう思うのは早かった。

 


 「ああ…こりゃ、死ぬな」


 彼は受け身を取ろうと空中で体をねじりつつ、地面に叩きつけられた。

 意識が朦朧とする中、彼が目にしたのはゴーレムが崩れていくところであった。



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 彼は肩と体のふしぶしの痛みによって目を覚ました。



 「痛って!…はぁ⁉︎いやいや、何が起きたんだよ」

 

 そして、彼は目にした物に驚きを隠せないでいた。

 彼の目の前にあるのは崩れた岩の山とその中に埋もれる大きな魔石だ。おそらくゴーレムであろう。動こうとしているのか、岩が転がっているが全く固まって元に戻るようには見えない。


 

 「と、とりあえず、生き残れたのか…?」


 彼は体の痛みに耐えつつ、そう呟いた。



 「痛つつ…とりあえず治すか。『神よ、我に再生を。リジェネレイト』」


 彼は自分の体に流れている有り余る魔力を感じながら、今までは魔力が足りなくて使えなかった高位の魔法を使用してみる。イメージが不完全だったせいもあって回復力はイマイチではあるが、少しずつ彼の体が元に戻っていく。

 そして、しばらく経てば完全に彼の体の傷は癒えきった。ローブやTシャツの肩の部分には大きな穴があいてしまっているが、そこから覗くのは綺麗な筋肉質な腕と肩だ。他にもズボンの所々に穴があいていたり、ローブの背中のあたりがボロボロになっていたりするが、彼自身にはもう怪我の跡はない。

 彼は体の調子を確かめつつ、立ち上がった。


 

 「これ…もしかして生きてるのか?」


 彼がゴーレムと思われる岩の山に近づくと、岩たちが彼に向かって歩くよりもゆっくりと転がってくる。

 


 「【生物探知】に引っかかるし、やっぱ生きてんのか…」


 彼は【生物探知】に引っかかっていることを感じ、この岩の山が生きていることを確認した。

 実際のところ、このゴーレムはまだ生きている。

 こうなってしまったのは【思考補助】と言うスキルを失なったためだ。このゴーレムは周囲の岩の集めて無理やり作られる、いわば仮初の肉体を無理やりに操作して動いていた。これを行うには普通のゴーレム自体の知能だけでは足りず、【思考補助】と言うスキルが必須だったのだ。今はそれを失ったために形を保てなくなり、岩が転がるだけになっている。



 「…これ、魔石砕けば経験値もらえるか?」


 彼は鞭を取り出し、魔力を流して強化だけを行ってそれを振るう。

 魔石に当たると、魔石がパキッと小さい音を立てて割れた。そして、少しすると岩と共に消滅し、魔石と小さい拳くらいの金属の塊が残った。



 『”強欲ノ王”ノレベル上昇ヲ確認。振リ分ケ可能値230p取得シマシタ』


 彼の脳内に声が響いた。



 「…は?いや、なんで今ポイントが入ったんだ?」


 これは【強奪】の追加技能だ。”強欲の王”という職業はレベルアップによって能力値が上昇しない。代わりに【強奪】によって能力値が上がっていく変わった職業。そして、【強奪】のLvが10を超えたことにより職業レベルの上昇値×10の振り分け値を得ることができるようになった。つまり、1レベル上昇毎に10pがもらえるようになったのだ。

 まぁ、彼がそれを理解するのは【鑑定】のLvを10以上に上げて【強奪】と”強欲の王”を鑑定したときか、自分で見つけたときだろうが。



 「ま、いいか。ポイントが入って悪いこともないだろうし」


 彼はそんな気楽なことを言いつつステータスを開く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー-

 名前:本居 司

 種族:人間種

 性別:男

 年齢:17

 称号:異界人 勇者の可能性 天使の加護

 強欲の者

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 職業:強欲の王 レベル:33 

              状態:通常

 筋力:1450

 体力:1590

 耐性:1520

 敏捷:280

 魔力:1620

 知力:90

 属性:闇 治癒 火 水 風 地 木 空間

 種族スキル:

 スキル:【強奪Lv.13】【偽装Lv.4】【体術Lv.4】

 【スキル整理Lv.max】【鑑定Lv.3】【剣術Lv.6】

 【並列思考Lv.4】【魔力操作Lv.5】【聴力強化Lv.3】

 【統合Lv.max】【鞭術Lv.4】【最適化Lv.max】

 【暗視Lv.3】【気配探知Lv.2】【異空間倉庫Lv.max】

 【隠密行動Lv.3】【肉体硬化Lv.2】【治癒力強化Lv.3】

 【魔法罠設置Lv.4】【危険察知Lv.4】【魔眼:透視Lv.2】

 【生物探知Lv.2】【空歩Lv.4】

 強奪スキル:【思考補助】【魔力耐性Lv.7】

 【魔法攻撃耐性Lv.8】【攻撃耐性Lv.8】

 振り分け可能値:600p

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 「うわぁ…なにこの偏り切った能力値。てか、レベル上がったのに敏捷と知力上がってないし。もしかして、【強奪】以外で能力値上がらないとかか?…別に問題ないか。すでに一般人振り切ってるし」


 彼はちょっと苦笑いを浮かべつつ、手に入れたスキルを通常スキルに移動した。

 そして、取得可能になった新しいスキルを確認する。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

取得可能スキル:【スキル複製】【改良】【スキル譲渡】

既強奪スキル :【龍鱗】【魔眼:千里眼】【槍術】【斧術】【衝撃】

【投擲】【剛石化】【料理】【識別】【毒生成】【金属操作】【一閃】

【呼吸補佐】【耐熱】【耐寒】【爆撃】【威嚇】【盾術】【魔法剣】

【錬金術】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 さらに、取得可能スキルが3つほど増加していた 

 彼は内容を確認する。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スキル名:【スキル複製】      取得ポイント:200p

分類:任意技能操作系

効果:所有するスキルを複製する。これの使用により複数の【統合】

の素材として同じスキルを使用することが可能になる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スキル名:【改良】         取得ポイント:200p

分類:任意技能操作系

効果:スキルを振り分け可能値を使用し自らの使用しやすい形に作

り変えることができる。また、武術スキルであれば武技スキルの生

成も可能。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スキル名:【スキル譲渡】      取得ポイント:200p

分類:任意技能操作系

効果:所有するスキルを他者に渡すことができる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 彼は現在の振り分け値は残り少ないが、【スキル複製】【改良】を取得した。

 これらがあれば、さっき自分が死にかけたような事態にあっても役に立つ可能性が高いと考えたのだ。



 『統合可能スキルガ発生シマシタ』


 さらにスキル所得すると、脳内に声が響いた。

 初めてこの声が脳内に聞こえた。彼は急いで【統合】の画面を出す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

使用スキル:【スキル整理】【思考補助】【鑑定】【最適化】【統合】

【スキル複製】【改良】

統合後スキル:【天の知識人】

効果:スキル保持者のスキルの管理、強化、最適化を補助する存在

を生成する。【スキル整理】【統合】はこのスキル保持者であれば

所有者自身による操作も可能。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「ま、まじか…取得した瞬間にこれって」


 彼は画面を睨みつける。 

 せっかく取得した2つのスキルが素材に入っていたのだ。だが、内容を確認すれば自分のスキルについての補助…つまりあの部屋のヘルプのような存在であることがわかる。彼はヘルプの有用性をよく理解していた。



 「【統合】…実行」


 彼はしばらく悩んだ末に統合を行う。



 『【統合】の実行により、【天の知識人】を生成しました』


 彼の脳内に機械的な抑揚のない声ではなく、中性的な比較的高めの声が聞こえてきた。



 「おお…これが【天の知識人】による変化ってやつか」

 『肯定します』

 「うおっ⁉︎会話できんのか」

 『肯定します。ただしスキル保有者とのみ、であればですが』


 彼は話しかけて答えが返ってきたことから会話ができることに驚いたが、相変わらず反応が機械的であることに少し惜しいと思う。

 

  

 「…まぁ、とりあえずそんなことは置いておいて、だ。ここから出る方法を考えねえと…」

 『幾つか案がありますが、知恵を授けましょうか?』

 「…お前、まじで有能」

 『お褒めに預かり光栄です。ではまず、第75階層ボスの討伐をお勧めいたします』

 「は?いやちょっと待てよ。俺は今このゴーレムだけで死に掛けてんだぞ?どう考えたって無理だろ」

 『いえ、可能です。第75階層ボスは同じくゴーレム種であり、現在の”本居 司”の能力値を以ってすれば討伐は可能です』

 「お、おう。そうなのか…?」

 『肯定します。また、現在の残り振り分け値の使用許可を頂ければ、役立つと思われるスキルの生成もいたしますが、いかがでしょうか?』

 「…ええい、ままよ!許可する。どうせ200しか残ってねえし、この際使い切っちまえ。これをやらなくて死んだりしたらシャレになんねえし」

 『承知しました…【金属操作】【錬金術】を再取得。【金属操作】を【改良】、【物質操作】を生成。【統合】…【大地支配】を取得。【大地支配】のLvを3に上昇…以上です』


 彼はステータスを確認し、振り分け可能値が残り20pになり、【大地支配Lv.3】の取得を確認した。



 「で、これは何のスキルなんだ?」

 『【大地支配】は触れた地属性で構成される物質に干渉し、触れた対象をイメージ通りに変化させることを可能にするスキルです。また、干渉範囲はLv×5mです』

 「なるほど…で、これが何に役立つんだ?」

 『ゴーレムは地属性の物質で構成されます。触れることができれば一撃で仕留めることが可能です』

 「おおう…それはすげえ。でも、俺が触れた瞬間に壊せるとは限らないだろ?」

 『その件でしたらこちらで処理することも可能です。こちらで処理いたしましょうか?』

 「頼むわ。てか他にもできることってあるのか?」

 『魔法演算、スキルの効果の微調整、魔力の使用許可を頂ければ魔法の発動までならば可能です』

 「うわ…これって俺いらなくね?【天の知識人】だけで戦闘できんじゃん」

 

 彼は苦笑いを浮かべた。

 そして、立ち上がって体の調子を確かめる。



 「さて、じゃあ大丈夫なんだよな?」

 『肯定します。”本居 司”の現在の能力値にかなう生物は、この世界ではすでに2割を切っています』

 「微妙だな、それ。まぁいいんだけど…さて、じゃあ行くか!」


 彼の姿は扉に触れて掻き消えた…


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