28.やることをしておきましょう
「ふぅ。終わった〜」
結局、3時間半ほどの時間をかけて魔力を注ぎ終わった。
注いだ量は合計で30000ぐらい?後ろの方の嫌な視線たちは僕が全くなんともなく魔力を注ぎ続けてるうちに、ムカつく目線から僕を恐怖する目線に変わり、最終的に何も見なかったとでも言わんばかりに目をそらし始めたのはなかなかに滑稽だった。
「マリー、起きて。終わったよ」
「…ぅうぅ」
「ふむ。しょうがないしこのまま行こうか」
マリーは起きる気配がないので、お姫様だっこな状態で管理人室へ連れて行く。
「おじさ〜ん。終わったよ」
「ほう。ちょっと待っとくれ」
おじさんは『よっこらしょ』と声を出しながら席から立ち上がり、管理人室から出てくる。
「終わったよ」
「そうかね。では確認させてもらうとするよ」
おじさんは歩いて僕が座っていたところまで行き、鍵に目を向ける。
ああ、そういえば鍵に魔力の現在蓄積量が見れるように作ったんだっけ。すっかり忘れてもう入れられなくなるまで頑張っちゃったじゃん。
「ほう。しっかりと溜まり切っとるね。君1人でかな?」
「うん。そうだよ〜」
「それはすごい。これなら当分は頼まなくても良さそうだ。報酬には色をつけとくよ」
この結界の魔力供給の依頼は結構いつでも貼られているのだが、まぁ当分貼られることはないだろう。普通は数日分溜まればいい方なので、ほとんど常に貼られる依頼なんだけどね。報酬はその溜まった量によってある程度増減する仕事なので、しばらくは仕事しなくても良くなりそうだ。
まぁとりあえず、大は小を兼ねるってことでやり過ぎたっていうのはなかったことにしよう。
僕はおじさんから紙を受け取る。
おじさんに軽く手を振ってから僕は受付に帰る。
石造りで光を放つ魔道具の填められた廊下を歩き、一番端にある階段を登り、受付階に登る。
僕は受付に行き、紙とギルドカードを渡す。
「お疲れ様です。随分と長かったですね」
「うん。じゃあよろしく」
「はい」
受付嬢さんは今日はそんなに慌てず、ギルドカードを読み込ませる機械へ通し、おじさんにもらった紙を見てフリーズする。
フリーズする。
フリーズする。
フリー………
「お〜い。大丈夫〜?」
「…え?あ、は、え?え?あ、はい。大丈夫です…多分」
「そっか。じゃあ早く〜」
多分、僕が貯めた魔力量でも見てフリーズしたのだろう。僕が呼ぶと少しして再稼働し始めたので、多分問題はない。何かを書いてギルドカードをもう一度読み込ませ、バル貨を数えてトレーに乗せてギルドカードとともに僕の方へ差し出す。
「依頼達成お疲れ様でした。報酬の3780Bです」
「3780だから…37万ちょっとか。そこそこだね」
僕は銀貨37枚と銅貨80枚をマネジメントポーチへ放り込み、ギルドカードをポーチにしまう。
「また、今回の依頼達成によりマリー様のランクがFからEへ上がります。それによってパーティランクもDからCへと上がりました。おめでとうございます」
「おお〜。ありがとね〜」
「またのお越しを」
僕はギルドを出る。
そして、僕はマリーを連れたまま…というか抱きかかえたままでは辛いのでそろそろマリーを起こすことにする。マリーを揺さぶり、声をかける。
「マリー、起きて〜。もう終わったよ〜。マリー」
「…ぅぅん」
「マ〜リー。起〜き〜て〜」
「…うぅ」
「あ、起きた。お寝坊さんめ」
マリーは少し揺さぶると目を覚まし、目をこすりながらこちらへと目を向ける。
僕はマリーにおはようと声をかけ、地面に立たせる。
「もう12時くらいだね。お腹は空いた?」
「…ううん」
「大丈夫?」
「…だいじょうぶ、なの」
「そっか。じゃあ、今日はどうしようか〜?また露天でも回る?」
マリーと手をつなぎ、ギルドからゆっくりと歩き出しながらマリーに問いかける。
マリーの頭には昨日露天で購入した桃色の花の髪飾りが付いている。
マリーはその問いに対して首を横に振る。
「じゃあ何かしたいことはある?」
「…ないの」
「う〜ん。じゃあ、この街の散策でもする?」
「…さんさく?」
「いろんなところに行ってみるんだよ。しばらくはこの街にいるんだし、知ってる方がいいでしょ?それに人が少ない場所とかがわかればマリーもいいでしょ?」
「…わかったの」
マリーは一瞬だけ嫌そうな表情を浮かべたが、僕が言ったことも事実ではあるためマリーは頷いた。
別に強制するわけではないのだが、この街…というか国では辛いにしてもできればマリーにはいろんな人と話したりするのに慣れて欲しいし、この街で過ごすに当たってマリーが通りやすい道とかは探しておきたい。
僕らは街の散策を始めた。
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結局、途中でマリーが疲れてきてしまったので午後3時くらいで宿へと帰り、マリーはベッドで睡眠を取っていて、僕はアルドと遊んでいる。
「ははは〜。アルド、表情わからないから強いね〜」
トランプ中だ。ババ抜きでもなんでもアルドの表情が全く読めないので、ほとんどが運任せなゲームになっている。仕草でちょっとはわかるんだけど、それもちょっとだけだからアルドってこういったゲームにおいては最強かもしれない。
まぁ、半分くらいの勝率で勝ってはいるんだけどね。
というか、アルドの学習能力の高さに驚かされたよ。ゲームのやり方とルールを1回しか説明してないのにほとんど間違えることなく覚えきるし、僕のやり口とかをちゃんと理解して対応してくるし。これは戦闘とかもしっかり訓練すればかなり強くなるね。今度暇なときに訓練をつけてあげよう。今のうちに紫たちに教わったことの中からアルドにあったものをピックアップしておこう。
実に楽しみだ。
まぁ、マリーが外に出る体力がつくまでは無理な話だけどね。
そんなことを思っていると、コンコン…と扉がノックされた。
「はいはい、どちら様〜?」
『テレーズの味方…といえばお分かりいただけるでしょうか?』
「ああ〜。ちょっと待ってね。今開ける〜。アルド、お客さんみたいだからマリーのそばで待機しててね」
どうやら、部屋自体に訪ねることにしたようだ。風魔法で探知をかければ廊下に4人ほどの人を確認することができた。
僕はアルドに指示を出した後、部屋の鍵を開け扉を開けて中に4人…おや?廊下に立ってるのは3人だね。
「もう1人は〜?」
「お気付きでしたか。彼はまだうまく幻影魔法を使えないもので」
「ああ〜。まぁ、入ってよ」
「では失礼いたします」
僕は廊下に立っていた一応4人に声をかけて中へと招き入れる。確かに僕の横を通過した気配は4人だったので、幻影魔法がうまくないというのは事実なのだろう。
その見えている3人はいたって普通の冒険者の格好をしていて、それぞれ青紫色、黄緑色、黄色の髪色の人間族の姿で、青紫色と黄色は女性、黄緑色と今見えていない人は男性のようだ。青紫色の人は腰に短剣を2つ下げているので多分シーフとかそういった仕事を担当、黄緑色の人は杖を持っているので魔法使いか回復役で、黄色の人ががっしりとした鎧を着て大剣を持っているので前衛、残りの人は見えないからよくわからない。
僕は扉を閉めてマリーの寝ているベッドにそっと腰掛けると、入ってきた4人を部屋の中にある椅子に座るように促す。ついでにマリーにうるさくないようにマリーのそばに防音結界を張っておく。
「さて、幻影といてもらっていいかな?」
「はい。これからお話しする相手に対して、このままでは失礼ですので」
椅子に座っている4人は立ち上がって幻影を解く。見えていた3人に加え、もう1人赤茶色の髪色のやせ形の男性の姿が見えたあと、全員の姿が人間族の姿からそれぞれ別種族のものへと変化する。
「へぇ〜。以外と珍しい種族もいるんだね。獣人種銀狼族、エルフ種、竜人種地竜族、影霊種、ってところかな。影霊種なんか久しぶりに見たよ。君たちは確か山奥に籠ってたと思ったんだけど?」
「彼は自分の里から出てきた者なんですよ。それにしてもよく全員の種族がお分かりになりますね」
「まぁね〜。で、今日はどんな御用で?」
「特に用はありませんが、テレーズからの情報のこともありますので顔見せとご挨拶に」
「ふ〜ん。まぁ、じゃあ自己紹介でもしておく?」
「そうさせていただきます。私はアメリ。おっしゃったように銀狼族です。そちらのエルフはティニャ、地竜族の彼はガウス、英霊種の彼はジェイドです」
彼女たちは紹介されると僕に一礼し、僕に手を差し伸べてきたので握手を交わした。
銀狼族は狼のような耳と尻尾のついた人間種。エルフは耳が尖った色白な人間種。地竜族は手の甲から肩のあたりまでと背骨に沿っての部分、太ももから足の指近くまでに地竜のような硬い鱗がある人間種。影霊種は目の色が白目の部分が紅く、爪が黒い人間種。
ジェイドは僕と握手したときに手がちょっと震えていた。
「僕は…今はネロ。こっちの鎧は僕の眷属でアルドグランテ。今寝てるこの子はマリーだよ。この子は九狐種の雪白族。よろしくね」
「雪白族…ですか」
「そ。ここの貴族が虐めてるのを奪い取って今は保護してる。とりあえず独り立ちできるようになるまでは僕が育てるつもり。何かするつもりなら敵対するよ?」
「いえ。何かありましたら私たちも協力します」
「そっか。じゃ、多分あと1ヶ月くらいは僕はここにいるから、何かあったらここにおいで」
「ありがとうございます。では、私たちはこれで」
本当に挨拶だけだったようで、彼女たちは部屋から何事もなく出て行く。
なんだ、拍子抜けだね。部屋を探知しても何か魔法が仕掛けられたような痕跡もないしさ。
「まぁ、何もないならそれに越したこともないんだけどさ〜」
ま、ちょうどアルドとゲームするのにも飽きてきたところだったし、今度は別のことでもするかな。
僕は椅子に座り、ポーチの中からボイルラビットの革を取り出す。
カバンを作ろうと思うのだ。マリー用のね。リュックサックのような物があれば、マリーも自分で物を収納できるし、何かと便利なことが多い。
とりあえず、袋の蓋の部分と外のポケットの部分をこのボイルラビットの革で作り、袋の本体部分と袋の底の部分と紐と肩紐を魔石を混ぜ込んだソーイングスパイダーの糸で作った布で作ろうと思う。そうすればそこそこの大きさで中を空間魔法で拡張できるし、それ以外にも重量軽減とか自己修復とかいろんな機能をつけられる。
「まずは、糸で布を作らないとだよね」
僕はポーチの中にあるソーイングスパイダーの糸の残量を確認するが、ハンカチ1枚分程度しか残っておらず新しく手に入れないといけないことがわかった。
「どうしようか…マリーが寝てるとは言っても外には出れないし、というかもう9時過ぎだから門番さんが中に入れてくれなくなっちゃう可能性もあるし…」
下手に外に出て、中に入れる時間を過ぎて明日の朝まで街に入れないとかシャレにならない。
しょうがないか。呼び出そう。
「『招集:魔糸蜘蛛』」
僕の手のひらに赤い魔法陣が描かれ、一瞬懐中電灯程度の光を発し手の上に指先程度の大きさの蜘蛛が30匹ほど現れる。
こいつは魔糸蜘蛛という種の蜘蛛で、魔力を浸透させやすく布にすれば柔らかで使い心地のいい糸を吐き出す。小さく、か弱いためこの世界ではほとんどが死滅してしまっているとってもレアな種族。絶滅寸前のときに運良く発見し、うちの世界樹の内側の飼育スペースで飼っている。ソーイングスパイダーの糸より使いやすいし、何よりソーイングスパイダーは僕の眷属にいない上にいたとしても体長15m近くある蜘蛛をこの部屋には呼べないのでこいつを呼んだ。
「糸を出してくれる?あと、布にしたいんだけど君達だけでできる?」
ちょっと試しに自分たちで布にすることができるかを尋ねると、前に僕がこいつらの見えるところでソーイングスパイダーの糸で布を作っていたのを見て学習していたらしく、”できる”というニュアンスのイメージが僕の頭に帰ってきた。
「じゃあ、お願いするね。サイズはできるだけ大きめにしてくれるとありがたいかな」
僕がそれを言い終えると、蜘蛛たちは部屋の隅の方に集まって布を作り始めた。
できるのかを確認するためにしばらく見ている限り、しっかりと布になっているのでこのまま行けば夜中のうちに完成するだろう。
今のうちにできることを終わらせて、布が出来上がったらすぐに取りかかれるようにしておこう。
僕はボイルラビットの革を広げ、サイズを測って印をつけ、その形に切っていく。
それを終えると次は蓋の部分の端に可愛らしい狐の模様を彫り込み、染色。その後はかがりをし、今縫っても問題ない部分を縫い始め、縫うのも全て終わってしまったら本体に入れる陣を考え始める…
意見、感想等あればお願いします。




